古細菌
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| ?古細菌 | |||
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Halobacterium salinarum NRC-1 |
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古細菌(こさいきん、Archaea/アーキア)は、生物の分類の一つで、sn-グリセロール-1-リン酸のイソプレノイドエーテル(他生物はsn-グリセロール-3-リン酸の脂肪酸エステル)より構成される細胞膜に特徴付けられる生物群である。一般にメタン菌・高度好塩菌・好熱好酸菌・超好熱菌など、極限環境に生息する生物として認知されている。
形態的な特徴に乏しく、当初は真正細菌(細菌、バクテリア)の仲間だと考えられていた。しかし、その後の研究により異なる進化を遂げてきたことが分かり、生物分類上では独立したドメインまたは界が与えられることが多い。遺伝子構成などから真核生物の祖先と何らかの関連を持つと考えられている。始原菌(しげんきん)や後生細菌(こうせいさいきん)と呼ばれることもある。
目次 |
[編集] 概要
古細菌は、生物を基本的な遺伝の仕組みや生化学的性質を元に大きく分類する3ドメイン説において、真核生物ドメイン(植物、動物、真菌)、真正細菌ドメイン(大腸菌や藍藻などの普通の細菌)と並んで全生物界を三分する「古細菌ドメイン」を構成する生物グループである。これまでによく知られている古細菌の例としては、高NaCl濃度の環境に生育する高度好塩菌や、温泉や熱水噴出孔などに見られる好熱菌などがあり、われわれから見れば極めて過酷な環境にも分布している。
形態的には真正細菌と同じ原核生物に属し、細胞の大きさ、細胞核を持たないことなどの点で共通する。このため長らく真正細菌と同じグループ(モネラ界)として扱われて来た。しかし分子レベルでの研究が進むにつれ、その違いが明らかになってきている。
例えば、古細菌とその他の生物(特に真正細菌)の間には、以下のような違いが知られている。
- 細胞膜を構成する脂質の構造が対掌体の関係にある。具体的には、真正細菌を含むその他の生物がグリセロール骨格のsn-1、sn-2位に炭化水素鎖が結合するのに対し、古細菌は例外なく炭化水素鎖が sn-2、sn-3 位に結合する。
- 細胞膜に脂肪酸を一切持たず、グリセロールにイソプレノイドアルコールがエーテル結合した脂質骨格を持つ。真正細菌を含むその他の生物はグリセロールに脂肪酸がエステル結合する。
- 真正細菌の細胞壁はムレイン(ペプチドグリカン)であり、N-アセチルムラミン酸を含むのに対し、多くの古細菌の細胞壁は糖タンパク質であり、N-アセチルムラミン酸を持たない。
これらの違いに加え、進化系統的にはむしろ真正細菌よりも真核生物に近縁で[2][3]、DNAの複製やタンパク質合成系といった生命の基幹部分の機構が真核生物に類似している。このような生化学的差異、系統学的位置が明らかになるに従い独立のドメインとして扱われるようになった。
古細菌についての研究は、病原性がないことや、知られたのが遅かったことなどから真正細菌に比べ立ち遅れた。その生体システムは未だ不明な点が多いが、原始生命体や真核生物の起源、あるいは有用酵素の利用・メタン発酵などと関連して研究が進められている。
[編集] 呼称
古細菌という呼称は6界説を提唱したカール・ウーズらが名づけたアーキバクテリア (Archaebacteria[4]) の翻訳である。Archaebacteria自体は、メタン菌が太古の地球大気の主要構成成分と考えられていた二酸化炭素と水素の混合気体を基質として生育するため、Archae(ギリシア語:αρχαία/太古・始原) + Bacteria(細菌)と名づけられたことに由来する。
しかし1980年代に入ると、古細菌が真正細菌よりもむしろ真核生物に近いことが明らかになり、それ程広くは使われなかったが後生細菌 (Metabacteria[5]; メタバクテリア) という用語が提唱された。
1990年になると6界説の提唱者であるウーズが3ドメイン説を発表した。この際、これまでArchaebacteriaと呼ばれてきた生物群に対して、Archaea[6]という名称が与えられ、細菌と区別するためにbacteriaが外された。以後英語圏ではArchaeaが定着した。日本でもこれに対応して細菌が外され、始原菌という和名が提唱された。
しかしながら始原菌という用語はそれ程定着しなかった。現在、最も一般に使用されるのは古細菌という呼び名で、英語読みに近いアーキア(アーケア)も広く使用される。一部の研究者の間では始原菌、後生細菌、アルケアといった呼び方もされる。古い文献の中にはMendosicutes(メンドシクテス)や古バクテリア類といった表現もみられる。なお、中国語でも当初は古細菌と呼ばれていたが、「Domain Archaea」に対して「古菌域」という漢字名が提唱されている。
また、古細菌の下位タクソンであるユリアーキオータ、クレンアーキオータはそれぞれ、ユーリ古細菌、クレン古細菌と訳されることがある。
[編集] 歴史
古細菌発見の歴史は真正細菌発見の歴史に並行している。今日知られているような枠組みが完成する以前は、高度好塩菌、メタン菌、好熱菌それぞれ別々の枠組みで研究が進められていた。古細菌という枠組みができたのは1977年以降である。
[編集] 発見
1676年、アントニ・ファン・レーウェンフックが細菌を発見して以来、徐々に細菌の研究が進んでいた。1868年には微生物の働きによりメタンが発生することを初めて確認し、1880年代には高度好塩菌の研究が始まった。これ以前にも沼などからメタンが発生することや塩田が赤く染まることは知られていたが、微生物によるものとは考えられていなかった。
20世紀に入ると、1922年に高度好塩菌が発見され、Pseudomonas salinaria(後のHalobacterium salinarum)と名づけられた。翌年Serattiaに移され、その後もPseudomonasに戻されるなど分類は混乱した。1974年にようやくハロバクテリウム科にまとめられた。一方、メタン菌は存在することは分かっていたものの、酸素を極端に嫌う生物であり、1936年にやっと培養に成功し、1947年にはMethanobacterium formicicumとMethanosarcina barkeriが分離された。
既に1930年頃には原核生物と真核生物の違いが認識されており、原核生物帝(1937年)次いで五界説モネラ界(1956年)が提唱された。高度好塩菌とメタン菌には明らかに核がなく、以後モネラ界の枠組みに含まれることとなった。
一方、好熱性の古細菌[1 2]は少し遅れ、1970年に炭鉱のボタ山から好熱好酸菌Thermoplasma acidophilumが発見された。この生物は細胞壁を欠くことからマイコプラズマの仲間とされた。1972年にはイエローストーン国立公園より好熱好酸菌Sulfolobus acidocaldariusが発見され、1980年代には100°Cを越える環境でも生育できるものが相次いで発見されていった。これらは別々に少し変わった生物だとして知られているに過ぎなかった。当時、メタン菌、高度好塩菌、Thermoplasma、Sulfolobusはそれぞれ別々の門に分類されていた。
しかしながら、1960年代から80年代にかけて徐々に他の生物とは異なることが明らかとなってきた。今日知られている古細菌の特徴の一つであるエーテル型脂質は1962年に高度好塩菌より発見され、1972年には好熱菌の一部も、やはり同じ脂質を持つことが判明した。ペプチドグリカン細胞壁を持たないことも明らかとなってきた。
[編集] 定義
これらの生物を他の原核生物と区別した最初の人物は、イリノイ大学のカール・ウーズである。彼は、互いに近縁な生物はタンパク質のアミノ酸配列やrRNA配列が似ているという理論をもとに、1960年代後半から16S rRNA配列[1 3]を用いて生物の分類を始めていた。1976年、ウーズは同僚のウォルフからメタン菌のコロニーの提供を受け、そのrRNA配列が他の原核生物と大きく異なるという結果を得た。ウーズらはさらに研究を続け、翌1977年、この結果を元に原核生物をメタン菌(古細菌; Archaebacteria)とその他の細菌(真正細菌; Eubacteria)に分けるべきと主張した[4]。
1978-80年頃には、メタン菌もエーテル型脂質を持つことが分かり[7][8]、調査の結果、同じ脂質を持つ高度好塩菌と好熱菌の一部も古細菌に属すことが系統解析の結果明らかになった[9]。しかしながらまだ古細菌という分類群は広く受け入れられるには至らなかった。
1980年代以降、古細菌の研究が活発になり、この時期真正細菌と古細菌の差異を示す研究が蓄積された。1989年には重複遺伝子を用いることによって古細菌が真正細菌よりも真核生物に近いことが分かり[2][3]、さらに1990年には3ドメイン説が提唱された[6]。この際古細菌はユリアーキオータとクレンアーキオータの2界に分けられた。
[編集] 生育環境と古細菌を構成するグループ
一般的に分布の中心は他の生物が生息し辛いニッチに存在するとされる。実際に飽和に近い塩濃度や高温環境、低pHへの適応は他のドメインに比べ高く、他の生物が生育することができない飽和NaCl溶液やpH0以下の強酸、100°Cを超える環境にも分布する。例えば、Halobacteriumは20-25%NaCl濃度で盛んに増殖し、塩湖などの高塩環境で真正細菌を数で圧倒している。また、Picrophilusと呼ばれる古細菌はpH0(1.2M硫酸溶液に相当)で、Methanopyrus kandleri Strain 116は400気圧122℃で増殖が可能と報告された。Natronomonasの中には高NaCl、高温、アルカリの3つの極限環境に適応しているものもいる。
一方で、メタン菌と呼ばれる古細菌の中には、より温和な条件に分布するものも存在する。彼らは地球上で最も酸素を嫌う生物ではあるが、熱水噴出口や南極大陸の凍った湖などの極限環境のほか、水田や沼地、湖や海底沈殿物、人間を含む動物の消化器官など幅広い嫌気環境に生育している。
この他に、極限環境とはいいがたい通常の海洋や土壌、湖底沈殿物、南極海表層、海底下からも古細菌の16S rRNAや脂質が検出されることから、培養が困難で分離ができていないだけで、実際はかなりの広範囲に分布すると考えられている。特に海洋中では1 ml中におおよそ10万個の古細菌が存在し、細胞数当たりでは微生物の最大20%、またはそれ以上の古細菌が存在すると考えられる[10]。これら海洋性の種はThaumarchaeotaと呼ばれる新しい門に所属するらしい。Thaumarchaeota類は土壌などからも検出されており、どちらでもアンモニアを酸化するAOA(Ammonia-Oxidizing Archaea、アンモニア酸化古細菌)の割合が高い。検出量はアンモニア酸化細菌を遥かに上回ると報告がされており[11][12]、硝化作用に関して古細菌が重要な役割を果している可能性を示唆している。これら非極限環境に生息するものについても研究が進められている。
また、深海[13]、海底下[14]、地殻内には、それぞれ地上の全動植物量を上回る程の膨大な古細菌が生息している可能性が指摘されている。
なお、既知の高度好塩菌や好熱菌、メタン菌にしても培養が可能なのはごく一部であり、いまだ全容は明らかになっていない。予想される総バイオマスは全生物の数10%と見込まれている。記載種は全部で約300種(2008年2月現在)である。
高度好塩菌、メタン菌、好熱菌の詳細についてはそれぞれの項を参照。
[編集] 人との関わり
古細菌は培養が困難な上、病原性も持たないため真正細菌と比較して人との直接的な関わりは薄い。よく知られた例ではメタン菌が人の腸内にも生息し、屁中に含まれるメタンを生成している。オナラに含まれるガスを生産するという事でメタン菌のイメージは余り良く無いのが現状であるが、水素を消費することで競合する硫酸還元菌の働きを抑え、むしろ臭いや発がん性物質の発生を抑制している可能性がある[15]。この他に、Methanobrevibacter smithiiが栄養吸収率の向上[16]、口腔内に存在するMethanobrevibacter oralisについては歯周病との弱い関連性[17]が指摘されている。しかしながら、体内におけるメタン菌の挙動は不明な点が多くまだよくわかっていない。
腸内に存在するメタン菌はメタノバクテリウム科[18]が多く、この他にメタノサルシナ科、メタノサエタ科が存在する。これらはメタン醗酵にも利用され、汚水処理やバイオガスの生産に使われている。様々な問題を抱えてはいるが、メタン菌の産業上での利用価値は高い。メタン菌は地球上におけるメタン放出量の大半を占めており、地球温暖化にも関連して研究が進められている。
この他菌体を直接利用するものとしては、SulfolobusやArchaeoglobusが、それぞれ硫化水素、重金属の処理に期待されている。
一方、好熱菌性や好酸性の古細菌は熱や有機溶媒に対して耐性の高い酵素を産生するため遺伝子資源として有用である[19]。Pyrococcus furiosusやThermococcus kodakaraensisなどに由来するDNAポリメラーゼ(Pfuポリメラーゼ、KODポリメラーゼ)は、Taqポリメラーゼ(真正細菌Thermus aquaticus由来)に比べ複製正確性が高く、PCRに使用される。
他にもアミラーゼ、ガラクトシダーゼ、プルラナーゼ、セルラーゼなどの幾つかの酵素(Pyrococcusに由来するものが多い)が産業利用に向け研究が進められている。
[編集] 形態的特徴
古細菌の外観は真正細菌と似ている。大きさは0.5から数マイクロメートル程度であり、形も丸いものから糸状まであるが、殆どが球菌から桿菌の範囲に収まっている。例外として、高度好塩菌の中に三角形や四角形の薄片といった形を持つものがある。真正細菌のような強固な細胞壁を持たないために、一部の種は定まった形を持っていない。また複数の細胞が集合して大規模な融合細胞を形成するものも存在する。
一般的には、円盤形や球に近い不定型、太い棒状、糸状といった形が多い。
古細菌は原核生物であるため、通常細胞内の膜系を発達させず、細胞内の目立つ構造物と言えばDNAとリボソーム、ガス泡くらいである。これらを含む細胞質を細胞膜がつつみ、その外側を細胞壁が覆う。一般に細胞壁は真正細菌よりも薄く、機械的強度も弱い。また、細胞の移動のために鞭毛を持つ種も多い。ただし細胞内の膜系に関しては、ThermoplasmaやIgnicoccusといった例外もある。
細胞よりも高次の構造も乏しく、殆どの種は単独か原始的な群体を持つに過ぎない。Methanosarcinaは接着物質を使用し、サルシナ様の群体を形成する。メタン菌の中には、シースと呼ばれる鞘の中に複数の細胞が鎖のようにつながった形態をとるものがある。シート形成や管状のネットワークを形成するものもある。
何れにせよその形態は原核生物の範疇を超えるものではなく、そのため個性に乏しく形態により古細菌を特徴づけるのは困難である。古細菌を特徴付けているのは、ほとんどが分子生物学的地見による。
[編集] 各構成部位の素材
[編集] 細胞壁
細胞壁の素材は真正細菌ではペプチドグリカンであるが、古細菌の細胞壁は一般的にタンパク質性のS層である。S層は多くの真正細菌にも認められるが、真正細菌と異なりS層そのものが細胞壁になっているという点で異なる。古細菌のS-レイヤーは熱に対して極めて安定だが、真正細菌の細胞壁と異なり浸透圧変化に脆弱で機械的強度も弱いものが多い。
この他メタノバクテリウム綱がシュードムレインと呼ばれる糖ペプチドを持つ。こちらもムラミン酸を欠くという点で真正細菌の細胞壁と区別できる。何れもその合成系の違いから真正細菌の細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質には何れも非感受性を示す。グラム染色ではS層が陰性に、シュードムレインが陽性に染色される。
この他にシース(Methanospirillus、Methanosaeta)、メタノコンドロイチン[20](Methanosarcina)、糖鎖(Halococcus)、グルタミニルグリカン(Natronococcus)などがある。また、サーモプラズマ綱や、Ignicoccusは細胞壁を持たないことで知られている。
[編集] べん毛
真正細菌のべん毛に似るが、よく見るとやや細く、ねじれの方向も逆である。またATPの加水分解により駆動する[21][22][23]。
[編集] 細胞膜
細胞膜を構成する脂質は、古細菌とその他の生物を区別する最大の特徴である。真核生物や真正細菌はsn-グリセロール-3-リン酸に脂肪酸がエステル結合しているが(図5-8参照)、古細菌ではsn-グリセロール-1-リン酸にイソプレノイドアルコールがエーテル結合している(図1-4参照)。エーテル型脂質や環状脂質自体は超好熱細菌Aquifex、Thermotogaなどからも見つかっているが[1 4]、グリセロール骨格部分の立体構造は例外なく古細菌特有のものである。
炭化水素鎖は多くの場合、C20(稀にC25)イソプレノイドのみからなる。脂肪酸は存在しない。不飽和型も稀である。一部の古細菌の細胞膜には、炭化水素鎖が向かい合って結合した形のテトラエーテル型脂質や、炭化水素鎖の途中で架橋、あるいは環状構造が形成されている物も存在する(図10参照)。細胞膜上にはATP合成酵素や電子伝達体(その他メタン生成経路やバクテリオロドプシンなども)などの酵素類が偏在しており、古細菌の代謝の主要な場である。膜上にはこの他に各種輸送体や各種センサーなどが存在する。
[編集] 細胞質
内部に含まれる酵素や低分子は種や生育環境により異なる。DNA、エネルギー貯蔵用のポリヒドロキシ酪酸の顆粒、70Sリボソーム、高度好塩菌などが持つ浮力調整用のガス胞などが比較的目立つ。
細胞骨格は基本的に存在しないとされるが、アクチン様細胞骨格の存在が示唆されている[24][25]。
[編集] DNA
DNAは真正細菌と同じく基本的に環状で、細胞膜に付着している。ゲノムは好熱菌では1分子のことが多いが、高度好塩菌や一部のメタン菌は副ゲノムやプラスミドを所持する場合もある。ゲノムサイズは1.3 - 6 Mbp(Mbp=100万塩基対)と真正細菌と比較してもやや小さく、Ignicoccus hospitalisのゲノムは129万7538bp[26]しかない。完全独立生物を送るものとしては最小である。さらにこの菌に共生している“Nanoarchaeum equitans”に至っては宿主に完全に依存しているとはいえ49万885 bpという極めて小さなゲノムを持つ[27]。これまでに解析された古細菌のうち最大のゲノムを持つのはMethanosarcina acetivorans(575万1492bp[28])である。各古細菌のゲノムサイズはゲノム配列が決定された古細菌の一覧にリストしている。
DNAに結合し凝縮させるタンパク質は、一般的に古細菌型ヒストンである[29][30]。DNAがヒストン様タンパクに巻きついたヌクレオソームも観察されているが、真核生物ほど強固ではなく、結合様式も異なる。その他各種DNA結合タンパクが存在する。サーモプラズマ綱と好熱クレンアーキオータはヒストンを持っておらず、それぞれ真正細菌のHU様タンパクや[31]、独自のDNA結合タンパクを所持する[32]。
DNA複製機構の全容はまだ解明されていないが、多くの古細菌はアフィディコリンにより増殖阻害を受けることから、真核生物と同じく複数のBファミリーDNAポリメラーゼを使っていることが示唆されている(ユリアーキオータはDファミリーDNAポリメラーゼも使用する)。この他にも真核生物の複製系酵素のホモログが多数見つかっている[33][34]。岡崎フラグメントの長さや[35]、複製速度も真核生物に類似している。DNAは環状にもかかわらず、複製開始地点が複数存在する場合もあり興味深い[36]。
[編集] タンパク質の合成
DNAからタンパク質が合成される際は、まずDNA配列に従いmRNAが合成(転写)され、さらにmRNA配列に従ってタンパク質に翻訳される。この過程はあらゆる生物において共通しているが、真核生物、真正細菌で微妙に異なる。古細菌はおおむね両者の中間、あるいは真核生物よりの機構を持っている。
具体的にはmRNAはスプラシングを基本的に受けないという点で真正細菌に、翻訳開始アミノ酸がメチオニンであること、リボソームがストレプトマイシンやキロマイシンによって阻害を受けず、ジフテリア毒素によって阻害を受けることなどの点で真核生物に似ている。転写機構は真核生物のRNAポリメラーゼIIによる転写機構と良く似ている。リボソームは3つのRNAと70種弱のタンパク質より成り、RNAは真正細菌に、タンパク質は真核生物にやや近い。
[編集] 代謝系
代謝系は各古細菌間での違いが大きいが、真核生物や真正細菌の持つ代謝系は光合成など特殊なものや脂質合成系を除き基本的には備えていると考えられる。しかしながら未発見の酵素が多数ある。また一部経路の改変や、使用する酵素が異なる場合も多い。
例えば解糖系(グルコース代謝)は、ユリアーキオータの多くがADP依存性グルコキナーゼやADP依存性ホスホフルクトキナーゼなど数種類の特異な酵素が関与する変形エムデン-マイヤーホフ経路(変形EM経路)を使用している。一方、クレンアーキオータの多くは、好気性の真正細菌の一部に見られるエントナー-ドウドロフ経路(ED経路)に似る経路を使用する。こちらはグルコースのリン酸化を伴わないため変形ED経路と呼ばれている。
[編集] 増殖(細胞分裂)
増殖(繁殖)は単純な二分裂によって行われる。この点は真正細菌とまったく同じである。球菌ではそのまま2つに割れ、細胞内容物はほぼ半分ずつ、DNAも1セットずつ分配される。桿菌はある程度長くなった後、仕切りができてやはり2つ(あるいはそれ以上)に割れる。どちらも殆ど同じクローンが2体できることに変わりはない。早いものでは1世代20分で分裂する。分裂の際、ユリアーキオータでは真正細菌と同様FtsZリングと呼ばれる構造が細胞表面に出現する。一方でクレンーキオータはFtsZを持たず、その分裂の詳細は不明である。
[編集] 他生物との違いまとめ
| 真正細菌 | 古細菌 | 真核生物[1 5] | ||
|---|---|---|---|---|
| 細 胞 構 造 |
大きさ | 1-10 μm | (真正細菌と同様) | 10-100 μm |
| 細胞の移動 | 鞭毛(フラジェリン)、滑走 | (独自)鞭毛(詳細は不明) | 鞭毛(チューブリン)、形状変化 | |
| 組織化 | 単細胞、稀に群体 | (真正細菌と同様)[1 6] | 単細胞、群体、融合体、多細胞 | |
| 細胞分裂 | 単純 | (真正細菌と同様) | 有糸分裂 | |
| 細胞壁 | ペプチドグリカン | (独自)タンパク質など | 糖鎖など | |
| 細胞膜 | エステル型脂質(sn-1,2位)[1 7] | (独自)エーテル型脂質(sn-2,3位) | (真正細菌と同様) | |
| 細胞小器官 | 無し[1 8] | (真正細菌と同様) | 細胞核、ミトコンドリアなど多数 | |
| 細胞質 | 細胞骨格は限定的 | (真正細菌と同様) | 細胞骨格を持ち原形質流動有り | |
| エンドサイトーシス | 起こさない | (真正細菌と同様) | 起こす | |
| 核 酸 / 蛋 白 質 関 係 |
DNA | 環状 | (真正細菌と同様) | 直線状 |
| DNA結合タンパク | HUタンパク | 古細菌型ヒストン | ヒストン | |
| ゲノムサイズ | 小さい | (真正細菌と同様) | 大きい | |
| DNA複製酵素 | ファミリーC | ファミリーB及びD | ファミリーB | |
| 岡崎フラグメント | 1000塩基以上 | (真核生物と同様) | 100-200塩基 | |
| プロモーター | プリブノーボックス | (真核生物と同様) | TATAボックス | |
| 転写開始機構 | シグマ因子 | (真核生物と同様) | 転写開始前複合体 | |
| RNAポリメラーゼ | 単純 | (真核生物と同様) | 複雑 | |
| mRNA | 修飾を受けない[1 9][37] | (真正細菌と同様) | キャップ構造付加、イントロン除去 | |
| リボソーム | 50S+30S ストレプトマイシン感受性 |
(真正細菌と同様) (真核生物と同様) |
60S+40S ジフテリア毒素感受性 |
|
| 翻訳開始tRNA | フォルミルメチオニル-tRNA | (真核生物と同様) | メチオニル-tRNA | |
| t-RNA | イントロン無し | (真核生物と同様) | イントロン有、3'-末端CCA付加 | |
| プロテアソーム | 無し[1 10] | (真核生物と同様) | 有り | |
[編集] 古細菌の起源と系統的地位
1977年、古細菌が系統的に他生物とは大きく異なることが示されたが、真正細菌、真核生物との関係は現在でも頻繁に議論されており、最終的な合意は得られていない。大方支持されているのは、共通祖先がまず真正細菌と古細菌に進化し、その後古細菌か古細菌に近縁な生物から真核生物の本体が進化したとする仮説である。これは共通祖先以前に2種類に分かれた遺伝子により得られる系統樹[2][3]により明らかにされた。
この他エオサイト説[38][39][40]、ネオムラ説[41]などが提案されている[42]。
なお、古細菌の出現時期は真核生物との系統的関係にもよるが、真核生物の祖先を含む広い意味での古細菌の起源は非常に古いと見積もられる。分子化石[1 11][43]や系統樹から得られる情報[44]による推定から、35-41億年前に既に登場していた可能性がある。
[編集] ドメイン古細菌の下位分類
ドメイン古細菌以下の界、門、綱及び一部の目をリストする。分類はIJSEM、Bergey's Manual 2nd、『古細菌の生物学』(1998年初版)、その他の文献の順に優先する。属までを網羅する詳細なリストは古細菌の分類を参照。
- ユリアーキオータ界/Euryarchaeota
- ユリアーキオータ門/Euryarchaeota
- アーキオグロバス綱/Archaeoglobi - 超好熱性の硫酸還元菌
- サーモコッカス綱/Thermococci - 嫌気従属栄養性の超好熱菌
- サーモプラズマ綱/Thermoplasmata - 好熱好酸菌。未培養系統としてメタン菌と光合成古細菌を含む可能性あり
- ハロバクテリウム綱/Halobacteria - 高度好塩菌と好アルカリ性高度好塩菌
- メタノコッカス綱/Methanococci - 主に海洋に分布するメタン菌
- メタノパイラス綱/Methanopyri - 超好熱性のメタン菌
- メタノバクテリウム綱/Methanobacteria - 主に淡水系に分布するメタン菌
- "メタノミクロビウム綱"/"Methanomicorobia" - メタン菌。未培養系統として嫌気性メタン酸化菌を含む
- メタノミクロビウム目/Methanomicrobiales
- メタノサルシナ目/Methanosarcinales - 綱として独立させる場合あり
- メタノセラ目/Methanocellales - 水田性のメタン菌
- ユリアーキオータ門/Euryarchaeota
- クレンアーキオータ界/Crenarchaeota - エオサイト界/Eocytaとも。真核生物に近縁とする仮説あり
- クレンアーキオータ門/Crenarchaeota
- サーモプロテウス綱/Thermoprotei
- サーモプロテウス目/Thermoproteales - 超好熱菌
- デスルフロコッカス目/Desulfurococcales - 超好熱菌
- スルフォロバス目/Sulfolobales - 好熱好酸菌
- "カルディスファエラ目"/"Caldisphaerales" - 超好熱菌
- サーモプロテウス綱/Thermoprotei
- Marine Crenarchaeota/AOA群(Thaumarchaeota門) - 海洋古細菌及び亜硝酸菌。独立の門の可能性が高い
- クレンアーキオータ門/Crenarchaeota
- その他の系統
- コルアーキオータ/Korarchaeota - 環境DNAサンプルと集積培養系のみ。嫌気従属栄養性の超好熱菌?
- ナノアーキオータ/Nanoarchaeota - Ignicoccusに付着。ユリアーキオータに近縁か含まれる
- AAG、SHVAG、DSAG、MHVG、ARMAN、SAGMGなど - 深い分岐をしている古細菌群。ユリアーキオータまたはコルアーキオータに近縁の可能性もある
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ ドメインの本来の下位分類である界は明確ではない。一応Woese et al. (1990)によってユリアーキオータ界とクレンアーキオータ界の2界に大別されている(1996年にはBarnsらによってコルアーキオータ界が追加。ナノアーキオータも界として扱う文献が存在する)。また、Thaumarchaeotaはクレンアーキオータに、ナノアーキオータはユリアーキオータに含まれる可能性がある
- ^ 好熱性の真正細菌は20世紀前半に好熱性の“Bacillus”(後のGeobacillus)などが発見されていた
- ^ 当時はRNA配列の全長を決定するのが困難だったためオリゴヌクレオチドカタログ法を用いた
- ^ エーテル脂型質はエステル型脂質に比べ高温環境に適しているとされる。常温環境に生息する古細菌がエーテル型脂質を持つ生化学的意味は不明
- ^ 細胞小器官で働く機構やタンパク質、tRNA、リボソームなどは除く
- ^ 稀に融合体
- ^ 一部の好熱細菌はエーテル型脂質を持つが、その場合でもアルコールが結合しているのは1,2位
- ^ 例外はチラコイド、メソソーム、稀にだがDNAを囲む膜を持つものもいる
- ^ 稀に存在するイントロンは自己スプライシング型であり真核生物特有のスプライソソーム型は存在しない
- ^ 放線菌門のみ例外的に持つ
- ^ 38億年前のイソプレン脂質や35億年前の炭素同位体比率の大きくずれたメタンなど
[編集] 参考文献
- 古賀洋介, 亀倉正博(編) 『古細菌の生物学』 東京大学出版会、1998年。ISBN 4130602039。
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