アシダカグモ

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アシダカグモ
Heteropoda venatoria.png
アシダカグモ(雄成虫)
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモ綱(蛛形綱) Arachnida
: クモ目 Araneae
: アシダカグモ科 Sparassidae
: アシダカグモ属 Heteropoda
: アシダカグモ
H. venatoria
学名
Heteropoda venatoria
Latreille, 1804
和名
アシダカグモ
英名
Brown huntsman spider

アシダカグモ(脚高蜘蛛、学名:Heteropoda venatoria)は、アシダカグモ科に属するクモの一種。

概要[編集]

人家に棲息する大型のクモとしてよく知られている。徘徊性で、網を張らず、歩き回って獲物を捕らえる。

ゴキブリなど家の中の衛生害虫を食べる天敵としては益虫ではあり、姿を苦手とする人にとっては不快害虫でもある。

特徴[編集]

体長は雌で20-30mm、雄では10-25mmに達し、全長(足まで入れた長さ)は約100mm~130mmで、足を広げた大きさはCD1枚分くらい。オスはメスより少し体が小さく、やや細身で、それに触肢の先がふくらんでいる。

日本に生息する徘徊性のクモとしてはオオハシリグモ南西諸島固有)に匹敵する最大級のクモである。

全体にやや扁平で、長い歩脚を左右に大きく広げる。歩脚の配置はいわゆる横行性で、前三脚が前を向き、最後の一脚もあまり後ろを向いていない。歩脚の長さにはそれほど差がない。体色は灰褐色で、多少まだらの模様がある。また、雌では頭胸部の前縁、眼列の前に白い帯があり、雄では頭胸部の後半部分に黒っぽい斑紋がある。

分布[編集]

原産地はインドだと思われるが、全世界の熱帯・亜熱帯・温帯に広く分布している[1]

外来種で、元来日本には生息していなかったが、1878年に長崎県で初めて報告された[1]。日本への流入に関しては、輸入果物などに紛れ込んできた(別名をバナナグモとも言う)、江戸時代ゴキブリ駆除の為に人為的に輸入したとも言われている。日本には福島県以南の本州四国九州地方に生息し、冬季に着雪のある北海道東北石川県以北で確認された例はないとされるが、富山県黒部峡谷の屋内施設でもみられる。主食とするゴキブリの勢力を追いかける形で、交通機関などでの人為分布が進んでいると考えられるほか、気温条件や子グモの空中分散も分布拡大に影響していると思われる[1]。ただし、よく似たコアシダカグモ類との誤同定も報告されている[2]

鹿児島県南部では「コンノケン」と呼ばれる

生態[編集]

Ashidakagumo3768.JPG

網を張らない徘徊性のクモで、夜行性で薄暗い所を好む。昼間は隙間などに隠れていて、夜になると壁などに出てくる。

日本では主に人家で見られ、日中は雨戸袋や天井裏、家具の隙間などに隠れていることが多い。また、この他公園など屋外のトイレに行くと、よく便器や壁などにへばりついていることがある。南西諸島では、野外で観察されることもある。

肉食性で、成熟後は比較的大型の動物も捕食する。


アシダカグモの平均寿命はオスが3~5年、メスが5~7年程度。日本に生息するメスは1年に2回(6~8月頃)産卵を行う。卵を糸で包んだ円盤形の卵嚢を口に咥え、子グモが孵化するまで餌を食べずに持ち歩く。孵化直前にこれを壁などに貼り付け、暫くの時間近くにいて見守る。子グモは7~10日後に出廬して風通しの良い場所へ移動、腹部から糸を出し、風に乗って糸とともに飛散する(バルーニング)。メスは10回、オスは8回の脱皮を経て、約1年で成体サイズとなる。

類縁種など[編集]

アシダカグモ属は世界に180種がある。日本にはこの種を含めて三種のみが知られるが、他の2種はごく分布の限られたものばかりである。

  • トカラアシダカグモ H. tokarensis:トカラ列島中之島に分布、ただし正体不明。
  • ホソミアシダカグモ H. simplex:西表島に分布。

日本には、森林の落ち葉や枯れ木の下にもよく似たクモがいるが、これはコアシダカグモSinopoda. forcipata)といって別種である。この種は以前は同属とされていたが、現在は別属とされている。ただしその判別は生殖器の特徴により、外部形態ではほとんど差がない。判別としては、アシダカグモよりやや小柄で足が短く、体色が濃い褐色である点が異なるが、非常によく似ていて紛らわしい。本州から九州まで分布し、中国からも記録がある。コアシダカグモは野外の自然環境の保たれた場所に生息し、室内性のアシダカグモとは棲み分けているようであるが、希に室内や建物内で発見されることがあり、上記のように誤認されたと思われる例もある。

なお、コアシダカグモ属にはさらに別種があり、琉球列島には地域ごとの別種がいるほか、近縁の別属カワリアシダカグモ属の種も発見されている。

人との関わり[編集]

その大きさから毒グモと勘違いされることも多いが、人間に影響する強い毒は持たない。同じくゴキブリなどを捕食するムカデとは違い、人間に対しての咬害も起こらない。基本的に臆病で、人間が近寄ると素早く逃げようとする傾向が強く、近くの壁を叩くなどの振動にも敏感に反応する。ただし、素手で掴み上げるなどすると、防衛のため大きな牙で噛みつかれる場合がある。

コオロギを捕食するアシダカグモ

そのグロテスクな姿や、床や壁をガサガサと這い回る不気味さから忌み嫌われる場合も多く、薄暗い場所で遭遇すると、突然走り回るなど見る者に実物以上のインパクトを与えることがある。加えて、走るのがとても速く、捕まえるのは難しい。このことが輪をかけて嫌われる要因となっている。そのため、心理的に気分を害するとして不快害虫ともされる。

一方で、人家内外に住むゴキブリハエなどの衛生害虫や、小さなネズミなどを捕食してくれる益虫である。また、捕食中に他の獲物を見つけると、先の獲物をさし置いて新しい獲物を捕食しようとする習性があり、短時間に多数の害虫を捕らえる能力を持つ。一晩で20匹以上のゴキブリに噛みついたという観察記録もある[3]。昆虫学者安富和男の著書『ゴキブリ3億年のひみつ』によると、アシダカグモが2・3匹いる家では、そこに住むゴキブリは半年で全滅するという。

クモが捕食対象へ注入する消化液には強い殺菌能力があり、また自身の脚などもこの消化液で手入れを行う。それはアシダカグモも同様であり、食物の上などを這い回ることも無いため、徘徊や獲物の食べ殻が病原体媒介などに繋がる可能性は低い。

アシダカグモを駆除する必要がある場合は、たまたま目に付いたアシダカグモ自体を殺虫剤などで殺しても、家に餌がある限りは何度でも侵入してくるため、アシダカグモの餌となるゴキブリなどの害虫を駆除した上で外に追い出すのがよい。餌となる生物がいないなどアシダカグモが住みにくい環境を保つことで、屋内に侵入するのを予防できる。

孵化した子グモはしばらく卵嚢の周りの壁にたむろしているが、これを発見した家人が手を加えると、次の瞬間に子グモたちはそこら中へと走り出す。この状況が「蜘蛛の子を散らす」という慣用句の語源となっている。

脚注[編集]

  1. ^ a b c 大利昌久「わが国におけるアシダカグモの地理的分布」、『衞生動物』第26巻第4号、日本衛生動物学会、1975年12月15日、 255-256頁、 NAID 110003815149
  2. ^ 徳本洋「アシダカグモ分布記録へのコアシダカグモ属の種の誤入 (PDF) 」 、『Kishidaia』第86巻、2004年、 1-9頁、2011年10月1日閲覧。
  3. ^ 八木沼(1969),p.26

参考文献[編集]

  • 八木沼健夫,『原色日本クモ類図鑑』、(1986),保育社
  • 小野展嗣編著、『日本産クモ類』、(2009)、東海大学出版会
  • 八木沼健夫、『クモの話-よみもの動物記-』、(1969)、北隆館

関連項目[編集]