ハシリグモ
| ハシリグモ属 | ||||||||||||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
スジブトハシリグモ Dolomedes pllitarsis
|
||||||||||||||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||
| 学名 | ||||||||||||||||||||||||
| Dolomedes Latreille, 1804 | ||||||||||||||||||||||||
| 種 | ||||||||||||||||||||||||
|
|
ハシリグモ(走蜘蛛)は、キシダグモ科に属する代表的なクモ類で、活発な徘徊性の大型なクモである。
目次 |
特徴 [編集]
ハシリグモは、節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目キシダグモ科のハシリグモ属 (Dolomedes) に属するクモ類の総称である。日本には数種いるが、いずれも中型~大型のクモで、網を張らず、獲物を見つけては足と牙で捕まえる「徘徊性」のクモである。
最も普通に見られるのはイオウイロハシリグモのうち全身が茶褐色のイオウイロ型だが、本種には体色の変異が多い(詳しくは後述)。
体は頭胸部と腹部からなる。頭胸部は楕円形。前の部分に8個の目が前後2列、4個ずつ並ぶ。これはクモの目の標準的な配置であるが、ハシリグモの場合、後列の中眼がやや大きく、後列側眼が後ろよりになる。つまり内側の眼がやや大きく、やや前を向く配置になっている。これは、徘徊性で獲物を捕らえるので、獲物を目視するための適応と考えられる。この傾向はコモリグモ類ではさらに強く、後中眼は大きく正面を向き、後側眼はさらに後ろに下がるので、眼は3列の配置になる。
腹部は楕円形で、特にはっきりした特徴はない。
足はやや太め、頑丈で真っすぐに伸びる。普段は前2本、後ろ2本を揃え、X字型になって草の上などに止まっているのが見られる。足先には大きい爪が2本と、小さい爪が1本、計3本の爪がある。これは、造網性のクモの特徴であり、このことから、このクモの仲間は、造網性の先祖から、二次的に網を張らない生活に入ったものと考えられている。
種類 [編集]
イオウイロハシリグモ (D. sulfureus) は、全身が茶褐色のイオウイロ型(右写真)のほか、頭胸部から腹部にかけての背中に太い褐色の縦線とその両側に左右1本ずつの白線が入るものがおり、その模様にも変異が見られ、大まかに分けてスジブト型やスジボケ型などと呼ばれる。全身に細かい毛が生え、足には刺がまばらに並ぶ。体長は雌で約1.8-2.8cm、雄は一回り小さく、ややきゃしゃな姿である。草原などのほか、道端でもよく見かける。
これに似て、左右の白線の幅が狭く、中央の褐色の幅が広いのがスジブトハシリグモ(D.pllitarsis)で、湿地や池の周辺に多く、水面を走ったり、水中に潜ることもあり、ミズグモと誤認される場合がある。
同じような色彩で、ややきゃしゃなスジアカハシリグモ (D.saganus) は、より自然度の高い林野や山地に生息する。
アオグロハシリグモ (D.raptor) は渓流付近に住む大型種で、全身が緑色っぽいまだら模様をしている。水に飛び込み、30分以上も潜っていたという記録がある。
別属のヒゲナガハシリグモ (Hygropoda higenaga) は、最近本州からも見つかるようになった南方系の種で、上記のものとは、かなり違う感じのクモである。全身が細長く、たくましい感じは全く受けない。水辺の草や低木に住む。水面に糸を垂らして降り、アメンボのように足をひろげて待機するとの観察があり、水面に落ちた昆虫を捕獲しようとしているとも推測される。
習性 [編集]
ハシリグモ類は、非常に活動的で、足が速い。体格が大きいこともあって、追いかけて捕まえるのは難しい。あちこちをうろつくよりも、草の葉の上で待ち伏せている様子をよく見かける。 また、水辺の種では、水面や水中に出ることがよくあり、魚やオタマジャクシを食うことがあることも知られている。“捕食”といっても消化液で獲物の体内を吸い取るだけの多くのクモと異なり、ハシリグモの仲間は物理的に噛み砕いて食べてしまう。このため彼らの食事の後には、獲物の干からびた死骸が残るのではなく、脚や羽根などの残骸が散らばっている状態になる。また、生き餌でなく、死後数日経った死骸であっても漁って食べることがある。
配偶行動としては、雄が捕らえた獲物を雌に贈る「求愛給餌」が行われることが知られている。雄はまず獲物になる昆虫を捕り、これを糸で包んで雌に渡すことで交接を許される。獲物の大きさによって交接を許される時間が変わるとも言われている。
雌は卵を糸で包んで卵嚢とし、これを口にくわえて持ち運ぶ。幼生が生まれる少し前になると、低木や草の葉の下に、籠網のような形に糸を組んで、その真ん中に卵嚢をぶら下げる。卵嚢から幼生が出てくると、幼生はしばらくの間、その卵嚢のそばでかたまりになって過ごす。これをまどいということもある。その後、草の葉の上に登り、糸を風に乗せて飛んでゆく(バルーニング)。
幼生は、3齢までは棚網を作って生活する。草の葉の上などに、シート状に糸を張り、片方にトンネルを作り、普段はその入り口にクモが待機する形である。4齢からは徘徊性の生活に入る。このことは、祖先が造網性で、後に徘徊性になったことと対応するものと考えられている。
イオウイロハシリグモと別属のアズマキシダグモは、同所的に存在することの多い種類で、その体色変化の多彩さなどで比較して論ぜられることも多いが、季節的なずれがあることで知られる。また、徘徊種として優占することの多い両者だが、乾燥しがちな場所でアズマキシダグモの比率が増え、湿所ではイオウイロハシリグモの比率が増える。高水敷では、コマチグモ類の巣があちこちに見られる頃、同様の環境でアズマキシダグモの子育ても見られる。
スジアカハシリグモは、山道沿いに生えてる草の葉上に静止してるのを見る機会が多く、道沿いにそのような光景が続くこともある。そんな場所でところどころに現れる小さな流れで石をめくってみると、そこに、アオグロハシリグモがいることが多い。前者の小さな幼体は比較的コントラストのはっきりしたもので、キクヅキコモリグモを連想させる。後者は、小さな幼体は湿りがちな崖地などにコアシダカグモの幼体などとともに多産することがあり、どちらも幼体のうちは「なんだかよくわからないクモ」の雰囲気を持つ。
このグループは成長過程も含めてなんだかよくわからないクモと、なんだかよくわかるクモとの二つに分かれているようだ。
体色変異 [編集]
イオウイロハシリグモには、非常に体色の異なる個体がいる。それらは、互いの色彩があまりにもはっきりと異なるため、かつては、それぞれが別種であると考えられていた。
イオウイロハシリグモは、成虫は褐色の単色である。やや明るい黄褐色のものもあり、幼虫では薄いまだら模様が出る。
スジブトハシリグモは、体の中央部を褐色の帯が縦に走り、その両側に白い帯が並ぶ。スジブト(筋太)とは、この、中央の褐色の筋が体の幅の多くを占めていて太いことを意味する。
スジボケハシリグモは、スジブトハシリグモに似た模様で、白い帯がやや幅広く、中央の褐色部がやや狭いものである。
これらはそれぞれ別種として記載され、生殖器の構造なども比較して区別されていたはずであった。しかし、他方では、区別が難しく、色彩以外の形式はあまりにも似たものがあり、同種ではないのかとの疑いも表明されていた。
ところが、1977年に中平清による累代飼育の結果が発表された。それによると、イオウイロハシリグモと、スジボケハシリグモは同種であって、遺伝的な多形であるというのである。実際に、同じ親からイオウイロハシリグモと、スジボケハシリグモが生まれてくる場合もあることが報告された。
現在では、イオウイロハシリグモには、イオウイロハシリグモの型と、スジブトハシリグモの型と、スジボケハシリグモの型の3つがあることがわかっている。
ただし、スジブトハシリグモは完全に別種である。したがって、これまでスジブトハシリグモと思われていたクモには、スジブト型のイオウイロハシリグモと、スジブトハシリグモとが交じっていたことになる。
同様の現象が、近縁属であるキシダグモ属(Pisaura)でも発見された。アズマキシダグモ、キスジキシダグモ、ヤマジキシダグモ、タテスジキシダグモの4種とされていたものが、すべてアズマキシダグモの色彩変異であることが判明している。