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「エピジェネティクス」の版間の差分

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'''エピジェネティクス'''([[英語]]:epigenetics)とは、一般的には「'''[[デオキシリボ核酸|DNA]][[塩基配列]]の変化を伴わない[[細胞分裂]]後も継承される[[遺伝子発現]]あるいは[[細胞]][[表現型]]の変化を研究する学問領域'''」である<ref name="isbn0-87969-490-4">{{Cite book| author = Riggs AD, Russo VEA, Martienssen RA | title = Epigenetic mechanisms of gene regulation | publisher = Cold Spring Harbor Laboratory Press | location = Plainview, N.Y | year = 1996 | isbn = 0-87969-490-4 }}</ref>{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=19}}。ただし、歴史的な用法や研究者による定義の違いもあり、その内容は必ずしも一致したものではない<ref name="nature2008">{{Cite journal|author=Ledford H |title=Disputed definitions |journal=Nature |year=2008 |volume=455 |issue=7216 |pages=1023-8 |pmid = 18948925 |doi=10.1038/4551023a |url=http://www.nature.com/news/2008/081022/pdf/4551023a.pdf |format=PDF}}</ref>。
'''エピジェネティクス'''([[英語]]:epigenetics)とは、一般的には「'''[[デオキシリボ核酸|DNA]][[塩基配列]]の変化を伴わない[[細胞分裂]]後も継承される[[遺伝子発現]]あるいは[[細胞]][[表現型]]の変化を研究する学問領域'''」である<ref name="isbn0-87969-490-4">{{Cite book| author=Riggs AD, Russo VEA, Martienssen RA | title=Epigenetic mechanisms of gene regulation | publisher=Cold Spring Harbor Laboratory Press | location=Plainview, N.Y | year=1996 | isbn=0-87969-490-4}}</ref>{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=19}}。ただし、歴史的な用法や研究者による定義の違いもあり、その内容は必ずしも一致したものではない<ref name="nature2008">{{Cite journal | author=Ledford H | title=Disputed definitions | journal=[[ネイチャー|Nature]] | year=2008 | volume=455 | issue=7216 | pages=1023-8 | pmid=18948925 | doi=10.1038/4551023a |url=http://www.nature.com/news/2008/081022/pdf/4551023a.pdf | format=PDF}}</ref>。


多くの生命現象に関連し、[[人工多能性幹細胞]](iPS細胞)・[[胚性幹細胞]](ES細胞)が多様な器官となる能力([[分化能]])、哺乳類クローン作成の成否と異常発生などに影響する要因([[リプログラミング]])、[[悪性腫瘍|がん]]や[[遺伝子疾患]]の発生のメカニズム、個体レベルの[[記憶]]<ref>{{cite journal | title=Epigenetic mechanisms in cognition | author=Day JJ, Sweatt JD | year=2011 | journal=Neuron | volume=70 | issue=5 | pages=813-29 | pmc=3118503 | pmid=21658577 | doi=10.1016/j.neuron.2011.05.019}}</ref>などの解明にもかかわっている。
多くの生命現象に関連し、[[人工多能性幹細胞]](iPS細胞)・[[胚性幹細胞]](ES細胞)が多様な器官となる能力([[分化能]])、哺乳類クローン作成の成否と異常発生などに影響する要因([[リプログラミング]])、[[悪性腫瘍|がん]]や[[遺伝子疾患]]の発生のメカニズム、個体レベルの[[記憶]]<ref>{{Cite journal | title=Epigenetic mechanisms in cognition | author=Day JJ, Sweatt JD | year=2011 | journal=Neuron | volume=70 | issue=5 | pages=813-29 | pmc=3118503 | pmid=21658577 | doi=10.1016/j.neuron.2011.05.019}}</ref>などの解明にもかかわっている。


== 概要 ==
== 概要 ==
[[遺伝]][[形質]]の発現は、[[セントラルドグマ]]説<ref name="crick1958">Crick, F.H.C. (1958): [http://profiles.nlm.nih.gov/SC/B/B/F/T/_/scbbft.pdf On Protein Synthesis.] Symp. Soc. Exp. Biol. XII, 139-163. (pdf, early draft of original article)</ref><ref name="crick1970">{{cite journal | author = Crick F | title = Central dogma of molecular biology | url = http://www.nature.com/nature/focus/crick/pdf/crick227.pdf | format=PDF | pmid = 4913914 | journal = Nature | doi=10.1038/227561a0 | volume=227 | issue=5258 | pages = 561–3 | year=1970 }}</ref>で提唱されたように[[DNA複製]]→[[転写 (生物学)|RNA転写]]→[[翻訳 (生物学)|タンパク質への翻訳]]→[[形質#形質発現|形質発現]]の経路により、DNAに記録されている[[遺伝情報]]が[[表現型]]として実現した結果とされてきた。セントラルドグマにおける形質の変化とは、遺伝情報の変化であり、その[[記録媒体]]であるDNA塩基配列の変化が原因となっている。[[レトロウイルス科|レトロウイルス]]や[[レトロトランスポゾン]]による[[リボ核酸|RNA]]からDNAへの情報の還元という例外を含みながらも、従来の[[分子生物学]]・[[遺伝学]]ではセントラルドグマに基礎においた研究が行われてきた{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=29}}。
[[遺伝]][[形質]]の発現は、[[セントラルドグマ]]説<ref name="crick1958">Crick, F.H.C. (1958): [http://profiles.nlm.nih.gov/SC/B/B/F/T/_/scbbft.pdf On Protein Synthesis.] Symp. Soc. Exp. Biol. XII, 139-163. (pdf, early draft of original article)</ref><ref name="crick1970">{{Cite journal | author=Crick F | title=Central dogma of molecular biology | url=http://www.nature.com/nature/focus/crick/pdf/crick227.pdf | format=PDF | pmid=4913914 | journal=Nature | doi=10.1038/227561a0 | volume=227 | issue=5258 | pages=561–3 | year=1970}}</ref>で提唱されたように[[DNA複製]]→[[転写 (生物学)|RNA転写]]→[[翻訳 (生物学)|タンパク質への翻訳]]→[[形質#形質発現|形質発現]]の経路により、DNAに記録されている[[遺伝情報]]が[[表現型]]として実現した結果とされてきた。セントラルドグマにおける形質の変化とは、遺伝情報の変化であり、その[[記録媒体]]であるDNA塩基配列の変化が原因となっている。[[レトロウイルス科|レトロウイルス]]や[[レトロトランスポゾン]]による[[リボ核酸|RNA]]からDNAへの情報の還元という例外を含みながらも、従来の[[分子生物学]]・[[遺伝学]]ではセントラルドグマに基礎においた研究が行われてきた{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=29}}。


[[ファイル:Cloned mice with different DNA methylation.png|thumb|right|200px|[[DNAメチル化]]の差によって尾の形状が異なる二匹のクローンマウス<ref>{{cite journal | last1 = Bradbury | first1 = J | year = 2003 | title = Human epigenome project—Up and running | url = | journal = PLoS Biol | volume = 1 | issue = 3| page = e82 | doi = 10.1371/journal.pbio.0000082 | pmid=14691553 | pmc=300691}}</ref> ]]
[[ファイル:Cloned mice with different DNA methylation.png|thumb|right|200px|[[DNAメチル化]]の差によって尾の形状が異なる二匹のクローンマウス<ref>{{Cite journal | author=Bradbury J | year=2003 | title=Human epigenome project—Up and running | journal=PLoS Biol | volume=1 | issue=3| page=e82 | doi=10.1371/journal.pbio.0000082 | pmid=14691553 | pmc=300691}}</ref> ]]


しかしながら、先天的には同じ遺伝情報、つまり同じ[[ゲノム]](DNA塩基配列)であっても、[[細胞]]レベルあるいは[[個体]]レベルの形質の表現型が異なる例もまれではない。
しかしながら、先天的には同じ遺伝情報、つまり同じ[[ゲノム]](DNA塩基配列)であっても、[[細胞]]レベルあるいは[[個体]]レベルの形質の表現型が異なる例もまれではない。


たとえば[[動物]]では、単細胞である[[受精卵]]から[[胚発生|発生]]し、[[胚]]の[[分化能#全能性|全能性]][[幹細胞]]はさまざまな[[分化能#多能性 (multipotency)|多能性]]細胞系列となり、さらに[[器官]]ごとに異なった細胞に[[細胞分化|分化]]し、それぞれの器官・細胞は異なる機能を分担している。この過程で細胞は、分化の経歴と存在する部位に依存して、ある遺伝子を抑制する一方で、他のある遺伝子は活性化している<ref name="pmid17522676">{{Cite journal| author = Reik W | title = Stability and flexibility of epigenetic gene regulation in mammalian development | journal = Nature | volume = 447 | issue = 7143 | pages = 425–32 | year = 2007 | pmid = 17522676 | doi = 10.1038/nature05918 }}</ref>。また[[一卵性双生児]]や[[クローン]]動物、あるいは[[挿し木]]や[[球根]]・[[地下茎]]などの[[栄養生殖]]で増殖した[[植物]]でも、[[遺伝子型]]は同一にもかかわらず個体間に違いが認められることが多い。
たとえば[[動物]]では、単細胞である[[受精卵]]から[[胚発生|発生]]し、[[胚]]の[[分化能#全能性|全能性]][[幹細胞]]はさまざまな[[分化能#多能性 (multipotency)|多能性]]細胞系列となり、さらに[[器官]]ごとに異なった細胞に[[細胞分化|分化]]し、それぞれの器官・細胞は異なる機能を分担している。この過程で細胞は、分化の経歴と存在する部位に依存して、ある遺伝子を抑制する一方で、他のある遺伝子は活性化している<ref name="pmid17522676">{{Cite journal| author=Reik W | title=Stability and flexibility of epigenetic gene regulation in mammalian development | journal=Nature | volume=447 | issue=7143 | pages=425–32 | year=2007 | pmid=17522676 | doi=10.1038/nature05918 }}</ref>。また[[一卵性双生児]]や[[クローン]]動物、あるいは[[挿し木]]や[[球根]]・[[地下茎]]などの[[栄養生殖]]で増殖した[[植物]]でも、[[遺伝子型]]は同一にもかかわらず個体間に違いが認められることが多い。


このような例は、細胞レベルでは[[シグナル伝達]]による細胞間の応答反応、個体レベルでは環境と遺伝の[[相互作用]]によって主に説明がなされていた。しかしながら、細胞がどのように経歴を「[[細胞記憶|記憶]]」するのか、個体間の表現型の差がどのように生じるかは、遺伝子機能の面からは明らかにされていない部分があった。
このような例は、細胞レベルでは[[シグナル伝達]]による細胞間の応答反応、個体レベルでは環境と遺伝の[[相互作用]]によって主に説明がなされていた。しかしながら、細胞がどのように経歴を「[[細胞記憶|記憶]]」するのか、個体間の表現型の差がどのように生じるかは、遺伝子機能の面からは明らかにされていない部分があった。
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[[ファイル:Nucleosome_structure-2.png|thumb|left|300px|<center>'''[[クロマチン]]中の[[ヒストン]]と[[デオキシリボ核酸|DNA]]の模式図'''<br /></center>'''(右上)[[ヌクレオソーム]]構造''': ヒストン[[オリゴマー|八量体]]に巻き付いたDNA '''(上段)''' '''{{color|blue|H3}}''', '''{{color|green|H4}}''', '''{{color|AAAA00|H2A}}''', '''{{color|red|H2B}}''' コアヒストン単量体([[モノマー]]) '''(中・下段)''' H3-H4テトラマーとH2A-H2B[[二量体|ダイマー]] 2個が会合し、ヒストン八量体となる。]]
[[ファイル:Nucleosome_structure-2.png|thumb|left|300px|<center>'''[[クロマチン]]中の[[ヒストン]]と[[デオキシリボ核酸|DNA]]の模式図'''<br /></center>'''(右上)[[ヌクレオソーム]]構造''': ヒストン[[オリゴマー|八量体]]に巻き付いたDNA '''(上段)''' '''{{color|blue|H3}}''', '''{{color|green|H4}}''', '''{{color|AAAA00|H2A}}''', '''{{color|red|H2B}}''' コアヒストン単量体([[モノマー]]) '''(中・下段)''' H3-H4テトラマーとH2A-H2B[[二量体|ダイマー]] 2個が会合し、ヒストン八量体となる。]]


1942年に{{仮リンク|コンラッド・H・ウォディントン|en|Conrad Hal Waddington}}は、「遺伝物質からはじまり最終的な生物を形づくるすべての制御された過程」言い換えると「遺伝子が表現型を作るために周辺環境とどのように相互作用するのか」を表現するために、「'''エピジェネティクス'''」という用語を作成した{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=19}}<ref name=waddington>{{Cite journal|author=Waddington CH | title = The epigenotype| journal = Endeavour | volume = 1 | pages = 18–20 | year = 1942 }}</ref>。その後、エピジェネティクスは、DNA塩基配列の変化を伴わない後天的な遺伝子制御の変化を主な対象とした研究分野となり、各種生物のゲノムの解読が進んだ2000年代以降、エピジェネティクス研究が盛んになってきている。
1942年に{{仮リンク|コンラッド・H・ウォディントン|en|Conrad Hal Waddington}}は、「遺伝物質からはじまり最終的な生物を形づくるすべての制御された過程」言い換えると「遺伝子が表現型を作るために周辺環境とどのように相互作用するのか」を表現するために、「'''エピジェネティクス'''」という用語を作成した{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=19}}<ref name=waddington>{{Cite journal|author=Waddington CH | title=The epigenotype| journal=Endeavour | volume=1 | pages=18–20 | year=1942}}</ref>。その後、エピジェネティクスは、DNA塩基配列の変化を伴わない後天的な遺伝子制御の変化を主な対象とした研究分野となり、各種生物のゲノムの解読が進んだ2000年代以降、エピジェネティクス研究が盛んになってきている。


前述の通り「'''エピジェネティクス'''」の内容は普遍的に定義されたものではない<ref name="nature2008"/>。しかしながら、狭い意味で使われる場合は、表1に示す各種の過程のうち[[染色体]][[クロマチン]]を構成する[[ヒストン]]の化学的修飾などによる[[クロマチンリモデリング]]および[[DNAメチル化]]による遺伝子の発現制御の変化を指す{{sfn|服部, 大鐘, 塩田「エピジェネティクス」}}。
前述の通り「'''エピジェネティクス'''」の内容は普遍的に定義されたものではない<ref name="nature2008"/>。しかしながら、狭い意味で使われる場合は、表1に示す各種の過程のうち[[染色体]][[クロマチン]]を構成する[[ヒストン]]の化学的修飾などによる[[クロマチンリモデリング]]および[[DNAメチル化]]による遺伝子の発現制御の変化を指す{{sfn|服部, 大鐘, 塩田「エピジェネティクス」}}。
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この場合、DNA塩基配列の変化つまり[[突然変異]]と、'''エピジェネティック'''(=エピジェネティクス的)制御とは独立である。それらは、同一個体内での組織の違いあるいは個体発生・細胞分化の時間軸上の違いで生じる変化である。
この場合、DNA塩基配列の変化つまり[[突然変異]]と、'''エピジェネティック'''(=エピジェネティクス的)制御とは独立である。それらは、同一個体内での組織の違いあるいは個体発生・細胞分化の時間軸上の違いで生じる変化である。


しかしそれらと異なり、変化した表現型が個体の世代を超えて受け継がれる「エピジェネティック遺伝」の例も見出されており、研究が進められている<ref name="pmid17320501">{{Cite journal| author = Chandler VL | title = Paramutation: from maize to mice | url =http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867407001870 | journal = Cell | volume = 128 | issue = 4 | pages = 641–5 | year = 2007 | pmid = 17320501 | doi = 10.1016/j.cell.2007.02.007 }}</ref><ref name="Jablonka09">{{Cite journal| author = Jablonka E, Raz G | title = Transgenerational epigenetic inheritance: prevalence, mechanisms, and implications for the study of heredity and evolution | journal = Q Rev Biol | volume = 84 | issue = 2 | pages = 131–76 | year = 2009 | pmid = 19606595 | doi = 10.1086/598822 }}</ref>。これは、ある生物におけるエピジェネティックな変化がそのDNAの基本構造を変えることができるかどうかという[[ネオ・ラマルキズム|ラマルキズム型の問題]]を提起する(後述の[[#ラマルキズムとの関連|ラマルキズムとの関連]]参照)。
しかしそれらと異なり、変化した表現型が個体の世代を超えて受け継がれる「エピジェネティック遺伝」の例も見出されており、研究が進められている<ref name="pmid17320501">{{Cite journal| author=Chandler VL | title=Paramutation: from maize to mice | url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867407001870 | journal=Cell | volume=128 | issue=4 | pages=641–5 | year=2007 | pmid=17320501 | doi=10.1016/j.cell.2007.02.007}}</ref><ref name="Jablonka09">{{Cite journal| author=Jablonka E, Raz G | title=Transgenerational epigenetic inheritance: prevalence, mechanisms, and implications for the study of heredity and evolution | journal=Q Rev Biol | volume=84 | issue=2 | pages=131–76 | year=2009 | pmid=19606595 | doi=10.1086/598822}}</ref>。これは、ある生物におけるエピジェネティックな変化がそのDNAの基本構造を変えることができるかどうかという[[ネオ・ラマルキズム|ラマルキズム型の問題]]を提起する(後述の[[#ラマルキズムとの関連|ラマルキズムとの関連]]参照)。


{| class="wikitable" style="margin:0 auto; width:90%; text-align:left; font-size:90%; background-color:#FFF"
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51行目: 51行目:
! colspan="2" | その他
! colspan="2" | その他
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| style="padding:.5em" | {{仮リンク|位置効果|en|position effect}} || 遺伝子が存在する位置の上流域の構造が与える発現抑制あるいは発現活性化の効果
| style="padding:.5em" | {{仮リンク|位置効果|en|position effect}} || 遺伝子が存在する位置の上流域の構造が与える発現抑制あるいは発現活性化の効果([[#キイロショウジョウバエ|後述]])
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| style="padding:.5em" | {{仮リンク|母性効果|en|maternal effect}} || 母体の状態に依存する効果
| style="padding:.5em" | {{仮リンク|母性効果|en|maternal effect}} || 母体の状態に依存する効果
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| style="padding:.5em" | {{仮リンク|パラ変異|en|paramutation}} || 特定の[[ヘテロ接合型]][[対立遺伝子]]の組が子孫の表現型に影響を与えること
| style="padding:.5em" | {{仮リンク|パラ変異|en|paramutation}} || 特定の[[ヘテロ接合型]][[対立遺伝子]]の組が子孫の表現型に影響を与えること
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| style="padding:.5em" | {{仮リンク|トランスベクション効果|en|transvection (genetics)}}<ref group="解説">{{Citation | 和書 |author=[http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/index.html ライフサイエンス辞書] |title=トランスベクション効果 | url=http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/cgi-bin/lsdproj/ejlookup04.pl?opt=c&query=transvection |quote=相同染色体がペアリングした際に片側のエンハンサーが反対側の対立遺伝子の転写を活性化すること}} </ref> ||
| style="padding:.5em" | {{仮リンク|トランスベクション効果|en|transvection (genetics)}}<ref group="解説">{{Citation | 和書 | author=[http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/index.html ライフサイエンス辞書] |title=トランスベクション効果 | url=http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/cgi-bin/lsdproj/ejlookup04.pl?opt=c&query=transvection |quote=相同染色体がペアリングした際に片側のエンハンサーが反対側の対立遺伝子の転写を活性化すること}} </ref> ||
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| style="padding:.5em" | [[遺伝子サイレンシング]] ||
| style="padding:.5em" | [[遺伝子サイレンシング]] ||
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* 「遺伝物質からはじまり最終的な生物を形づくるすべての制御された過程」(ウォディントン, 1942年)<ref name=waddington/>
* 「遺伝物質からはじまり最終的な生物を形づくるすべての制御された過程」(ウォディントン, 1942年)<ref name=waddington/>
* 「同一遺伝子型の細胞が異なる表現型を細胞分裂を越えて維持していること」の説明(Nanney, 1958年){{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=3}}<ref>{{Cite journal| author = Nanney DL | title = Epigenetic Factors Affecting Mating Type Expression in Certain Ciliates | journal = Cold Spring Harb Symp Quant Biol | volume = 23 | pages = 327-35 | year = 1958 | doi = 10.1101/SQB.1958.023.01.033 | pmid = 13635566 }}</ref>
* 「同一遺伝子型の細胞が異なる表現型を細胞分裂を越えて維持していること」の説明(Nanney, 1958年){{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=3}}<ref>{{Cite journal| author=Nanney DL | title=Epigenetic Factors Affecting Mating Type Expression in Certain Ciliates | journal=Cold Spring Harb Symp Quant Biol | volume=23 | pages=327-35 | year=1958 | doi=10.1101/SQB.1958.023.01.033 | pmid=13635566}}</ref>
* 「複雑な生物の発育中における遺伝子活性の時間的·空間的制御機構の研究」(ホリデー, 1990年)<ref name="pmid2265224">{{Cite journal| author = Holliday R | title = Mechanisms for the control of gene activity during development | journal = Biol Rev Camb Philos Soc | volume = 65 | issue = 4 | pages = 431–71 | year = 1990 | pmid = 2265224 }}</ref>
* 「複雑な生物の発育中における遺伝子活性の時間的·空間的制御機構の研究」(ホリデー, 1990年)<ref name="pmid2265224">{{Cite journal| author=Holliday R | title=Mechanisms for the control of gene activity during development | journal=Biol Rev Camb Philos Soc | volume=65 | issue=4 | pages=431–71 | year=1990 | pmid=2265224}}</ref>
* 「'''DNA配列の変化では説明できない[[体細胞分裂]]および/または[[減数分裂]]に伴う遺伝子機能における遺伝的な変化の研究'''」(リッグス, 1996年)<ref name="isbn0-87969-490-4"/>{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=19}}
* 「'''DNA配列の変化では説明できない[[体細胞分裂]]および/または[[減数分裂]]に伴う遺伝子機能における遺伝的な変化の研究'''」(リッグス, 1996年)<ref name="isbn0-87969-490-4"/>{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=19}}
* 「変化した活性状態を記録・信号伝達または継続させるような染色体領域の構造適応」(バード, 2007年)<ref name="pmid17522671">{{Cite journal| author = Bird A | title = Perceptions of epigenetics | journal = [[ネイチャー|Nature]] | volume = 447 | issue = 7143 | pages = 396–8 | year = 2007 | pmid = 17522671 | doi = 10.1038/nature05913 }}</ref>
* 「変化した活性状態を記録・信号伝達または継続させるような染色体領域の構造適応」(バード, 2007年)<ref name="pmid17522671">{{Cite journal| author=Bird A | title=Perceptions of epigenetics | journal=Nature | volume=447 | issue=7143 | pages=396–8 | year=2007 | pmid=17522671 | doi=10.1038/nature05913}}</ref>
* 「エピジェネテックな形質とは、DNA塩基配列の変更を伴わない染色体の変化に起因する安定した遺伝性の表現型を示すもの」(Bergerら, 2009年)<ref name="pmid19339683">{{cite journal | title=An operational definition of epigenetics | author=Berger SL ''et al.''| year=2009 | journal=Genes Dev | volume=23 | issue=7 | pages=781-3 | url=http://genesdev.cshlp.org/content/23/7/781.full | pmid=19339683 | doi=10.1101/gad.1787609}}</ref>{{refnest|group=解説|2008年12月に[[コールド・スプリング・ハーバー研究所]]主催で開催された「染色体に基礎を置いたエピジェネティクス定義」に関する会議の取りまとめ。減数分裂・体細胞分裂を経由しての表現型の継承性を含めた定義<ref name="pmid19339683"/>。}}
* 「エピジェネテックな形質とは、DNA塩基配列の変更を伴わない染色体の変化に起因する安定した遺伝性の表現型を示すもの」(Bergerら, 2009年)<ref name="pmid19339683">{{Cite journal | title=An operational definition of epigenetics | author=Berger SL ''et al.''| year=2009 | journal=Genes Dev | volume=23 | issue=7 | pages=781-3 | url=http://genesdev.cshlp.org/content/23/7/781.full | pmid=19339683 | doi=10.1101/gad.1787609}}</ref>{{refnest|group=解説|2008年12月に[[コールド・スプリング・ハーバー研究所]]主催で開催された「染色体に基礎を置いたエピジェネティクス定義」に関する会議の取りまとめ。減数分裂・体細胞分裂を経由しての表現型の継承性を含めた定義<ref name="pmid19339683"/>。}}


ホリデー(1990年)の定義によれば、エピジェネティクスという用語は、DNA配列以外の生物の発育に影響を与えるものを記述するために使用できることになる。必ずしも遺伝(細胞分裂前の状態を分裂後にも継承)するわけではないヒストン修飾を定義に含め、「遺伝性」という条件を回避したバード(2007年)のような定義も存在する。バードによる定義は、複数細胞世代にわたる安定した変化だけではなく[[DNA修復]]または[[細胞周期]]相に関連した一時的変更をも含めるものであるが、他方では膜構造および[[プリオン]]などに関するものを、それらが染色体機能に影響しない限り排除している。そのような再定義は普遍的には受け入れられていないため、エピジェネティクスの定義は依然として論争の対象となっている<ref name="nature2008"/>。
ホリデー(1990年)の定義によれば、エピジェネティクスという用語は、DNA配列以外の生物の発育に影響を与えるものを記述するために使用できることになる。必ずしも遺伝(細胞分裂前の状態を分裂後にも継承)するわけではないヒストン修飾を定義に含め、「遺伝性」という条件を回避したバード(2007年)のような定義も存在する。バードによる定義は、複数細胞世代にわたる安定した変化だけではなく[[DNA修復]]または[[細胞周期]]相に関連した一時的変更をも含めるものであるが、他方では膜構造および[[プリオン]]などに関するものを、それらが染色体機能に影響しない限り排除している。そのような再定義は普遍的には受け入れられていないため、エピジェネティクスの定義は依然として論争の対象となっている<ref name="nature2008"/>。
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エピジェネティックな変化、特にDNAメチル化とクロマチンリモデリングを通しての細胞状態の継承は、多細胞真核生物の[[胚発生|発生]]において非常に重要である。いくつかの例外を除いてゲノムのDNA塩基配列自体は変化しないが、細胞は異なる種類へと[[細胞分化|分化]]し、異なる機能を実行し、環境あるいは細胞間のシグナルに対して異なる反応をする。個体が発生するとき、[[モルフォゲン|形態形成因子]]は、エピジェネティックな方法で[[細胞記憶|細胞に「記憶」]]を与えながら、遺伝子を活性化あるいは不活性化する<ref name="pmid17522676"/>。
エピジェネティックな変化、特にDNAメチル化とクロマチンリモデリングを通しての細胞状態の継承は、多細胞真核生物の[[胚発生|発生]]において非常に重要である。いくつかの例外を除いてゲノムのDNA塩基配列自体は変化しないが、細胞は異なる種類へと[[細胞分化|分化]]し、異なる機能を実行し、環境あるいは細胞間のシグナルに対して異なる反応をする。個体が発生するとき、[[モルフォゲン|形態形成因子]]は、エピジェネティックな方法で[[細胞記憶|細胞に「記憶」]]を与えながら、遺伝子を活性化あるいは不活性化する<ref name="pmid17522676"/>。


[[プラナリア]]や[[ヒトデ]]類のように断片から個体を再生できる動物もいる一方で、[[哺乳類]]のように分化後の細胞は[[分化能]]を失う動物もある。分化能の消失は、細胞の経歴を反映したエピジェネティックな変化である。植物は、動物と同じようにクロマチンリモデリングなどのエピジェネティックなメカニズムを多く利用している{{sfn|中園, 三好, 松永 「ヒストン修飾による植物の環境応答」}}{{sfn|星野, 木下「反復配列・DNAメチル化により制御される植物の生命現象」}}{{sfn|佐々木, 佐瀬, 角谷「シロイヌナズナを用いたDNAメチル化制御機構の研究」}}{{sfn|岡野, 三木, 島本「植物のRNAiとエピジェネティクス」}}。しかし、植物細胞は哺乳類などとは異なり、分化後の組織も全能性を維持している。このことから、ある種の植物細胞は、環境および細胞を取り巻く位置情報を用いて、それまでの細胞記憶を使わないように切り替えができるという仮説を提示する研究者もいる<ref name="pmid17194589">{{Cite journal| author = Costa S, Shaw P | title = 'Open minded' cells: how cells can change fate | url=http://cromatina.icb.ufmg.br/biomol/seminarios/outros/grupo_open.pdf | format=PDF | journal = Trends Cell Biol. | volume = 17 | issue = 3 | pages = 101–6 | year = 2007 | pmid = 17194589 | doi = 10.1016/j.tcb.2006.12.005 | url= http://cromatina.icb.ufmg.br/biomol/seminarios/outros/grupo_open.pdf | format = PDF}}</ref>。
[[プラナリア]]や[[ヒトデ]]類のように断片から個体を再生できる動物もいる一方で、[[哺乳類]]のように分化後の細胞は[[分化能]]を失う動物もある。分化能の消失は、細胞の経歴を反映したエピジェネティックな変化である。植物は、動物と同じようにクロマチンリモデリングなどのエピジェネティックなメカニズムを多く利用している{{sfn|中園, 三好, 松永 「ヒストン修飾による植物の環境応答」}}{{sfn|星野, 木下「反復配列・DNAメチル化により制御される植物の生命現象」}}{{sfn|佐々木, 佐瀬, 角谷「シロイヌナズナを用いたDNAメチル化制御機構の研究」}}{{sfn|岡野, 三木, 島本「植物のRNAiとエピジェネティクス」}}。しかし、植物細胞は哺乳類などとは異なり、分化後の組織も全能性を維持している。このことから、ある種の植物細胞は、環境および細胞を取り巻く位置情報を用いて、それまでの細胞記憶を使わないように切り替えができるという仮説を提示する研究者もいる<ref name="pmid17194589">{{Cite journal| author=Costa S, Shaw P | title='Open minded' cells: how cells can change fate | url=http://cromatina.icb.ufmg.br/biomol/seminarios/outros/grupo_open.pdf | format=PDF | journal=Trends Cell Biol. | volume=17 | issue=3 | pages=101–6 | year=2007 | pmid=17194589 | doi=10.1016/j.tcb.2006.12.005 | url= http://cromatina.icb.ufmg.br/biomol/seminarios/outros/grupo_open.pdf | format=PDF}}</ref>。


=== 哺乳類の発生と分化能 ===
=== 哺乳類の発生と分化能 ===
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: 哺乳類では、[[性染色体]]である[[X染色体]]の本数が雌雄で異なる(雌2本・雄1本)。雄では1本のX染色体のみで生存に必要な遺伝子発現をまかなっているが、雌では発生初期に2本のX染色体の双方から過剰に遺伝子が発現すると着床直後に死に至る{{sfn|佐々木「ゲノムインプリンティング,X染色体不活性化とDNAメチル化」}}。これを避ける[[遺伝子量補償]]として、2本以上のX染色体を持つ個体は<ref group="解説">通常はXX個体は雌である。しかし、XXYのように過剰なX染色体を持つ雄および雌も過剰なX染色体を不活性化する。特に有名なものは[[三毛猫]]の雄の例である。</ref>、1本のX染色体の活性を残して他のX染色体の遺伝子発現を抑制する{{sfn|尼川, 佐渡「マウス胚発生におけるX染色体の不活性化と再活性化」}}。このとき不活性化される染色体は条件的[[ヘテロクロマチン]]となり、分裂期でなくとも顕微鏡観察可能な形態をとる(バー小体)。X染色体の不活性化では、エピジェネティックな機構としてDNAメチル化 {{sfn|佐々木「ゲノムインプリンティング,X染色体不活性化とDNAメチル化」}}、ヒストン修飾(H3K27トリメチル化ほか)、特異的な非翻訳性RNA(''Xist'')の転写および染色体への結合{{sfn|尼川, 佐渡「マウス胚発生におけるX染色体の不活性化と再活性化」}}が同時に関与している。
: 哺乳類では、[[性染色体]]である[[X染色体]]の本数が雌雄で異なる(雌2本・雄1本)。雄では1本のX染色体のみで生存に必要な遺伝子発現をまかなっているが、雌では発生初期に2本のX染色体の双方から過剰に遺伝子が発現すると着床直後に死に至る{{sfn|佐々木「ゲノムインプリンティング,X染色体不活性化とDNAメチル化」}}。これを避ける[[遺伝子量補償]]として、2本以上のX染色体を持つ個体は<ref group="解説">通常はXX個体は雌である。しかし、XXYのように過剰なX染色体を持つ雄および雌も過剰なX染色体を不活性化する。特に有名なものは[[三毛猫]]の雄の例である。</ref>、1本のX染色体の活性を残して他のX染色体の遺伝子発現を抑制する{{sfn|尼川, 佐渡「マウス胚発生におけるX染色体の不活性化と再活性化」}}。このとき不活性化される染色体は条件的[[ヘテロクロマチン]]となり、分裂期でなくとも顕微鏡観察可能な形態をとる(バー小体)。X染色体の不活性化では、エピジェネティックな機構としてDNAメチル化 {{sfn|佐々木「ゲノムインプリンティング,X染色体不活性化とDNAメチル化」}}、ヒストン修飾(H3K27トリメチル化ほか)、特異的な非翻訳性RNA(''Xist'')の転写および染色体への結合{{sfn|尼川, 佐渡「マウス胚発生におけるX染色体の不活性化と再活性化」}}が同時に関与している。
; ゲノムインプリンティング
; ゲノムインプリンティング
: 哺乳類では、[[配偶子]]形成の過程で雄雌の性別に従った特異的なDNAメチル化がおきる。このDNAメチル化は配偶子ゲノムから受精卵に引き継がれ、受精後の個体で父性・母性の遺伝子の使い分けがなされる。雌雄それぞれのプリンティングを受ける遺伝子は、同じ染色体領域に集中かつ偏在し、クラスターを形成している{{sfn|佐々木「ゲノムインプリンティング,X染色体不活性化とDNAメチル化」}}。遺伝子がインプリンティングされる意義については解明されていないが{{sfn|石野「ゲノムインプリンティングとホ乳類の進化」}}、胚発生時に雌雄双方の遺伝子が必要になる。そのため哺乳類では自然条件下での[[単為生殖]]が不可能となっている{{sfn|石野「ゲノムインプリンティングとホ乳類の進化」}}。なお、インプリンティング状態を人為操作することによって、雌ゲノムのみから単為発生したマウスが作成されている<ref>{{cite journal | title=Birth of parthenogenetic mice that can develop to adulthood | author=Kono T ''et al.'' | year=2004 | journal=Nature | volume=428 | issue=6985 | pages=860-4 | doi=10.1038/nature02402 | pmid=15103378 }}</ref>。
: 哺乳類では、[[配偶子]]形成の過程で雄雌の性別に従った特異的なDNAメチル化がおきる。このDNAメチル化は配偶子ゲノムから受精卵に引き継がれ、受精後の個体で父性・母性の遺伝子の使い分けがなされる。雌雄それぞれのプリンティングを受ける遺伝子は、同じ染色体領域に集中かつ偏在し、クラスターを形成している{{sfn|佐々木「ゲノムインプリンティング,X染色体不活性化とDNAメチル化」}}。遺伝子がインプリンティングされる意義については解明されていないが{{sfn|石野「ゲノムインプリンティングとホ乳類の進化」}}、胚発生時に雌雄双方の遺伝子が必要になる。そのため哺乳類では自然条件下での[[単為生殖]]が不可能となっている{{sfn|石野「ゲノムインプリンティングとホ乳類の進化」}}。なお、インプリンティング状態を人為操作することによって、雌ゲノムのみから単為発生したマウスが作成されている<ref>{{Cite journal | title=Birth of parthenogenetic mice that can develop to adulthood | author=Kono T ''et al.'' | year=2004 | journal=Nature | volume=428 | issue=6985 | pages=860-4 | doi=10.1038/nature02402 | pmid=15103378}}</ref>。


[[ファイル:Dolly face closeup.jpg|thumb|right|200px|[[ドリー (羊)|クローン羊ドリー]]]]
[[ファイル:Dolly face closeup.jpg|thumb|right|200px|[[ドリー (羊)|クローン羊ドリー]]]]
; 核移植クローンとリプログラミング
; 核移植クローンとリプログラミング
: [[両生類]]においては、1950年代には胚細胞の核を、1960年代には体細胞の核を除核卵に移植して発生させ[[クローン]]個体を得ることができていた{{sfn|河野, 佐々木, 中辻「序論」}}{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=485,488}}。これらでは移植により細胞核がリプログラミングされることを示している{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=494-5}}。一方、哺乳類でも核移植クローンの作成が試みられたが、1980年代に行われた生殖細胞の核の移植では発生が停止することが示され、それがゲノムインプリンティング機構の発見につながった{{sfn|河野, 佐々木, 中辻「序論」}}。1997年には体細胞核移植による[[ドリー (羊)|クローン羊ドリー]]の誕生が報告され、その後は他の哺乳類でも体細胞クローン個体作成が相次いだ。しかしながら、体細胞クローンは個体作成効率も数パーセント以下と低く、誕生したクローン個体に異常が観察されることが問題視されている{{sfn|井上ら「体細胞クローンマウスの異常」}}{{sfn|角田, 加藤「クローンウシにおける核の初期化と頻発異常」}}{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=488}}。また、[[胚性幹細胞]](ES細胞)由来のESクローンにおいても表現型異常が観察されている{{sfn|下澤, 小野, 河野「クローンマウスの異常は子孫に伝達しない」}}。このようなクローン個体の表現型異常の多くは、有性生殖によって後代に伝えられない、つまり生殖細胞でのリプログラミングが起きることから、主にエピジェネティックな要因によるものと考えられている{{sfn|下澤, 小野, 河野「クローンマウスの異常は子孫に伝達しない」}}{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=489-490 }}。体細胞クローンではインプリンティング部分以外のリプログラミング不全が個体異常を起こしており、ESクローンの場合はゲノムインプリンティングの不具合により個体の異常が起きるものと考えられている{{sfn|金児-石野, 幸田, 石野「クローンマウスにおけるエピジェネティクス」}}。
: [[両生類]]においては、1950年代には胚細胞の核を、1960年代には体細胞の核を除核卵に移植して発生させ[[クローン]]個体を得ることができていた{{sfn|河野, 佐々木, 中辻「序論」}}{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=485,488}}。これらでは移植により細胞核がリプログラされることを示している{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=494-5}}。一方、哺乳類でも核移植クローンの作成が試みられたが、1980年代に行われた生殖細胞の核の移植では発生が停止することが示され、それがゲノムインプリンティング機構の発見につながった{{sfn|河野, 佐々木, 中辻「序論」}}。1997年には体細胞核移植による[[ドリー (羊)|クローン羊ドリー]]の誕生が報告され、その後は他の哺乳類でも体細胞クローン個体作成が相次いだ。しかしながら、体細胞クローンは個体作成効率も数パーセント以下と低く、誕生したクローン個体に異常が観察されることが問題視されている{{sfn|井上ら「体細胞クローンマウスの異常」}}{{sfn|角田, 加藤「クローンウシにおける核の初期化と頻発異常」}}{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=488}}。また、[[胚性幹細胞]](ES細胞)由来のESクローンにおいても表現型異常が観察されている{{sfn|下澤, 小野, 河野「クローンマウスの異常は子孫に伝達しない」}}。このようなクローン個体の表現型異常の多くは、有性生殖によって後代に伝えられない、つまり生殖細胞でのリプログラミングが起きることから、主にエピジェネティックな要因によるものと考えられている{{sfn|下澤, 小野, 河野「クローンマウスの異常は子孫に伝達しない」}}{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=489-490}}。体細胞クローンではインプリンティング部分以外のリプログラミング不全が個体異常を起こしており、ESクローンの場合はゲノムインプリンティングの不具合により個体の異常が起きるものと考えられている{{sfn|金児-石野, 幸田, 石野「クローンマウスにおけるエピジェネティクス」}}。
; 人工多能性幹細胞でのリプログラミング
; 人工多能性幹細胞でのリプログラミング
: [[再生医学|再生医療]]において[[人工多能性幹細胞]](iPS細胞)・胚性幹細胞などを利用した[[器官]]回復が研究されている。体細胞由来のiPS細胞は、エピジェネティクス的に見ると、数種類の遺伝子の導入による人為的リプログラミングによって[[幹細胞#分化万能性(Pluripotency)|分化万能性]]を復元させた細胞である{{sfn|中村, 山中「人工多能性幹細胞の樹立と展望」|p=537 (山中らはリプログラミングを日本語で「初期化」と表現)}}。
: [[再生医学|再生医療]]において[[人工多能性幹細胞]](iPS細胞)・胚性幹細胞などを利用した[[器官]]回復が研究されている。体細胞由来のiPS細胞は、エピジェネティクス的に見ると、数種類の遺伝子の導入による人為的リプログラミングによって[[幹細胞#分化万能性(Pluripotency)|分化万能性]]を復元させた細胞である{{sfn|中村, 山中「人工多能性幹細胞の樹立と展望」|p=537 (山中らはリプログラミングを日本語で「初期化」と表現)}}。


== 進化・適応とのかかわり ==
== 進化・適応とのかかわり ==
=== 可塑性と適応 ===
=== 表現型可塑性と適応 ===
エピゲノム的制御は、[[表現型]]の進化および[[表現型の可塑性|可塑性]]など[[進化生物学]]の中心的になる過程に関連している<ref name="pmid20332811">{{cite journal | title=Epigenomic plasticity within populations: its evolutionary significance and potential | author=Johnson LJ, Tricker PJ | year=2010 | journal=Heredity | volume=105 | issue= | pages=113–21 | url=http://www.nature.com/hdy/journal/v105/n1/full/hdy201025a.html | pmid=20332811 | doi=10.1038/hdy.2010.25 }}</ref>。エピジェネティックな機構は進化過程でもたらされてきたものである<ref name="isbn0-19-854968-7">{{Cite book| author = Hoekstra RF | title = Evolution: an introduction | publisher = Oxford University Press | location = Oxford [Oxfordshire] | year = 2000 | page = 285 | isbn = 0-19-854968-7 }}</ref>。現在の多細胞生物における発生過程でのエピジェネティックな緩衝作用は、生物集団内に表現型の高い可塑性を維持する機能も持っている<ref name="pmid20332811"/>。生物集団が[[遺伝的多様性]]と同時に[[表現型の可塑性]]を保持していることが適応性に影響していることが指摘されている<ref name="pmid20332811"/>。
エピゲノム的制御は、[[表現型]]の進化および可塑性など[[進化生物学]]の中心的になる過程に関連している<ref name="pmid20332811">{{Cite journal | title=Epigenomic plasticity within populations: its evolutionary significance and potential | author=Johnson LJ, Tricker PJ | year=2010 | journal=Heredity | volume=105 | issue= | pages=113–21 | url=http://www.nature.com/hdy/journal/v105/n1/full/hdy201025a.html | pmid=20332811 | doi=10.1038/hdy.2010.25}}</ref>。エピジェネティックな機構は進化過程でもたらされてきたものである<ref name="isbn0-19-854968-7">{{Cite book| author=Hoekstra RF | title=Evolution: an introduction | publisher=Oxford University Press | location=Oxford [Oxfordshire] | year=2000 | page=285 | isbn=0-19-854968-7 }}</ref>。現在の多細胞生物における発生過程でのエピジェネティックな緩衝作用は、生物集団内に表現型の高い可塑性を維持する機能も持っている<ref name="pmid20332811"/>。生物集団が[[遺伝的多様性]]と同時に[[表現型の可塑性]]を保持していることが[[適応#生物学における適応|適応性]]に影響していることが指摘されている<ref name="pmid20332811"/>。


一般的には多細胞生物におけるエピジェネティック修飾は、有性生殖の際に初期化(リプログラム)され、次世代での発生・組織分化や環境に対応して発動する遺伝子制御機構である。しかしながら、たとえば[[トウモロコシ]]における[[パラ変異]]<ref name="pmid17320501"/>や[[マウス]]の{{仮リンク|アグーチ遺伝子|en|agouti gene}}<ref name="pmid12163699">{{Cite journal| author = Cooney CA, Dave AA, Wolff GL | title = Maternal methyl supplements in mice affect epigenetic variation and DNA methylation of offspring | journal = J. Nutr. | volume = 132 | issue = 8 Suppl | pages = 2393S–2400S | year = 2002 | pmid = 12163699 }}</ref><ref name="waterland">{{Cite journal| author = Waterland RA, Jirtle RL | title = Transposable elements: targets for early nutritional effects on epigenetic gene regulation | journal = Mol. Cell. Biol. | volume = 23 | issue = 15 | pages = 5293–300 | year = 2003 | pmid = 12861015 | pmc = 165709 | doi = 10.1128/MCB.23.15.5293-5300.2003 }}</ref>のように世代間で表現型が引き継がれるエピジェネティック遺伝の観察例も存在する。このような多世代間のエピジェネティック表現型継承は数世代を経過すると観察されなくなる場合もあるが<ref name="pmid17320501"/>、[[適応#生物学における適応|適応的]]であり[[適応度]]向上に働いている<ref>{{cite journal | title=Transgenerational plasticity is adaptive in the wild | author=Galloway LF, Etterson JR | year=2007 | journal=Science | volume=318 | issue=5853 | pages=1134-6 | pmid=18006745 | doi=10.1126/science.1148766}}</ref>。
一般的には多細胞生物におけるエピジェネティック修飾は、有性生殖の際に初期化(リプログラム)され、次世代での発生・組織分化や環境に対応して発動する遺伝子制御機構である。しかしながら、[[トウモロコシ]]における[[パラ変異]]<ref name="pmid17320501"/>や[[マウス]]の{{仮リンク|アグーチ遺伝子|en|agouti gene}}<ref name="pmid12163699">{{Cite journal| author=Cooney CA, Dave AA, Wolff GL | title=Maternal methyl supplements in mice affect epigenetic variation and DNA methylation of offspring | journal=J. Nutr. | volume=132 | issue=8 Suppl | pages=2393S–2400S | year=2002 | pmid=12163699}}</ref><ref name="waterland">{{Cite journal| author=Waterland RA, Jirtle RL | title=Transposable elements: targets for early nutritional effects on epigenetic gene regulation | journal=Mol Cell Biol | volume=23 | issue=15 | pages=5293–300 | year=2003 | pmid=12861015 | pmc=165709 | doi=10.1128/MCB.23.15.5293-5300.2003}}</ref>のように世代間で表現型が引き継がれるエピジェネティック遺伝の観察例も存在する。このような多世代間の表現型継承は数世代を経過すると観察されなくなる場合もあるが<ref name="pmid17320501"/>、適応的であり[[適応度]]向上に働いている<ref>{{Cite journal | title=Transgenerational plasticity is adaptive in the wild | author=Galloway LF, Etterson JR | year=2007 | journal=[[サイエンス|Science]] | volume=318 | issue=5853 | pages=1134-6 | pmid=18006745 | doi=10.1126/science.1148766}}</ref>。


=== ラマルキズムとの関連 ===
=== ラマルキズムとの関連 ===
エピジェネティクスはラマルキズム([[用不用説]]・[[ネオ・ラマルキズム]])の再来とされる場合もあるが、それには注意が必要である。留意するべきは、エピジェネティックな表現型変化はDNA塩基の[[突然変異]]とは関係ないが、エピジェネティクス機構そのものは遺伝子の制御の下にあると言うことである。さらに根源的なこととして、[[自然選択説|自然淘汰]]による進化は、表現型変異がDNA変異に支配されているか支配されていないかということと無関係であるということである<ref name="pmid20332811"/>。以上の2点を言い換えると、エピジェネティックな表現型に対して自然淘汰がおきる可能性はあるが、その結果として残るのはその表現型をもたらした機構を支配する[[遺伝子型]]であると言うことである。エピジェネティクスの解明は、[[進化発生生物学]]にとって重要で想定外の貢献につながるかもしれない。そしてそれは、[[ネオダーウィニズム|現代の進化論]]の進展になることはあっても、根本からの転覆とはなりえない<ref name="pmid20332811"/>。だたし生物集団でのエピジェニックな効果が、進化生物学において単なる微調整あるいは大幅な見直しのどちらをもたらすのかという検討課題は残されている<ref name="pmid20332811"/>。
エピジェネティクスはラマルキズム([[用不用説]]・[[ネオ・ラマルキズム]])の再来とされる場合もあるが、注意が必要である。留意するべきは、エピジェネティックな表現型変化はDNA塩基の[[突然変異]]とは関係ないが、エピジェネティクス機構そのものは遺伝子の制御の下にあると言うことである。さらに根源的なこととして、[[自然選択説|自然淘汰]]による進化は、表現型変異がDNA変異に支配されているか支配されていないかということと無関係であるということである<ref name="pmid20332811"/>。以上の2点を言い換えると、エピジェネティックな表現型に対して自然淘汰がおきる可能性はあるが、その結果として残るのはその表現型をもたらした機構を支配する[[遺伝子型]]であると言うことである。エピジェネティクスの解明は、[[進化発生生物学]]にとって重要で想定外の貢献につながるかもしれない。そしてそれは、[[ネオダーウィニズム|現代の進化論]]の進展になることはあっても、根本からの転覆とはなりえない<ref name="pmid20332811"/>。だたし生物集団でのエピジェニックな効果が、進化生物学において単なる微調整あるいは大幅な見直しのどちらをもたらすのかという検討課題は残されている<ref name="pmid20332811"/>。
<!-- === 変異の抑制と蓄積 === 制限酵素・転移因子の抑制・位置効果・植物のゲノム重複・哺乳類の進化 -->


=== 突然変異の抑制と蓄積 ===
== 医学とのかかわり ==
多くの生物でエピジェネティックな機構はゲノムDNA塩基配列の保守機能を果たす<ref name="Johnson2007">{{Cite journal | title=The genome strikes back: the evolutionary importance of defence against mobile elements | author=Johnson LJ | year=2007 | journal=Evol Biol | volume=34 | issue= | pages=121-9 | url=http://link.springer.com/article/10.1007/s11692-007-9012-5/fulltext.html | doi=10.1007/s11692-007-9012-5 }}</ref>。たとえば、[[真正細菌]]における自己DNAメチル化と[[制限酵素]]による防御は良く知られた例であり、DNAメチル化を利用した[[DNAミスマッチ修復]]も例に挙げられる<ref name="Casadesus">{{Cite journal| author=Casadesús J, Low D | title=Epigenetic gene regulation in the bacterial world | journal=Microbiol. Mol. Biol. Rev. | volume=70 | issue=3 | pages=830–56 | year=2006 | pmid=16959970 | pmc=1594586 | doi=10.1128/MMBR.00016-06}}</ref>。[[真核生物]]においては、[[アカパンカビ]]・[[C. elegans|線虫]]・[[キイロショウジョウバエ]]・[[シロイヌナズナ]]など各モデル生物において、ゲノムDNAを防衛するエピジェミックな機構の研究がなされている<ref name="Johnson2007"/>。これらの機能はゲノムの有害な突然変異を抑えるという点では有用であるが、反面、ゲノムの分子進化の元となる突然変異の発生を抑える働きがあるため、結果として進化の速度に影響を与える。生物集団レベルにおける表現型可塑性もまた、遺伝的変異を伴わずに適応性向上をもたらすことから、進化の可能性に負の影響を与えるものと推定されている<ref name="pmid20332811"/>。

他方では、哺乳類[[真獣下綱|真獣類]]に特異的なDNAメチル化酵素(''Dnmt3L'')の獲得{{sfn|金児-石野, 石野「ゲノムインプリンティングと進化」}}や被子植物の[[倍数性#異質倍数体|異質倍数体]]での遺伝子サイレンシング<ref name="pmid20332811"/>など一部のエピジェネティック機構は、潜在的な遺伝子変異を蓄積する可能性があるため進化を促進する可能性を持つことも指摘されている。

== 医学とのかかわり ==
{{Template:Medical disclaimer}}
{{Template:Medical disclaimer}}
エピジェネティクス的な過程は、DNA・RNA・タンパク質の各段階において作用するので、医学的応用において多くの潜在的な可能性を持っている<ref name="pmid21447282">{{Cite journal| author = Chahwan R, Wontakal SN, Roa S | title = The multidimensional nature of epigenetic information and its role in disease | journal = Discov Med | volume = 11 | issue = 58 | pages = 233–43 | year = 2011 | pmid = 21447282 | url =http://www.discoverymedicine.com/Richard-Chahwan/2011/03/17/the-multidimensional-nature-of-epigenetic-information-and-its-role-in-disease/ }}</ref>。1989年に[[ゲノムインプリンティング]]が[[染色体異常#染色体部分異常の種類|片親性ダイソミー]]によって先天性[[遺伝子疾患]](いわゆる遺伝病)に影響している例が報告され、エピジェネティックな機構と疾患とが初めて直接関連付けられた{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=508-9 }}。その後、クロマチンの遺伝子制御異常を通して影響する[[レット症候群]]などの遺伝子疾患についても研究が進められている{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=510-22 }}。方で後天的な要因も影響するがん{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」}}{{sfn|今井ら「遺伝子メチル化と発癌」}}、アレルギー疾患{{sfn|山下「アレルギー疾患発症を制御するTh2細胞分化のエピジェネティクス」}}{{sfn|斎藤「アレルギー炎症疾患病態に関するエピジェネティックス」}}、肥満{{sfn||亀井ら「エピジェネティクスと生活習慣病」}}<ref>{{Cite journal|author=Jia G ''et al.'' |title=N6-Methyladenosine in nuclear RNA is a major substrate of the obesity-associated FTO|journal=[[ネイチャー ケミカルバイオロジー|Nature Chemical Biology]]|date=16 October 2011|volume=7|issue=12|pages=885–887|doi=10.1038/nchembio.687|pmid=22002720|pmc=3218240}}</ref>などとのかかわりについても研究がなされている。それらの中には一卵性双生児を対象とした研究から得られた知見も数多い<ref name="pmid19151718">{{Cite journal| author = Kaminsky ZA ''et al.'' | title = DNA methylation profiles in monozygotic and dizygotic twins | journal = Nat. Genet. | volume = 41 | issue = 2 | pages = 240–5 | year = 2009 | pmid = 19151718 | doi = 10.1038/ng.286 }}</ref><ref name="pmid16009939">{{Cite journal| author = Fraga MF ''et al.'' | title = Epigenetic differences arise during the lifetime of monozygotic twins | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. | volume = 102 | issue = 30 | pages = 10604–9 | year = 2005 | pmid = 16009939 | pmc = 1174919 | doi = 10.1073/pnas.0500398102 }}</ref><ref>{{cite journal | author=Kato T ''et al.'' | year=2005 | title=Genetic or epigenetic difference causing discordance between monozygotic twins as a clue to molecular basis of mental disorders | url=http://www.nature.com/mp/journal/v10/n7/full/4001662a.html | journal=Mol Psychiatry | volume=10 | issue=7 | pages=622-30 | pmid=15838537 | doi=10.1038/sj.mp.4001662 }}</ref>。
エピジェネティクス的な過程は、DNA・RNA・タンパク質の各段階において作用するので、医学的応用において多くの潜在的な可能性を持っている<ref name="pmid21447282">{{Cite journal| author=Chahwan R, Wontakal SN, Roa S | title=The multidimensional nature of epigenetic information and its role in disease | journal=Discov Med | volume=11 | issue=58 | pages=233–43 | year=2011 | pmid=21447282 | url =http://www.discoverymedicine.com/Richard-Chahwan/2011/03/17/the-multidimensional-nature-of-epigenetic-information-and-its-role-in-disease/}}</ref>。1989年に[[ゲノムインプリンティング]]が[[染色体異常#染色体部分異常の種類|片親性ダイソミー]]によって先天性[[遺伝子疾患]](いわゆる遺伝病)に影響している例が報告され、エピジェネティックな機構と疾患とが初めて直接関連付けられた{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=508-9}}。その後、クロマチンの遺伝子制御異常を通して影響する[[レット症候群]]などの遺伝子疾患についても研究が進められている{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=510-22}}。方で後天的な要因も影響するがん{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」}}{{sfn|今井ら「遺伝子メチル化と発癌」}}、アレルギー疾患{{sfn|山下「アレルギー疾患発症を制御するTh2細胞分化のエピジェネティクス」}}{{sfn|斎藤「アレルギー炎症疾患病態に関するエピジェネティックス」}}、肥満{{sfn||亀井ら「エピジェネティクスと生活習慣病」}}<ref>{{Cite journal|author=Jia G ''et al.'' |title=N6-Methyladenosine in nuclear RNA is a major substrate of the obesity-associated FTO|journal=[[ネイチャー ケミカルバイオロジー|Nature Chemical Biology]]|date=16 October 2011|volume=7|issue=12|pages=885–887|doi=10.1038/nchembio.687|pmid=22002720|pmc=3218240}}</ref>などとのかかわりについても研究がなされている。それらの中には[[一卵性双生児]]を対象とした研究から得られた知見も数多い<ref name="pmid19151718">{{Cite journal| author=Kaminsky ZA ''et al.'' | title=DNA methylation profiles in monozygotic and dizygotic twins | journal=Nat. Genet. | volume=41 | issue=2 | pages=240–5 | year=2009 | pmid=19151718 | doi=10.1038/ng.286}}</ref><ref name="pmid16009939">{{Cite journal| author=Fraga MF ''et al.'' | title=Epigenetic differences arise during the lifetime of monozygotic twins | journal=[[米国科学アカデミー紀要|Proc Natl Acad Sci USA]] | volume=102 | issue=30 | pages=10604–9 | year=2005 | pmid=16009939 | pmc=1174919 | doi=10.1073/pnas.0500398102 }}</ref><ref>{{Cite journal | author=Kato T ''et al.'' | year=2005 | title=Genetic or epigenetic difference causing discordance between monozygotic twins as a clue to molecular basis of mental disorders | url=http://www.nature.com/mp/journal/v10/n7/full/4001662a.html | journal=Mol Psychiatry | volume=10 | issue=7 | pages=622-30 | pmid=15838537 | doi=10.1038/sj.mp.4001662}}</ref>。


=== インプリンティング関連疾患 ===
=== インプリンティング関連疾患 ===
いくつかのヒト疾患はゲノムインプリンティングと関連しており<ref name="pmid17121465">{{Cite journal| author = Wood AJ, Oakey RJ | title = Genomic imprinting in mammals: emerging themes and established theories | journal = PLoS Genet. | volume = 2 | issue = 11 | pages = e147 | year = 2006 | pmid = 17121465 | pmc = 1657038 | doi = 10.1371/journal.pgen.0020147 }}</ref>、最もよく知られている例は[[アンジェルマン症候群]]と[[プラダー・ウィリー症候群]]である。両者は、同じ遺伝的変異(15番染色体長腕(15q)の部分[[欠失]]あるいは片親性ダイソミー)よって引き起こされるものであり、変異が両親のどちらから由来したかに依存して発症する疾患である<ref>{{OMIM|105830}}</ref><ref name="pmid2564739">{{Cite journal| author = Knoll JH ''et al.'' | title = Angelman and Prader-Willi syndromes share a common chromosome 15 deletion but differ in parental origin of the deletion | journal = Am. J. Med. Genet. | volume = 32 | issue = 2 | pages = 285–90 | year = 1989 | pmid = 2564739 | doi = 10.1002/ajmg.1320320235 }}</ref>。これらは15q染色体領域にインプリンティングが存在し、両症候群に関与する遺伝子構成が{{仮リンク|ヘミ接合型|en|hemizygous}}<ref group="解説">{{Citation | 和書 |author=ライフサイエンス辞書 |title=ヘミ接合性・半接合性 | url=http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/cgi-bin/lsdproj/ejlookup04.pl?opt=c&query=hemizygous |quote=二倍体中に対をなさない染色体がある状態}} </ref>であるので、通常とは異なって父性あるいは母性の1種類の[[対立遺伝子]]で支配される。他にも同様にゲノムインプリンティングの異常と関連が指摘されている{{仮リンク|ベックウィズ・ヴィーデマン症候群|en|Beckwith–Wiedemann syndrome}}(11番染色体領域, 11p15.5)やシルバー・ラッセル症候群などの疾患があ{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=512-513}}。
いくつかのヒト疾患はゲノムインプリンティングと関連しており<ref name="pmid17121465">{{Cite journal| author=Wood AJ, Oakey RJ | title=Genomic imprinting in mammals: emerging themes and established theories | journal=PLoS Genet. | volume=2 | issue=11 | pages=e147 | year=2006 | pmid=17121465 | pmc=1657038 | doi=10.1371/journal.pgen.0020147}}</ref>、最もよく知られている例は[[アンジェルマン症候群]]と[[プラダー・ウィリー症候群]]である。両者は、同じ遺伝的変異(15番染色体長腕(15q)の部分[[欠失]]あるいは片親性ダイソミー)よって引き起こされるものであり、変異が両親のどちらから由来したかに依存して発症する疾患である<ref>{{OMIM|105830}}</ref><ref name="pmid2564739">{{Cite journal| author=Knoll JH ''et al.'' | title=Angelman and Prader-Willi syndromes share a common chromosome 15 deletion but differ in parental origin of the deletion | journal=Am. J. Med. Genet. | volume=32 | issue=2 | pages=285–90 | year=1989 | pmid=2564739 | doi=10.1002/ajmg.1320320235 }}</ref>。これらは15q染色体領域にインプリンティングが存在し、両症候群に関与する遺伝子構成が{{仮リンク|ヘミ接合型|en|hemizygous}}<ref group="解説">{{Citation | 和書 |author=ライフサイエンス辞書 |title=ヘミ接合性・半接合性 | url=http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/cgi-bin/lsdproj/ejlookup04.pl?opt=c&query=hemizygous |quote=二倍体中に対をなさない染色体がある状態}} </ref>であるので、通常とは異なって父性あるいは母性の1種類の[[対立遺伝子]]で支配される。他にもゲノムインプリンティングの異常と関連が指摘されている{{仮リンク|ベックウィズ・ヴィーデマン症候群|en|Beckwith–Wiedemann syndrome}}(11番染色体領域, 11p15.5)やシルバー・ラッセル症候群などの疾患があ{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=512-513}}、3番・19番染色体を除く常染色体での片親性ダイソミーが知られている{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=508-9}}。


=== がんと催奇性物質 ===
=== がんと催奇性物質 ===
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がん発生を増加させる多くの物質が、エピジェネティックな[[発がん性|発がん性物質]]として考えられているが、それらは[[変異原]]としての活性を持たない。例としては、[[ジエチルスチルベストロール]]、[[亜ヒ酸|オルト亜ヒ酸イオン]]、[[ヘキサクロロベンゼン]]、[[ニッケル]]化合物が含まれる。
がん発生を増加させる多くの物質が、エピジェネティックな[[発がん性|発がん性物質]]として考えられているが、それらは[[変異原]]としての活性を持たない。例としては、[[ジエチルスチルベストロール]]、[[亜ヒ酸|オルト亜ヒ酸イオン]]、[[ヘキサクロロベンゼン]]、[[ニッケル]]化合物が含まれる。


多くの催奇形物質はエピジェネティックなメカニズムにより胎児への特異的効果を発揮する<ref name="bishop97">{{Cite journal| author = Bishop JB, Witt KL, Sloane RA | title = Genetic toxicities of human teratogens | journal = Mutat. Res. | volume = 396 | issue = 1–2 | pages = 9–43 | year = 1997 | pmid = 9434858 | doi = 10.1016/S0027-5107(97)00173-5 }}</ref><ref name="gurvich04">{{Cite journal| author = Gurvich N ''et al.'' | title = Association of valproate-induced teratogenesis with histone deacetylase inhibition in vivo | journal = FASEB J | volume = 19 | issue = 9 | pages = 1166–8 | year = 2005 | pmid = 15901671 | doi = 10.1096/fj.04-3425fje }}</ref>。エピジェネティックな効果は、影響を受けた子どもの生涯を通して催奇形性物質の効果を維持するかもしれない。しかし、母親でなく父親が暴露した場合の影響、影響を受けた胎児の次の胎児への直接の影響、およびエピジェネティックな効果が観察された個体の子孫への影響などは、一般的には理論的な根拠および実例の欠如によって否定されている<ref name="smithells98">{{Cite journal| author = Smithells D | title = Does thalidomide cause second generation birth defects? | journal = Drug Saf | volume = 19 | issue = 5 | pages = 339–41 | year = 1998 | pmid = 9825947 | doi = 10.2165/00002018-199819050-00001 }}</ref>。
多くの催奇形物質はエピジェネティックなメカニズムにより胎児への特異的効果を発揮する<ref name="bishop97">{{Cite journal| author=Bishop JB, Witt KL, Sloane RA | title=Genetic toxicities of human teratogens | journal=Mutat. Res. | volume=396 | issue=1–2 | pages=9–43 | year=1997 | pmid=9434858 | doi=10.1016/S0027-5107(97)00173-5}}</ref><ref name="gurvich04">{{Cite journal| author=Gurvich N ''et al.'' | title=Association of valproate-induced teratogenesis with histone deacetylase inhibition in vivo | journal=FASEB J | volume=19 | issue=9 | pages=1166–8 | year=2005 | pmid=15901671 | doi=10.1096/fj.04-3425fje}}</ref>。エピジェネティックな効果は、影響を受けた子どもの生涯を通して催奇形性物質の効果を維持するかもしれない。しかし、母親でなく父親が暴露した場合の影響、影響を受けた胎児の次の胎児への直接の影響、およびエピジェネティックな効果が観察された個体の子孫への影響などは、一般的には理論的な根拠および実例の欠如によって否定されている<ref name="smithells98">{{Cite journal| author=Smithells D | title=Does thalidomide cause second generation birth defects? | journal=Drug Saf | volume=19 | issue=5 | pages=339–41 | year=1998 | pmid=9825947 | doi=10.2165/00002018-199819050-00001}}</ref>。


==== がんにおけるDNAメチル化 ====
==== がんにおけるDNAメチル化 ====
[[DNAメチル化]]は遺伝子転写の重要な調節要因であり、ヒトの多くの悪性腫瘍では正常組織とは異なった過剰メチル化あるいは低メチル化が見つかっている。低メチル化は、ゲノムの広い範囲で観察され、ゲノム・染色体の不安定化を通じて発がんに影響しているものと考えられている{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」}}{{sfn|今井ら「遺伝子メチル化と発癌」}}。また、脱メチル化がインプリンティング遺伝子''IGF''のインプリンティング解除に働き、不活性状態から活性化されることによって大腸がんの発生に関与していることが判明している{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」}}。
[[DNAメチル化]]は遺伝子転写の重要な調節要因であり、ヒトの多くの悪性腫瘍では正常組織とは異なった過剰メチル化あるいは低メチル化が見つかっている。低メチル化は、ゲノムの広い範囲で観察され、ゲノム・染色体の不安定化を通じて発がんに影響しているものと考えられている{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」}}{{sfn|今井ら「遺伝子メチル化と発癌」}}。また、脱メチル化がインプリン遺伝子''IGF''のインプリンティング解除に働き、不活性状態から活性化されることによって大腸がんの発生に関与していることが判明している{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」}}。


低メチル化と逆の現象である過剰メチル化は、主に[[がん抑制遺伝子]][[プロモーター]]領域の[[CpGアイランド]]のメチル化を通して発がんに関与する。この過剰メチル化パターンは細胞分裂において高い精度で娘細胞に継承されるものであり、異常修飾されたプロモーター領域はがん抑制遺伝子の転写レベルでの抑制([[遺伝子サイレンシング]])をもたらす。このような遺伝子サイレンシングを受けるがん抑制遺伝子は複数あり、それぞれが各種のがんと関連している{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」|p=289 表1.参照}}{{sfn|今井ら「遺伝子メチル化と発癌」|p=363 表.参照}}
低メチル化と逆の現象である過剰メチル化は、主に[[がん抑制遺伝子]][[プロモーター]]領域の[[CpGアイランド]]のメチル化を通して発がんに関与する。この過剰メチル化パターンは細胞分裂において高い精度で娘細胞に継承されるものであり、メチル化されたプロモーター領域はがん抑制遺伝子の転写レベルでの抑制([[遺伝子サイレンシング]])をもたらす。このような遺伝子サイレンシングを受けるがん抑制遺伝子は複数あり、それぞれが各種のがんと関連している{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」|p=289 表1.参照}}{{sfn|今井ら「遺伝子メチル化と発癌」|p=363 表.参照}}


==== がん組織のヒストン ====
==== がん組織のヒストン ====
各ヒストンタンパク質にはバリアントと呼ばれる構造が異なる変異体が含まれる。それらは同一ヒストンファミリーのバリアントが入れ替わることで、クロマチン構造を変え、特異的な核内プロセスを制御する重要な役割を持つ。[[:en:Histone H2A|H2A]]ファミリーのバリアントH2A.Xは、DNAのダメージを監視し、DNA修復タンパク質のリクルートを促進して、ゲノムの保全に働いている。別のバリアントH2A.Zは、遺伝子の活性化および抑制の双方で重要な役割を持つ。高レベルのH2A.Z発現は、多くのがんで広範に検出され、細胞増殖とゲノムの不安定性とに非常に関連している<ref name= CraigJMWongNC>{{Cite book| author = Wong NC, Craig JM | title = Epigenetics: A Reference Manual | publisher = Caister Academic Press | location = Norfolk, England | year = 2011 | isbn = 1-904455-88-3 }}</ref>。
各ヒストンタンパク質にはバリアントと呼ばれる構造が異なる変異体が存在する。それらは同一ヒストンファミリーのバリアントが入れ替わることで、クロマチン構造を変え、特異的な核内プロセスを制御する重要な役割を持つ。[[:en:Histone H2A|H2A]]ファミリーのバリアントH2A.Xは、DNAのダメージを監視し、DNA修復タンパク質のリクルートを促進して、ゲノムの保全に働いている。別のバリアントH2A.Zは、遺伝子の活性化および抑制の双方で重要な役割を持つ。高レベルのH2A.Z発現は、多くのがんで広範に検出され、細胞増殖とゲノムの不安定性とに非常に関連している<ref name= CraigJMWongNC>{{Cite book| author=Wong NC, Craig JM | title=Epigenetics: A Reference Manual | publisher=Caister Academic Press | location=Norfolk, England | year=2011 | isbn=1-904455-88-3}}</ref>。


がんにおいて特異的なヒストンの化学修飾も観察される{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」|p=291 図2.参照}}。がん抑制遺伝子プロモーターのCpGアイランドDNAメチル化は、[[ヒストン脱アセチル化酵素]]をリクルートすることで当遺伝子のサイレンシングに働く{{sfn|今井ら「遺伝子メチル化と発癌」|p=363 図1.参照}}。
がんにおいて特異的なヒストンの化学修飾も観察される{{sfn|延山, 牛島「エピジェネティクスと発がん」|p=291 図2.参照}}。がん抑制遺伝子プロモーターのCpGアイランドDNAメチル化は、[[ヒストン脱アセチル化酵素]]をリクルートすることで当該がん抑制遺伝子の発現を抑制する{{sfn|今井ら「遺伝子メチル化と発癌」|p=363 図1.参照}}。


==== がん治療 ====
==== がん治療 ====
エピジェネティックな医薬品は、[[放射線療法]]や[[化学療法]]など現在受け入れられている治療法に対して、置き換え可能あるいは補助な療法であるかもしれないし、現在の治療法の効果を高めることができるかもしれないということを、近年の研究は示している<ref name="pmid20664922">{{Cite journal| author = Wang LG, Chiao JW | title = Prostate cancer chemopreventive activity of phenethyl isothiocyanate through epigenetic regulation (review) | journal = Int. J. Oncol. | volume = 37 | issue = 3 | pages = 533–9 | year = 2010 | pmid = 20664922 }}</ref>。ヒストン構造変化によるエピジェネティックな制御が、がんの形成と進行に影響するということが示されてきた<ref name="ReferenceB">{{Cite journal| author = Iglesias-Linares A, Yañez-Vico RM, González-Moles MA | title = Potential role of HDAC inhibitors in cancer therapy: insights into oral squamous cell carcinoma | journal = Oral Oncol. | volume = 46 | issue = 5 | pages = 323–9 | year = 2010 | pmid = 20207580 | doi = 10.1016/j.oraloncology.2010.01.009 }}</ref>。
エピジェネティックな医薬品は、[[放射線療法]]や[[化学療法]]など現在受け入れられている治療法に対して、置き換え可能あるいは補助な療法であるかもしれないし、現在の治療法の効果を高めることができるかもしれないということを、近年の研究は示している<ref name="pmid20664922">{{Cite journal| author=Wang LG, Chiao JW | title=Prostate cancer chemopreventive activity of phenethyl isothiocyanate through epigenetic regulation | journal=Int J Oncol | volume=37 | issue=3 | pages=533–9 | year=2010 | pmid=20664922}}</ref>。ヒストン構造変化によるエピジェネティックな制御が、がんの形成と進行に影響するということが示されてきた<ref name="ReferenceB">{{Cite journal| author=Iglesias-Linares A, Yañez-Vico RM, González-Moles MA | title=Potential role of HDAC inhibitors in cancer therapy: insights into oral squamous cell carcinoma | journal=Oral Oncol | volume=46 | issue=5 | pages=323–9 | year=2010 | pmid=20207580 | doi=10.1016/j.oraloncology.2010.01.009}}</ref>。


主に{{仮リンク|ヒストンアセチル基転位酵素|en|histone acetyltransferase|label=ヒストンアセチル基転位酵素(HAT)}} とヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)に焦点を当てて医薬品開発が進められている<ref name="pmid18773966">{{Cite journal| author = Spannhoff A, Sippl W, Jung M | title = Cancer treatment of the future: inhibitors of histone methyltransferases | journal = Int. J. Biochem. Cell Biol. | volume = 41 | issue = 1 | pages = 4–11 | year = 2009 | pmid = 18773966 | doi = 10.1016/j.biocel.2008.07.024 }}</ref>。HDACは口腔扁平上皮がんの進行に不可欠な役割を果たすことが示されており<ref name="ReferenceB"/>、HDAC阻害剤である医薬品{{仮リンク|ボリノスタット|en|vorinostat}}は既に実用化がなされている。
主に{{仮リンク|ヒストンアセチル基転位酵素|en|histone acetyltransferase|label=ヒストンアセチル基転位酵素(HAT)}} とヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)に焦点を当てて医薬品開発が進められている<ref name="pmid18773966">{{Cite journal| author=Spannhoff A, Sippl W, Jung M | title=Cancer treatment of the future: inhibitors of histone methyltransferases | journal=Int. J. Biochem. Cell Biol. | volume=41 | issue=1 | pages=4–11 | year=2009 | pmid=18773966 | doi=10.1016/j.biocel.2008.07.024}}</ref>。HDACは口腔扁平上皮がんの進行に不可欠な役割を果たすことが示されており<ref name="ReferenceB"/>、HDAC阻害剤である医薬品{{仮リンク|ボリノスタット|en|vorinostat}}は既に実用化がなされている<ref>{{Cite web |date=2006-10-06 |url=http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/2006/ucm108758.htm |title=FDA Approves New Drug for Skin Cancer, Zolinza |publisher=[[アメリカ食品医薬品局|FDA]] |accessdate=2012-12-11}}</ref><!-- 参照可能サイト http://www.gsic.jp/medicine/mc_01/zolinza/index.html -->


== 各種生物におけるエピジェネティクス ==
== 各種生物におけるエピジェネティクス ==
=== 真正細菌 ===
=== 真正細菌 ===
[[真正細菌]]は、DNA-タンパク質相互作用のエピジェネティックな制御のため、複製後のDNAメチル化を広く利用する。真正細菌はエピジェネティックな信号として、DNAの[[シトシン]]のメチル化よりむしろ、DNAの[[アデニン]]のメチル化を利用する。DNAアデニンメチル化は、[[大腸菌]]・[[サルモネラ|サルモネラ属]]・[[ビブリオ属]]・{{仮リンク|エルシニア属|en|Yersinia}}・[[ヘモフィルス属]]・{{仮リンク|ブルセラ属|en|Brucella}}などの生物体内の細菌の病原性で重要となる。{{仮リンク|アルファプロテオバクテリア|en|Alphaproteobacteria}}では、アデニンのメチル化は、[[細胞周期]]を制御し、[[DNA複製]]と[[転写 (生物学)|遺伝子転写]]とを同伴させる。{{仮リンク|ガンマプロテオバクテリア|en|Gammaproteobacteria|}}では、アデニンメチル化は、DNA複製・<!-- [[:en:genophore|bacterial chromosome]] -->[[核様体|遺伝担体]]分離・[[DNAミスマッチ修復]]・[[ファージ|バクテリオファージ]]のパッケージング・[[転位酵素]]活性・遺伝子発現制御のための信号を提供する<ref name="Casadesus">{{Cite journal| author = Casadesús J, Low D | title = Epigenetic gene regulation in the bacterial world | journal = Microbiol. Mol. Biol. Rev. | volume = 70 | issue = 3 | pages = 830–56 | year = 2006 | pmid = 16959970 | pmc = 1594586 | doi = 10.1128/MMBR.00016-06 }}</ref><ref name=JorgTost>{{Cite book| author = Jorg Tost | title = Epigenetics | publisher = Caister Academic Press | location = Norfolk, England | year = 2008 | isbn = 1-904455-23-9 }}</ref>。
[[真正細菌]]は、DNA-タンパク質相互作用のエピジェネティックな制御のため、複製後のDNAメチル化を広く利用する。真正細菌はエピジェネティックな信号として、DNAの[[シトシン]]のメチル化よりむしろ、DNAの[[アデニン]]のメチル化を利用する。DNAアデニンメチル化は、[[大腸菌]]・[[サルモネラ|サルモネラ属]]・[[ビブリオ属]]・{{仮リンク|エルシニア属|en|Yersinia}}・[[ヘモフィルス属]]・{{仮リンク|ブルセラ属|en|Brucella}}などの生物体内の細菌の病原性で重要となる。{{仮リンク|アルファプロテオバクテリア|en|Alphaproteobacteria}}では、アデニンのメチル化は、[[細胞周期]]を制御し、[[DNA複製]]と[[転写 (生物学)|遺伝子転写]]とを同伴させる。{{仮リンク|ガンマプロテオバクテリア|en|Gammaproteobacteria|}}では、アデニンメチル化は、DNA複製・<!-- [[:en:genophore|bacterial chromosome]] -->[[核様体|遺伝担体]]分離・[[DNAミスマッチ修復]]・[[ファージ|バクテリオファージ]]のパッケージング・[[転位酵素]]活性・遺伝子発現制御のための信号を提供する<ref name="Casadesus">{{Cite journal| author=Casadesús J, Low D | title=Epigenetic gene regulation in the bacterial world | journal=Microbiol. Mol. Biol. Rev. | volume=70 | issue=3 | pages=830–56 | year=2006 | pmid=16959970 | pmc=1594586 | doi=10.1128/MMBR.00016-06}}</ref><ref name=JorgTost>{{Cite book| author=Jorg Tost | title=Epigenetics | publisher=Caister Academic Press | location=Norfolk, England | year=2008 | isbn=1-904455-23-9}}</ref>。


=== 真菌 ===
=== 真菌 ===
[[糸状菌]][[アカパンカビ]] ''Neurospora crassa''は、シトシンメチル化の制御と機能を理解するのに重要なモデル系である。この生物では、DNAメチル化は、RIP([[反復配列]]誘発性[[点突然変異]])と呼ばれるゲノム防御システムの痕跡(突然変異が起きた形跡)と関連しており、転写伸長を阻害することにより遺伝子発現を抑制している{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=6,134,137-139}}。
[[糸状菌]][[アカパンカビ]]は、シトシンメチル化の制御と機能を理解するのに重要なモデル系である。この生物では、DNAメチル化は、RIP([[反復配列]]誘発性[[点突然変異]])と呼ばれるゲノム防御システムと関連しており、転写伸長を阻害することにより遺伝子発現を抑制している<ref name="Johnson2007"/>{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=6,134,137-9}}。[[出芽酵母]]と[[分裂酵母#Schizosaccharomyces pombe|分裂酵母]]もまた、エピジェネティクス研究における真核生物のモデル生物としての地位を得ている。出芽酵母はユークロマチン領域における遺伝子発現やヘテロクロマチン構造をとる[[テロメア]]のエピジェネティクス研究で良く用いられている{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=76-94, 122}}。他方、分裂酵母は、[[セントロメア]]領域のヘテロクロマチン構造およびDNAメチル化・ヒストン修飾・RNA干渉・遺伝子サイレンシングなどのモデル生物として研究がなされている{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=121-48}}。

[[プリオン#酵母など菌類におけるプリオン|酵母プリオン]]の[[Sup35p|PSI]]は、翻訳終結因子の立体構造の変化によって生成され、その後、娘細胞に継承される。これは悪条件下で生存の優位性を提供することができ、単細胞生物が環境ストレスに迅速に対応できるようにするエピジェネティック制御の一例である。プリオンは、ゲノムの変更なしで表現型の変化を誘導することができるエピジェネティックな作用物質としてみなすことができる<ref name=JorgTost/>。

=== 線虫 ===
[[線形動物|線虫]][[C. elegans|''Caenorhabditis elegans'']]では、細胞可塑性(分化能)とリプログラミング<ref>{{Cite journal | title=Cell plasticity in Caenorhabditis elegans: from induced to natural cell reprogramming | author=Hajduskova M ''et al.'' | year=2012 | journal=Genesis | volume=50 | issue=1 | pages=1-17 | url=http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/dvg.20806/full | pmid=21932439 | doi=10.1002/dvg.20806}}</ref>・遺伝子量補償・トランスポゾンに対する遺伝子サイレンシングが調べられている。''C. elegans''の遺伝子量補償は、哺乳類と違って2本のX染色体双方の発現量を半減させることで調節されている<ref>{{Cite journal | title=Nuclear organization and dosage compensation | author=Chow JC, Heard E | year=2010 | journal=Cold Spring Harb Perspect Biol | volume=2 | issue=11 | pmid=20943757 | pmc=2964184 | doi=10.1101/cshperspect.a000604}}</ref>。また''C. elegans''は、他の動物には存在するDNAメチル化酵素''dmnt-2''を進化の過程で失っているが、より祖先型に近い遺伝子を利用した[[RNAi|RNA干渉]]によって遺伝子サイレンシングを行っていることが示唆されている<ref>{{Cite journal | title=Evolution of dnmt-2 and mbd-2-like genes in the free-living nematodes Pristionchus pacificus, Caenorhabditis elegans and Caenorhabditis briggsae | author=Gutierrez A, Sommer RJ | year=2004 | journal=Nucleic Acids Res | volume=32 | issue=21 | pages=6388-96 | pmid=15576683 | pmc=535690 | doi=10.1093/nar/gkh982}}</ref>。


=== キイロショウジョウバエ ===
[[プリオン#酵母など菌類におけるプリオン|酵母プリオン]]の[[Sup35p|PSI]]は、翻訳終結因子の立体構造の変化によって生成され、その後、娘細胞に継承される。これは悪条件下で生存の優位性を提供することができ、単細胞生物が環境ストレスに迅速に対応できるようにするエピジェネティック制御の一例である。プリオンは、ゲノムの変更なしで表現型の変化を誘導することができるエピジェネティックな作用物質としてみなすことができる<ref name = JorgTost/>。
[[キイロショウジョウバエ]]においては、1941年に遺伝学者[[ハーマン・J・マラー]]が[[ヘテロクロマチン]]近傍に[[突然変異#染色体突然変異|逆位転座]]した眼色の遺伝子が発現抑制を受けることを報告した([[位置効果]]による斑入り, PEV){{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|p=3}}。これはエピジェネティクスという用語が作成される以前に報告されたものであるが、現在ではこの分野の端緒の一つであると考えられている。PEVは遺伝子サイレンシングの一例であり、同様のヘテロクロマチン構造の影響による遺伝子発現抑制は出芽酵母でも見出されている{{sfn|中山「高次クロマチンの形成機構とエピジェネティック制御」}}。PEVは、ヘテロクロマチン部位との位置関係だけではなく、温度・過剰な染色体の存在・被抑制遺伝子の塩基配列などに影響を受ける確率的なものであり、より直接的にはヘテロクロマチン化に働く因子やヒストン修飾と関連があることが示されている{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=93-119}}。また、キイロショウジョウバエは、多くの生物で見られるCpGでのDNAメチル化の頻度が低く、識別できるメチル化酵素としてはDnmt2のみしかない。この現象についての議論には結論はまだ出ていない{{sfn|アリスほか『エピジェネティクス』|pp=93-119}}。


== メカニズム ==
== メカニズム ==
[[細胞記憶]]として知られるようになった役割を果たす数種類のエピジェネティックな遺伝機構がある<ref name="jablonka92">{{Cite journal| author = Jablonka E, Lamb MJ, Lachmann M | title = Evidence, mechanisms and models for the inheritance of acquired characteristics | journal = J. Theoret. Biol. | year = 1992 | volume = 158 | issue = 2 | pages = 245–268 | doi = 10.1016/S0022-5193(05)80722-2 }}</ref>。しかしながら、前述の定義の不一致により、下記に示すすべてがエピジェネティクスの例として、普遍的に受け入れられている訳ではない。
[[細胞記憶]]として知られるようになった役割を果たす数種類のエピジェネティックな遺伝機構がある<ref name="jablonka92">{{Cite journal| author=Jablonka E, Lamb MJ, Lachmann M | title=Evidence, mechanisms and models for the inheritance of acquired characteristics | journal=J. Theoret. Biol. | year=1992 | volume=158 | issue=2 | pages=245–268 | doi=10.1016/S0022-5193(05)80722-2}}</ref>。しかしながら、前述の定義の不一致により、下記に示すすべてがエピジェネティクスの例として、普遍的に受け入れられている訳ではない。


=== DNAメチル化とクロマチンリモデリング ===
=== DNAメチル化とクロマチンリモデリング ===


細胞または個体の[[表現型]]は、その遺伝子が[[転写 (生物学)|転写]]された状態の影響を受ける。遺伝子の転写状態が細胞間や個体間で引き継がれるならば、エピジェネティックな効果を生じることになる。遺伝子発現の調節にはいくつかの層がある。遺伝子を調節する一つの方法は、[[クロマチン]]の{{仮リンク|クロマチンリモデリング|label=リモデリング(再構築・再構成)|en|chromatin remodeling}}を介して行われる。クロマチンは、ヒストンにDNAが巻き付いた複合体である。もしDNAがヒストンに巻き付いている状態が変われば、クロマチンリモデリングがおき、遺伝子発現もまた変化する。クロマチンリモデリングは主に二つのメカニズムを通して達成される:
細胞または個体の[[表現型]]は、その遺伝子が[[転写 (生物学)|転写]]された状態の影響を受ける。遺伝子の転写状態が細胞間や個体間で引き継がれるならば、エピジェネティックな効果を生じることになる。遺伝子発現の調節にはいくつかの層がある。遺伝子を調節する一つの方法は、[[クロマチン]]の{{仮リンク|クロマチンリモデリング|label=リモデリング(再構築・再構成)|en|chromatin remodeling}}を介して行われる。クロマチンは、ヒストンにDNAが巻き付いた複合体である。もしDNAがヒストンに巻き付いている状態が変われば、クロマチンリモデリングがおき、遺伝子発現もまた変化する。クロマチンリモデリングは主に二つのメカニズムを通して達成される:
# 第1の方法はヒストンを構成するアミノ酸の[[翻訳後修飾]]である。ヒストンはアミノ酸の長い鎖で構成されている。その鎖の中のアミノ酸が変化すれば、ヒストンの形状が変化することがある。DNAは[[DNA複製|複製]]の間、完全に巻き付いているわけではない。複製前には非修飾のヒストンと会合していたDNAでも、複製後は修飾されたヒストンに会合して新たなクロマチン構造をとることができる。これら修飾されたヒストンは、細胞が分化状態を維持して、幹細胞に戻らないことを確実にする。
# 第1の方法はヒストンを構成するアミノ酸の[[翻訳後修飾]]である。ヒストンはアミノ酸の長い鎖で構成されている。その鎖の中のアミノ酸が変化すれば、ヒストンの形状が変化することがある。DNAは[[DNA複製|複製]]の間、完全に巻き付いているわけではない。複製前には非修飾のヒストンと会合していたDNAでも、複製後は修飾されたヒストンに会合して新たなクロマチン構造をとることができる。これら修飾されたヒストンは、細胞が分化状態を維持して、幹細胞に戻らないことを確実にする。
# 第2の方法は、[[DNAメチル化|DNAへのメチル基付加]]であり、おもに{{仮リンク|CpG部位|en|CpG site}}における[[シトシン]]から{{仮リンク|5-メチルシトシン|en|5-methylcytosine}}への変換による。5-メチルシトシンはグアニンと対を作る際に、通常のシトシンとほぼ同様に行動する。しかし、ゲノムの一部領域は他領域よりも高度にメチル化され、その領域は転写活性がより低下する傾向がある。哺乳類では、シトシンのメチル化により、雌雄どちらの親からの遺伝であるかを染色体に標識し、その標識が[[生殖細胞]]系列から[[接合子]](受精卵)に引き継がれる([[ゲノムインプリンティング]])。
# 第2の方法は、[[DNAメチル化|DNAへのメチル基付加]]であり、おもに{{仮リンク|CpG部位|en|CpG site}}における[[シトシン]]から{{仮リンク|5-メチルシトシン|en|5-methylcytosine}}への変換による。5-メチルシトシンはグアニンと対を作る際に、通常のシトシンとほぼ同様に行動する。しかし、ゲノムの一部領域は他領域よりも高度にメチル化され、その領域は転写活性がより低下する傾向がある。哺乳類では、シトシンのメチル化により、雌雄どちらの親からの遺伝であるかを染色体に標識し、その標識が[[生殖細胞]]系列から[[接合子]](受精卵)に引き継がれる([[ゲノムインプリンティング]])。
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| モノ[[メチル化]]
| モノ[[メチル化]]
| 活性化<ref name="Benevolenskaya_2007">{{cite journal | author = Benevolenskaya EV | title = Histone H3K4 demethylases are essential in development and differentiation | journal = Biochem. Cell Biol. | volume = 85 | issue = 4 |pages = 435–43 | year = 2007 | pmid = 17713579 | doi = 10.1139/o07-057 }}</ref>
| 活性化<ref name="Benevolenskaya_2007">{{Cite journal | author=Benevolenskaya EV | title=Histone H3K4 demethylases are essential in development and differentiation | journal=Biochem. Cell Biol. | volume=85 | issue=4 |pages=435–43 | year=2007 | pmid=17713579 | doi=10.1139/o07-057}}</ref>
| 活性化<ref name="Barski_2007">{{cite journal | author = Barski A ''et al.''| title = High-resolution profiling of histone methylations in the human genome | journal = Cell | volume = 129 | issue = 4 | pages = 823–37 | year = 2007 | pmid = 17512414 | doi = 10.1016/j.cell.2007.05.009 }}</ref>
| 活性化<ref name="Barski_2007">{{Cite journal | author=Barski A ''et al.''| title=High-resolution profiling of histone methylations in the human genome | journal=Cell | volume=129 | issue=4 | pages=823–37 | year=2007 | pmid=17512414 | doi=10.1016/j.cell.2007.05.009}}</ref>
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| 活性化<ref name="Barski_2007"/>
| 活性化<ref name="Barski_2007"/>
| 活性化<ref name="Barski_2007"/><ref name="Steger_2008">{{cite journal | author = Steger DJ ''et al.'' | title = DOT1L/KMT4 recruitment and H3K79 methylation are ubiquitously coupled with gene transcription in mammalian cells | journal = Mol. Cell. Biol. | volume = 28 | issue = 8 | pages = 2825–39 | year = 2008 | pmid = 18285465 | pmc = 2293113 | doi = 10.1128/MCB.02076-07 }}</ref>
| 活性化<ref name="Barski_2007"/><ref name="Steger_2008">{{Cite journal | author=Steger DJ ''et al.'' | title=DOT1L/KMT4 recruitment and H3K79 methylation are ubiquitously coupled with gene transcription in mammalian cells | journal=Mol Cell Biol | volume=28 | issue=8 | pages=2825–39 | year=2008 | pmid=18285465 | pmc=2293113 | doi=10.1128/MCB.02076-07}}</ref>
| 活性化<ref name="Barski_2007"/>
| 活性化<ref name="Barski_2007"/>
| 活性化<ref name="Barski_2007"/>
| 活性化<ref name="Barski_2007"/>
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| ジメチル化
| ジメチル化
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| 抑制<ref name="Rosenfeld_2009">{{cite journal | author = Rosenfeld JA ''et al.'' | title = Determination of enriched histone modifications in non-genic portions of the human genome |journal = BMC Genomics | volume = 10| pages = 143 | year = 2009 | pmid = 19335899 | pmc = 2667539 | doi = 10.1186/1471-2164-10-143 }}</ref>
| 抑制<ref name="Rosenfeld_2009">{{Cite journal | author=Rosenfeld JA ''et al.'' | title=Determination of enriched histone modifications in non-genic portions of the human genome |journal=BMC Genomics | volume=10| pages=143 | year=2009 | pmid=19335899 | pmc=2667539 | doi=10.1186/1471-2164-10-143}}</ref>
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| 抑制<ref name = "Rosenfeld_2009"/>
| 抑制<ref name="Rosenfeld_2009"/>
| 活性化<ref name="Steger_2008"/> || ||
| 活性化<ref name="Steger_2008"/> || ||
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| トリメチル化
| トリメチル化
| 活性化<ref name="Koch_2007">{{cite journal | author = Koch CM ''et al.'' | title = The landscape of histone modifications across 1% of the human genome in five human cell lines | journal = Genome Res. | volume = 17 | issue = 6 | pages = 691–707 | year = 2007 | pmid = 17567990 | pmc = 1891331 | doi = 10.1101/gr.5704207 }}</ref>
| 活性化<ref name="Koch_2007">{{Cite journal | author=Koch CM ''et al.'' | title=The landscape of histone modifications across 1% of the human genome in five human cell lines | journal=Genome Res. | volume=17 | issue=6 | pages=691–707 | year=2007 | pmid=17567990 | pmc=1891331 | doi=10.1101/gr.5704207}}</ref>
| 抑制<ref name="Barski_2007"/>
| 抑制<ref name="Barski_2007"/>
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修飾が関連因子のための結合モジュールとして作用するという考え方は、ヒストンのメチル化により裏付けされている。ヒストンH3リジンK9のメチル化は、長い間、恒常的な転写不活性クロマチン(構造的[[ヘテロクロマチン]])と関連付けられてきた。転写抑圧的なタンパク質[[:en:Heterochromatin protein 1|HP1]]におけるクロモドメイン(メチル-リジン特異的結合ドメイン)が、K9メチル化領域にHP1を導くことが明らかにされてきた。メチル化に対するこの生物物理学的モデルに反論するように見える一例は、リジンK4におけるヒストンH3のトリメチル化が強く転写活性化に関連付けられていることである(完全な活性化に必要)。この例ではトリメチル化は、固定された正電荷をヒストンテールに導入するであろう。
修飾が関連因子のための結合モジュールとして作用するという考え方は、ヒストンのメチル化により裏付けされている。ヒストンH3リジンK9のメチル化は、長い間、恒常的な転写不活性クロマチン(構造的[[ヘテロクロマチン]])と関連付けられてきた。転写抑圧的なタンパク質[[:en:Heterochromatin protein 1|HP1]]におけるクロモドメイン(メチル-リジン特異的結合ドメイン)が、K9メチル化領域にHP1を導くことが明らかにされてきた。メチル化に対するこの生物物理学的モデルに反論するように見える一例は、リジンK4におけるヒストンH3のトリメチル化が強く転写活性化に関連付けられていることである(完全な活性化に必要)。この例ではトリメチル化は、固定された正電荷をヒストンテールに導入するであろう。


ヒストンリジンメチル基転位酵素(KMT)は、ヒストンH3およびH4のパターンでこのメチル化活性を担っていることが示されている。この酵素はSETドメイン(Suppressor of variegation, Enhancer of zeste, Trithorax)と呼ばれる触媒活性部位を利用している。SETドメインは遺伝子活性の調整に関与する130アミノ酸配列である。このドメインはヒストンテールに結合し、ヒストンのメチル化を引き起こすことが示されている<ref name="pmid9487389">{{Cite journal| author = Jenuwein T ''et al.'' | title = SET domain proteins modulate chromatin domains in eu- and heterochromatin | journal = Cell Mol Life Sci | volume = 54 | issue = 1 | pages = 80–93 | year = 1998 | pmid = 9487389 | doi = 10.1007/s000180050127 }}</ref>。
ヒストンリジンメチル基転位酵素(KMT)は、ヒストンH3およびH4のパターンでこのメチル化活性を担っていることが示されている。この酵素はSETドメイン(Suppressor of variegation, Enhancer of zeste, Trithorax)と呼ばれる触媒活性部位を利用している。SETドメインは遺伝子活性の調整に関与する130アミノ酸配列である。このドメインはヒストンテールに結合し、ヒストンのメチル化を引き起こすことが示されている<ref name="pmid9487389">{{Cite journal| author=Jenuwein T ''et al.'' | title=SET domain proteins modulate chromatin domains in eu- and heterochromatin | journal=Cell Mol Life Sci | volume=54 | issue=1 | pages=80–93 | year=1998 | pmid=9487389 | doi=10.1007/s000180050127}}</ref>。


異なるヒストン修飾は異なる方法で機能するようである。あるポジションでのアセチル化は、異なるポジションでのアセチル化と異なって機能しているようである。また、同時に複数の修飾が起きているようであり、これらの修飾は[[ヌクレオソーム]]の挙動を変えるのに共同して作用しているようである。体系的で再現性のある方法による複数の動的な修飾による遺伝子制御の概念は、{{仮リンク|ヒストンコード|en|histone code}}仮説と呼ばれる<ref name="Allis2001">{{cite journal | author=Jenuwein T, Allis CD | year=2001 | title=Translating the histone code | journal=Science | volume=293 | issue=5532 | pages=1074-80 | doi=10.1126/science.1063127 | pmid=11498575 }}</ref>{{sfn|網代, Allis「ヒストンコード説」}}。
異なるヒストン修飾は異なる方法で機能するようである。あるポジションでのアセチル化は、異なるポジションでのアセチル化と異なって機能しているようである。また、同時に複数の修飾が起きているようであり、これらの修飾は[[ヌクレオソーム]]の挙動を変えるのに共同して作用しているようである。体系的で再現性のある方法による複数の動的な修飾による遺伝子制御の概念は、{{仮リンク|ヒストンコード|en|histone code}}仮説と呼ばれる<ref name="Allis2001">{{Cite journal | author=Jenuwein T, Allis CD | year=2001 | title=Translating the histone code | journal=Science | volume=293 | issue=5532 | pages=1074-80 | doi=10.1126/science.1063127 | pmid=11498575}}</ref>{{sfn|網代, Allis「ヒストンコード説」}}。


DNAメチル化は、[[反復配列]]にしばしば発生し、[[トランスポゾン]]の発現および移動性を抑制するのに役に立っている<ref name="slotkin2007">{{Cite journal| author = Slotkin RK, Martienssen R | title = Transposable elements and the epigenetic regulation of the genome | journal = Nat. Rev. Genet. | volume = 8 | issue = 4 | pages = 272–85 | year = 2007 | pmid = 17363976 | doi = 10.1038/nrg2072 }}</ref>。[[5-メチルシトシン]]が[[チミジン]]へと自発的に脱アミノ化(酸素による窒素の置換)するので、メチル化されていないままである[[CpGアイランド]]を除いては、CpG部位は頻繁に変異しゲノム中の頻度が減る。このタイプのエピジェネティックな変化は、恒久的な遺伝的[[突然変異|変異]]の頻度を直接増やすポテンシャルがある。[[DNAメチル化]]パターンは、少なくとも3つの独立したDNAメチル基転位酵素(DNMT1, DNMT3A, DNMT3B, マウスにおいてはどれか一つの欠失でも致死<ref name="li92">{{Cite journal| author = Li E, Bestor TH, Jaenisch R | title = Targeted mutation of the DNA methyltransferase gene results in embryonic lethality | journal = Cell | volume = 69 | issue = 6 | pages = 915–26 | year = 1992 | pmid = 1606615 | doi = 10.1016/0092-8674(92)90611-F }}</ref>)の複雑な相互作用によって、環境要因に反応して採用され変更されることが知られている。DNMT1は体細胞の中で最も豊富なメチル基転位酵素であり<ref name="robertson99">{{Cite journal| author = Robertson KD ''et al.'' | title = The human DNA methyltransferases (DNMTs) 1, 3a and 3b: coordinate mRNA expression in normal tissues and overexpression in tumors | journal = Nucleic Acids Res | volume = 27 | issue = 11 | pages = 2291–8 | year = 1999 | pmid = 10325416 | pmc = 148793 | doi =10.1093/nar/27.11.2291}}</ref>、[[DNA複製]]部位に局在し<ref name="leonhardt92">{{Cite journal| author = Leonhardt H ''et al.'' | title = A targeting sequence directs DNA methyltransferase to sites of DNA replication in mammalian nuclei | journal = Cell | volume = 71 | issue = 5 | pages = 865–73 | year = 1992 | pmid = 1423634 | doi = 10.1016/0092-8674(92)90561-P }}</ref>、ヘミメチル化されたDNAでは10-40倍の指向性を持ち、{{仮リンク|増殖細胞核抗原|en|proliferating cell nuclear antigen}} (PCNA)と相互作用する<ref name="chuang97">{{Cite journal| author = Chuang LS ''et al.'' | title = Human DNA-(cytosine-5) methyltransferase-PCNA complex as a target for p21WAF1 | journal = Science | volume = 277 | issue = 5334 | pages = 1996–2000 | year = 1997 | pmid = 9302295 | doi = 10.1126/science.277.5334.1996 }}</ref>。
DNAメチル化は、[[反復配列]]にしばしば発生し、[[トランスポゾン]]の発現および移動性を抑制するのに役に立っている<ref name="slotkin2007">{{Cite journal| author=Slotkin RK, Martienssen R | title=Transposable elements and the epigenetic regulation of the genome | journal=Nat Rev Genet | volume=8 | issue=4 | pages=272–85 | year=2007 | pmid=17363976 | doi=10.1038/nrg2072}}</ref>。[[5-メチルシトシン]]が[[チミジン]]へと自発的に脱アミノ化(酸素による窒素の置換)するので、メチル化されていないままである[[CpGアイランド]]を除いては、CpG部位は頻繁に変異しゲノム中の頻度が減る。このタイプのエピジェネティックな変化は、恒久的な遺伝的[[突然変異|変異]]の頻度を直接増やすポテンシャルがある。[[DNAメチル化]]パターンは、少なくとも3つの独立したDNAメチル基転位酵素(DNMT1, DNMT3A, DNMT3B, マウスにおいてはどれか一つの欠失でも致死<ref name="li92">{{Cite journal| author=Li E, Bestor TH, Jaenisch R | title=Targeted mutation of the DNA methyltransferase gene results in embryonic lethality | journal=Cell | volume=69 | issue=6 | pages=915–26 | year=1992 | pmid=1606615 | doi=10.1016/0092-8674(92)90611-F}}</ref>)の複雑な相互作用によって、環境要因に反応して採用され変更されることが知られている。DNMT1は体細胞の中で最も豊富なメチル基転位酵素であり<ref name="robertson99">{{Cite journal| author=Robertson KD ''et al.'' | title=The human DNA methyltransferases (DNMTs) 1, 3a and 3b: coordinate mRNA expression in normal tissues and overexpression in tumors | journal=Nucleic Acids Res | volume=27 | issue=11 | pages=2291–8 | year=1999 | pmid=10325416 | pmc=148793 | doi =10.1093/nar/27.11.2291}}</ref>、[[DNA複製]]部位に局在し<ref name="leonhardt92">{{Cite journal| author=Leonhardt H ''et al.'' | title=A targeting sequence directs DNA methyltransferase to sites of DNA replication in mammalian nuclei | journal=Cell | volume=71 | issue=5 | pages=865–73 | year=1992 | pmid=1423634 | doi=10.1016/0092-8674(92)90561-P}}</ref>、ヘミメチル化されたDNAでは10-40倍の指向性を持ち、{{仮リンク|増殖細胞核抗原|en|proliferating cell nuclear antigen}} (PCNA)と相互作用する<ref name="chuang97">{{Cite journal| author=Chuang LS ''et al.'' | title=Human DNA-(cytosine-5) methyltransferase-PCNA complex as a target for p21WAF1 | journal=Science | volume=277 | issue=5334 | pages=1996–2000 | year=1997 | pmid=9302295 | doi=10.1126/science.277.5334.1996}}</ref>。


ヘミメチル化DNAを優先的に修飾することにより、DNMT1は[[DNA複製]]後に新しく合成された鎖にメチル化のパターンを移す。そのためDNMT1は、しばしば「保守」メチル基転位酵素と呼ばれる<ref name="robertson00">{{Cite journal| author = Robertson KD, Wolffe AP | title = DNA methylation in health and disease | journal = Nat Rev Genet | volume = 1 | issue = 1 | pages = 11–9 | year = 2000 | pmid = 11262868 | doi = 10.1038/35049533 }}</ref>。DNMT1は、適切な胚発生・刷り込みおよびX染色体不活性化のために不可欠である<ref name="li92" /><ref name="li93">{{Cite journal| author = Li E, Beard C, Jaenisch R | title = Role for DNA methylation in genomic imprinting | journal = Nature | volume = 366 | issue = 6453 | pages = 362–5 | year = 1993 | pmid = 8247133 | doi = 10.1038/366362a0 }}</ref>。
ヘミメチル化DNAを優先的に修飾することにより、DNMT1は[[DNA複製]]後に新しく合成された鎖にメチル化のパターンを移す。そのためDNMT1は、しばしば「保守」メチル基転位酵素と呼ばれる<ref name="robertson00">{{Cite journal| author=Robertson KD, Wolffe AP | title=DNA methylation in health and disease | journal=Nat Rev Genet | volume=1 | issue=1 | pages=11–9 | year=2000 | pmid=11262868 | doi=10.1038/35049533}}</ref>。DNMT1は、適切な胚発生・刷り込みおよびX染色体不活性化のために不可欠である<ref name="li92" /><ref name="li93">{{Cite journal| author=Li E, Beard C, Jaenisch R | title=Role for DNA methylation in genomic imprinting | journal=Nature | volume=366 | issue=6453 | pages=362–5 | year=1993 | pmid=8247133 | doi=10.1038/366362a0}}</ref>。


ヒストンH3とH4はまた、{{仮リンク|ヒストン脱メチル化酵素|en|Histone demethylase|label=ヒストンリジン脱メチル化酵素(KDM)}}を使用した脱メチル化を介して操作されうる。この最近同定された酵素は、十文字ドメイン(JmjC)と呼ばれる触媒活性部位を持っている。十文字ドメインが複数の[[補因子]]を使ってメチル基を[[ヒドロキシル化]]して除去したとき、脱メチル化が起きる。十文字ドメインは、メチル基を1-3個持つ基質を脱メチル化することが可能である<ref name="pmid19234061">{{Cite journal| author = Nottke A, Colaiácovo MP, Shi Y | title = Developmental roles of the histone lysine demethylases | journal = Development | volume = 136 | issue = 6 | pages = 879–89 | year = 2009 | pmid = 19234061 | pmc = 2692332 | doi = 10.1242/dev.020966 }}</ref>。
ヒストンH3とH4はまた、{{仮リンク|ヒストン脱メチル化酵素|en|Histone demethylase|label=ヒストンリジン脱メチル化酵素(KDM)}}を使用した脱メチル化を介して操作されうる。この最近同定された酵素は、十文字ドメイン(JmjC)と呼ばれる触媒活性部位を持っている。十文字ドメインが複数の[[補因子]]を使ってメチル基を[[ヒドロキシル化]]して除去したとき、脱メチル化が起きる。十文字ドメインは、メチル基を1-3個持つ基質を脱メチル化することが可能である<ref name="pmid19234061">{{Cite journal| author=Nottke A, Colaiácovo MP, Shi Y | title=Developmental roles of the histone lysine demethylases | journal=Development | volume=136 | issue=6 | pages=879–89 | year=2009 | pmid=19234061 | pmc=2692332 | doi=10.1242/dev.020966}}</ref>。


染色体領域は、DNA配列を変えることなく、安定した遺伝する二者択一の状態をとることができ、結果として二つの安定した状態で遺伝子発現が可能となる<ref name="Rosenfeld_2009">{{Cite journal| author = Rosenfeld JA, Wang Z, Schones DE, Zhao K, DeSalle R, Zhang MQ | title = Determination of enriched histone modifications in non-genic portions of the human genome | journal = BMC Genomics | volume = 10 | page = 143 | year = 2009 | pmid = 19335899 | pmc = 2667539 | doi = 10.1186/1471-2164-10-143 }}</ref>。エピジェネティックな制御はしばしば、ヒストンの二者択一である共有結合修飾と連携している。広範囲の染色体領域の安定性と遺伝性は、正の[[フィードバック]]を伴い、そこでは修飾されたヌクレオソームが近くのヌクレオソームを同様に修飾する酵素を採用すると、しばしば考えられている。
染色体領域は、DNA配列を変えることなく、安定した遺伝する二者択一の状態をとることができ、結果として二つの安定した状態で遺伝子発現が可能となる<ref name="Rosenfeld_2009">{{Cite journal| author=Rosenfeld JA, Wang Z, Schones DE, Zhao K, DeSalle R, Zhang MQ | title=Determination of enriched histone modifications in non-genic portions of the human genome | journal=BMC Genomics | volume=10 | page=143 | year=2009 | pmid=19335899 | pmc=2667539 | doi=10.1186/1471-2164-10-143}}</ref>。エピジェネティックな制御はしばしば、ヒストンの二者択一である共有結合修飾と連携している。広範囲の染色体領域の安定性と遺伝性は、正の[[フィードバック]]を伴い、そこでは修飾されたヌクレオソームが近くのヌクレオソームを同様に修飾する酵素を採用すると、しばしば考えられている。


=== RNAによる制御 ===
=== RNAによる制御 ===
[[ノンコーディングRNA|非翻訳性RNA]]についての近年の発見と評価によれば、エピジェネティックな遺伝子制御に関わるであろうRNAが存在することが示唆されている<ref name="pmid19154003">{{Cite journal| author = Mattick JS, Amaral PP, Dinger ME, Mercer TR, Mehler MF | title = RNA regulation of epigenetic processes | url=http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/bies.080099/full | journal = BioEssays | volume = 31 | issue = 1 | pages = 51–9 | year = 2009 | pmid = 19154003 | doi = 10.1002/bies.080099 }}</ref>。また、[[siRNA|低分子干渉RNA]]の中には、標的となる[[プロモーター]]のエピジェネティック調節を経由して、転写レベルの遺伝子発現を調節するものがある<ref name="Morris">{{Cite book| author = Morris KL | title = RNA and the Regulation of Gene Expression: A Hidden Layer of Complexity | chapter = Epigenetic Regulation of Gene Expression | publisher = Caister Academic Press | location = Norfolk, England | year = 2008 | isbn = 1-904455-25-5 }}</ref>。
[[ノンコーディングRNA|非翻訳性RNA]]についての近年の発見と評価によれば、エピジェネティックな遺伝子制御に関わるであろうRNAが存在することが示唆されている<ref name="pmid19154003">{{Cite journal| author=Mattick JS ''et al.'' | title=RNA regulation of epigenetic processes | url=http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/bies.080099/full | journal=BioEssays | volume=31 | issue=1 | pages=51–9 | year=2009 | pmid=19154003 | doi=10.1002/bies.080099}}</ref>。また、[[siRNA|低分子干渉RNA]]の中には、標的となる[[プロモーター]]のエピジェネティック調節を経由して、転写レベルの遺伝子発現を調節するものがある<ref name="Morris">{{Cite book| author=Morris KL | title=RNA and the Regulation of Gene Expression: A Hidden Layer of Complexity | chapter=Epigenetic Regulation of Gene Expression | publisher=Caister Academic Press | location=Norfolk, England | year=2008 | isbn=1-904455-25-5}}</ref>。


遺伝子は転写可能になった後に、その遺伝子自身の転写活性にフィードバックするRNAを転写することがある。たとえば、[[:en:Hnf4|Hnf4]]および[[:en:MyoD|MyoD]]は、それらがコードするタンパク質の[[転写因子]]活性を通して、自分自身を含めた多くの肝臓や筋肉特異的遺伝子の転写をそれぞれ促進する。その他のエピジェネティックな変化は、[[選択的スプライシング|異なるスプライシング型のRNA]]の生成あるいは二本鎖RNAの形成([[RNAi|RNA干渉]])によって仲介される。遺伝子が転写可能にされた細胞の子孫は、遺伝子活性化の元になった刺激が存在しなくなった後でさえも、この活性を継承する。
遺伝子は転写可能になった後に、その遺伝子自身の転写活性にフィードバックするRNAを転写することがある。たとえば、[[:en:Hnf4|Hnf4]]および[[:en:MyoD|MyoD]]は、それらがコードするタンパク質の[[転写因子]]活性を通して、自分自身を含めた多くの肝臓や筋肉特異的遺伝子の転写をそれぞれ促進する。その他のエピジェネティックな変化は、[[選択的スプライシング|異なるスプライシング型のRNA]]の生成あるいは二本鎖RNAの形成([[RNAi|RNA干渉]])によって仲介される。遺伝子が転写可能にされた細胞の子孫は、遺伝子活性化の元になった刺激が存在しなくなった後でさえも、この活性を継承する。
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{{Main|プリオン#酵母など菌類におけるプリオン}}
{{Main|プリオン#酵母など菌類におけるプリオン}}


[[プリオン]]は[[感染]]可能な[[タンパク質]]の形態である。一般に、タンパク質は異なる細胞機能を受け持つ個別のユニットに[[フォールディング|立体構造をとる]]。一部のタンパク質は、複数の立体構造をとるように変化でき、その一例としてプリオンがある。プリオンは多くの場合、感染症([[伝達性海綿状脳症]])の関連で言及される。しかしながら、より一般的には、同じアミノ酸配列のタンパク質を自然状態から感染性立体構造へ触媒的に変換するタンパク質をプリオンと定義する。この後者の意味合いにおいてプリオンは、ゲノム変更なし表現型の変化を誘導することができるエピジェネティックな媒介物と見ることができる<ref>{{Cite journal| title = Epigenetic inheritance and prions| author=Yool A, Edmunds WJ| journal = Journal of Evolutionary Biology | year = 1998 | pages = 241–242 | volume=11 | doi = 10.1007/s000360050085 | issue=2}}</ref>。
[[プリオン]]は[[感染]]可能な[[タンパク質]]の形態である。一般に、タンパク質は異なる細胞機能を受け持つ[[フォールディング|立体構造をとる]]。一部のタンパク質は、複数の立体構造をとるように変化でき、その一例としてプリオンがある。プリオンは多くの場合、感染症([[伝達性海綿状脳症]])の関連で言及される。しかしながら、より一般的には、同じアミノ酸配列のタンパク質を自然状態から感染性立体構造へ触媒的に変換するタンパク質をプリオンと定義する。この後者の意味合いにおいてプリオンは、ゲノム変更せず表現型の変化を誘導することができるエピジェネティックな媒介物と見ることができる<ref>{{Cite journal | title=Prions are a common mechanism for phenotypic inheritance in wild yeasts | author=Halfmann R ''et al.'' | year=2012 | journal=Nature | volume=482 | issue=7385 | pages=363-8 | pmid=22337056 | pmc=3319070 | doi=10.1038/nature10875}}</ref>。


{{仮リンク|菌類プリオン|en|Fungal prions|label=菌類のプリオン}}は、引き起こされる感染性表現型がゲノムの変更なしで遺伝されるため、エピジェネティクス的と考えられている。1965年と1971年に[[出芽酵母]]で発見された{{仮リンク|PSI (prion)|en|PSI (prion)|label=PSI+}}とURE3は、二つの最も研究されているこのタイプのプリオンである<ref>{{Cite journal|title=[PSI], a cytoplasmic suppressor of super-suppression in yeast | author = Cox BS| journal = Heredity | volume = 20 | pages = 505–521 | year = 1965 | doi = 10.1038/hdy.1965.65 | issue = 4}}</ref><ref name="pmid5573734">{{Cite journal| author = Lacroute F | title = Non-Mendelian mutation allowing ureidosuccinic acid uptake in yeast | journal = J. Bacteriol. | volume = 106 | issue = 2 | pages = 519–22 | year = 1971 | pmid = 5573734 | pmc = 285125 | doi = }}</ref>。プリオンは、凝集中のタンパク質の表現型を転換させる効果を持つことができ、オリジナル型のタンパク質の活性を低下させる。PSI+細胞では、(翻訳の終結に関与している PSI+の正常型タンパク質)[[Sup35p]]の消失が、リボソームの高率の[[終止コドン]]の読み飛ばしと他の遺伝子の[[ナンセンス突然変異]]の抑制をする効果を引き起こす<ref name="pmid225301">{{Cite journal| author = Liebman SW, Sherman F | title = Extrachromosomal psi+ determinant suppresses nonsense mutations in yeast | journal = J. Bacteriol. | volume = 139 | issue = 3 | pages = 1068–71 | year = 1979 | pmid = 225301 | pmc = 218059 | doi = }}</ref>。Sup35がプリオンを形成する能力は、進化的に保存された形質かもしれない。これは、PSI+状態に切り替え、早期終止コドン変異させ、通常は機能していない遺伝的特徴を発現させる適応的優位性を酵母に与えている可能性がある<ref name="pmid11028992">{{Cite journal| author = True HL, Lindquist SL | title = A yeast prion provides a mechanism for genetic variation and phenotypic diversity | journal = Nature | volume = 407 | issue = 6803 | pages = 477–83 | year = 2000 | pmid = 11028992 | doi = 10.1038/35035005 }}</ref><ref name="pmid15931169">{{Cite journal| author = Shorter J, Lindquist S | title = Prions as adaptive conduits of memory and inheritance | journal = Nat. Rev. Genet. | volume = 6 | issue = 6 | pages = 435–50 | year = 2005 | pmid = 15931169 | doi = 10.1038/nrg1616 }}</ref>。
{{仮リンク|菌類プリオン|en|Fungal prions|label=菌類のプリオン}}は、引き起こされる感染性表現型がゲノムの変更なく継承されるため、エピジェネティクス的と考えられている。1965年と1971年に[[出芽酵母]]で発見された{{仮リンク|PSI (prion)|en|PSI (prion)|label=PSI+}}とURE3は、二つの最も研究されているこのタイプのプリオンである<ref>{{Cite journal|title=[PSI], a cytoplasmic suppressor of super-suppression in yeast | author=Cox BS| journal=Heredity | volume=20 | pages=505–521 | year=1965 | doi=10.1038/hdy.1965.65 | issue=4}}</ref><ref name="pmid5573734">{{Cite journal| author=Lacroute F | title=Non-Mendelian mutation allowing ureidosuccinic acid uptake in yeast | journal=J. Bacteriol. | volume=106 | issue=2 | pages=519–22 | year=1971 | pmid=5573734 | pmc=285125 | doi=}}</ref>。プリオンは、凝集中のタンパク質の表現型を転換させる効果を持つことができ、オリジナル型のタンパク質の活性を低下させる。PSI+細胞では、(翻訳の終結に関与している PSI+の正常型タンパク質)[[Sup35p]]の消失が、リボソームの高率の[[終止コドン]]の読み飛ばしと他の遺伝子の[[ナンセンス突然変異]]の抑制をする効果を引き起こす<ref name="pmid225301">{{Cite journal| author=Liebman SW, Sherman F | title=Extrachromosomal psi+ determinant suppresses nonsense mutations in yeast | journal=J. Bacteriol. | volume=139 | issue=3 | pages=1068–71 | year=1979 | pmid=225301 | pmc=218059 | doi=}}</ref>。Sup35がプリオンを形成する能力は、進化的に保存された形質かもしれない。これは、PSI+状態に切り替え、早期終止コドン変異させ、通常は機能していない遺伝的特徴を発現させる適応的優位性を酵母に与えている可能性がある<ref name="pmid11028992">{{Cite journal| author=True HL, Lindquist SL | title=A yeast prion provides a mechanism for genetic variation and phenotypic diversity | journal=Nature | volume=407 | issue=6803 | pages=477–83 | year=2000 | pmid=11028992 | doi=10.1038/35035005}}</ref><ref name="pmid15931169">{{Cite journal| author=Shorter J, Lindquist S | title=Prions as adaptive conduits of memory and inheritance | journal=Nat Rev Genet | volume=6 | issue=6 | pages=435–50 | year=2005 | pmid=15931169 | doi=10.1038/nrg1616}}</ref>。


=== 構造の継承 ===
=== 構造の継承 ===
<!-- {{Main|:en:Structural inheritance}} -->
<!-- {{Main|:en:Structural inheritance}} -->
[[テトラヒメナ]]や[[ゾウリムシ]]といった[[繊毛虫]]では、遺伝的に同一な細胞が、細胞表面の[[繊毛]]の並びのパターンの継承される違いを示す。実験的に変えられたパターンは娘細胞に伝達されうる<ref>{{cite journal | author=Beisson J, Sonneborn TM | year=1965 | title=Cytoplasmic inheritance of the organization of the cell cortex in Paramecium aurelia | url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC219507/pdf/pnas00154-0051.pdf | format=PDF | journal=[[米国科学アカデミー紀要|PNAS]] | volume=53 | pages=275-82 | pmid=14294056 | pmc=219507 }}</ref>。既存の構造は新しい細胞構造のテンプレートとして機能するようである。このような継承のメカニズムは不明であるが、理由として想定されるのは、多細胞生物にもある新しい構造を作るために既存の細胞構造を利用することである<ref name="pmid1804215">{{Cite journal| author = Sapp J | title = Concepts of organization. The leverage of ciliate protozoa | journal = Dev. Biol. (NY) | volume = 7 | pages = 229–58 | year = 1991 | pmid = 1804215 }}</ref><ref name="isbn0-19-515619-6">{{Cite book| author = Sapp J | title = Genesis: the evolution of biology | publisher = Oxford University Press | location = Oxford [Oxfordshire] | year = 2003 | isbn = 0-19-515619-6 }}</ref><ref name="isbn0-262-65063-0">{{Cite book| author = Gray RD, Oyama S, Griffiths PE | title = Cycles of Contingency: Developmental Systems and Evolution (Life and Mind: Philosophical Issues in Biology and Psychology) | publisher = The MIT Press | location = Cambridge, Mass | year = 2003 | isbn = 0-262-65063-0 }}</ref>。
[[テトラヒメナ]]や[[ゾウリムシ]]といった[[繊毛虫]]では、遺伝的に同一な細胞が、細胞表面の[[繊毛]]の並びのパターンの継承される違いを示す。実験的に変えられたパターンは娘細胞に伝達されうる<ref>{{Cite journal | author=Beisson J, Sonneborn TM | year=1965 | title=Cytoplasmic inheritance of the organization of the cell cortex in Paramecium aurelia | format=PDF | journal=Proc Natl Acad Sci USA | volume=53 | pages=275-82 | pmid=14294056 | pmc=219507}}</ref>。既存の構造は新しい細胞構造のテンプレートとして機能するようである。このような継承のメカニズムは不明であるが、理由として想定されるのは、多細胞生物にもある新しい構造を作るために既存の細胞構造を利用することである<ref name="pmid1804215">{{Cite journal| author=Sapp J | title=Concepts of organization. The leverage of ciliate protozoa | journal=Dev. Biol. (NY) | volume=7 | pages=229–58 | year=1991 | pmid=1804215}}</ref><ref name="isbn0-19-515619-6">{{Cite book| author=Sapp J | title=Genesis: the evolution of biology | publisher=Oxford University Press | location=Oxford [Oxfordshire] | year=2003 | isbn=0-19-515619-6}}</ref><ref name="isbn0-262-65063-0">{{Cite book| author=Gray RD, Oyama S, Griffiths PE | title=Cycles of Contingency: Developmental Systems and Evolution (Life and Mind: Philosophical Issues in Biology and Psychology) | publisher=The MIT Press | location=Cambridge, Mass | year=2003 | isbn=0-262-65063-0 }}</ref>。


== 注釈および資料 ==
== 注釈および資料 ==
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{{Reflist|2}}
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'''邦文資料'''
'''日本語資料'''
* {{cite journal|和書
* {{Cite journal|和書
| title=ヒストンコード説
| title=ヒストンコード説
| author=網代廣三、[[:en:Charles David Allis|C・David Allis]]
| author=網代廣三、[[:en:Charles David Allis|C・David Allis]]
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}}
}}
* {{Cite book|和書
* {{Cite book|和書
|author = [[:en:Charles David Allis|D.アリス]]、T.ジェニュワイン、D.ラインバーグ 共編
| author=[[:en:Charles David Allis|D.アリス]]、T.ジェニュワイン、D.ラインバーグ 共編
|editor = 堀越正美 監訳
| editor=堀越正美 監訳
|title = エピジェネティクス
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|origyear = 2007
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*{{cite journal|和書
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| title=ゲノムインプリンティングとホ乳類の進化
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| author=石野史敏
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| title=遺伝子メチル化と発癌
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| author=今井浩三, 豊田実, 佐藤裕信, 篠村恭久
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| title=エピジェネティクスと生活習慣病
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| author=延山嘉眞、牛島俊和
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| year=2007 | journal=臨床化学 | volume=36 | issue=4 | pages=288-95
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| title=アレルギー疾患発症を制御するTh2細胞分化のエピジェネティクス
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| author=山下政克
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'''邦文資料(雑誌特集記事)'''
'''日本語資料(雑誌特集記事)'''
*『化学と生物』 「セミナー室・エピジェネティクスの展開」シリーズより。2012年12月5日閲覧。
*『化学と生物』 「セミナー室・エピジェネティクスの展開」シリーズより。2012年12月5日閲覧。
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| author=服部奈緒子、大鐘潤、塩田邦郎
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| title='''正誤表'''
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| title=ヒストン修飾による植物の環境応答
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| author=中園幹生、三好健太郎、松永幸大
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| title=反復配列・DNAメチル化により制御される植物の生命現象
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| author=星野敦、木下哲
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*『蛋白質 核酸 酵素』第47巻 第13号「特集・クローン動物の頻発異常とエピジェネティクス」(2002年)より。2012年12月5日閲覧。
*『蛋白質 核酸 酵素』第47巻 第13号「特集・クローン動物の頻発異常とエピジェネティクス」(2002年)より。2012年12月5日閲覧。
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| author=河野友宏、佐々木裕之、[[中辻憲夫]]
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| title=体細胞クローンマウスの異常
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| author=井上貴美子、越後貫成美、持田慶司、小倉淳郎
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| title=クローンウシにおける核の初期化と頻発異常
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| author=角田幸雄、加藤容子
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| author=下澤律浩、小野由紀子、河野友宏
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*『蛋白質 核酸 酵素』第53巻 第7号「特集・エピジェネティクスの制御機構」(2008年)より。2012年12月5日閲覧。
*『蛋白質 核酸 酵素』第53巻 第7号「特集・エピジェネティクスの制御機構」(2008年)より。2012年12月5日閲覧。
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| title=高次クロマチンの形成機構とエピジェネティック制御
| title=シロイヌナズナを用いたDNAメチル化制御機構の研究
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| title=シロイヌナズナを用いたDNAメチル化制御機構の研究
| author=佐々木卓、佐瀬英俊、角谷徹仁
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| title=植物のRNAiとエピジェネティクス
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| author=岡野陽介、三木大介、島本功
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| title=マウス胚発生におけるX染色体の不活性化と再活性化
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| author=尼川裕子、佐渡敬
| author=尼川裕子、佐渡敬
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| title=ゲノムインプリンティングと進化
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453行目: 481行目:
* '''雑誌特集記事'''
* '''雑誌特集記事'''
**『化学と生物』 「セミナー室・エピジェネティクスの展開」シリーズ[[日本農芸化学会]](本文参照外)
**『化学と生物』 「セミナー室・エピジェネティクスの展開」シリーズ[[日本農芸化学会]](本文参照外)
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| title=Noncoding RNAによるエピジェネティック制御
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| author=今村拓也
| author=今村拓也
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| year=2007 | journal=化学と生物 | volume=45 | issue=3 | pages=211-8
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| title=エピゲノム解析技術
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| author=八木慎太郎、塩田邦郎
| author=八木慎太郎、塩田邦郎
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**『蛋白質 核酸 酵素』第53巻 第7号「特集・エピジェネティクスの制御機構」(2008年)[[共立出版]](本文参照外)
**『蛋白質 核酸 酵素』第53巻 第7号「特集・エピジェネティクスの制御機構」(2008年)[[共立出版]](本文参照外)
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| title=高次クロマの形成機構とエピジェネティック制御
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| author=末武勲、田嶋正二
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| title=ゲノムインプリンティングと進化
| author=金児-石野知子、石野史敏
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* '''関連文献検索'''
* '''関連文献検索'''
** [[共立出版]]『蛋白質 核酸 酵素』オンライン閲覧可能[http://lifesciencedb.jp/pne/?phrase=%E3%82%A8%E3%83%94%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8D%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9&attr12=&attr13=2&max=50 掲載記事一覧] 2012年12月5日閲覧
** [[共立出版]]『蛋白質 核酸 酵素』オンライン閲覧可能[http://lifesciencedb.jp/pne/?phrase=%E3%82%A8%E3%83%94%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8D%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9&attr12=&attr13=2&max=50 掲載記事一覧] 2012年12月5日閲覧
544行目: 554行目:
[[ur:بالاوراثیات]]
[[ur:بالاوراثیات]]
[[zh:表觀遺傳學]]
[[zh:表觀遺傳學]]

<!-- 使用を外した文章の仮置き
{{要出典範囲|他にも[[ヒストンコード]]が低分子RNAの作用によって仲介される可能性が示唆されてきている。|date=2012年11月}}

{{要出典範囲|これらの遺伝子は非常に頻繁に[[シグナル伝達]]によって切り替え制御されているが、[[合胞体]]や[[ギャップ結合]]が重要性を持ついくつかのシステムにおいて、RNAは[[拡散]]によって他の細胞あるいは細胞核に直接広められる可能性がある。大量のRNAおよびタンパク質は、{{仮リンク|卵形成|en|oogenesis}}時の母体あるいは{{仮リンク|ナース細胞|en|nurse cell}}経由で、受精卵に影響を与えており、結果として表現型の[[母性効果]]に影響している。|date=2012年11月}}比較的少量の精子RNAが父親より伝達されるが、エピジェネティックな情報が数世代の子孫において観察可能な変化をもたらすとの近年の知見がある<ref name="choi06">{{Cite web| author= Choi CQ | title=The Scientist: RNA can be hereditary molecule | publisher = The Scientist | url=http://www.the-scientist.com/news/display/23494 | date=2006-05-25 | accessdate = 2012-11-22 }}</ref>。
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2012年12月13日 (木) 22:32時点における版

エピジェネティクス英語:epigenetics)とは、一般的には「DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域」である[1][2]。ただし、歴史的な用法や研究者による定義の違いもあり、その内容は必ずしも一致したものではない[3]

多くの生命現象に関連し、人工多能性幹細胞(iPS細胞)・胚性幹細胞(ES細胞)が多様な器官となる能力(分化能)、哺乳類クローン作成の成否と異常発生などに影響する要因(リプログラミング)、がん遺伝子疾患の発生のメカニズム、個体レベルの記憶[4]などの解明にもかかわっている。

概要

遺伝形質の発現は、セントラルドグマ[5][6]で提唱されたようにDNA複製RNA転写タンパク質への翻訳形質発現の経路により、DNAに記録されている遺伝情報表現型として実現した結果とされてきた。セントラルドグマにおける形質の変化とは、遺伝情報の変化であり、その記録媒体であるDNA塩基配列の変化が原因となっている。レトロウイルスレトロトランスポゾンによるRNAからDNAへの情報の還元という例外を含みながらも、従来の分子生物学遺伝学ではセントラルドグマに基礎においた研究が行われてきた[7]

DNAメチル化の差によって尾の形状が異なる二匹のクローンマウス[8]

しかしながら、先天的には同じ遺伝情報、つまり同じゲノム(DNA塩基配列)であっても、細胞レベルあるいは個体レベルの形質の表現型が異なる例もまれではない。

たとえば動物では、単細胞である受精卵から発生し、全能性幹細胞はさまざまな多能性細胞系列となり、さらに器官ごとに異なった細胞に分化し、それぞれの器官・細胞は異なる機能を分担している。この過程で細胞は、分化の経歴と存在する部位に依存して、ある遺伝子を抑制する一方で、他のある遺伝子は活性化している[9]。また一卵性双生児クローン動物、あるいは挿し木球根地下茎などの栄養生殖で増殖した植物でも、遺伝子型は同一にもかかわらず個体間に違いが認められることが多い。

このような例は、細胞レベルではシグナル伝達による細胞間の応答反応、個体レベルでは環境と遺伝の相互作用によって主に説明がなされていた。しかしながら、細胞がどのように経歴を「記憶」するのか、個体間の表現型の差がどのように生じるかは、遺伝子機能の面からは明らかにされていない部分があった。

クロマチン中のヒストンDNAの模式図
(右上)ヌクレオソーム構造: ヒストン八量体に巻き付いたDNA (上段) H3, H4, H2A, H2B コアヒストン単量体(モノマー) (中・下段) H3-H4テトラマーとH2A-H2Bダイマー 2個が会合し、ヒストン八量体となる。

1942年にコンラッド・H・ウォディントン英語版は、「遺伝物質からはじまり最終的な生物を形づくるすべての制御された過程」言い換えると「遺伝子が表現型を作るために周辺環境とどのように相互作用するのか」を表現するために、「エピジェネティクス」という用語を作成した[2][10]。その後、エピジェネティクスは、DNA塩基配列の変化を伴わない後天的な遺伝子制御の変化を主な対象とした研究分野となり、各種生物のゲノムの解読が進んだ2000年代以降、エピジェネティクス研究が盛んになってきている。

前述の通り「エピジェネティクス」の内容は普遍的に定義されたものではない[3]。しかしながら、狭い意味で使われる場合は、表1に示す各種の過程のうち染色体クロマチンを構成するヒストンの化学的修飾などによるクロマチンリモデリングおよびDNAメチル化による遺伝子の発現制御の変化を指す[11]

この場合、DNA塩基配列の変化つまり突然変異と、エピジェネティック(=エピジェネティクス的)制御とは独立である。それらは、同一個体内での組織の違いあるいは個体発生・細胞分化の時間軸上の違いで生じる変化である。

しかしそれらと異なり、変化した表現型が個体の世代を超えて受け継がれる「エピジェネティック遺伝」の例も見出されており、研究が進められている[12][13]。これは、ある生物におけるエピジェネティックな変化がそのDNAの基本構造を変えることができるかどうかというラマルキズム型の問題を提起する(後述のラマルキズムとの関連参照)。

表1. 具体的なエピジェネティックな過程の例(内容の一部重複および異論があるものも含む)
ヒストン構造に影響する変化(後述
DNAメチル化 DNAメチル化あるいは脱メチル化により、塩基配列情報自体には変化なく遺伝子発現のオン/オフが切り替わる
ヒストンの化学的修飾 メチル化アセチル化リン酸化などの修飾によってヌクレオソーム中のヒストンに物理化学的な変化がおき、遺伝子発現に直接的(シス型)あるいは間接的(トランス型)に影響する
クロマチンリモデリング(再構築・再構成) ヒストン修飾およびリモデリング因子の影響を受けて起きるクロマチン構造の変化
ヒストンコード英語版仮説 複数のヒストン修飾が関連しあって、特定の遺伝子発現を制御を記録(コード)しているという仮説
細胞レベルの変化(後述
細胞記憶 細胞自体が経歴・位置に依存した遺伝子発現状態を維持していること
リプログラミング 細胞(細胞核)の記憶を初期化すること(分化能を狭められた体細胞が分化能を再獲得するために必要な過程)
ゲノムインプリンティング 哺乳類などの配偶子で雄雌それぞれ特異的なDNAメチル化がなされ、受精後の個体で父性・母性の遺伝子の使い分けがなされること
X染色体の不活性化 哺乳類では性染色体であるX染色体の本数が雌雄で異なるため(雌2本・雄1本)、1本のX染色体の活性を残して他のX染色体の遺伝子発現を抑制すること
単為生殖動物のクローン化に影響する技術的限界 細胞核のリプログラミングおよびゲノムインプリンティングの解除と再設定が影響を与える
その他
位置効果英語版 遺伝子が存在する位置の上流域の構造が与える発現抑制あるいは発現活性化の効果(後述
母性効果英語版 母体の状態に依存する効果
催奇形物質の影響 催奇性物質の中にはDNA塩基配列自体の変異ではなく、エピジェネティック効果で異常をもたらすものがある(後述
発がん過程英語版 発がんには複数の遺伝子の変異が必要とされるが、その中にはエピジェネティックな発現制御が異常化した遺伝子も存在する(後述
プリオンによる遺伝制御 真菌類では突然変異発生を抑える役割を持つプリオンが存在する(後述
パラ変異英語版 特定のヘテロ接合型対立遺伝子の組が子孫の表現型に影響を与えること
トランスベクション効果英語版[解説 1]
遺伝子サイレンシング

語源・定義・派生用語

語源

1942年にウォディントンは、エピジェネティクスと言う語を「後成説(epigenesis)」と「遺伝学 (genetics)」 のかばん語として造語した。後成説は、受精卵から生物の形ができることを説明する古い学説の一つである[解説 2](歴史的背景については前成説も参照のこと)。ウォディントンが造語した1942年当時は、物質的な遺伝子の本体と遺伝におけるDNAの役割は知られていなかった[解説 3]。遺伝情報が表現型を作るために周辺環境とどのように相互作用するのかという概念のモデルとして、彼はこの造語を使った[10]。形式上からいえば、エピジェネティクスは「エピ (ギリシア語: επί 越えた, 上の, 外の)」「ジェネティクス(英語:genetics 遺伝学)」との合成と見ることもできる。

複数の定義の違い

一般的にエピジェネティクスとは、下記のリッグス(1996年)の定義のように理解されている[2]。しかしながら、いくつかの定義あるいは説明が存在し、結果として、何を意味するべきかについては議論がある[3]

  • 「遺伝物質からはじまり最終的な生物を形づくるすべての制御された過程」(ウォディントン, 1942年)[10]
  • 「同一遺伝子型の細胞が異なる表現型を細胞分裂を越えて維持していること」の説明(Nanney, 1958年)[14][15]
  • 「複雑な生物の発育中における遺伝子活性の時間的·空間的制御機構の研究」(ホリデー, 1990年)[16]
  • DNA配列の変化では説明できない体細胞分裂および/または減数分裂に伴う遺伝子機能における遺伝的な変化の研究」(リッグス, 1996年)[1][2]
  • 「変化した活性状態を記録・信号伝達または継続させるような染色体領域の構造適応」(バード, 2007年)[17]
  • 「エピジェネテックな形質とは、DNA塩基配列の変更を伴わない染色体の変化に起因する安定した遺伝性の表現型を示すもの」(Bergerら, 2009年)[18][解説 4]

ホリデー(1990年)の定義によれば、エピジェネティクスという用語は、DNA配列以外の生物の発育に影響を与えるものを記述するために使用できることになる。必ずしも遺伝(細胞分裂前の状態を分裂後にも継承)するわけではないヒストン修飾を定義に含め、「遺伝性」という条件を回避したバード(2007年)のような定義も存在する。バードによる定義は、複数細胞世代にわたる安定した変化だけではなくDNA修復または細胞周期相に関連した一時的変更をも含めるものであるが、他方では膜構造およびプリオンなどに関するものを、それらが染色体機能に影響しない限り排除している。そのような再定義は普遍的には受け入れられていないため、エピジェネティクスの定義は依然として論争の対象となっている[3]

派生用語

「遺伝学」への単語の類似性は多くの対応した用語を生み出している。「エピゲノム」は「ゲノム」に対応した単語であり、細胞の全体的なエピジェネティックな状態をいう[解説 5]遺伝暗号(遺伝コード)に対応した用語「エピジェネティックコード」は、異なる細胞において異なる表現型を作り出す一連のエピジェネティックな機能を意味する。

発生・分化とのかかわり

エピジェネティックな変化、特にDNAメチル化とクロマチンリモデリングを通しての細胞状態の継承は、多細胞真核生物の発生において非常に重要である。いくつかの例外を除いてゲノムのDNA塩基配列自体は変化しないが、細胞は異なる種類へと分化し、異なる機能を実行し、環境あるいは細胞間のシグナルに対して異なる反応をする。個体が発生するとき、形態形成因子は、エピジェネティックな方法で細胞に「記憶」を与えながら、遺伝子を活性化あるいは不活性化する[9]

プラナリアヒトデ類のように断片から個体を再生できる動物もいる一方で、哺乳類のように分化後の細胞は分化能を失う動物もある。分化能の消失は、細胞の経歴を反映したエピジェネティックな変化である。植物は、動物と同じようにクロマチンリモデリングなどのエピジェネティックなメカニズムを多く利用している[19][20][21][22]。しかし、植物細胞は哺乳類などとは異なり、分化後の組織も全能性を維持している。このことから、ある種の植物細胞は、環境および細胞を取り巻く位置情報を用いて、それまでの細胞記憶を使わないように切り替えができるという仮説を提示する研究者もいる[23]

哺乳類の発生と分化能

哺乳類の発生に関わるエピジェネティックな機構の代表例として、X染色体の不活性化ゲノムインプリンティングおよびリプログラミング(初期化・再プログラム化)による分化能の再獲得が挙げられる。

X染色体の不活性化
哺乳類では、性染色体であるX染色体の本数が雌雄で異なる(雌2本・雄1本)。雄では1本のX染色体のみで生存に必要な遺伝子発現をまかなっているが、雌では発生初期に2本のX染色体の双方から過剰に遺伝子が発現すると着床直後に死に至る[24]。これを避ける遺伝子量補償として、2本以上のX染色体を持つ個体は[解説 6]、1本のX染色体の活性を残して他のX染色体の遺伝子発現を抑制する[25]。このとき不活性化される染色体は条件的ヘテロクロマチンとなり、分裂期でなくとも顕微鏡観察可能な形態をとる(バー小体)。X染色体の不活性化では、エピジェネティックな機構としてDNAメチル化 [24]、ヒストン修飾(H3K27トリメチル化ほか)、特異的な非翻訳性RNA(Xist)の転写および染色体への結合[25]が同時に関与している。
ゲノムインプリンティング
哺乳類では、配偶子形成の過程で雄雌の性別に従った特異的なDNAメチル化がおきる。このDNAメチル化は配偶子ゲノムから受精卵に引き継がれ、受精後の個体で父性・母性の遺伝子の使い分けがなされる。雌雄それぞれのプリンティングを受ける遺伝子は、同じ染色体領域に集中かつ偏在し、クラスターを形成している[24]。遺伝子がインプリンティングされる意義については解明されていないが[26]、胚発生時に雌雄双方の遺伝子が必要になる。そのため哺乳類では自然条件下での単為生殖が不可能となっている[26]。なお、インプリンティング状態を人為操作することによって、雌ゲノムのみから単為発生したマウスが作成されている[27]
クローン羊ドリー
核移植クローンとリプログラミング
両生類においては、1950年代には胚細胞の核を、1960年代には体細胞の核を除核卵に移植して発生させクローン個体を得ることができていた[28][29]。これらでは移植により細胞核がリプログラムされることを示している[30]。一方、哺乳類でも核移植クローンの作成が試みられたが、1980年代に行われた生殖細胞の核の移植では発生が停止することが示され、それがゲノムインプリンティング機構の発見につながった[28]。1997年には体細胞核移植によるクローン羊ドリーの誕生が報告され、その後は他の哺乳類でも体細胞クローン個体作成が相次いだ。しかしながら、体細胞クローンは個体作成効率も数パーセント以下と低く、誕生したクローン個体に異常が観察されることが問題視されている[31][32][33]。また、胚性幹細胞(ES細胞)由来のESクローンにおいても表現型異常が観察されている[34]。このようなクローン個体の表現型異常の多くは、有性生殖によって後代に伝えられない、つまり生殖細胞でのリプログラミングが起きることから、主にエピジェネティックな要因によるものと考えられている[34][35]。体細胞クローンではインプリンティング部分以外のリプログラミング不全が個体異常を起こしており、ESクローンの場合はゲノムインプリンティングの不具合により個体の異常が起きるものと考えられている[36]
人工多能性幹細胞でのリプログラミング
再生医療において人工多能性幹細胞(iPS細胞)・胚性幹細胞などを利用した器官回復が研究されている。体細胞由来のiPS細胞は、エピジェネティクス的に見ると、数種類の遺伝子の導入による人為的リプログラミングによって分化万能性を復元させた細胞である[37]

進化・適応とのかかわり

表現型可塑性と適応

エピゲノム的制御は、表現型の進化および可塑性など進化生物学の中心的になる過程に関連している[38]。エピジェネティックな機構は進化過程でもたらされてきたものである[39]。現在の多細胞生物における発生過程でのエピジェネティックな緩衝作用は、生物集団内に表現型の高い可塑性を維持する機能も持っている[38]。生物集団が遺伝的多様性と同時に表現型の可塑性を保持していることが適応性に影響していることが指摘されている[38]

一般的には多細胞生物におけるエピジェネティック修飾は、有性生殖の際に初期化(リプログラム)され、次世代での発生・組織分化や環境に対応して発動する遺伝子制御機構である。しかしながら、トウモロコシにおけるパラ変異[12]マウスアグーチ遺伝子英語版[40][41]のように世代間で表現型が引き継がれるエピジェネティック遺伝の観察例も存在する。このような多世代間の表現型継承は数世代を経過すると観察されなくなる場合もあるが[12]、適応的であり適応度向上に働いている[42]

ラマルキズムとの関連

エピジェネティクスはラマルキズム(用不用説ネオ・ラマルキズム)の再来とされる場合もあるが、注意が必要である。留意するべきは、エピジェネティックな表現型変化はDNA塩基の突然変異とは関係ないが、エピジェネティクス機構そのものは遺伝子の制御の下にあると言うことである。さらに根源的なこととして、自然淘汰による進化は、表現型変異がDNA変異に支配されているか支配されていないかということと無関係であるということである[38]。以上の2点を言い換えると、エピジェネティックな表現型に対して自然淘汰がおきる可能性はあるが、その結果として残るのはその表現型をもたらした機構を支配する遺伝子型であると言うことである。エピジェネティクスの解明は、進化発生生物学にとって重要で想定外の貢献につながるかもしれない。そしてそれは、現代の進化論の進展になることはあっても、根本からの転覆とはなりえない[38]。だたし生物集団でのエピジェニックな効果が、進化生物学において単なる微調整あるいは大幅な見直しのどちらをもたらすのかという検討課題は残されている[38]

突然変異の抑制と蓄積

多くの生物でエピジェネティックな機構はゲノムDNA塩基配列の保守機能を果たす[43]。たとえば、真正細菌における自己DNAメチル化と制限酵素による防御は良く知られた例であり、DNAメチル化を利用したDNAミスマッチ修復も例に挙げられる[44]真核生物においては、アカパンカビ線虫キイロショウジョウバエシロイヌナズナなど各モデル生物において、ゲノムDNAを防衛するエピジェミックな機構の研究がなされている[43]。これらの機能はゲノムの有害な突然変異を抑えるという点では有用であるが、反面、ゲノムの分子進化の元となる突然変異の発生を抑える働きがあるため、結果として進化の速度に影響を与える。生物集団レベルにおける表現型可塑性もまた、遺伝的変異を伴わずに適応性向上をもたらすことから、進化の可能性に負の影響を与えるものと推定されている[38]

他方では、哺乳類真獣類に特異的なDNAメチル化酵素(Dnmt3L)の獲得[45]や被子植物の異質倍数体での遺伝子サイレンシング[38]など一部のエピジェネティック機構は、潜在的な遺伝子変異を蓄積する可能性があるため進化を促進する可能性を持つことも指摘されている。

医学とのかかわり

エピジェネティクス的な過程は、DNA・RNA・タンパク質の各段階において作用するので、医学的応用において多くの潜在的な可能性を持っている[46]。1989年にゲノムインプリンティング片親性ダイソミーによって先天性遺伝子疾患(いわゆる遺伝病)に影響している例が報告され、エピジェネティックな機構と疾患とが初めて直接関連付けられた[47]。その後、クロマチンの遺伝子制御異常を通して影響するレット症候群などの遺伝子疾患についても研究が進められている[48]。他方で後天的な要因も影響するがん[49][50]、アレルギー疾患[51][52]、肥満[53][54]などとのかかわりについても研究がなされている。それらの中には一卵性双生児を対象とした研究から得られた知見も数多い[55][56][57]

インプリンティング関連疾患

いくつかのヒト疾患はゲノムインプリンティングと関連しており[58]、最もよく知られている例はアンジェルマン症候群プラダー・ウィリー症候群である。両者は、同じ遺伝的変異(15番染色体長腕(15q)の部分欠失あるいは片親性ダイソミー)よって引き起こされるものであり、変異が両親のどちらから由来したかに依存して発症する疾患である[59][60]。これらは15q染色体領域にインプリンティングが存在し、両症候群に関与する遺伝子構成がヘミ接合型英語版[解説 7]であるので、通常とは異なって父性あるいは母性の1種類の対立遺伝子で支配される。他にもゲノムインプリンティングの異常と関連が指摘されているベックウィズ・ヴィーデマン症候群英語版(11番染色体領域, 11p15.5)やシルバー・ラッセル症候群などの疾患があり[61]、3番・19番染色体を除く常染色体での片親性ダイソミーが知られている[47]

がんと催奇性物質

催奇性との関連

がん発生を増加させる多くの物質が、エピジェネティックな発がん性物質として考えられているが、それらは変異原としての活性を持たない。例としては、ジエチルスチルベストロールオルト亜ヒ酸イオンヘキサクロロベンゼンニッケル化合物が含まれる。

多くの催奇形物質はエピジェネティックなメカニズムにより胎児への特異的効果を発揮する[62][63]。エピジェネティックな効果は、影響を受けた子どもの生涯を通して催奇形性物質の効果を維持するかもしれない。しかし、母親でなく父親が暴露した場合の影響、影響を受けた胎児の次の胎児への直接の影響、およびエピジェネティックな効果が観察された個体の子孫への影響などは、一般的には理論的な根拠および実例の欠如によって否定されている[64]

がんにおけるDNAメチル化

DNAメチル化は遺伝子転写の重要な調節要因であり、ヒトの多くの悪性腫瘍では正常組織とは異なった過剰メチル化あるいは低メチル化が見つかっている。低メチル化は、ゲノムの広い範囲で観察され、ゲノム・染色体の不安定化を通じて発がんに影響しているものと考えられている[49][50]。また、脱メチル化がインプリント遺伝子IGFのインプリンティング解除に働き、不活性状態から活性化されることによって大腸がんの発生に関与していることが判明している[49]

低メチル化と逆の現象である過剰メチル化は、主にがん抑制遺伝子プロモーター領域のCpGアイランドのメチル化を通して発がんに関与する。この過剰メチル化パターンは細胞分裂において高い精度で娘細胞に継承されるものであり、メチル化されたプロモーター領域はがん抑制遺伝子の転写レベルでの抑制(遺伝子サイレンシング)をもたらす。このような遺伝子サイレンシングを受けるがん抑制遺伝子は複数あり、それぞれが各種のがんと関連している[65][66]

がん組織のヒストン

各ヒストンタンパク質にはバリアントと呼ばれる構造が異なる変異体が存在する。それらは同一ヒストンファミリーのバリアントが入れ替わることで、クロマチン構造を変え、特異的な核内プロセスを制御する重要な役割を持つ。H2AファミリーのバリアントH2A.Xは、DNAのダメージを監視し、DNA修復タンパク質のリクルートを促進して、ゲノムの保全に働いている。別のバリアントH2A.Zは、遺伝子の活性化および抑制の双方で重要な役割を持つ。高レベルのH2A.Z発現は、多くのがんで広範に検出され、細胞増殖とゲノムの不安定性とに非常に関連している[67]

がんにおいて特異的なヒストンの化学修飾も観察される[68]。がん抑制遺伝子プロモーターのCpGアイランドDNAメチル化は、ヒストン脱アセチル化酵素をリクルートすることで当該がん抑制遺伝子の発現を抑制する[69]

がん治療

エピジェネティックな医薬品は、放射線療法化学療法など現在受け入れられている治療法に対して、置き換え可能あるいは補助的な療法であるかもしれないし、現在の治療法の効果を高めることができるかもしれないということを、近年の研究は示している[70]。ヒストン構造変化によるエピジェネティックな制御が、がんの形成と進行に影響するということが示されてきた[71]

主にヒストンアセチル基転位酵素(HAT)英語版 とヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)に焦点を当てて医薬品開発が進められている[72]。HDACは口腔扁平上皮がんの進行に不可欠な役割を果たすことが示されており[71]、HDAC阻害剤である医薬品ボリノスタットは既に実用化がなされている[73]

各種生物におけるエピジェネティクス

真正細菌

真正細菌は、DNA-タンパク質相互作用のエピジェネティックな制御のため、複製後のDNAメチル化を広く利用する。真正細菌はエピジェネティックな信号として、DNAのシトシンのメチル化よりむしろ、DNAのアデニンのメチル化を利用する。DNAアデニンメチル化は、大腸菌サルモネラ属ビブリオ属エルシニア属ヘモフィルス属ブルセラ属などの生物体内の細菌の病原性で重要となる。アルファプロテオバクテリア英語版では、アデニンのメチル化は、細胞周期を制御し、DNA複製遺伝子転写とを同伴させる。ガンマプロテオバクテリア英語版では、アデニンメチル化は、DNA複製・遺伝担体分離・DNAミスマッチ修復バクテリオファージのパッケージング・転位酵素活性・遺伝子発現制御のための信号を提供する[44][74]

真菌

糸状菌アカパンカビは、シトシンメチル化の制御と機能を理解するのに重要なモデル系である。この生物では、DNAメチル化は、RIP(反復配列誘発性点突然変異)と呼ばれるゲノム防御システムと関連しており、転写伸長を阻害することにより遺伝子発現を抑制している[43][75]出芽酵母分裂酵母もまた、エピジェネティクス研究における真核生物のモデル生物としての地位を得ている。出芽酵母はユークロマチン領域における遺伝子発現やヘテロクロマチン構造をとるテロメアのエピジェネティクス研究で良く用いられている[76]。他方、分裂酵母は、セントロメア領域のヘテロクロマチン構造およびDNAメチル化・ヒストン修飾・RNA干渉・遺伝子サイレンシングなどのモデル生物として研究がなされている[77]

酵母プリオンPSIは、翻訳終結因子の立体構造の変化によって生成され、その後、娘細胞に継承される。これは悪条件下で生存の優位性を提供することができ、単細胞生物が環境ストレスに迅速に対応できるようにするエピジェネティック制御の一例である。プリオンは、ゲノムの変更なしで表現型の変化を誘導することができるエピジェネティックな作用物質としてみなすことができる[74]

線虫

線虫Caenorhabditis elegansでは、細胞可塑性(分化能)とリプログラミング[78]・遺伝子量補償・トランスポゾンに対する遺伝子サイレンシングが調べられている。C. elegansの遺伝子量補償は、哺乳類と違って2本のX染色体双方の発現量を半減させることで調節されている[79]。またC. elegansは、他の動物には存在するDNAメチル化酵素dmnt-2を進化の過程で失っているが、より祖先型に近い遺伝子を利用したRNA干渉によって遺伝子サイレンシングを行っていることが示唆されている[80]

キイロショウジョウバエ

キイロショウジョウバエにおいては、1941年に遺伝学者ハーマン・J・マラーヘテロクロマチン近傍に逆位転座した眼色の遺伝子が発現抑制を受けることを報告した(位置効果による斑入り, PEV)[14]。これはエピジェネティクスという用語が作成される以前に報告されたものであるが、現在ではこの分野の端緒の一つであると考えられている。PEVは遺伝子サイレンシングの一例であり、同様のヘテロクロマチン構造の影響による遺伝子発現抑制は出芽酵母でも見出されている[81]。PEVは、ヘテロクロマチン部位との位置関係だけではなく、温度・過剰な染色体の存在・被抑制遺伝子の塩基配列などに影響を受ける確率的なものであり、より直接的にはヘテロクロマチン化に働く因子やヒストン修飾と関連があることが示されている[82]。また、キイロショウジョウバエは、多くの生物で見られるCpGでのDNAメチル化の頻度が低く、識別できるメチル化酵素としてはDnmt2のみしかない。この現象についての議論には結論はまだ出ていない[82]

メカニズム

細胞記憶として知られるようになった役割を果たす数種類のエピジェネティックな遺伝機構がある[83]。しかしながら、前述の定義の不一致により、下記に示すすべてがエピジェネティクスの例として、普遍的に受け入れられている訳ではない。

DNAメチル化とクロマチンリモデリング

細胞または個体の表現型は、その遺伝子が転写された状態の影響を受ける。遺伝子の転写状態が細胞間や個体間で引き継がれるならば、エピジェネティックな効果を生じることになる。遺伝子発現の調節にはいくつかの階層がある。遺伝子を調節する一つの方法は、クロマチンリモデリング(再構築・再構成)を介して行われる。クロマチンは、ヒストンにDNAが巻き付いた複合体である。もしDNAがヒストンに巻き付いている状態が変われば、クロマチンリモデリングがおき、遺伝子発現もまた変化する。クロマチンリモデリングは主に二つのメカニズムを通して達成される:

  1. 第1の方法はヒストンを構成するアミノ酸の翻訳後修飾である。ヒストンはアミノ酸の長い鎖で構成されている。その鎖の中のアミノ酸が変化すれば、ヒストンの形状が変化することがある。DNAは複製の間、完全に巻き付いているわけではない。複製前には非修飾のヒストンと会合していたDNAでも、複製後は修飾されたヒストンに会合して新たなクロマチン構造をとることができる。これら修飾されたヒストンは、細胞が分化状態を維持して、幹細胞に戻らないことを確実にする。
  2. 第2の方法は、DNAへのメチル基付加であり、おもにCpG部位英語版におけるシトシンから5-メチルシトシンへの変換による。5-メチルシトシンはグアニンと対を作る際に、通常のシトシンとほぼ同様に行動する。しかし、ゲノムの一部領域は他領域よりも高度にメチル化され、その領域は転写活性がより低下する傾向がある。哺乳類では、シトシンのメチル化により、雌雄どちらの親からの遺伝であるかを染色体に標識し、その標識が生殖細胞系列から接合子(受精卵)に引き継がれる(ゲノムインプリンティング)。

細胞がDNAメチル化で分化を維持する方法は、それがヒストン形状(翻訳後修飾)で分化を維持する場合よりも判りやすい。基本的に特定の酵素(例えばDNAメチル基転移酵素 DNMT1英語版など)がメチル化されたシトシンに対して高い親和性を持っている。この酵素はDNAの「ヘミメチル(メチルシトシンが2本鎖DNAの片方だけ)」の部分に到達した場合、その酵素はもう片方のDNA鎖をメチル化する。

ヌクレオソーム拡大図
ヌクレオソーム周縁部にヒストンのN末端(ヒストンテール)が出ていることに注意。テール部分に化学修飾が起きると遺伝子転写制御に変化が起きることがある。

ヒストン修飾は、アミノ酸配列全体を通して発生するが、構造化されていないヒストンのN末端(ヒストンテールと呼ばれる)が特に高頻度で修飾される(左図)。これらの修飾には、アセチル化メチル化ユビキチン化リン酸化およびSUMO化が含まれる。アセチル化は、これらの修飾で最もよく研究されている。たとえば、ヒストンアセチル基転移酵素(HAT)によるヒストンH3のテールのK9とK14のリジン[解説 8]のアセチル化は、一般的に転写能力と相関している(表2)。

アセチル化が「活発な」転写と関係するというのは、生物物理学的に妥当であると考えられている。ヒストンは通常は末端で正に帯電した窒素をもち、DNA骨格の負に帯電したリン酸基とリジンが結合できる。アセチル化は、ヒストンの正に帯電したアミン基を置換する。これは正の荷電を除去し、ヒストンからDNAを解離させる。これが発生すると、SWI/SNF様複合体や他の転写因子は、転写が起きるようにDNAに接近することができるようになる。これがエピジェネティックな機能の「シス」モデルである。言い換えれば、ヒストンテールの変化はDNAからRNAへの転写に直接影響を及ぼす。

エピジェネティックな機能のもう一つのモデルは「トランス」モデルである。このモデルでは、ヒストンテールへの変更は、DNAに間接的に作用する。たとえばリジンのアセチル化は、クロマチン修飾酵素や基本的な転写機構との結合部位を作成することがある。

表2. ヒストン修飾による遺伝子発現制御の例
修飾の種類 ヒストン / 被修飾アミノ酸残基[解説 8]
H3 H4 H2B
H3K4 H3K9 H3K14 H3K27 H3K79 H4K20 H2BK5
モノメチル化 活性化[84] 活性化[85] 活性化[85] 活性化[85][86] 活性化[85] 活性化[85]
ジメチル化 抑制[87] 抑制[87] 活性化[86]
トリメチル化 活性化[88] 抑制[85] 抑制[85] 活性化[86]
抑制[85]
抑制[87]
アセチル化 活性化[88] 活性化[88]

修飾が関連因子のための結合モジュールとして作用するという考え方は、ヒストンのメチル化により裏付けされている。ヒストンH3リジンK9のメチル化は、長い間、恒常的な転写不活性クロマチン(構造的ヘテロクロマチン)と関連付けられてきた。転写抑圧的なタンパク質HP1におけるクロモドメイン(メチル-リジン特異的結合ドメイン)が、K9メチル化領域にHP1を導くことが明らかにされてきた。メチル化に対するこの生物物理学的モデルに反論するように見える一例は、リジンK4におけるヒストンH3のトリメチル化が強く転写活性化に関連付けられていることである(完全な活性化に必要)。この例ではトリメチル化は、固定された正電荷をヒストンテールに導入するであろう。

ヒストンリジンメチル基転位酵素(KMT)は、ヒストンH3およびH4のパターンでこのメチル化活性を担っていることが示されている。この酵素はSETドメイン(Suppressor of variegation, Enhancer of zeste, Trithorax)と呼ばれる触媒活性部位を利用している。SETドメインは遺伝子活性の調整に関与する130アミノ酸配列である。このドメインはヒストンテールに結合し、ヒストンのメチル化を引き起こすことが示されている[89]

異なるヒストン修飾は異なる方法で機能するようである。あるポジションでのアセチル化は、異なるポジションでのアセチル化と異なって機能しているようである。また、同時に複数の修飾が起きているようであり、これらの修飾はヌクレオソームの挙動を変えるのに共同して作用しているようである。体系的で再現性のある方法による複数の動的な修飾による遺伝子制御の概念は、ヒストンコード英語版仮説と呼ばれる[90][91]

DNAメチル化は、反復配列にしばしば発生し、トランスポゾンの発現および移動性を抑制するのに役に立っている[92]5-メチルシトシンチミジンへと自発的に脱アミノ化(酸素による窒素の置換)するので、メチル化されていないままであるCpGアイランドを除いては、CpG部位は頻繁に変異しゲノム中の頻度が減る。このタイプのエピジェネティックな変化は、恒久的な遺伝的変異の頻度を直接増やすポテンシャルがある。DNAメチル化パターンは、少なくとも3つの独立したDNAメチル基転位酵素(DNMT1, DNMT3A, DNMT3B, マウスにおいてはどれか一つの欠失でも致死[93])の複雑な相互作用によって、環境要因に反応して採用され変更されることが知られている。DNMT1は体細胞の中で最も豊富なメチル基転位酵素であり[94]DNA複製部位に局在し[95]、ヘミメチル化されたDNAでは10-40倍の指向性を持ち、増殖細胞核抗原 (PCNA)と相互作用する[96]

ヘミメチル化DNAを優先的に修飾することにより、DNMT1はDNA複製後に新しく合成された鎖にメチル化のパターンを移す。そのためDNMT1は、しばしば「保守」メチル基転位酵素と呼ばれる[97]。DNMT1は、適切な胚発生・刷り込みおよびX染色体不活性化のために不可欠である[93][98]

ヒストンH3とH4はまた、ヒストンリジン脱メチル化酵素(KDM)英語版を使用した脱メチル化を介して操作されうる。この最近同定された酵素は、十文字ドメイン(JmjC)と呼ばれる触媒活性部位を持っている。十文字ドメインが複数の補因子を使ってメチル基をヒドロキシル化して除去したとき、脱メチル化が起きる。十文字ドメインは、メチル基を1-3個持つ基質を脱メチル化することが可能である[99]

染色体領域は、DNA配列を変えることなく、安定した遺伝する二者択一の状態をとることができ、結果として二つの安定した状態で遺伝子発現が可能となる[87]。エピジェネティックな制御はしばしば、ヒストンの二者択一である共有結合修飾と連携している。広範囲の染色体領域の安定性と遺伝性は、正のフィードバックを伴い、そこでは修飾されたヌクレオソームが近くのヌクレオソームを同様に修飾する酵素を採用すると、しばしば考えられている。

RNAによる制御

非翻訳性RNAについての近年の発見と評価によれば、エピジェネティックな遺伝子制御に関わるであろうRNAが存在することが示唆されている[100]。また、低分子干渉RNAの中には、標的となるプロモーターのエピジェネティック調節を経由して、転写レベルの遺伝子発現を調節するものがある[101]

遺伝子は転写可能になった後に、その遺伝子自身の転写活性にフィードバックするRNAを転写することがある。たとえば、Hnf4およびMyoDは、それらがコードするタンパク質の転写因子活性を通して、自分自身を含めた多くの肝臓や筋肉特異的遺伝子の転写をそれぞれ促進する。その他のエピジェネティックな変化は、異なるスプライシング型のRNAの生成あるいは二本鎖RNAの形成(RNA干渉)によって仲介される。遺伝子が転写可能にされた細胞の子孫は、遺伝子活性化の元になった刺激が存在しなくなった後でさえも、この活性を継承する。

プリオン

プリオン感染可能なタンパク質の形態である。一般に、タンパク質は異なる細胞機能を受け持つ立体構造をとる。一部のタンパク質は、複数の立体構造をとるように変化でき、その一例としてプリオンがある。プリオンは多くの場合、感染症(伝達性海綿状脳症)の関連で言及される。しかしながら、より一般的には、同じアミノ酸配列のタンパク質を自然状態から感染性立体構造へ触媒的に変換するタンパク質をプリオンと定義する。この後者の意味合いにおいてプリオンは、ゲノムを変更せず表現型の変化を誘導することができるエピジェネティックな媒介物と見ることができる[102]

菌類のプリオン英語版は、引き起こされる感染性表現型がゲノムの変更なく継承されるため、エピジェネティクス的と考えられている。1965年と1971年に出芽酵母で発見されたPSI+英語版とURE3は、二つの最も研究されているこのタイプのプリオンである[103][104]。プリオンは、凝集中のタンパク質の表現型を転換させる効果を持つことができ、オリジナル型のタンパク質の活性を低下させる。PSI+細胞では、(翻訳の終結に関与している PSI+の正常型タンパク質)Sup35pの消失が、リボソームの高率の終止コドンの読み飛ばしと他の遺伝子のナンセンス突然変異の抑制をする効果を引き起こす[105]。Sup35がプリオンを形成する能力は、進化的に保存された形質かもしれない。これは、PSI+状態に切り替え、早期終止コドン変異させ、通常は機能していない遺伝的特徴を発現させる適応的優位性を酵母に与えている可能性がある[106][107]

構造の継承

テトラヒメナゾウリムシといった繊毛虫では、遺伝的に同一な細胞が、細胞表面の繊毛の並びのパターンの継承される違いを示す。実験的に変えられたパターンは娘細胞に伝達されうる[108]。既存の構造は新しい細胞構造のテンプレートとして機能するようである。このような継承のメカニズムは不明であるが、理由として想定されるのは、多細胞生物にもある新しい構造を作るために既存の細胞構造を利用することである[109][110][111]

注釈および資料

解説

  1. ^ ライフサイエンス辞書トランスベクション効果http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/cgi-bin/lsdproj/ejlookup04.pl?opt=c&query=transvection。"相同染色体がペアリングした際に片側のエンハンサーが反対側の対立遺伝子の転写を活性化すること"。 
  2. ^ オックスフォード英語辞典によれば :
    W. HarveyによりExercitationes (1651年) 148ページおよびEnglish Anatomical Exercitations (1653年) 272ページで使われている。その単語は、「あるものの外側に出芽して加わった部分 “Ipartium super-exorientium additamentum”」の意味を説明していた。
    また、同辞典の解説も有用であるので引用する:
    「後成説」 生殖の過程において、生育のみだけではなく連続した付加によって胚(幼生物)が存在するようになるという理論。(中略) 対立する説は以前は「進展理論 “theory of evolution”」として知られていたが、あいまいさを避けるため、現在では主に「前成説」、ときには「箱詰め」理論あるいは「入れ子」理論として語られる。
  3. ^ オズワルド・アベリーらの肺炎球菌形質転換の実験で、DNAが遺伝情報を担う物質であることが示唆されたのは1944年である。
  4. ^ 2008年12月にコールド・スプリング・ハーバー研究所主催で開催された「染色体に基礎を置いたエピジェネティクス定義」に関する会議の取りまとめ。減数分裂・体細胞分裂を経由しての表現型の継承性を含めた定義[18]
  5. ^ ライフサイエンス辞書『エピゲノムhttp://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/cgi-bin/lsdproj/ejlookup04.pl?opt=c&query=epigenome。"DNAメチル化等による生後の染色体機能変化"。 
  6. ^ 通常はXX個体は雌である。しかし、XXYのように過剰なX染色体を持つ雄および雌も過剰なX染色体を不活性化する。特に有名なものは三毛猫の雄の例である。
  7. ^ ライフサイエンス辞書『ヘミ接合性・半接合性http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/cgi-bin/lsdproj/ejlookup04.pl?opt=c&query=hemizygous。"二倍体中に対をなさない染色体がある状態"。 
  8. ^ a b ヒストンH3のアミノ酸配列(一次構造)のN末端から9番目、14番目のリジン(Kはリジン残基のアルファベット1文字表記)H3K9, H3K14のように表記する。他のヒストンタンパク質とアミノ酸残基組み合せでも同様の表記を用いる。

脚注

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日本語資料

日本語資料(雑誌特集記事)

関連項目

外部リンク