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「質量とエネルギーの等価性」の版間の差分

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物理学において、'''質量とエネルギーの等価性'''は、静止座標系における質量とエネルギーの関係であり、2つの値の違いは定数と測定単位のみである<ref name="Serway1217">{{Cite book|last=Serway|first=Raymond A.|title=Physics for scientists and engineers with modern physics|last2=Jewett|first2=John W.|last3=Peroomian|first3=Vahé|date=5 March 2013|isbn=978-1-133-95405-7|edition=9th|location=Boston, MA|oclc=802321453|pages=1217–1218}}</ref> <ref name="Günther">{{Citation|title=Einstein's Energy–Mass Equivalence|last=Günther|first=Helmut|last2=Müller|first2=Volker|date=2019|url=https://doi.org/10.1007/978-981-13-7783-9_7|archive-url=https://web.archive.org/web/20210221080229/https://link.springer.com/chapter/10.1007%2F978-981-13-7783-9_7|archive-date=2021-02-21|journal=The Special Theory of Relativity: Einstein’s World in New Axiomatics|publisher=Springer|editor-last=Günther|editor-first=Helmut|pages=97–105|place=Singapore|isbn=978-981-13-7783-9|editor2-last=Müller|editor2-first=Volker|language=en|doi=10.1007/978-981-13-7783-9_7|access-date=2020-10-14}}</ref>。この原理は、物理学者アルバート・アインシュタインの有名な公式によって記述されている。'''{{Math|''E'' {{=}} ''mc''{{sup|2}}}}<ref name="famous2">{{Cite book|title=E=mc<sup>2</sup>: A Biography of the World's Most Famous Equation|edition=illustrated|first=David|last=Bodanis|publisher=Bloomsbury Publishing|year=2009|isbn=978-0-8027-1821-1|page=preface|url=https://books.google.com/books?id=8TX2tFLZ7gYC}}</ref>'''
'''{{Math|''E'' {{=}} ''mc''{{sup|2}}}}'''(イー・イコール・エム・シー にじょう、{{lang-en-short|''E equals m c squared''}})とは、「[[エネルギー]] {{Mvar|E}} {{=}} [[質量]] {{Mvar|m}} &#xD7; [[光速|光速度]] {{Mvar|c}} の2乗」という、質量とエネルギーの関係(等価性)を示す[[等式]]を指す。
== 概要 ==
この式は「質量とエネルギーの等価性」とその定量関係を表す。[[アルベルト・アインシュタイン]]により、1907年に発表された。


この式は、粒子の静止座標におけるエネルギーEを、質量({{Math|''m''}})と[[光速]]の2乗({{Math|''c''<sup>2</sup>}})の積として定義している。光速は日常的な単位では大きな数字(約 300000 km/s または 186000 mi/s)なので、この式は、システムが静止しているときに測定される少量の「静止質量」が、物質の組成とは無関係に膨大な量のエネルギーに対応することを意味する。
この式は状況を限定せずに成り立つとされ、多くの場面で「『物質とエネルギーが可換』であることを意味する式」というように解説されている。


静止質量は[[不変質量]]とも呼ばれ、光速に近い極限速度でも[[運動量]]に依存しない基本的な[[物性|物理的性質]]である。その値は、すべての[[慣性系]]で同じである。[[光子]]のような質量のない粒子は不変質量をゼロとするが、質量のない[[自由粒子]]は運動量とエネルギーの両方を持つ。
すなわち


等価原理は、[[化学反応]]や[[原子核反応|核反応]]などのエネルギー変換でエネルギーが失われると、システムもそれに応じた質量を失うことを意味する。エネルギーと質量は、[[光]]などの[[放射エネルギー]]や[[熱エネルギー]]として周囲に放出されることがある。この原理は、[[原子核物理学]]や[[素粒子物理学]]など、多くの物理学の分野で基本となっている。
*[[物質]]あるいは物体と呼ばれるものが消失して相応量の[[熱]]や[[光]]が発生することがある。逆に熱や光を元に物質/物体が発生しうる。

*熱や光の量と物質の量の和(厳密に言うなら一方を他方に換算したときの和)は変化しない。{{main|対生成}}
質量とエネルギーの等価性は、フランスの[[博学者]][[アンリ・ポアンカレ]](1854-1912)が記述した[[パラドックス]]として、[[特殊相対性理論]]から発生したものである<ref name="action">{{Cite journal|last=Poincaré, H.|year=1900|title=La théorie de Lorentz et le principe de réaction|journal=Archives Néerlandaises des Sciences Exactes et Naturelles|volume=5|pages=252–278|language=fr}}</ref>。アインシュタインは、質量とエネルギーの等価性を一般原理として、また空間と時間の対称性の帰結として初めて提唱した。この原理は、1905年11月21日に発表されたアインシュタインの[[アインシュタインの奇跡の年|奇跡の年の論文]]「物体の慣性はそのエネルギー含有量に依存するか」で初めて登場した<ref name="inertia">{{Cite journal|last=Einstein|first=A.|date=1905|title=Ist die Trägheit eines Körpers von seinem Energieinhalt abhängig?|journal=Annalen der Physik|volume=323|issue=13|pages=639–641|language=de|bibcode=1905AnP...323..639E|DOI=10.1002/andp.19053231314|ISSN=1521-3889}}</ref>。この式と運動量との関係は、エネルギー-運動量の関係として、後に他の物理学者によって発展した。


== 内容 ==
== 内容 ==

2022年8月22日 (月) 01:53時点における版

M87* ブラックホール近傍の質量が、5,000光年にわたる非常に高エネルギーな天体物理学的ジェットに変換される。

物理学において、質量とエネルギーの等価性は、静止座標系における質量とエネルギーの関係であり、2つの値の違いは定数と測定単位のみである[1] [2]。この原理は、物理学者アルバート・アインシュタインの有名な公式によって記述されている。E = mc2[3]

この式は、粒子の静止座標におけるエネルギーEを、質量(m)と光速の2乗(c2)の積として定義している。光速は日常的な単位では大きな数字(約 300000 km/s または 186000 mi/s)なので、この式は、システムが静止しているときに測定される少量の「静止質量」が、物質の組成とは無関係に膨大な量のエネルギーに対応することを意味する。

静止質量は不変質量とも呼ばれ、光速に近い極限速度でも運動量に依存しない基本的な物理的性質である。その値は、すべての慣性系で同じである。光子のような質量のない粒子は不変質量をゼロとするが、質量のない自由粒子は運動量とエネルギーの両方を持つ。

等価原理は、化学反応核反応などのエネルギー変換でエネルギーが失われると、システムもそれに応じた質量を失うことを意味する。エネルギーと質量は、などの放射エネルギー熱エネルギーとして周囲に放出されることがある。この原理は、原子核物理学素粒子物理学など、多くの物理学の分野で基本となっている。

質量とエネルギーの等価性は、フランスの博学者アンリ・ポアンカレ(1854-1912)が記述したパラドックスとして、特殊相対性理論から発生したものである[4]。アインシュタインは、質量とエネルギーの等価性を一般原理として、また空間と時間の対称性の帰結として初めて提唱した。この原理は、1905年11月21日に発表されたアインシュタインの奇跡の年の論文「物体の慣性はそのエネルギー含有量に依存するか」で初めて登場した[5]。この式と運動量との関係は、エネルギー-運動量の関係として、後に他の物理学者によって発展した。

内容

特殊相対性理論は、「物理法則は、すべての慣性系で同一である」という特殊相対性原理と、「真空中の光の速度は、すべての慣性系で等しい」という光速度一定の原理を満たすことを出発点として構築され、結果として、空間3次元時間1次元を合わせて4次元時空として捉える力学である。運動量ベクトルは、第0成分にエネルギー成分を持つ4元運動量 pμ(または p)として扱われ、運動方程式は

と拡張される。4元運動量の保存則から、エネルギーは一般的に β = v/c として次のように表される。

ただし m0 は静止質量である。物体が運動していない場合、つまり p = 0 の場合のエネルギーを表す式は、

である。物体が運動している場合、相対論効果によって以下のように質量が増える。

したがって、物体が運動している場合にも

が成り立つ。

この式は、質量とエネルギーが等価であることを意味する。反応の前後で全静止質量の和が Δm だけ減るならば、それに相当する Δmc2 のエネルギーが運動、熱、あるいは位置エネルギーに転化されることになる。

なお、これは原子核反応に限ったものであるという誤解があるが、実際には原子核反応の観測により実証されたというのが正しい。質量とエネルギーが等価であることは、原子核反応に限った話ではなく、全ての場合において成り立つ。例えば、電磁相互作用の位置エネルギーに由来する化学反応では、反応の前後の質量差は無視できるほど小さい(全質量の 10−7 % 以下[注 1])が、強い相互作用の位置エネルギーに由来する原子核反応ではその効果が顕著に現れる(全質量の 0.1 - 1 % 程度)というだけの話である。水力発電のような重力の位置エネルギーに由来する場合であっても、質量とエネルギーの等価は成り立つ。

この関係式で、質量 kg をエネルギーに変換すると、光速度 c = 299792458 m/s であるから、次のようになる。

  • 8.9875517873681764×1016 J と等価
  • 2.4965421632×1010 kWh と等価
  • 21.48076431 MtTNTの熱量と等価

広島に投下された原子爆弾で核分裂を起こしたのは、爆弾に詰められていたウラン235(約50 kg)だが、実際に消えた質量は 0.7 g 程度だったと推測されている。一方、反物質が通常の物質と対消滅反応すればその質量が100%エネルギー変換されるため、核反応とは比較にならない莫大なエネルギーが発生する。逆に対生成で物質や反物質を得るにはそれだけの莫大なエネルギーを要する事になる。

特殊相対性理論の中でも本項の式が特に有名であるため、十分に理解されないまま使われることも多い。例えば前述の通り、反応の前後で全静止質量の和が Δm だけ減るならば、それに相当する Δmc2 のエネルギーが運動、熱、あるいは位置エネルギーに転化されるということ、あるいはその逆を表すのがこの関係式であるが、それ以外のいかなる場合も E = mc2 であるとして特殊相対性理論を誤って解釈したり、その誤った解釈を元に特殊相対性理論は間違っていると主張されたりすることも少なくない。

質量とエネルギーの等価性は「宇宙に始まりがあるのなら、どうやって無から有が生じたのか?」という、ある意味哲学的な問題にも、ひとつの解答を与える事となった。宇宙の全ての重力の位置エネルギーを合計するとマイナスになるため、宇宙に存在する物質の質量とあわせれば、宇宙の全エネルギーはゼロになるというのが、解答である[6][注 2]

証明

この E = mc2 と言う関係式は、アインシュタインによる公式の中で最も有名なものではあるが、経験則に基づく仮説として、長年の間厳密な証明はされないままであった。しかし、原子核核子を構成するクォークと核子同士を結び付けるグルーオンは、それぞれ質量が全体の5%および0であるにもかかわらず、これらクォークとグルーオンの動きや相互作用によって発生するエネルギーが原子核の質量の源となるという論文が、2008年11月21日発売のアメリカ学術誌サイエンス』に掲載された[7][8]。このことにより、これまでは仮説だったこの関係式が、ようやく実証されたことになる[8][9]

脚注

注釈

  1. ^ 言い換えると10億分の1以下。
  2. ^ もちろん、これだけで説明がつく訳ではなく、様々な理論が関わってくる。

出典

  1. ^ Serway, Raymond A.; Jewett, John W.; Peroomian, Vahé (5 March 2013). Physics for scientists and engineers with modern physics (9th ed.). Boston, MA. pp. 1217–1218. ISBN 978-1-133-95405-7. OCLC 802321453 
  2. ^ Günther, Helmut; Müller, Volker (2019), Günther, Helmut; Müller, Volker, eds., “Einstein's Energy–Mass Equivalence” (英語), The Special Theory of Relativity: Einstein’s World in New Axiomatics (Singapore: Springer): 97–105, doi:10.1007/978-981-13-7783-9_7, ISBN 978-981-13-7783-9, オリジナルの2021-02-21時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20210221080229/https://link.springer.com/chapter/10.1007%2F978-981-13-7783-9_7 2020年10月14日閲覧。 
  3. ^ Bodanis, David (2009). E=mc2: A Biography of the World's Most Famous Equation (illustrated ed.). Bloomsbury Publishing. p. preface. ISBN 978-0-8027-1821-1. https://books.google.com/books?id=8TX2tFLZ7gYC 
  4. ^ Poincaré, H. (1900). “La théorie de Lorentz et le principe de réaction” (フランス語). Archives Néerlandaises des Sciences Exactes et Naturelles 5: 252–278. 
  5. ^ Einstein, A. (1905). “Ist die Trägheit eines Körpers von seinem Energieinhalt abhängig?” (ドイツ語). Annalen der Physik 323 (13): 639–641. Bibcode1905AnP...323..639E. doi:10.1002/andp.19053231314. ISSN 1521-3889. 
  6. ^ Hawking (1989, [要ページ番号])
  7. ^ Dürr et al. (2008)
  8. ^ a b “欧州物理学チーム,特殊相対性理論の「E=mc²」をついに証明”. AFPBB News (AFP通信). (2008年11月23日). http://www.afpbb.com/articles/-/2541360?pid=3546071 2016年12月7日閲覧。 
  9. ^ "D'où vient la masse du proton?" (Press release). CNRS. 20 November 2008. 2016年12月7日閲覧

参考文献

論文

書籍

関連項目

外部リンク