ナガイモ

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ナガイモ
ナガイモ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉植物 monocots
: ヤマノイモ目 Dioscoreales
: ヤマノイモ科 Dioscoreaceae
: ヤマノイモ属 Dioscorea
: ナガイモ Dioscorea polystachya
学名
Dioscorea polystachya Turcz.
和名
ナガイモ(長芋)
英名
Chinese yam , Nagaimo
ながいも、塊根、生[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 272 kJ (65 kcal)
13.9 g
食物繊維 1.0 g
0.3 g
2.2 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
(0) µg
チアミン (B1)
(9%)
0.10 mg
リボフラビン (B2)
(2%)
0.02 mg
ナイアシン (B3)
(3%)
0.4 mg
パントテン酸 (B5)
(12%)
0.61 mg
ビタミンB6
(7%)
0.09 mg
葉酸 (B9)
(2%)
8 µg
ビタミンB12
(0%)
(0) µg
ビタミンC
(7%)
6 mg
ビタミンD
(0%)
(0) µg
ビタミンE
(1%)
0.2 mg
ビタミンK
(0%)
(0) µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
3 mg
カリウム
(9%)
430 mg
カルシウム
(2%)
17 mg
マグネシウム
(5%)
17 mg
リン
(4%)
27 mg
鉄分
(3%)
0.4 mg
亜鉛
(3%)
0.3 mg
マンガン
(1%)
0.03 mg
セレン
(1%)
1 µg
他の成分
水分 82.6 g

廃棄部位: 表層、ひげ根及び切り口
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

ナガイモ(長芋、学名: Dioscorea polystachya)は、ヤマノイモ科ヤマノイモ属つる性多年草。または、その肥大した担根体の通称である。漢名山薬(さんやく)、薯蕷(しょよ)とも呼ばれる。

長芋、つくね芋、いちょう芋などの品種群がある。山芋(やまいも)の名で扱われる事があるが、ヤマノイモ(別名:自然薯、学名: Dioscorea japonica)とは別種。

概要

ヤマノイモ科の作物は熱帯から温帯と広範囲に分布し、特にヤマノイモ属は極めて種の数が多く、約600種にも及ぶ。その内の数十種類は食用作物として利用されている。 熱帯地域での栽培に適した品種が多いが、ナガイモは寒冷地での栽培も可能である。

ナガイモは、日本では中世以降に中国大陸から持ち込まれたとの説もあるが、中華人民共和国にもヤマノイモ科の作物は複数あるものの、本項と同種のナガイモは確認されていない[2]。日本で現在流通しているナガイモは日本発祥である可能性もあり、現状は日本産ナガイモと呼んでいる[2]。なお、中華人民共和国で栽培するヤマイモの品種は普通のヤマイモ、いわゆる「家ヤマイモ」と「和田イモ」の2種類が主である[3]。産地は広東省広西チワン族自治区が総生産量の約5割を占め、南方地方を中心に生産を行う[3]。中国市場でのヤマイモ類への関心はあまり高くなく、一見では大和芋に似た外見の薯蕷品種を、店頭で「山葯(山薬)」と表示し販売する方法を取っている[3]

日本においてナガイモは消費生産ともに内需型に発展してきた作物だったが、近年では台湾アメリカ合衆国で流行している薬膳や健康志向を好む食生活の影響で、徐々に好評を得て輸出量を伸ばしている[4]

生産

栽培は比較的容易な品種であり、1年で収穫可能なことから別名で一年芋とも呼ぶ[5]。主な産地は青森県上北地方北海道帯広市幕別町茨城県岩手県など[6]関東より北の地方が大部分となる。取りわけ青森県と北海道が秀でており、2010年(平成22年度)の出荷量の統計によると青森県が42%、北海道が37%、2道県で全体の80%近くを占める[5]。付作面積もこの2道県が広く、青森県が2,330ヘクタール、北海道が1,900ヘクタールと半分を超える[5]

品種改良ではヒゲ根や毛穴がほとんどなく、皮ごと調理可能なナガイモが品種登録されている。

ナガイモはイモの形態から、長芋群・いちょう芋群・つくね芋群の3群に分けられる[6][7]。塊形の「丹波いも」「大和いも」「伊勢いも」などのつくね芋の系統は、伝統野菜として古くから栽培されている。

  • 長芋(ナガイモ)群 - 細長い棒状の山芋。栽培品種として多く出回っている。水分が多く、すりおろしのほか、炒め物や焼き物などに使われる[8]
  • 銀杏芋(イチョウイモ)群 - ばち形や手のひら状に広がった形のナガイモの一種[6]関東地方では「大和芋」とよばれている。長い形のナガイモよりも水分が少なく、とろろ汁に向く[8]
  • つくね芋(ツクネイモ)群 - 握りこぶしのように固くてゴツゴツした塊形のナガイモ。産地によっては大和芋ともいう[6]。粘りがとても強く、和菓子の原料やかまぼこの練り物のつなぎに使われる[8][6]

輸出

ナガイモは日本での生鮮野菜輸出の主要品目に入り、レタス大根キャベツサツマイモ・ナガイモの5品目のうち、最も外国に輸出されている野菜である[9]。しかし、2008年平成20年)を頂点に減少傾向にある[9]。輸出先は多い順から台湾、アメリカ合衆国香港シンガポール共和国、その他の地域となっており、台湾には全体の約59.4%が、アメリカ合衆国には25.2%が輸出先となっている[9]

栽培

つる性多年草雌雄異株。ヤマノイモ属の中では比較的低温性のある植物で、高冷地や寒冷地でも栽培されるが、茎葉は寒さに弱く、0℃以下の環境では凍害を受ける。一般的な栽培方法では、春に種芋を植え付けて晩秋から初冬にかけて収穫する[10]。栽培はやや難しく、栽培適温は20 - 25とされ、連作障害を受けるため同じ畑では2 - 4年は間隔を空ける[10]

土壌条件は耕土が深く、排水のよい肥沃な土壌が適している。ナガイモは肥大根が80センチメートル (cm) ほど地中深くまで伸びるため、耕土の深い土地が望ましい。実る芋の形状は土壌条件に左右され、砂質や火山灰など軽い土壌では長く伸びた良い形を期待できるが、粘土含量の多い重い土壌では形が悪くなってしまう。土作りは前年の秋から堆肥を施して、植え付け3週間ほど前に苦土石灰をまいて酸度を調整して、植え付け前に再度肥料が施される[10]。長さ1.5メートル (m) ほどの支柱を合掌組にして立てて、支柱の根元に約40 - 60グラムに切り分けて切り口を乾かした種芋を植え付けると、芽が伸びてつるが支柱に絡んで上に伸びていく[10]。夏につるが盛んに伸びてきたら、追肥を施して株を充実させる。おおよそ10月以降から芋の収穫期で、芋を傷つけないように芋に沿って下向きに畑を掘り、抜き取って収穫される[10]

利用法

滋養に富み、強精作用がある食材として知られ、漢方では「山薬」と称して、疲労回復に役立てられた[11]。食材としては、太くずんぐりして張りがあり、皮が肌色でしわが寄っていないものが良品とされる[11]

消化酵素のアミラーゼを多く含んでいて、芋類としてはめずらしく、生のままでも食べられる[12]。アミラーゼは、糖質を効率よく分解する酵素で、熱に弱く、芋をすりおろすことで酵素が活性化して、働きが良くなるともいわれている[11]。独特の粘り成分はムチレージムシレージ)で、胃腸を助ける働きをする[11]。その他の栄養素としては、ビタミンB1カリウムをバランスよく含む[11]。芋類のなかでは、水分とたんぱく質が多く、炭水化物とエネルギーが少ない[13]

生食

ヤマノイモ同様、長く伸びる根茎を食用にする。すり下ろして「とろろ」にしたり、細く刻んだりして生食する方法が代表的である[14]。すり下ろしたとろろは麦とろ、山かけ、とろろ蕎麦などに用いられ、お好み焼きなどの生地に焼き上がりをよくするために混ぜられることもある。また、ヤマノイモよりも水分が多く、粘りは弱いため、細切りにしてサラダにするなど歯触りを活かした料理にも向き、煮物にするとほっくりした食感で味わえる[14]エビイカマグロといった海産物との相性が良いため、これらと一緒に食べることも多い。 練り切りかるかん薯蕷饅頭といった和菓子の材料としても用いる。中国料理では「山芋の飴炊き」という、大学芋や関西の中華ポテトに類似した点心が作られる。

ヤマノイモ同様、むかご(葉の付け根に生える)も食用になる。むかごは秋の味覚として知られ、塩ゆでにしたり、味噌汁や炊き込みご飯の具などに使われる[14]

薬用

ナガイモ、あるいはヤマノイモの皮を剥いた根茎を乾燥させたものを山薬といい、生薬として利用される。日本薬局方にも収録されている生薬で、滋養強壮、止瀉、止渇作用があり、八味地黄丸(はちみじおうがん)、六味丸(ろくみがん)、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)などの漢方方剤に使われる。また粘り成分のムチンは、胃の粘膜保護にもなり胃潰瘍を予防し、コレステロールを体外に排出して、高血脂症を予防する働きも知られている[12]。近年、ナガイモやヤマイモが「レジスタントスターチ」を多く含み、便秘などを防ぐ効能が大いにあることを、NHKテレビその他のマスコミで広く取り上げられている[15][16]

ハーブティーにも使われる。ハーブとしては英語名のチャイニーズヤムで呼ぶことが多い。

保存

芋の部分を丸ごと保存するときは、乾燥しないように新聞紙などに包み、風通しのよい冷暗所に保存する[14]。切ったものは、切り口をラップなどで包み、冷蔵庫に保存する[14]

脚注

  1. ^ 編:文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会 編「2 いも及びでん粉類」『日本食品標準成分表』(2015年版(七訂))、2015年12月25日。ISBN 978-4-86458-118-9https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/03/01/1365343_1-0202r.pdf2016年10月15日閲覧 
  2. ^ a b 「平成19年度 農林水産物貿易円滑化推進事業のうち品目別市場実態調査(結果) - ながいも」 農林水産省公式HP 2015年10月14日閲覧
  3. ^ a b c 農林水産省公式HP「市場実態 - 中国 - ながいも」 2015年10月14日閲覧
  4. ^ 「北海道 JA帯広かわにし、JA帯広大正 (長いもを台湾、アメリカへ)」 2015年10月14日閲覧
  5. ^ a b c 野菜ブック「ヤマノイモ」独立行政法人農畜産業振興機構、2015年6月5日閲覧
  6. ^ a b c d e 講談社編 2013, p. 192.
  7. ^ イチョウイモ”. 日本の食材. 食のしおり. 2020年7月26日閲覧。
  8. ^ a b c 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 125.
  9. ^ a b c 農林水産省平成25年4月「青果物の輸出戦略(案)」 農林水産省公式HP 2015年10月14日閲覧
  10. ^ a b c d e 主婦の友社編 2011, p. 207.
  11. ^ a b c d e 主婦の友社編 2011, p. 204.
  12. ^ a b 講談社編 2013, p. 193.
  13. ^ 講談社編 2013, p. 103.
  14. ^ a b c d e 主婦の友社編 2011, p. 205.
  15. ^ 腸内パワーを引き出す新成分!あのネバネバ食材で便秘改善SP(ガッテン)
  16. ^ 炭水化物なのに太らない 秘密はレジスタントスターチ(日経Goodday 30+)

参考文献

関連項目

外部リンク