サリチル酸メチル

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サリチル酸メチル
サリチル酸メチル
識別情報
略称 MeS
CAS登録番号 119-36-8
KEGG D01087
特性
化学式 C8H8O3
モル質量 152.1494 g/mol
示性式 C6H4(OH)COOCH3
外観 無色油状液体
密度 1.174 g/cm³, 液体 (25 ℃)
相対蒸気密度 5.26
融点

-9 °C, 264 K, 16 °F

沸点

222

危険性
主な危険性 Harmful
引火点 101 °C
関連する物質
関連物質 サリチル酸
サリチル酸イソアミル
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

サリチル酸メチルサリチルさんメチル: methyl salicylate)は、フェノール類の一種で、サリチル酸カルボキシ基メチル基が結合した物質。サリチル酸とメタノール脱水縮合したエステルにあたる。特有の芳香があり、消炎作用をもつ。

商業利用[編集]

サリチル酸メタノールによりフィッシャーエステル合成反応を行うと、脱水縮合を起こしてサリチル酸メチルが合成される。

サリチル酸メチル

過去に海外では植物から取れる精油を利用していた。

植物[編集]

ウィンターグリーンの一種であるヒメコウジ (Gaultheria procumbens)

サリチル酸メチルは植物にも存在する。特にカバノキ科カバノキ属ミズメ等)や、北米でウィンターグリーンと呼ばれるツツジ科シラタマノキイチヤクソウ科などの植物には多量に含まれ、そのため切ると独特のにおいがする。一般の植物にも少量含まれ、個体内では植物ホルモンであるサリチル酸の前駆体として転流し機能しているとの報告がある。また揮発性なので、個体間でも傷害を伝えるシグナル物質として働くと考えられている。

利用[編集]

  • 高濃度では貼付剤として、関節痛筋肉痛などのケアに用いられる。二重盲検法評価では、有効性の根拠は弱く、慢性痛よりも急性痛に効果を示すため、その効果性は完全に反対刺激効果に由来するものであるとされた。しかし体内ではサリチル酸や他のサリチル酸エステル類に代謝されるため、非ステロイド性抗炎症薬としてサリチル酸の効果を示す[1][2][3]
  • 低濃度では食品添加物として香料に使用される。キャンディーの香料では最高でおおよそ0.04%含まれている[4]
  • さまざまな製品の香料にも用いられており、殺虫剤農薬の臭い消し剤としても添付されている。使いすぎると胃や腎に障害を起こす[5]
  • ファインアートの転写剤として、絵や写真を手作業で複写する時に使われる[6]
  • 物理的特性が似ているため、マスタードガスの環境や生物への影響を評価するために代替品として使われる[7]
  • リステリンに使われる[8]
  • 特にプリンターなどで、古くなったゴムローラーなどをレストアするのに使われる[9]

安全性と毒性[編集]

純粋なサリチル酸メチルは有害である。ウィンターグリーンの精油98%のサリチル酸メチルを含んでいる。5 mL(およそ小さじ1杯分)のウィンターグリーン精油にはおよそ6 gのサリチル酸メチルが含まれており[10]、報告されている体重当りの最低の致死量は101 mg/kgとされているため[11][リンク切れ]、小さじ1杯のウィンターグリーンの精油は60 kgの成人に対する致死量に相当する。小児の場合はさらに少量となるが、ウィンターグリーン油はキャンディのように甘い香りを発するため誤飲に注意を要する[4]

脚注[編集]

  1. ^ Topical analgesics introduction”. Medicine.ox.ac.uk (2003年5月26日). 2012年11月7日閲覧。
  2. ^ Mason, L.; Moore, RA; Edwards, JE; McQuay, HJ; Derry, S; Wiffen, PJ (2004). “Systematic review of efficacy of topical rubefacients containing salicylates for the treatment of acute and chronic pain”. BMJ 328 (7446): 995. doi:10.1136/bmj.38040.607141.EE. PMC 404501. PMID 15033879. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC404501/. 
  3. ^ Tramer, M. R (2004). “It's not just about rubbing--topical capsaicin and topical salicylates may be useful as adjuvants to conventional pain treatment”. BMJ 328 (7446): 998. doi:10.1136/bmj.328.7446.998. PMC 404503. PMID 15105325. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC404503/. 
  4. ^ a b Wintergreen at Drugs.com
  5. ^ Sports cream overdose”. Adam.about.com (2009年9月30日). 2012年11月7日閲覧。
  6. ^ Image Transfer at Making-greeting-cards.com
  7. ^ Bartlet-Hunt, S. L.; Knappe, Detlef R. U. et al. (2008). “A Review of Chemical Warfare Agent Simulants for the Study of Environmental Behaviour”. Critical Reviews in Environmental Science and Technology 38 (2): 112–136. doi:10.1080/10643380701643650. 
  8. ^ リステリン. “Original Listerine Antiseptic Mouthwash”. 2015年3月25日閲覧。
  9. ^ MG Chemicals - Rubber Renue Safety Data Sheet”. 2016年9月4日閲覧。
  10. ^ Salicylate Poisoning - Patient UK”. Patient.co.uk (2011年4月20日). 2013年7月1日閲覧。
  11. ^ Safety data for methyl salicylate, Physical & Theoretical Chemistry Laboratory, Oxford University

関連項目[編集]