心臓ペースメーカー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
心臓ペースメーカー(米GUIDANT社製)

心臓ペースメーカー(しんぞうペースメーカー)は心筋に電気刺激を与えることで必要な心収縮を発生させる医療機器である。 電気パルスの生成装置である本体と、生成した電気パルスを心筋に伝達するための導線から構成される。前者はペーサーまたはパルスジェネレータとも呼称し、後者はリードまたは電極と呼称される。 心臓ペースメーカは狭義には本体のみを指し、広義には本体とリードを含むシステム全体を指す。

目次

概要 [編集]

不整脈の中には、洞不全症候群房室ブロック心房細動などに代表される徐脈を起こす疾患群がある。これらの不整脈の一部には放置すると心不全を合併したり、致死的な心停止に発展する可能性のある病態が存在する。心臓ペースメーカーは、このような場合に、適切な機能を喪失した本来の心臓の刺激伝導系に代わって心筋を刺激し、必要な心収縮を発生させる治療に使用される医療機器である。 また現在では徐脈治療以外に、一部の心房性頻脈性不整脈を治療する機能のあるもの、慢性心不全の治療を目的としたものが存在する。

心臓ペースメーカは不整脈疾患・心不全治療のために恒久的な使用を前提とした体内植込み式のものと、治療可能な別の要因による徐脈の一時的な治療・徐脈の予防・ペースメーカの植込み手術までの短期的な徐脈治療などを目的とした体外式のものがある。前者は植込み型ペースメーカー・パーマネントペースメーカ等と呼称され、手術により本体とリードは完全に患者体内に埋没される。後者はテンポラリーペースメーカー・一時ペースメーカー等と呼称され、リードの一端は心筋に接触し、もう一端を体外に設置する本体に接続する形態をとる。徐脈の原因が解除または植込み型ペースメーカーの植込みが完了すれば体外式ペースメーカーとリードは除去される。

植込み型ペースメーカーは体内に留置される形態であることから、電池が消耗した場合には手術による交換が必要となる。電池はペースメーカー本体の中に封入されていることから、電池交換は本体そのものの交換を意味する。現在使用されている多くの植込み型心臓ペースメーカーはリチウム電池が使用されており、電池寿命が約6~8年となるものが多いが、電池寿命はペースメーカーの動作様式、出力の大きさ、患者のペースメーカー依存度によって大きく変わる。 またペースメーカーは患者の心臓の状態・疾患に応じ、電気刺激の様式を調整するのが一般的である。現在の植え込み型ペースメーカーは専用の装置 (Programmer) により無線通信で体内のペースメーカーとのコンタクトを行うことができるため、侵襲的な方法を用いることなくペースメーカーの調整・検査等ができる。

歴史 [編集]

最初のペースメーカーは、1932年、アメリカの生理学者であるアルバート・ハイマン(en:Albert Hyman)により開発された。ハイマンの作ったものは手回しによって発電し、その電気ショックを心臓に送って心筋を動かすものである。ハイマン自身はこの装置に「Artificial pacemaker(人工ペースメーカー)」と名づけた。このペースメーカーという言葉が後に広く使われることとなる。

初期のペースメーカーは体外式のみであり、1950年にカナダ人の技術者ジョン・ホップス (John Hopps) によって設計・製作された。これは、使用者にとって大きな苦痛を伴った。1950年代後半の心臓ペースメーカーは大きくかさばり、商用電源を利用しなければならなかった。停電時は装置が停止する危険性があり、患者は生命の危険に晒されるというリスクがあった。また当時のペースメーカーは、一定時間ごとに電気ショックを心筋に流すだけであり、血流や血圧の状況に応じて電流・電圧を制御することが出来なかった。

1958年にアメリカの工学者であるアール・バッケン(Earl Bakken)によって、電池を使用したポータブルタイプの体外式ペースメーカーが開発され、患者は病院内を移動することが可能になった。 また同年、スウェーデンのRune Elmqvistらによって、体内植込み式の心臓ペースメーカーが試作された。しかしこの植込み式のペースメーカーも、動作電源が問題となった。当時植え込み型ペースメーカーの電源に用いられた水銀電池の電源寿命はこの用途ではおよそ2年であり、2年ごとにペースメーカーの電池を取り替えるため大規模な手術を施さなければならず、患者に大きな負担を強いることになった。

1960年代になると、動作電源の問題を解決するため、電源に、プルトニウム放射性同位体であるプルトニウム238の原子力電池が用いられるペースメーカーも開発された。

1970年代初頭になるとリチウム電池の性能が上がり、各種手続きの面倒な原子力電池の代わりに植込み型ペースメーカーの主要な電源として使われるようになった。リチウム電池は原子力電池と比べると短命だが、それでも水銀電池よりも長い期間安定した電力が取り出せ、放射性でないために規制も少なく、以来現在まで植え込み型ペースメーカーの主要な電源として広く使われている。

2005年には血液中のグルコースで発電する燃料電池が発表[1]されたため、実用化されれば電池交換は不要になる。また、2012年には東北大学の研究チームが、電源をワイヤレス化し、完全に埋め込める人工心臓用のポンプを開発したと発表した[2]

この節は執筆の途中です この節は執筆中です。加筆、訂正して下さる協力者を求めています

一般生活で使用する機器からの電磁波による影響 [編集]

一般生活で使用される機器の電気化・電子化・ワイヤレス化に伴い、これらの機器からの電磁波が人体や植込み型心臓ペースメーカーシステムに到達する機会は高くなってきている。ただしペースメーカーへの電磁波到達が必ずしもペースメーカーへの影響を意味するものではなく、またペースメーカーへの影響が必ずしも健康被害を意味するものでは無いことにも留意すべきである。

携帯電話・PHS [編集]

1996年に不要電波問題対策協議会から「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話等の使用に関する暫定指針」が公表され、この中で協議会が収集したデータに基づく暫定指針として、「携帯電話はペースメーカー装着部位から22cm以上離すことが望ましい」とされた[3]

その後1997年に不要電波問題対策協議会(現 電波環境協議会)が「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針[4]」を策定し、この中でペースメーカーと携帯電話との距離は22cm以上離すことが妥当とされた。またこの結果は2000年に総務省が(社)電波産業会に実施委託した調査の結果、「ペースメーカーと携帯電話を22cm以上離すこと」との指針は妥当であるとしている[5]

これらの結果はすべてではないが当時流通していた携帯電話と、国内で使用されている可能性のあるペースメーカー各機種との干渉試験の結果、最も影響しやすかった組み合わせの結果に安全係数をかけて出されたものである。以降、携帯電話の使用周波数帯域・変調方式などの変化にあわせて総務省による干渉試験が行われているが、1997年当時の干渉試験よりリスクの高い組み合わせが出ていないことから、「ペースメーカーと携帯電話は22cm以上離すこと」とした注意喚起は現在においても妥当と結論づけられている [6] [7] [8] [9] [10] [11]。また、ペースメーカーに影響を及ぼす距離であっても、携帯電話端末を遠ざければペースメーカーの動作はただちに正常に回復することがいずれも確認されている。

公共交通機関等ではペースメーカーへの影響を理由とした携帯電話使用の制限に関するアナウンスが行われているが、これは電磁波による実質的な影響よりもマナー対策の性質が強い。この点で必要以上にペースメーカー使用者に不安を与えるという意見もあるが、一方で携帯電話が使用されている場面に遭遇すること自体の患者不安を低減するという意見もあり賛否両論がある。

その他の機器 [編集]

一般生活で使用または接近する可能性のある機器のうち、厚生労働省・総務省・不整脈デバイス工業会より植込み型心臓ペースメーカーへの電磁波の影響について注意喚起されている機器の例としてIH炊飯器・IH調理器・漏電している機器・低周波治療器・電気風呂・高周波治療器・体脂肪計・スマートキーシステム・盗難防止装置・ワイヤレスカードシステム・RFID・全自動麻雀卓などが挙げられる [12] [13] [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20] [21] [22][23][24][25]

医療機器による影響 [編集]

MRI [編集]

従来ペースメーカー植込み患者に対しては MRI検査は避けるべき、あるいは原則禁忌とされていたが、一定の条件を満たした場合にMRI検査が可能となる条件付きMRI対応(MR Conditional [26] )に分類される植込み型心臓ペースメーカーが2008年にCEマークを取得し臨床使用されている。日本では2012年に条件付きMRI対応に分類される植込み型心臓ペースメーカーが薬事認可を受け、2012年10月より使用が開始されている[27]。 日本においては、従来の心臓ペースメーカーおよびリードも含め、体内にMRI対応していない植込み機器がある場合にはMRI検査は原則禁忌となっている。またハードウェアとしての構成が条件付きMRI対応であっても、MRI検査時期において患者・ペースメーカー・MRI検査様式等のパラメータが規定条件をクリアしていなければ、従来のペースメーカーと同様にMRI検査は原則禁忌となる。2013年5月時点において条件付きMRI対応ペースメーカーは複数のメーカーのものが日本で薬事承認・使用されているが、MRI撮像部位や撮像時間等が限定されるものやされないものがあり、MRIへの適応度合は一律ではない。

CT [編集]

X線 CT検査により植込み型心臓ペースメーカーでオーバーセンシングが起きる可能性が指摘され、2005年に厚生労働省よりすべてのペースメーカーに対する製品添付文書の改訂指示が出されている[28]。 指示によれば、CT検査でのX線束がペースメーカー本体部分を走査するのに要する時間に注目しており、5秒以内であれば特別な対応を必要としていない。この事象はCT装置からのX線束がペースメーカーにとって強弱のあるパルス状のエネルギーとして到達することで起き得る現象であり、原理上は現在流通している植え込み型ペースメーカーであれば普遍的に起き得るが、現在使用されている多くのCT装置の性能では、CTが本体上を走査するのに5秒以上かかるケースはごく稀である。

診断用X線 [編集]

被検査者の放射線被ばく量を低減するために、近年のX線診断装置では断続的なパルス状にX線を照射する方式が選択できる。2009年にこのパルス状X線照射により植え込み型心臓ペースメーカーにオーバーセンシングが起きたケースが確認され、同年に厚生労働省よりすべてのペースメーカーに対する製品添付文書の改訂指示が出されている[29]。指示ではパルス状X線照射がペースメーカー本体部にかからないように注意を喚起している。

脚注 [編集]

  1. ^ 血液で発電する燃料電池
  2. ^ 東北大、体内に完全埋め込み可能なワイヤレス型人工心臓用ポンプを開発
  3. ^ 不要電波問題対策協議会の作成した「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話等の使用に関する暫定指針」について – 医薬品等安全性情報第137号, 厚生省(現 厚生労働省),平成8年5月1日
  4. ^ 医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針 – 1997年,不要電波問題対策協議会(現 電波環境協議会)
  5. ^ 電波の医用機器等への影響に関する調査研究報告書 – 2001年3月,社団法人電波産業会
  6. ^ 電波の医用機器への影響に関する調査結果(新たな方式の携帯電話端末及びRFID機器が植込み型医用機器へ与える影響について確認)- 2004年度調査結果, 総務省
  7. ^ 電波の医療機器への影響に関する調査結果(800MHz帯W-CDMA方式の携帯電話端末の電波が植込み型医療機器へ与える影響の確認)- 2005年度調査結果, 総務省
  8. ^ 電波の医療機器への影響に関する調査結果(携帯電話(1.7GHz帯)及び電子タグシステム(950MHz帯)の電波が植え込み型医療機器へ与える影響の確認)- 2006年度調査結果, 総務省
  9. ^ 電波の医療機器への影響に関する調査結果(1.7GHz帯W-CDMA方式及び2GHz帯CDMA2000方式の携帯電話端末の電波が植え込み型医療機器へ与える影響の確認)- 2007年度調査結果, 総務省
  10. ^ 電波の医療機器への影響に関する調査結果(800MHz帯及び2GHz帯CDMA2000方式の携帯電話用小電力レピータの電波が植え込み型医療機器へ与える影響の確認)- 2008年度調査結果, 総務省
  11. ^ 携帯電話端末による心臓ペースメーカ等の植込み型医療機器への影響に関する調査結果(1.7GHz帯及び2GHz帯の周波数を用いる携帯電話端末のうちHSUPA方式を用いて高速なデータ通信を行うものを対象)- 2009年度調査結果, 総務省
  12. ^ 使用上の注意 (PDF) - 一般社団法人日本不整脈デバイス工業会
  13. ^ IH式電気炊飯器等による植込み型心臓ペースメーカ、植込み型除細動器及び脳・脊髄電気刺激装置(ペースメーカ等)への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報185, 厚生労働省
  14. ^ 電波の医用機器等への影響に関する調査結果-ワイヤレスカードシステム等が植込み型医用機器へ与える影響について確認 - 2002年度調査結果, 総務省
  15. ^ ワイヤレスカードシステム等から発射される電波による植込み型の医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報190, 厚生労働省
  16. ^ 万引き防止監視及び金属探知システムの植込み型心臓ペースメーカ、植込み型除細動器及び脳・脊髄電気刺激装置への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報155, 厚生労働省
  17. ^ 電波の医用機器等への影響に関する調査結果(電子商品監視機器、無線LAN機器等が植込み型医用機器へ与える影響について確認)- 2003年度調査結果, 総務省
  18. ^ 盗難防止装置及び金属探知器の植込み型心臓ペースメーカ,植込み型除細動器及び脳・脊髄電気刺激装置(ペースメーカ等)への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報173, 厚生労働省
  19. ^ 盗難防止装置等による電波の医用機器への影響– 医薬品・医療機器等安全性情報203, 厚生労働省
  20. ^ 植込み型心臓ペースメーカ及び植込み型除細動器(いわゆるスマートキーシステムとの相互作用)– 医薬品・医療機器等安全性情報224, 厚生労働省
  21. ^ 電波の医用機器への影響に関する調査結果(新たな方式の携帯電話端末及びRFID機器が植込み型医用機器へ与える影響について確認)- 2004年度調査結果, 総務省
  22. ^ 新方式携帯電話端末及びRFID機器による植込み型医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)への影響について– 医薬品・医療機器等安全性情報216, 厚生労働省
  23. ^ UHF帯RFID機器及び新方式携帯電話端末の心臓ペースメーカ等の植込み型医療機器へ及ぼす影響について – 医薬品・医療機器等安全性情報237, 厚生労働省
  24. ^ 電波の医療機器への影響に関する調査結果(携帯電話(1.7GHz帯)及び電子タグシステム(950MHz帯)の電波が植え込み型医療機器へ与える影響の確認)- 2006年度調査結果, 総務省
  25. ^ WiMAX方式の無線通信システム端末から発射される電波による心臓ペースメーカ等の植込み型医療機器に及ぼす影響に関する調査結果 - 2010年度調査結果, 総務省
  26. ^ American Society for Testing and Materials (ASTM) International, Designation: F2503-05. Standard Practice for Marking Medical Devices and Other Items for Safety in the Magnetic Resonance Environment. ASTM International, West Conshohocken, PA, 2005.
  27. ^ 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 医療機器添付文書情報
  28. ^ X線CT装置等と植込み型心臓ペースメーカ等の相互作用に係る「使用上の注意」の改訂指示等について - 厚生労働省通知,平成17年11月25日,医政総発第1125001号 薬食安発第1125001号 薬食機発第1125001号
  29. ^ X 線診断装置等と植込み型心臓ペースメーカ等の相互作用に係る「使用上の注意」の改訂指示等について -厚生労働省通知,平成21年9月24日, 医政総発0924第3号、薬食安発0924第5号、薬食機発0924第4号

関連項目 [編集]

外部リンク [編集]