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マスタードガス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
マスタードガス
物質名
識別情報
3D model (JSmol)
バイルシュタイン 1733595
ChEBI
ChEMBL
ChemSpider
ECHA InfoCard 100.209.973 ウィキデータを編集
EC番号
  • 684-527-7
Gmelin参照 324535
KEGG
UNII
性質
C4H8Cl2S
モル質量 159.07 g·mol−1
外観 粘性の液体
純粋なものは無色透明
通常は薄い黄色~暗褐色
匂い ニンニクもしくはホースラディッシュ様の微かな臭気[1]
密度 1.27 g/mL, 液体
融点 14.45 °C (58.01 °F; 287.60 K)
沸点 217 °C (423 °F; 490 K) 217 °Cで分解し始め、218 °C で沸騰
7.6 mg/L at 20°C[2]
溶解度 エーテルベンゼン脂肪アルコールテトラヒドロフランに溶ける
危険性
労働安全衛生 (OHS/OSH):
主な危険性
可燃性、有毒、皮膚腐食性、発がん性、変異原性
GHS表示:[3]
急性毒性(高毒性)
Danger
H300, H310, H315, H319, H330, H335
P260, P261, P262, P264, P270, P271, P280, P284, P301+P310, P302+P350, P302+P352, P304+P340, P305+P351+P338, P310, P312, P320, P321, P322, P330, P332+P313, P337+P313, P361, P362, P363, P403+P233, P405, P501
NFPA 704(ファイア・ダイアモンド)
NFPA 704 four-colored diamondHealth 4: Very short exposure could cause death or major residual injury. E.g. VX gasFlammability 1: Must be pre-heated before ignition can occur. Flash point over 93 °C (200 °F). E.g. canola oilInstability 1: Normally stable, but can become unstable at elevated temperatures and pressures. E.g. calciumSpecial hazards (white): no code
4
1
1
引火点 105 °C (221 °F; 378 K)
安全データシート (SDS) External MSDS
関連する物質
関連物質 ナイトロジェンマスタードビス(クロロエチル)エーテル
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。
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マスタードガス(Mustard gas)は、化学兵器のひとつでびらん剤である2,2'-硫化ジクロロジエチル(2,2'-Dichloro Diethyl Sulfide)という化合物を主成分とする。びらん剤皮膚をただれさせる薬品)に分類される。硫黄を含むことから、サルファマスタード(Sulfur mustard gas)とも呼ばれる。毒ガス史上1番多くの命を奪ったことから化学兵器の王様とも呼ばれている。

概要

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主にチオジグリコール塩素化することによって製造される。また、二塩化硫黄エチレンの反応によっても生成される。

純粋なマスタードガスは、常温で無色・無臭であり、粘着性の液体である。不純物を含むマスタードガスは、マスタード(洋からし)、ニンニクもしくはホースラディッシュ(セイヨウワサビ)に似た臭気を持ち、これが名前の由来である。他にも、皮膚につくと傷口にマスタードをすりこまれるぐらいの痛さという説もある[要出典]第一次世界大戦イープル戦線で初めて使われたため、イペリット(Yperite)とも呼ばれる。また、不純物が多いときに呈する黄色黄土色がマスタードに似ていたという説もある。

実戦での特徴的な点として、残留性および浸透性が高いことが挙げられる。特にゴムを浸透することが特徴的で、ゴム引き布を用いた防護衣では十分な防御が不可能である[4]。またマスクも対応品が必要である。気化したものは空気よりもかなり重く、低所に停滞する。

マスタードガスは遅効性であり、被害を受けても気づくのが遅れる。皮膚以外にも消化管や、造血器に障害を起こすことが知られていた。この造血器に対する作用を応用し、マスタードガスの誘導体であるナイトロジェンマスタード抗がん剤悪性リンパ腫に対して)として使用される。

ナイトロジェンマスタードの抗がん剤としての研究は、第二次世界大戦中にアメリカ合衆国で行われていた。しかし、化学兵器の研究自体が軍事機密であったことから、戦争終結後の1946年まで公表されなかった。一説には、この研究は試作品のナイトロジェンマスタードを用いた人体実験の際、白血病改善の著効があったためという。[要出典]

マスタードガスの使用は、ジュネーヴ議定書および化学兵器禁止条約(CWC)により、国際法で明確に禁止されている。

人体への作用

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マスタードガスは人体を構成する蛋白質DNAに対して強く作用することが知られており、蛋白質やDNAの窒素と反応し(アルキル化反応)、その構造を変性させたり、DNAのアルキル化により遺伝子を傷つけたりすることで毒性を発揮する。このため、皮膚や粘膜などを冒すほか、細胞分裂の阻害を引き起こし、さらに発ガンに関連する遺伝子を傷つければガンを発症する恐れがあり、発癌性を持つ。また、抗がん剤と同様の作用機序であるため、造血器や腸粘膜にも影響が出やすい。

人体への影響は非常に長く続く。イラン・イラク戦争でマスタード・ガスの被害に遭った民間人は、30年以上経過してもなお後遺症に悩まされている[5]

歴史

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その他

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フラットウッズ・モンスターの目撃者の症状がこのマスタードガスを浴びた際の症状に似ているという[要出典]

関連項目

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出典

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  1. ^ FM 3–8 Chemical Reference handbook, US Army, 1967
  2. ^ Mustard agents: description, physical and chemical properties, mechanism of action, symptoms, antidotes and methods of treatment. Organisation for the Prohibition of Chemical Weapons. Accessed June 8, 2010.
  3. ^ Sulfur Mustard”. PubChem, US National Library of Medicine (2025年9月27日). 2025年10月13日閲覧。
  4. ^ 生物・化学兵器への公衆衛生対策(世界保健機関)2004年
  5. ^ イラン・イラク戦争開戦から40年、生存者が語る毒ガス攻撃の恐怖”. AFP (2020年9月23日). 2020年9月27日閲覧。
  6. ^ 内閣府大臣官房遺棄化学兵器処理担当室
  7. ^ a b 服藤恵三『警視庁科学捜査官文藝春秋、2021年。ISBN 978-4163913445https://bunshun.jp/articles/-/74315?page=3 
  8. ^ 事故発生より現在までの経緯”. 国土交通省 (2002年). 2025年5月31日閲覧。
  9. ^ 不発弾、化学兵器の可能性 琉球朝日放送報道制作局 2008年4月24日