翻訳 (生物学)

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分子生物学などにおいては、翻訳(ほんやく、Translation)とは、mRNAの情報に基づいて、タンパク質を合成する反応を指す。本来は細胞内での反応を指すが、細胞によらずに同様の反応を引き起こす系(無細胞翻訳系)も開発されている。

概説[編集]

翻訳は細胞が最も多くエネルギーを使うことの一つである[要出典]。盛んに増殖する細胞内では、細胞内の全エネルギーの80%と、乾燥重量で50%にのぼる物質がタンパク質合成に関与している[要出典]。1タンパク質合成のためには、100を超えるタンパク質とmRNAが調和して働くことが必要である[要出典]

翻訳に到るまでの道のり[編集]

生物の遺伝子がもっている情報は、DNA塩基配列の形で細胞内に保持されているが、その情報の一部は生体内で合成されるべきタンパク質アミノ酸配列を規定したものである。DNAのもつ情報は転写と呼ばれる過程によってまずmRNAの形に変換される。そして、mRNAのもつ塩基配列情報に則して、リボソーム内でアミノ酸が重合しポリペプチド鎖が生合成される。このポリペプチド(タンパク質)の合成過程が翻訳と呼ばれる[要出典]

翻訳に重要な構成要素[編集]

  1. mRNA:これにはDNAから転写した翻訳に必要な情報があり、3ヌクレオチド単位(コドンと呼ぶ)で一つのアミノ酸を指定する。
  2. tRNA:mRNAのコドンと、ポリペプチドに付加されるアミノ酸とをつなぐアダプターとなる分子。アミノアシルtRNAはtRNAの3'末端にアミノ酸が結合したもの。
  3. アミノアシルtRNA合成酵素:アミノ酸と、各アミノ酸に対応する特異的tRNAを結合させる。
  4. リボソーム:タンパク質の合成はリボソームで行われる。mRNAのコドンに対応するtRNAを引きよせ、アミノ酸を伸長中のポリペプチド鎖に結合させる。リボソームは2つのサブユニットからなる。内部には
    • A部位:アミノアシルtRNAの結合
    • P部位:ペプチド結合の形成とtRNAの離脱
    • E部位:ポリペプチド鎖から解放されたtRNAの結合

という3つのtRNA結合部位が存在し、リボソームがmRNA上を5'→3'方向に動いてアミノアシルtRNAがA部位→P部位と入れ替わる反応の際に、ポリペプチド鎖が伸長されていく。

細菌の翻訳[編集]

翻訳に関する機構も転写と同様、大腸菌が基本的なフォーマットになっている。真核生物古細菌における翻訳も基本は同じだが細部が異なる。翻訳には以下の3ステップが存在する。

  1. 開始:リボソームにmRNAが捕まる。mRNA上の開始コドン(一般的にはAUG)に対応するtRNAがリボソーム上でmRNAと水素結合で対応する。
  2. 伸長:mRNAのコドンに対応するアミノ酸が次々とペプチド結合で結合される。
  3. 終結:mRNAのストップコドンに至ると、開放因子と呼ばれるタンパク質がやってきて転写は終了し、ポリペプチド鎖がリボソームから開放される。合成されたポリペプチド鎖は、シャペロン分子などの助けを借りて折り畳まれた構造をとることや、切断・付加などの翻訳後修飾を受けることがタンパク質の正常な機能には必要となる。

個々のステップの詳細については以下に述べる。

翻訳開始[編集]

大腸菌の翻訳開始はリボソームがサブユニットに解離して、mRNAにリボソーム小サブユニット (30S) (Sはスベドベリ (Svedberg) の略で、遠心器にかけたときの沈降速度を表す単位である。Sの値が大きいほど沈降速度は速い)が結合することから始まる。mRNAのリボソーム結合部位は『Shine-Dalgarno配列』としてよく知られており、その配列は以下の通りである。

  • 5'-AGGAGGU-3'

この配列と16S rRNAが塩基対を形成して、リボソーム小サブユニットが結合できるようになると考えられている。Shine-Dalgarno配列は絶対的なものではなく、比較的似た配列でも認識される

Shine-Dalgarno配列に結合したリボソーム小サブユニットは遺伝子の開始コドン(AUG:メチオニンに該当)までmRNA上を移動し、メチオニン-tRNAが開始コドンに結合する。大腸菌の開始コドンに使用されるメチオニンは、水素原子の部分がホルミル化(-COH基が結合)してN-ホルミルメチオニン (N-formylmethionine) となる。このアミノ酸がついた開始tRNAをfMet-tRNAifMetで表す。

mRNA、リボソーム小サブユニット、fMet-tRNAifMetの結合した複合体を開始複合体と呼ぶ。なお、これらの反応は、翻訳開始因子 (translation initiation factor) (IF1,2,3) というタンパク質によって触媒される。翻訳開始の最終段階、つまりポリペプチド鎖が形成される直前にリボソーム大サブユニット (50S) が開始複合体に結合する(その際、グアノシン三リン酸のリン酸が外れて、エネルギーを供給する)。この時に、翻訳の反応が可能になる70Sリボソームとなる。

大サブユニットが会合した際、Shine-Dalgarno配列と開始コドンの絶妙な距離により、先に述べたリボソームのP部位に開始コドン(およびそこに結合したホルミルメチオニン-tRNA)が来るようになる。なお、開始コドンが理想的な距離からずれた場合、翻訳速度が遅くなってしまう。

細菌の翻訳開始因子[編集]

リボソーム小サブユニットから始まる、細菌の翻訳に関する反応は、先に述べたとおりIF1、IF2、IF3という3つの翻訳開始因子が触媒する。

  • IF1:小サブユニットのA部位にtRNAが結合しないようにする。小サブユニットのゆくゆくA部位の一部になる部位に直接結合する。
  • IF2GTPアーゼ(グアノシン三リン酸 (GTP) に結合し加水分解する酵素)の一種。小サブユニット、IF1、fMet-tRNAifMetと相互作用して、次のステップであるfMet-tRNAifMetと小サブユニットの結合を手助けし、ほかのアミノアシルtRNAが結合するのを防ぐ。IF1に結合する。fMet-tRNAifMetと接触できるようにA部位からP部位まで伸びる。大サブユニット結合時にGTPを加水分解し、IF1とともに遊離する。
  • IF3:小サブユニットと大サブユニットの会合や、小サブユニットとアミノアシルtRNAの結合を防ぐ。また翻訳サイクルの終わりに大小サブユニットが解離するのを助ける。小サブユニットの将来E部位になる部分を占有する。

3つの開始因子が結合した小サブユニットは、mRNA、開始tRNAとに結合できる。順序はどちらが先でもよい。

ポリペプチド伸長[編集]

アミノ酸のついた開始tRNAがP部位に結合した70Sリボソームが完成すると、ポリペプチドの合成が始まる。ポリペプチドの合成には次の重要な反応が起こる必要がある。

  1. P部位にはホルミルメチオニンをつけたtRNAがA部位に2個目のアミノアシルtRNAが結合(P部位にはホルミルメチオニン-tRNAが存在)。
  2. ホルミルメチオニンと2個目のアミノ酸との間にペプチド結合が形成される
  3. A部位に生じたペプチジルtRNAと、それに結合したmRNAのコドンをP部位に転位 (translocate) する。その後70Sリボソームが動いてE部位のホルミルメチオニンのtRNAが離脱する(その際、GTP→GDP+Piの反応が起きてエネルギーを供給する)
  4. A部位は空になり、次のアミノアシルtRNAが結合できるようになる。

4.の後は1.に戻るが、P部位には一つ前のアミノアシルtRNAが入っている。この反応が連続して起きることにより、mRNA内の遺伝子がポリペプチド鎖に翻訳され、終止コドンまでこの反応は続いていく。この反応も同様に翻訳伸長因子 (EF-Tu、EF-Ts、EF-G) によって触媒される。

細菌の翻訳終結[編集]

リボソームがmRNA上を動き、終止コドンがA部位に入ると翻訳の終結が始まる。この時にA部位のアミノアシルtRNAの入る部位に『翻訳終結因子』と呼ばれるタンパク質が入り込み、翻訳複合体をポリペプチド、tRNA、リボソーム、mRNAに解離する。終結因子の種類と役割は以下の通りである。

  • RF1:UAA、UAG終止コドンのA部位に結合
  • RF2:UGA、UAA終止コドンのA部位に結合
  • RF3:RF1、2の補助的な因子

ポリペプチドは伸長されていく段階からすでに特定のコンフォメーションを取り始めており、終結して遺伝子のコードしていた機能性タンパク質として機能し始める。ただし、タンパク質が発現した後も別のタンパク質によって修飾を受けていくこともあり、遺伝子配列がそのままの配列でタンパク質として発現していないことも多々ある。

真核生物の翻訳[編集]

古細菌の翻訳[編集]

古細菌の翻訳過程はまだ良く分かっていない。だが、「真正細菌真核生物の中間的な性格を持つ[要出典]」と考えられている[誰によって?]。「開始機構はシャイン・ダルガノ配列を使用する[要出典]」(使わないことも多い[要出典])と見られており、やや真正細菌に類似する[要出典]開始t-RNAはホルミル化されていないメチオニン[要出典]、と言う[誰によって?]。抗生物質感受性は真核生物の方に似ている[要出典]

関連項目[編集]