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ポラリス ドーン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ポラリス ドーン
任務種別民間宇宙飛行
運用者スペースX
任務期間5 days (planned)
特性
宇宙機クルードラゴン レジリエンス
宇宙機種別クルードラゴン
乗員
乗員数4
乗員
任務開始
打ち上げ日2024年8月26日 07:30 UTC (3:30 am EDT) 以降[1]
ロケットファルコン9ブロック5 (B1083.4)
打上げ場所ケネディLC‑39A
任務終了
回収担当MVミーガンないしMVシャノン英語版
着陸日2024年8月31日(計画)
着陸地点大西洋ないしメキシコ湾
軌道特性
近点高度190 km (120 mi)
遠点高度1,400 km (870 mi)(初期)
750 km (470 mi)(その後)[2]
傾斜角51.6°

左から:アイザックマン英語版ポティート英語版ギリス英語版メノン英語版

ポラリス ドーンPolaris Dawn)は、Shift4社のCEO、ジャレッド・アイザックマン英語版に代わってスペースXが運営する民間宇宙飛行であり、ポラリス計画英語版で予定されている3回のミッションの中で最初のもの。このミッションでは、クルードラゴンカプセルはアイザックマンと3名のクルー(スコット・ポティート英語版サラ・ギリス英語版およびアンナ・メノン英語版)を長楕円軌道に打ち上げ、地球から最大1,400キロメートル (870 mi)離れた場所まで運ぶ予定であるが、これはアポロ計画以来、人類が到達する最も遠い場所であり、ヴァン・アレン帯の一部を通過して宇宙放射線の健康への影響英語版と宇宙飛行が人体に与える影響を研究する。ミッションの後半ではアイザックマンとギリスが初の商業宇宙遊泳に挑戦する予定となっている。2024年8月26日以降の打ち上げが予定されている。

来歴

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ポラリス計画は、ジャレッド・アイザックマン英語版が資金援助した初の民間宇宙飛行士だけによるミッションであるインスピレーション4の5ヶ月後の2022年2月にアイザックマンによって発表された[3][4]。このミッションで必要となるいくつかの技術の開発もこの計画の一部であり、それには民間宇宙飛行士用の船外活動(EVA)宇宙服ドラゴン宇宙船とスターリンクコンステレーションとの間での衛星間レーザー通信英語版、従来のドラゴンカプセルの設計におけるエアロックの欠如への対応などが含まれている[5]

当初、2022年後半の飛行を目指していたが、計画は船外活動宇宙服の設計とスペースXによる衛星間レーザー通信リンクの試験における技術的問題のために遅延した。2022年10月時点では、すでに打ち上げは2023年3月にずれこんでおり[6][7]、2023年2月までには2023年半ば以降になっていた[8][9]。2023年半ば時点で、計画は2024年のどこかに変更されており[10]、12月にはアイザックマンが打ち上げ日が2024年4月であることを認めた[5]。あるインタビューの中で、6月7日にアイザックマンは打ち上げの計画が2024年7月12日以降であることを発表した[11][12]。その3週間後、ポラリス計画はXアカウントで最も早い打ち上げ目標日が2024年7月31日であることを明らかにした[13][14]

ミッションは、2024年7月12日のファルコン9ロケット上段の故障を受けて再び延期された。スペースXが事故の原因に対応したあと、7月26日の記者会見でスペースXのドラゴンミッション管理ディレクターであるサラ・ウォーカーはポラリス ドーンはNASAのCrew-9ミッションのあと、「夏の終わり」に打ち上げられると発表した[15]。その後、スペースXは8月7日に8月26日が打ち上げ目標日であることを明らかにした[16]

ミッション

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ポラリス ドーンは民間人だけが搭乗して地球を周回する有人宇宙飛行となる。ジャレッド・アイザックマン英語版スコット・ポティート英語版サラ・ギリス英語版アンナ・メノン英語版からなるクルーは軌道上で5日間をすごすことになっている。

このミッションはスペースXのミッション管理者が微小隕石デブリによるリスクを最小にできるタイミングで打ち上げられるように柔軟な打ち上げウィンドウで開始される。ドラゴンカプセルは当初は遠地点高度1,200キロメートル (750 mi)で、近地点では南大西洋異常帯を通過する高度190キロメートル (120 mi)の長楕円軌道に投入される。乗組員はこの高度で異常帯を2、3回通過するだけど国際宇宙ステーションでの3ヶ月間の放射線不可と同等の放射線に曝されることから、人体への宇宙放射線と宇宙飛行の影響英語版を研究する実験ができるものと見込んでいる[17][18]。この間、乗組員はドラゴンカプセルの徹底的な点検も実施する。欠陥が見つからなければスラスターに点火して高度1,400キロメートル (870 mi)まで移動するが、これはジェミニ11号がの記録を破る有人宇宙船が飛行する地球の最高高度の軌道であり[19]、NASAのアポロ計画以来、地球から最も離れることになる[2][5]

乗組員は宇宙での2日目を最高高度ですごし、40の実験を行うとともに船外活動服の準備を行う[18]

3日目、クルードラゴンが遠地点750キロメートル (470 mi)の軌道まで高度を下げた後で、ジャレッド・アイザックマンとサラ・ギリスはスペースXが設計した宇宙服を着用して初の商業EVAを試みることが2024年5月に明らかにされた[20]。EVAスーツでは圧力5.1ポンド毎平方インチ (35 kPa)の純粋酸素が使用される[21]

このEVAスーツは宇宙空間の真空に晒されても宇宙飛行士を安全に保つように設計されているとともに、打ち上げおよび帰還時に着用するのに適するように快適かつ柔軟に設計されており、ミッションのこの段階で通常着用される船内活動(IVA)スーツを別途持ち運ぶ必要がなく、重量とスペースを節約することができる。難燃性で伸縮性のある生地素材と、加圧されるまで柔らかいままの関節によって運動性が向上し、ブーツはファルコン9のインターステージとドラゴンのトランクで使用されている断熱素材で作られている。IVAスーツからの改善点としては、熱管理の改善とおよび遮熱および防曇コーティングが施された新しいヘルメットも含まれている。宇宙遊泳中はカメラとヘッドアップディスプレイ(HUD)がスーツの測定基準に関する情報を提供する[22]ISSで使用されているEMU英語版とは対照的に、初期のジェミニ宇宙服英語版同様にアンビリカルがスーツに生命維持機能を提供する[23][24]

クルードラゴンのカプセルにはエアロックがないので、レジリエンスの内装は真空に耐えるようにいくつかの改装を受け、ドッキングポートの代わりに「スカイウォーカー」と呼ばれるはしご付きのハッチが取り付けられ、船外に出るのは2名だけだが、4名全員がEVAスーツを着用する。その結果、STS-49シャトルミッションで2名では完了できなかった船外活動の作業を3名でなら完了できるとの希望から実施された計画外のミッションで樹立された、一度に3名が宇宙の真空中に出るという最多記録を破ることになる[22][23]

ドラゴンの独特の減圧プロトコルはエアロックなしで行われるため、乗組員は減圧症の研究から宇宙飛行関連神経眼球症候群英語版(SANS)までの研究を行う予定となっている[25]

乗組員はミッションの4日目に40の実験を続け、5日目に帰還の準備を行う[18]

このミッションは、スターリンク経由のドラゴンレーザーインターリンク通信の初の有人運用テストでもある。成功すれば、通信遅延が短縮され、有人宇宙飛行のデータ帯域幅が増加する可能性がある[26]

乗組員

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地位 宇宙飛行士
指揮官 ジャレッド・アイザックマン英語版
2回目の宇宙飛行
操縦士 スコット・ポティート英語版
1回目の宇宙飛行
ミッションスペシャリスト サラ・ギリス英語版, スペースX
1回目の宇宙飛行
ミッションスペシャリスト
医官
アンナ・メノン英語版, スペースX
1回目の宇宙飛行

アイザックマンが指揮官としてミッションを率い、退役した空軍の戦闘機パイロットのスコット・ポティートが宇宙船操縦士を務める。主にアイザックマンが宇宙船を操縦し、ポティートがバックアップするが、この役割分担はミッション中にアイザックマンが船外活動を行うため重要である。

乗組員にはスペースXの従業員であるサラ・ギリスとアンナ・メノンがミッションスペシャリストとして参加する。同社の上級宇宙運用エンジニア兼ミッションディレクターであるメノンは、NASA国際宇宙ステーションの運用を監督したバイオメディカル運用管制官としての経験を活かしてこのミッションの機内医療担当官を務める。

打ち上げ

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ポラリス ドーンは、2024年8月26日にファルコン9ブロック5を使用してケネディ宇宙センター第39A発射施設からの打ち上げが計画されている [27]

関連項目

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脚注

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  1. ^ Wall, Mike (7 August 2024). “SpaceX targeting Aug. 26 for historic Polaris Dawn astronaut mission”. https://www.space.com/spacex-polaris-dawn-astronaut-mission-launch-august-26 9 August 2024閲覧。 
  2. ^ a b “Scott Poteet Discusses Inspiration4 and Polaris Dawn Missions (Part 2)”. (9 May 2022). https://www.americaspace.com/2022/05/09/scott-poteet-discusses-inspiration4-and-polaris-dawn-missions-part-2/ 10 May 2022閲覧。 
  3. ^ Davenport, Christian (14 February 2022). “Jared Isaacman, who led the first all-private astronaut mission to orbit, has commissioned 3 more flights from SpaceX”. 20 November 2023閲覧。
  4. ^ Howell, Elizabeth (8 September 2022). “SpaceX's private Polaris Dawn space crew talks about their ambitious mission”. Space.com. 20 November 2023閲覧。
  5. ^ a b c Foust, Jeff (11 December 2023). “Polaris Dawn rescheduled for April”. SpaceNews. https://spacenews.com/polaris-dawn-rescheduled-for-april/ 11 December 2023閲覧。 
  6. ^ Howell, Elizabeth (30 January 2023). “Polaris Dawn: The trailblazing commercial mission of the Polaris Program”. Space.com. 20 November 2023閲覧。
  7. ^ Young, Chris (19 October 2023). “SpaceX's private Polaris Dawn mission could launch by March 2023”. Interesting Engineering. 20 November 2023閲覧。
  8. ^ Tribou, Richard (23 February 2023). “Set for 2nd SpaceX flight, billionaire Isaacman all business about spacewalk for Polaris Dawn mission”. 20 November 2023閲覧。
  9. ^ Lea, Robert (23 February 2023). “SpaceX's private Polaris Dawn mission now targeting summer 2023 for launch”. Space.com. 20 November 2023閲覧。
  10. ^ Foust, Jeff (22 August 2023). “Polaris Dawn mission likely to slip to 2024”. SpaceNews. 20 November 2023閲覧。
  11. ^ Ellie in Space (7 June 2024). EXCLUSIVE: Polaris Dawn interview with Jared Isaacman. YouTube. 2024年6月14日閲覧
  12. ^ Space calendar 2024: Rocket launches, skywatching events, missions & more!”. Space.com (11 June 2024). 14 June 2024閲覧。
  13. ^ Howell, Elizabeth (3 July 2024). “SpaceX targeting July 31 for launch of historic Polaris Dawn astronaut mission”. Space.com. https://www.space.com/spacex-polaris-dawn-astronaut-launch-july-31 27 July 2024閲覧。 
  14. ^ Szondy, David (3 July 2024). “SpaceX's first Polaris Dawn mission to launch after July 30”. New Atlas. 4 July 2024閲覧。
  15. ^ Wall, Mike (26 July 2024). “SpaceX's historic Polaris Dawn astronaut mission delayed until mid-August”. Space.com. https://www.space.com/spacex-polaris-dawn-delay-august-2024 27 July 2024閲覧。 
  16. ^ Tribou, Richard (8 August 2024). “With Starliner up in the air, SpaceX moves forward with billionaire’s Polaris Dawn spaceflight”. Orlando Sentinel. 9 August 2024閲覧。
  17. ^ "Polaris Dawn Selects 38 Science and Research Experiments to Advance Human Health and Space Exploration". Polaris Dawn (Press release). PR Newswire. 24 October 2022. 2022年10月24日閲覧
  18. ^ a b c Sheetz, Michael (July 11, 2024). “Overview: Approaching Dawn”. CNBC's Investing in Space Newsletter. https://www.linkedin.com/pulse/overview-approaching-dawn-michael-sheetz-fp6pc/?trackingId=surhvWFiTsq3y5cXpzoJug%3D%3D August 18, 2024閲覧。 
  19. ^ Sibu Kumar Tripathi (15 February 2022). “What is Polaris Dawn mission announced by SpaceX that launches Musk's astronaut corps?” (英語). India Today. 18 February 2022閲覧。
  20. ^ Howell, Elizabeth (14 February 2022). “Meet the four private Polaris Dawn astronauts SpaceX will launch into orbit this year” (英語). Space.com. 18 February 2022閲覧。
  21. ^ Isaacman, Jared [@rookisaacman] [in 英語] (2024年5月6日). "Hi Chris ~5.1 - always the challenge but mobility and ..." X(旧Twitter)より2024年5月7日閲覧
  22. ^ a b Dinner, Josh (6 May 2024). “SpaceX reveals new EVA suit for upcoming Polaris Dawn private spaceflight (video)”. Space.com. 7 May 2024閲覧。
  23. ^ a b Foust, Jeff (4 May 2024). “SpaceX reveals EVA suit design as Polaris Dawn mission approaches”. SpaceNews. 7 May 2024閲覧。
  24. ^ Polaris Dawn”. Polaris Program. 7 May 2024閲覧。
  25. ^ Lewis, Briley (2 July 2024). “SpaceX will attempt the first commercial spacewalk”. Popular Science. 4 July 2024閲覧。
  26. ^ Starlink expanding, coming to Dragon capsule on Polaris Dawn, but NASA has concerns about the constellation” (英語). Space Explored (17 February 2022). 18 February 2022閲覧。
  27. ^ Chang, Kenneth (7 August 2024). “NASA Says Boeing Starliner Astronauts May Fly Home on SpaceX in 2025” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2024/08/07/science/boeing-starliner-nasa-spacex.html 7 August 2024閲覧。 

外部リンク

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