ふるさと納税

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ふるさと納税(ふるさとのうぜい)とは、日本個人住民税の制度の一つで、日本国内の任意の地方自治体都道府県市町村および特別区。以下同じ)に寄付することにより、寄付した額のほぼ全額が税額控除されるものである(ただし一定の制限や限度がある)。「ふるさと寄附金」とも呼ばれる。

概要

ふるさと納税の法源は地方税法第37条の2にある。これは2008年4月30日に公布された「地方税法等の一部を改正する法律」(平成20年法律第21号)[1]による。第37条の3中「前2条」を「前3条」に改め、同条を第37条の4とし、第37条の2中「前条」を「前2条」に改め、同条を第37条の3とし、第37条の次に次の1条を加える、と定め、従前の地方税法に「(寄附金税額控除)」、第37条の2を挿入した。第37条の2はその後平成23年法律第83号により改正され現在に至っている[2]

ふるさと納税は、個人住民税の寄附金税制が拡充されたものである。地方自治体に対する寄附金のうち、2,000円を超える部分(所得税は2009年分まで寄附金の5,000円を超える部分、個人住民税は2010年分まで寄附金の5,000円を超える部分)について、個人住民税所得割の概ね2割(2015年までは1割)を上限とする金額が、所得税と合わせて控除される。2008年中に寄附をした場合は、2008年の所得税確定申告により所得控除がなされ、個人住民税は2009年度分が税額控除される。寄付の受け入れや具体的な手順については、各地方自治体が条例などで指定する場合がある。

従来確定申告が不要な給与所得者がこの制度を利用するためにはわざわざ確定申告を行う必要があったが、2015年4月1日より「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が創設された[3]。確定申告の不要な給与所得者等(年収2,000万以下のサラリーマンや年収400万円以下の年金受給者など)が行う5団体以内のふるさと納税であれば、各自治体に特例の適用に関する申請書を提出することを条件に、確定申告をしなくとも寄附金控除(税額控除)を受けられる。この場合所得税の寄附金控除は受けられず、その分を加味した控除の全額が翌年度の住民税の減額という形で受けられる。但し、他の要件で確定申告を行う場合や5団体を超える自治体に寄附を行った場合は、この特例は適用されない。

寄付者に対し、寄付金の額に応じて主にその地域の特産品を返礼品として送付している自治体もある。

議論の経緯

2006年3月16日付の日本経済新聞の夕刊コラム・十字路の記事「地方見直す「ふるさと税制」案」を契機として、一部の政治家が取り上げたことから議論が活発化した。

地方間格差過疎などによる税収の減少に悩む自治体に対しての格差是正を推進するための新構想として、西川一誠福井県知事)が2006年10月に「故郷寄付金控除」の導入を提言[4]しており、ふるさと納税の発案者と言われている。また、同知事は総務省が設けた「ふるさと納税研究会」の委員に選任され、賛成の立場から積極的に発言をした。

また以前から、実際の住所以外の場所に何らかの貢献をしたいという人は存在した。スポーツ選手芸能人などには都市部での活動機会が多いにも関わらず、故郷への思いから生活の拠点や住民票を移さずに故郷に住民税を納め続ける場合や[5]田中康夫が「好きな町だから税を納めたい」として生活拠点ではないとされる地域に住民票を移そうとした事例がある。

政府も「安倍晋三首相が総裁選期間中も議論してきた重要な問題」(塩崎恭久官房長官)とし、2007年5月、菅義偉総務相が創設を表明した。

ただ、前述の研究会で議論が始められたさいは、賛成派・反対派ともに考えているイメージが定かではなかった。同年7月12日には、村井嘉浩宮城県知事)、斎藤弘山形県知事)、平井伸治鳥取県知事)、飯泉嘉門徳島県知事)、古川康佐賀県知事)の5人が共同で「ふるさと納税制度スキーム」を発表した。これによると、個人が「ゆかりのある市町村等」に寄付をした場合に、前年の住民税の1割相当額を限度に、所得税と住民税から税額控除するとしている。「納税」という名称であるが、形式的には「寄付」と「税額控除」の組み合わせ方式を採用しており、制度化されたふるさと納税に近い。

同年10月、同研究会は報告書[6]をまとめた。

得失と賛否

策定前の段階では、地方行政の長である知事の現時点の意見では、構造改革による慢性的な財政赤字に悩む地方からは歓迎・賛成する意見が多い一方で、現時点で多くの税収がある大都市部からは反対や慎重な意見が多い。

メリット・賛成意見

  • 成長して生まれ故郷を離れても、その地域に貢献することができる。
    • 地方などでは、成人までの教育に税金を注いでも、就職する(=税金を納めるようになる)にあたって他地域に転居してしまうために、注いだ税金分の「元が取れない」という声もある(教育に支出される税金を「先行投資」と捉え、その回収を意図しての賛成意見である)。
  • 条例などで使途を限定している場合も多いため、現住地へのものであっても、使い道に納税者(寄付者)が関与できる。
  • 厳密な「納税」ではなく、「寄付金税制」の一環であれば制度設計は可能である。
    • なお、納税ではなく寄付であるため、一定以上の金額を寄付した場合に特典を設けている自治体もある。特典の一例として、特産品などの贈呈(寄付者の住所が当該地域外の場合の例として奈良県[7][8]、山口県萩市[9]、同県長門市[10]など。同じく住所を問わない例として島根県江津市[11]など)のほか、地域にちなんだ著作品を贈呈する事例(埼玉県宮代町[12]、鳥取県倉吉市[13]など)もある。

デメリット・反対意見など

  • 市町村に比べ、都道府県はふるさととしての愛着が持たれにくく、寄付が集まりにくい可能性がある。また、寄付をしなかった側の分も控除対象となるため、控除額ばかりが嵩むおそれがある(例えば、市町村に寄付した場合、寄付をしていない都道府県民税分も控除対象となる)。
  • 行政サービスを受ける住民が税を負担する「受益者負担の原則」の観点から逸脱する(ふるさと納税を利用する人間は利用しない人間より安い納税額で居住地の住民サービスを受けられることになる)。
  • 自治体の税務が煩雑になる。特に、他の自治体分の業務については、当該自治体の収入にならない分の業務に当たることになるという矛盾がある。
  • 根本的な地方活性化や地方間格差を是正するための対策にはなっていない。
  • 税収の少ない地域が受けている地方交付金を合わせると、人口あたりでは現状でも都市部の税収と大差がない。
  • 「何をもって『ふるさと』とするかは、法律で決められるものではなく、住民税で払うのは極めておかしい。税体系としてナンセンス」 - 石原慎太郎東京都知事(当時)[14]
  • 地方自治体の税収を減らしてしまう(住民税と所得税)。

ふるさと納税の実績額

総務省の発表による2008年からの実績は以下の通り[15]

適用者 寄付金額 控除額
2008 33,149人 ¥7,259,958,000 ¥1,891,669,000
2009 33,104人 ¥6,553,113,000 ¥1,805,457,000
2010 33,458人 ¥6,708,590,000 ¥2,043,318,000
2011 741,667人 ¥64,914,901,000 ¥21,017,144,000
2012 106,446人 ¥13,011,278,000 ¥4,526,323,000
2013 133,928人 ¥14,189,345,000 ¥6,062,439,000

想定外の用途と影響

制定時には考慮されていなかった用途として、大災害の際に義捐目的と見られる多額の寄付が当制度を利用してなされることがある。一例として、東日本大震災東北地方太平洋沖地震)においては発生から約2箇月の時点で、主要被災地の各県(岩手・宮城・福島)宛てだけでも前年の全国寄付総額の6倍以上の寄付がなされた[16]

なお、義捐目的での多額の寄付に関して、確定申告によって多額の控除と還付金が発生したことにより、寄付者が居住する自治体にとっては想定外の出費(還付金)を強いられるという事態も発生している。

2011年、長野県軽井沢町在住の住民が東日本大震災で被災した東北3県に約7億円の寄付を行った。当該住民は、株式売却によって生じた住民税約1億円を源泉徴収されていたが、確定申告により寄付分が控除対象となり約7,900万円が還付されることになった。このことにより、軽井沢町は当該住民から本来納税される2012年の町民税額が大幅に減じたばかりでなく、還付金として約4,700万円を負担することとなった。なお、町長は当該住民からの納税額を超える還付金相当額については地方交付税(特別交付税)で補填するよう求めるとしている[17]

また、2012年には石原慎太郎東京都知事(当時)が尖閣諸島東京都が購入する方針を発表しその購入資金とするための募金が呼びかけられた(東京都尖閣諸島寄附金)。これにより東京都には約14億円の募金が集まったが、これも「東京都へのふるさと納税」として控除を受けることが可能だった。

その他

  • ふるさと納税での寄付に対し、不動産を寄付者に無償譲渡する特典を設けることが、地方税法に違反するとの指摘がある。例として、京都府宮津市では、1,000万円以上の寄付者に対し市有地を無償譲渡することとし、募集を開始したが、総務省から同法違反を指摘され、中止になった[18]
  • 長崎県平戸市は、ふるさと納税制度での2014年度の寄付申込額が10億円を突破したと発表。10億円突破は全国の自治体で初だという。
  • 三重県伊賀市は、「市ふるさと応援寄附金」で1500万円の寄付があったと発表。
  • 栃木県栃木市では、2014年12月、今年度の寄付金の合計が昨年度の7倍を超える約1018万円に達した。地元産のイチゴ「とちおとめ」を希望する人が多いという。
  • DMM.comが2015年2月12日に「DMMふるさと納税」と称して、石川県加賀市への寄付者に、特典として寄付金額の50%をDMM内のサービスで使える「DMMマネー」として贈呈するサービスを行ったところ、2月28日時点で1700件の寄付があり、寄付総額が5300万円を突破した。寄付者の多くはDMMのオンラインゲームのプレイヤーであるという[1]。当初、同年3月末までの実施を予定していたが、同市の判断により3月4日に終了した[19]
  • ふるさと納税の寄付金を、寺社の防犯や修復代金に充てる地方自治体もあらわれてきた。
  • 群馬県内において、ふるさと納税の謝礼に寄付者に対し贈られる金券が、インターネットオークションなどで転売される事例が相次ぎ、総務省は「制度の趣旨にそぐわない」として、県に対し転売を条例で禁止するなど転売防止に向け対策を実施するよう求めている[20]

脚注

  1. ^ 地方税法等の一部を改正する法律
  2. ^ 地方税法(法庫)
  3. ^ ふるさと納税をされた方 - 平成26年確定申告特集
  4. ^ 日本経済新聞(2006年10月20日付)
  5. ^ たとえば大山康晴は、東京在住でありながら晩年まで郷里の倉敷市に住民税を納めていたという(河口俊彦『大山康晴の晩節』より)。
  6. ^ ふるさと納税研究会報告書(ふるさと納税研究会) - 総務省
  7. ^ ふるさと奈良県応援サイト - 奈良県
  8. ^ 知事会見によると、特典が「豪華」という理由でマスコミからふるさと納税についての取材を受けたとしている。※参考:平成20年7月23日(水) 定例記者会見 - 奈良県(2010年11月7日閲覧)
  9. ^ ふるさと寄附でがんばる萩を応援してください”. 萩市 (2012年4月1日). 2012年12月27日閲覧。
  10. ^ 「長門市ふるさと応援寄付金」(ふるさと納税)のご案内”. 長門市. 2012年12月27日閲覧。
  11. ^ ふるさとづくり寄付金”. 江津市. 2012年12月27日閲覧。
  12. ^ 制度の概要と申し込み〜まちづくりを皆で応援する寄付制度 - 宮代町(2009年3月27日付、2010年11月7日閲覧)
  13. ^ ふるさと納税制度を活用した寄附について - 倉吉市(2010年10月22日付、同年11月7日閲覧)
  14. ^ 石原都知事発言(平成19年5月11日)|東京都自治制度改革推進担当 東京都知事(当時)
  15. ^ 総務省|自治税務局|ふるさと納税など個人住民税の寄附金税制
  16. ^ 東日本大震災:被災3県へのふるさと納税が400億円突破、前年度の同制度全国寄付総額の6倍 - カナロコ(神奈川新聞、2011年5月15日付、同日閲覧)
  17. ^ 多額の還付金軽井沢町負担 町民の被災地への「ふるさと納税」で - 信濃毎日新聞(2012年5月29日付、同年6月4日閲覧)
  18. ^ 京都・宮津市:「ふるさと納税で宅地」待った! 税法違反の恐れ、中止 毎日新聞 2014年9月27日
  19. ^ ITmediaニュース 寄付した半額の「DMMマネー」もらえる「DMMふるさと納税」打ち切り 加賀市「不適切と判断」
  20. ^ ふるさと納税の金券転売対策、条例で禁止も 読売新聞 2016年3月16日

関連項目

外部リンク

第三者による「ふるさと納税」の納税代行サイト