宇宙医学

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宇宙医学(うちゅういがく、英語:space medicine[注釈 1])とは宇宙空間宇宙飛行下の諸条件が人体に及ぼす影響を解明し、その適性、順応、保護などを研究する学問である。[1][2][3][4]

概要[編集]

宇宙医学は今後の宇宙開発において重要なテーマであり、生理学的、心理学的研究が行われる。[5][6][7]ロケット打ち上げや降下時の加速度放射線宇宙線)、[8][9]強い光線、高・低温からの人体の保護、宇宙船内での酸素濃度や気圧の変化、無重力状態下の生活と人体への影響、[10][11]生活周期の乱れや孤独感・不安感などの精神的負荷など、[6]研究内容は多岐にわたる。スペースシャトル宇宙ステーション内での人為的活動を行なう際に、健康維持の方法を考察することも行う。[12][13]

歴史[編集]

かつては、初期のクラーク作品に見られるように、宇宙の無重力空間に人間が進出したら重力に起因する様々な健康上の問題から解放され、長寿にもなるだろうという意見があったが、実際に有人宇宙船が打ち上げられ、百日単位で宇宙に滞在する人間が出るようになると、様々な弊害が出ることが判明した。宇宙空間では重力がないため、重い体重を支える必要のないからカルシウムが溶け出したり[4][14][15](長期間生活すると止まるという説あり)、負荷がかからないため筋力が弱まって地上に降りると立つことも困難になるなどの現象が起きたのである。[4][14][16]そのため宇宙進出にあたっては、宇宙空間の特性に応じた医学が必要となった。

潜水医学[編集]

潜水医学とは潜水士ダイバーなど潜水作業に従事する者の健康管理などを扱う分野である。[17][18][注釈 2]これを専門として海上自衛隊の潜水医官も経験した金井宣茂によれば宇宙医学と潜水医学には類似した点が多いという。[19]宇宙と潜水環境の関係について同様の考えを持つ専門家は少なくなく、深海と宇宙の接点に関する研究も実際になされている。[20]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ Aerospace medicine (航空医学)とは異なる。
  2. ^ この分野を扱う学会としては日本臨床高気圧酸素・潜水医学会などがある。

出典[編集]

  1. ^ Clément, G. (2011). Fundamentals of space medicine (Vol. 23). Springer Science & Business Media.
  2. ^ 泉龍太郎, 小川芽久美, 川島紫乃, 井上夏彦, 大島博, 田中一成, ... & 向井千秋. (2008). JAXA 宇宙医学生物学研究室における宇宙医学研究の取り組み. 宇宙利用シンポジウム 第 24 回 平成 19 年度, 295-297.
  3. ^ 岩崎賢一. (2015). 宇宙医学: その最近のトピックス. 日大医学雑誌, 74(2), 82-83.
  4. ^ a b c 大島博. (2005). 有人宇宙飛行と宇宙医学. 学術の動向, 10(9), 33-39.
  5. ^ Nicogossian, A. E. (1989). Space physiology and medicine (pp. 139-153). C. L. Huntoon, & S. L. Pool (Eds.). Philadelphia, PA: Lea & Febiger.
  6. ^ a b Kanas, N., & Manzey, D. (2008). Space psychology and psychiatry. Springer Science & Business Media
  7. ^ 渡邊悟. (1991). 人類の宇宙進出のための生物学, 医学, 心理学的課題. Biological Sciences in Space, 5(1), 11-22.
  8. ^ Durante, M. (2014). Space radiation protection: destination Mars. Life sciences in space research, 1, 2-9.
  9. ^ 藤高和信. (1993). 宇宙環境の放射線. 日本原子力学会誌, 35(10), 880-884.
  10. ^ Lane, H. W., Smith, S. M., Rice, B. L., & Bourland, C. T. (1994). Nutrition in space: lessons from the past applied to the future. The American journal of clinical nutrition, 60(5), 801S-805S.
  11. ^ 岡小天. (1989). 無重力と宇宙への旅. 日本バイオレオロジー学会誌, 3(2), 1-4.
  12. ^ 大本将之, 田川善彦, 髙野吉朗, 大島博, & 志波直人. (2019). 宇宙飛行士の健康維持に関する取り組み 拮抗筋電気刺激による筋力トレーニング機器の開発. 日本航空宇宙学会誌, 67(9), 299-303.
  13. ^ Bogomolov, V. V., Grigoriev, A. I., & Kozlovskaya, I. B. (2007). The Russian experience in medical care and health maintenance of the International Space Station crews. Acta Astronautica, 60(4-7), 237-246.
  14. ^ a b 谷島一嘉. (1988). 宇宙空間と運動. BME, 2(4), 247-251.
  15. ^ Smith, S. M., Wastney, M. E., O'Brien, K. O., Morukov, B. V., Larina, I. M., Abrams, S. A., ... & Shackelford, L. C. (2005). Bone markers, calcium metabolism, and calcium kinetics during extended‐duration space flight on the Mir space station. Journal of Bone and Mineral Research, 20(2), 208-218.
  16. ^ Zange, J., Müller, K., Schuber, M., Wackerhage, H., Hoffmann, U., Günther, R. W., ... & Belichenko, O. I. (1997). Changes in calf muscle performance, energy metabolism, and muscle volume caused by long term stay on space station MIR. International journal of sports medicine, 18(S 4), S308-S309.
  17. ^ 潜水医学入門―安全に潜るために – 1995/8/1、池田知純、大修館書店
  18. ^ 事故を起こさないための潜水医学 (2007) 大岩弘典、水中造形センター。
  19. ^ 〈宇宙兄弟リアル〉金井宣茂/宇宙飛行士 〜宇宙飛行前夜 それは最初の一歩〜(前半) - 宇宙兄弟公式サイト
  20. ^ 神田修治. (1991). 深海と宇宙の有人技術の開発 (< 特集> 深海と宇宙技術の接点). らん: 纜, 11, 1-7.

関連作品[編集]

関連項目[編集]