古細菌

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?古細菌

Halobacterium salinarum NRC-1
地質時代
始生代先カンブリア代) - 現代
分類
ドメ
イン
古細菌 Archaea
       Woese et al. 1990
下位分類(門※1

※1 下位分類を界とする場合もある
※2はクレンアーキオータ、※3はユリアーキオータに含まれる可能性がある
※4 真核生物の祖先を含む可能性がある

  詳細は古細菌の分類を参照

古細菌こさいきんarchaea/アーキア)は、生物の分類の一つで、sn-グリセロール-1-リン酸のイソプレノイドエーテルより構成される細胞膜に特徴付けられる生物群である。一般にメタン菌高度好塩菌・好熱好酸菌・超好熱菌など、極限環境に生息する生物として認知されている。

生物分類上では、真正細菌(細菌、バクテリア)、真核生物と共に全生物を三分する最も高いランクの分類階級であるドメインの一つを占める。形態的には真正細菌と同じ原核生物に属しているものの、細胞壁、細胞膜、遺伝情報の取り扱いなど細胞特性に明確な違いがあり区別される。始原菌(しげんきん)や後生細菌(こうせいさいきん)と呼ばれることもある。

目次

[編集] 概要

全生物を対象にした進化系統樹。緑の枝が古細菌。真ん中付近が全生物の共通祖先。真正細菌(右側の青部分)と古細菌が系統的にかけ離れた存在であることがわかる
生物を対象にした進化系統樹。緑の枝が古細菌。真ん中付近が全生物の共通祖先。真正細菌(右側の青部分)と古細菌が系統的にかけ離れた存在であることがわかる

古細菌は、生物を基本的な遺伝の仕組みや生化学的性質を元に大きく分類する3ドメイン説において、真核生物ドメイン(植物動物キノコなど)、真正細菌ドメイン(大腸菌藍藻などの普通の細菌)と並んで全生物界を三分する「古細菌ドメイン」を構成する生物グループである。これまでによく知られている古細菌の例としては、高NaCl濃度の環境に生育する高度好塩菌や、温泉熱水噴出孔などに見られる好熱菌などがあり、われわれから見れば極めて過酷な環境にも分布している。

形態的には真正細菌と同じ原核生物に属し、細胞の大きさ、細胞核を持たないことなどの点で共通する。このため長らく真正細菌と同じグループ(モネラ界)として扱われて来た。しかしながら進化系統的にはむしろ真核生物に近縁で[1][2]遺伝タンパク質合成系といった生命の基幹部分の機構も真核生物に類似している。また、これらの生物と異なり、細胞膜エーテル型脂質より構成され、さらにグリセロール骨格の立体構造が逆になっているという特徴を持つ。このような生化学的差異が明らかになるに従い独立のドメインとして扱われるようになった。

既知の種は殆どが極限環境微生物であるが、様々な実験データから通常の環境にも分布することが示唆されている。海洋中では1 ml中におおよそ10万個の古細菌が存在し、細胞数当たりでは微生物の最大20%、またはそれ以上の古細菌が存在すると考えられる[3]

古細菌についての研究は、病原性がないことや、知られたのが遅かったことなどから真正細菌に比べ立ち遅れた。その生体システムは未だ不明な点が多いが、原始生命体真核生物の起源、あるいは有用酵素の利用・メタン発酵などと関連して研究が進められている。

[編集] 呼称

古細菌という呼称は6界説を提唱したカール・ウーズらが名づけたアーキバクテリア (Archaebacteria[4]) の翻訳である。Archaebacteria自体は、メタン菌が太古の地球大気の主要構成成分と考えられていた二酸化炭素水素の混合気体を基質として生育するため、Archae(ギリシア語:αρχαία/太古・始原) + Bacteria(細菌)と名づけられたことに由来する。

しかし1980年代に入ると、古細菌が真正細菌よりもむしろ真核生物に近いことが明らかになり、それ程広くは使われなかったが後生細菌 (Metabacteria[5]) という用語が提唱された。

1990年になると6界説の提唱者であるウーズが3ドメイン説を発表した。この際、これまでArchaebacteriaと呼ばれてきた生物群に対して、Archaea[6]という名称が与えられ、細菌と区別するためにbacteriaが外された。以後英語圏ではArchaeaが定着した。日本でもこれに対応して細菌がはずされ、始原菌という和名が提唱された。

しかしながら始原菌という用語はそれ程定着しなかった。現在、最も一般に使用されているのは古細菌という呼び名で、英語読みに近いアーキア(アーケア)も広く使用されている。一部の研究者の間では始原菌、後生細菌といった呼び方もされる。なお、中国語でも当初は古細菌と呼ばれていたが、「Domain Archaea」に対しては「古菌域」が当てられている。

また、古細菌の下位タクソンであるユリアーキオータクレンアーキオータはそれぞれ、ユーリ古細菌、クレン古細菌と訳されることがある。

[編集] 歴史

古細菌発見の歴史は真正細菌発見の歴史に並行している。今日知られているような枠組みが完成する以前は、高度好塩菌、メタン菌、好熱菌それぞれ別々の枠組みで研究が進められていた。古細菌という枠組みができたのは1977年以降である。

[編集] 発見

1676年アントニ・ファン・レーウェンフックが細菌を発見して以来、徐々に細菌の研究が進んでいた。1868年には微生物の働きによりメタンが発生することを初めて確認し、1880年代には高度好塩菌の研究が始まった。これ以前にもなどからメタンが発生することや塩田が赤く染まることは知られていたが、微生物によるものとは考えられていなかった。

20世紀に入ると、1922年に高度好塩菌が発見され、Pseudomonas salinaria(後のHalobacterium salinarum)と名づけられた。翌年Serattiaに移され、その後もPseudomonasに戻されるなど分類は混乱した。1974年にようやくハロバクテリウム科にまとめられた。一方、メタン菌は存在することは分かっていたものの、酸素を極端に嫌う生物であり、1936年にやっと培養に成功し、1947年にはMethanobacterium formicicumMethanosarcina barkeriが分離された。

既に1930年頃には原核生物と真核生物の違いが認識されており、原核生物帝(1937年)次いで五界説モネラ界1956年)が提唱された。高度好塩菌とメタン菌には明らかに核がなく、以後モネラ界の枠組みに含まれることとなった。

一方、好熱性の古細菌[7]は少し遅れ、1970年炭鉱ボタ山から好熱好酸菌Thermoplasma acidophilumが発見された。この生物は細胞壁を欠くことからマイコプラズマの仲間とされた。1972年にはイエローストーン国立公園より好熱好酸菌Sulfolobus acidocaldariusが発見され、1980年代には100°Cを越える環境でも生育できるものが相次いで発見されていった。これらは別々に少し変わった生物だとして知られているに過ぎなかった。当時、メタン菌、高度好塩菌、サーモプラズマ、スルフォロバスはそれぞれ別々の門に分類されていた。

しかしながら、1960年代から80年代にかけて徐々に他の生物とは異なることが明らかとなってきた。今日知られている古細菌の特徴の一つであるエーテル型脂質1962年に高度好塩菌より発見され、1972年には好熱菌の一部も、やはり同じ脂質を持つことが判明した。

[編集] 定義

1960年代後半から、ウーズがオリゴヌクレオチドカタログという手法を用いて生物の分類を始めた。1977年、ウーズとフォックスが16S rRNA系統解析の結果を元に、原核生物をメタン菌(古細菌; Archaebacteria)とその他の細菌(真正細菌; Eubacteria)に分けるべきと主張した[4]。さらに1978-80年頃には、メタン菌もエーテル型脂質を持つことが分かり[8][9]、調査の結果、同じ脂質を持つ高度好塩菌と好熱菌の一部も古細菌に属すことが系統解析の結果明らかになった[10]。しかしながらまだ古細菌という分類群は広く受け入れられるには至らなかった。

1980年代以降、古細菌の研究が活発になり、この時期真正細菌と古細菌の差異を示す研究が蓄積された。1989年には重複遺伝子を用いることによって古細菌が真正細菌よりも真核生物に近いことが分かり[1][2]、さらに1990年には3ドメイン説が提唱された[6]。この際古細菌はユリアーキオータとクレンアーキオータの2界に分けられた。

[編集] 生育環境と古細菌を構成するグループ

一般的に分布の中心は他の生物が生息し辛いニッチに存在するとされる。実際に飽和に近い濃度や高温環境、低pHへの適応は他のドメインに比べ高く、他の生物が生育することができない飽和NaCl溶液やpH1以下の強酸、100°Cを超える環境にも分布する。例えば、Halobacteriumは20-25%NaCl濃度で盛んに増殖し、塩湖などの高塩環境で真正細菌を数で圧倒している。また、Picrophilusと呼ばれる古細菌はpH0(1.2M硫酸溶液に相当)で、Methanopyrus kandleri Strain 116は400気圧122℃で増殖が可能と報告されている。Natronomonasの中には高NaCl、高温、アルカリの3つの極限環境に適応しているものもいる。

一方で、メタン菌と呼ばれる古細菌の中には、より温和な条件に分布するものも存在する。彼らは地球上で最も酸素を嫌う生物ではあるが、水田や沼地、湖や海底沈殿物、人間を含む動物の消化器官など幅広い嫌気環境に生育している。

この他に、極限環境とはいいがたい通常の海洋や土壌、湖底沈殿物、南極海表層、海底下からも古細菌の16S rRNAや脂質が検出されることから、培養が困難で分離ができていないだけで、実際はかなりの広範囲に分布すると考えられている。特に深海[11]、海底下[12]、地殻内には、それぞれ地上の全動植物量を上回る程の膨大な古細菌が生息している可能性が指摘されている。

また、土壌や海洋からは、アンモニアを酸化する古細菌が検出されている。これらは検出量の多さからアンモニアを酸化する細菌よりも多く存在するとさえされている[13][14]。これらの事実は硝化作用に関して古細菌が重要な役割を果している可能性を示唆している。これらの非極限環境に生息するものについても研究が進められている。

なお、既知の高度好塩菌や好熱菌、メタン菌にしても培養が可能なのはごく一部であり、いまだ全容は明らかになっていない。予想される総バイオマス量は全生物の数10%と見込まれている。記載種は全部で約300種(2008年2月現在)である。

高度好塩菌メタン菌好熱菌の詳細についてはそれぞれの項を参照。

[編集] 人との関わり

古細菌は培養が困難な上、病原性も持たないため真正細菌と比較して人との直接的な関わりは薄い。よく知られた例ではメタン菌が人の腸内にも生息し、中に含まれるメタンを生成している。オナラに含まれるガスを生産するという事でメタン菌のイメージは余り良く無いのが現状であるが、水素を消費することで競合する硫酸還元菌の働きを抑え、むしろ臭いや発がん性物質の発生を抑制している可能性がある[15]。この他に、Methanobrevibacter smithiiが栄養吸収率の向上[16]腔内に存在するMethanobrevibacter oralisについては歯周病との弱い関連性[17]が指摘されている。しかしながら、体内におけるメタン菌の挙動は不明な点が多くまだよくわかっていない。

腸内に存在するメタン菌はメタノバクテリウム科、メタノサルシナ科、メタノサエタ科が主だったものであるが、これらはメタン醗酵にも利用され、汚水処理やバイオガスの生産に使われている。様々な問題を抱えてはいるが、メタン菌の産業上での利用価値は高い。なお、メタン菌は地球上におけるメタン放出量の大半を占めており、地球温暖化にも関連して研究が進められている。

この他菌体を直接利用するものとしては、SulfolobusArchaeoglobusが、それぞれ硫化水素重金属の処理に期待されている。

一方、好熱菌性や好酸性の古細菌は熱や有機溶媒に対して耐性の高い酵素を産生するため遺伝子資源として有用である[18]Pyrococcus furiosusThermococcus kodakaraensisなどに由来するDNAポリメラーゼ(Pfuポリメラーゼ、KODポリメラーゼ)は、Taqポリメラーゼ(真正細菌Thermus aquaticus由来)に比べ複製正確性が高く、PCRに使用されている。

他にもアミラーゼガラクトシダーゼプルラナーゼセルラーゼなどの幾つかの酵素(Pyrococcusに由来するものが多い)が産業利用に向け研究が進められている。

[編集] 細胞の構造

原核生物の基本的な構造。細胞膜の外側には細胞壁がある。細胞内小器官は存在せず内容物は混ざっている
原核生物の基本的な構造。細胞膜の外側には細胞壁がある。細胞内小器官は存在せず内容物は混ざっている
Ignicoccus hospitalisとその表面に共生する“Nanoarchaeum equitans”。最外部は外膜(古細菌の中ではIgnicoccusのみが持つ例外的特長)、ペリプラズムを挟んでその内側に細胞膜がある。鞭毛を最大9本持つが、この写真には写っていない
Ignicoccus hospitalisとその表面に共生する“Nanoarchaeum equitans”。
最外部は外膜(古細菌の中ではIgnicoccusのみが持つ例外的特長)、ペリプラズムを挟んでその内側に細胞膜がある。鞭毛を最大9本持つが、この写真には写っていない

外観は真正細菌と酷似する。大きさは球菌では0.5-1.5 μm程度であり、真正細菌と同規模で真核生物よりは一桁小さい。桿菌の中で長いものは15 μmほどになる。形状は球菌、桿菌を初め、円盤形あるいは不定形のものも多い、多角形のものもいる。複数の細胞が集合して大規模な融合細胞を形成するものも存在する。

形状は真正細菌と似ているものの、いくつかの点で異なる。

[編集] 細胞壁

細胞壁は非常に多様であるが、一般的にはS-レイヤーシュードムレインなどから形成される。ムラミン酸を欠くという点で真正細菌と区別できる。

S-レイヤーは糖タンパク質またはタンパク質メタノコッカス目)からなる構造で、多くの真正細菌にも認められるが、真正細菌と異なりペプチドグリカンや外膜を欠き、S-レイヤーそのものが細胞壁になっているという点で異なる。古細菌のS-レイヤーは熱に対して極めて安定だが、真正細菌の細胞壁と異なり浸透圧変化に脆弱で機械的強度も弱いものが多い。

シュードムレインはメタノバクテリウム目とメタノピルス目が持つ細胞壁で、S-レイヤーと異なり機械的強度が強い。真正細菌のペプチドグリカンに類似しグラム陽性にも染まるものの、その合成系の違いから真正細菌の細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質には何れも非感受性を示す。

この他にシース(MethanospirillusMethanosaeta)、メタノコンドロイチン[19]Methanosarcina)。Ignicoccus(外膜)、糖鎖(Halococcus)、グルタミニルグリカン(Natronococcus)などがある。他方、サーモプラズマ目の多くは細胞壁を持たない。

[編集] べん毛

詳細は鞭毛を参照

べん毛はすべての古細菌が持っているわけではないが、菌体が自立的に移動するために必要な器官である。表面構造は真正細菌のべん毛に似るが、よく見るとやや細い。その構造と起源は異なると考えられている[20][21]

[編集] 細胞膜

古細菌とそのほかの生物の極性脂質の違い。1-4は古細菌細胞膜脂質の代表例2,3-ジフィタニル-sn-グリセロール-1-リン酸、5-8はそのほかの生物の細胞膜脂質
古細菌とそのほかの生物の極性脂質の違い。1-4は古細菌細胞膜脂質の代表例2,3-ジフィタニル-sn-グリセロール-1-リン酸、5-8はそのほかの生物の細胞膜脂質

細胞膜を構成する脂質は古細菌とそのほかの生物を区別する最大の特徴である。真核生物や真正細菌はsn-グリセロール-3-リン酸に脂肪酸エステル結合しているが(図5-8参照)、古細菌ではsn-グリセロール-1-リン酸にイソプレノイドアルコールがエーテル結合している(図1-4参照)。エーテル型脂質や環状脂質自体は超好熱細菌AquifexThermotogaなどからも見つかっているが[22]グリセロール骨格部分の立体構造は例外なく古細菌特有のものである。

炭化水素鎖は多くの場合、C20(稀にC25)イソプレノイドのみからなる。脂肪酸は存在しない。不飽和型も稀である。好熱菌には炭化水素鎖が向かい合って結合した形のテトラエーテル型脂質や、炭化水素鎖の途中で架橋、あるいは環状構造が形成されている物も存在する(図10参照)。これは従来の脂質二重膜とは異なる形である。これらの脂質は好熱菌に多く見出され、耐熱性に関与していると考えられる。生息温度の変化に対応して脂質を変化させるものも存在する。

古細菌には細胞内の膜系が発達していないため、ATP合成酵素電子伝達体は通常の真正細菌と同じく細胞膜に偏在する。好気あるいは嫌気呼吸に伴い発生したエネルギーを元に電子伝達系が水素イオンを細胞外に排出し、水素イオン濃度勾配を形成。このポテンシャル差を利用してATP合成酵素がATPを合成している。一部の古細菌にはメタン生成経路バクテリオロドプシンも細胞膜に存在し、前者ではナトリウムイオン及び水素イオン濃度勾配を、後者では光エネルギーを獲得して水素イオン濃度勾配を形成する。こうして得た化学ポテンシャルの一部もATP合成に利用される。膜上にはこの他に各種輸送体や各種センサーなどが存在する。高度好塩菌では水素イオン濃度勾配を利用して駆動する水素イオン/ナトリウムイオン対向輸送体が重要である。

[編集] 細胞質

高度好塩菌のガス泡(浮力調整用)の他に内部構造は殆どない。細胞内小器官が存在しないため、クエン酸回路を初めとした中央代謝、DNAの複製転写、タンパク質への翻訳は全て細胞質中で行われる。リボソームといった巨大複合体が細胞中に浮遊しているため細胞質はザラザラとしている。真正細菌と同じく原形質流動は起こらないが、Thermoplasma細胞骨格の存在が示唆されている[23][24]。この菌の融合体からは膜系も確認されている。

[編集] DNA

DNAは真正細菌と同じく基本的には環状で、細胞膜に付着している。ゲノムは好熱菌では1分子のことが多いが、高度好塩菌や一部のメタン菌は副ゲノムやプラスミドを所持する場合もある。ゲノムサイズは1.3 - 6 Mbp(Mbp=100万塩基対)と真正細菌と比較してもやや小さく、Ignicoccus hospitalisのゲノムは129万7538bp[25]しかない。完全独立生物を送るものとしては最小である。さらにこの菌に共生している“Nanoarchaeum equitans”に至っては宿主に完全に依存しているとはいえ49万885 bpという極めて小さなゲノムを持つ[26]。これまでに解析された古細菌のうち最大のゲノムを持つのはMethanosarcina acetivorans(575万1492bp[27])である。一般的に好熱性の古細菌のゲノムは小さく、メタノミクロビウム綱やハロバクテリウム綱に属すものはゲノムサイズが大きい傾向にある。何れにせよ真核生物に比べればかなり小型のゲノムサイズである。

一方、真核生物に似る特徴としてはヒストン様タンパクの存在とクロマチン様構造の形成がある。好熱性クレンアーキオータとサーモプラズマ目を除くほとんどの古細菌からはヒストンと相同性の高いタンパク質が分離されている。これらのタンパク質は、Methanothermus fervidusMethanopyrus kandleriのものがよく研究されており、前者のヒストン相同タンパクHMfA、HMfBは、それぞれ真核生物のヌクレオソームコアヒストンH3、H4に相当する[28]M. kandleriのヒストン相同タンパクHMkはH3とH4が連結しているように見え、HMkの2量体はH3-H4の4量体と同じ四次構造をとる[29]。DNAがヒストン様タンパクに巻きついている様子は真核生物のヌクレオソームに酷似している。

その他のDNA結合タンパクとしては、広範囲の古細菌(ハロバクテリウム綱、メタノミクロビウム目を除く)からAlbaが、サーモプラズマ目には真正細菌のHU(DNA結合タンパク)相同タンパクが[30]、サーモプロテウス目・デスルフロコッカス目からはCC1が、スルフォロバス目からはSul7dが発見されている[31]

[編集] タンパク質の合成

DNAからタンパク質が合成される際は、まずDNA配列に従いmRNAが合成(転写)され、さらにmRNA配列に従ってタンパク質に翻訳される。この過程はあらゆる生物において共通しているが、真核生物、真正細菌で微妙に異なる。古細菌はおおむね両者の中間、あるいは真核生物よりの機構を持っている。

具体的にはmRNAはスプラシングを基本的に受けないという点で真正細菌に、翻訳開始アミノ酸がメチオニンであること、リボソームがストレプトマイシンやクロラムフェニコールによって阻害を受けず、ジフテリア毒素によって阻害を受けることなどの点で真核生物に似ている。転写機構は真核生物のRNAポリメラーゼIIによる転写機構と良く似ている。

詳細は転写 (生物学)翻訳 (生物学)を参照

[編集] 増殖(細胞分裂)

球菌の増殖様式
球菌の増殖様式
桿菌の増殖様式
桿菌の増殖様式

増殖は単純な二分裂によって行われる。この点では真正細菌とまったく同じである。球菌ではそのまま2つに割れ、細胞内容物はほぼ半分ずつ、DNAも1セットずつ分配される。桿菌はある程度長くなった後、仕切りができてやはり2つ(あるいはそれ以上)に割れる。どちらも殆ど同じクローンが2体できることに変わりはない。早いものでは1世代20分で分裂する。分裂の際には真正細菌と同様FtsZリングと呼ばれる構造が細胞表面に出現する[32]

[編集] DNA複製

詳細はDNA複製を参照

増殖に際してはDNAの複製が行われる。古細菌におけるDNA複製の全容はまだ解明されていないが、複製系に要する遺伝子は真核生物とほぼ同じであることがわかっている[33][34]。DNAは真正細菌と同じく環状であるが、複製開始地点は一箇所とは限らず複数存在する場合もある[35]。岡崎フラグメントも真核生物と同じく100-200塩基と真正細菌に比べ短く[36]、同様に複製速度も真核生物に類似している。

[編集] 代謝系と栄養的分類

代謝系は細部が異なる場合もあるが、基本的には真正細菌のものと類似し、真正細菌間、古細菌間での違いの方が大きい。電子伝達系クエン酸回路解糖系などは一部が異なる場合もあるが基本的には所持する。一部の古細菌は窒素固定も行う。膜脂質に使っているイソプレノイドの合成経路は真核生物と共通する。

古細菌特有の代謝系としては、メタン菌によるメタン合成、高度好塩菌によるバクテリオロドプシンによる光エネルギー獲得がある。メタン菌は化学合成通性独立栄養生物であり、高度好塩菌はアミノ酸(稀に炭化水素)を基質とする化学合成及び光合成従属栄養生物である。詳細はメタン生成経路バクテリオロドプシンを参照。

好熱菌の代謝系は多様で、好気性の従属栄養生物(Aeropyrumなど)ではクエン酸回路を持ちアミノ酸などを代謝して生育する。Sulfolobusは利用できるアミノ酸などが無ければ硫黄を酸化して独立栄養的に増殖する。一方、嫌気性生物では硫黄を還元して独立または従属栄養的に増殖するものや、硫酸還元、還元、硝酸呼吸、発酵などによってエネルギーを獲得している。これらも還元的クエン酸回路(あるいは還元的不完全クエン酸回路)によって二酸化炭素の固定、アミノ酸などの合成を行う。解糖系(グルコース代謝)は他生物と同じくED経路とEM経路、PP経路が知られているが一部が異なる。炭酸固定を行えるものも多い。

また、非極限環境に存在するアンモニアを酸化する古細菌の存在も確認されている。その存在量の多さから[13][14]、窒素循環におけるアンモニアを酸化する過程は真正細菌よりも古細菌の方が重要な役割を負っている可能性が高い。

[編集] 他生物との違いまとめ

  真正細菌 古細菌 真核生物[37]



大きさ 1-10 μm 真正細菌と同様 10-100 μm
細胞の移動 鞭毛フラジェリン 独自)鞭毛(詳細は不明) 鞭毛(チューブリン)、形状変化
組織化 単細胞、稀に群体 真正細菌と同様[38] 単細胞、群体、融合体多細胞
細胞分裂 単純 真正細菌と同様 有糸分裂
細胞壁 ペプチドグリカン 独自)タンパク質など 糖鎖など
細胞膜 エステル型脂質(sn-1,2位)[39] 独自エーテル型脂質sn-2,3位) 真正細菌と同様
細胞小器官 無し[40] 真正細菌と同様 細胞核ミトコンドリアなど多数
細胞質 細胞骨格は限定的 真正細菌と同様[41] 細胞骨格を持ち原形質流動有り
エンドサイトーシス 起こさない 真正細菌と同様 起こす







DNA 環状[42]
ヒストン無し
真正細菌と同様
    (真核生物と同様[43]
直線状
ヒストン有。クロマチン構造をとる
ゲノムサイズ 小さい 真正細菌と同様 大きい(偽遺伝子多数)
複製開始機構 dnaA     (真核生物と同様 pre-RC
岡崎フラグメント 1000塩基以上     (真核生物と同様 100-200塩基
プロモーター プリブノーボックス     (真核生物と同様 TATAボックス
転写開始機構 シグマ因子     (真核生物と同様 転写開始前複合体
RNAポリメラーゼ 単純     (真核生物と同様 複雑
mRNA 修飾を受けない[44][45] 真正細菌と同様 キャップ構造付加、イントロン除去
リボソーム結合部位 SD配列 (真正細菌に類似?) 5'キャップ
リボソーム 50S+30S
ストレプトマイシン感受性
真正細菌と同様
  (真核生物と同様
60S+40S
ジフテリア毒素感受性
翻訳開始tRNA フォルミルメチオニル-tRNA     (真核生物と同様 メチオニル-tRNA
t-RNA イントロン無し[46]     (真核生物と同様[47] イントロン有、3'-末端CCA付加
シャペロニン グループI     (真核生物と同様 グループII[48]
プロテアソーム 無し[49]     (真核生物と同様 有り
エキソソーム[50] 無し     (真核生物と同様 有り

[編集] 他生物との系統関係

1977年、古細菌の概念が提唱された際に16S rRNA配列を元に生物が大きく3系統に分かれることが示されたが、全生物を対象にしたためアウトグループが設定できず左の図の様に共通祖先の位置が確定できない無根系統樹が描かれた(左の図)。その後1989年に、重複遺伝子(H+-ATPアーゼ、伸長因子、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ)の一方をアウトグループとして再び系統樹が描かれ[1][2]、これにより共通祖先がまず真正細菌と原始古細菌に進化し、その後原始古細菌から古細菌と真核生物が分かれたことが示された(右の図)。現在一般的にこの系統樹が受け入れられている。

16S rRNAから予測された系統樹。古細菌は上紫、右下は真核生物、左は真正細菌
16S rRNAから予測された系統樹。古細菌は上紫、右下は真核生物、左は真正細菌
左の図に根をつけたもの。古細菌は真ん中赤。オレンジは真核生物、青は真正細菌
左の図に根をつけたもの。古細菌は真ん中赤。オレンジは真核生物、青は真正細菌


また、真核生物は古細菌の一系統クレンアーキオータ(エオサイト)より派生したとする立場もある(エオサイト説)。リボソームRNAでは無く、複数のリボソームタンパク質のアミノ酸配列、水平伝播を起こしていない数十のタンパク質のアミノ酸配列などをもとにした系統解析はこちらの結果を支持している[51][52]。ドメインアーキアは真核生物を含むものに拡張する場合がある。

この他に、生命は相互に必要な物質や遺伝子を頻繁にやりとりする共同体として誕生し、確立された細胞を持っていなかったとする説もあり[53]、この説を採用した場合上のような系統樹は描けなくなる。原核生物は比較的高頻度に遺伝子の水平伝播を起こすためにその影響を考えて絡み合った系統樹を描く場合もある[54][55]。他方、もっと後に真正細菌から古細菌と真核生物が誕生したとする説(ネオムラ参照)、逆に古細菌から真正細菌と真核生物が分岐したという説もある[56]

[編集] 古細菌の起源と進化

16S rRNA配列を基にした系統樹
16S rRNA配列を基にした系統樹[57]
古細菌の系統樹2(破線は参考)
古細菌の系統樹2[58](破線は[6][13]参考)

共通祖先が、古細菌と真正細菌に分岐した時期については諸説ある。比較的信頼の置ける証拠として、27億年前の地層から古細菌と真正細菌それぞれに特有の脂質が検出されており[59]、おそらくこの頃までには出現したと考えられている。それ以前の証拠としてはオーストラリア石英鉱物中から抽出されたメタンの存在がある。この石英はおよそ35億年前に形成されたと推定されており、その中に封じ込められていたメタンの炭素同位体比率から、メタン菌のような生物が生成した可能性を指摘している[60]

一方、水平伝播をこれまでに起こしていないタンパク質のアミノ酸配列や非コードRNAを基にした計算も行われている。rRNA配列からDa-Fei Fengらは約38億年前に真正細菌と分岐した[61]と算出している。またFabia U Battistuzziらは複数のたんぱく質のアミノ酸配列より約41億年前既に古細菌(含む真核生物)の共通祖先は存在していたと推定している[52]

その後の分岐順序については様々な説が発表されている段階であり、まだはっきりとは分かっていない(右にその一部を示した)。上下どちらの説でも超好熱菌が根元付近に集中し、常温菌である高度好塩菌やメタノミクロビウムなどは系統樹の先端付近に現れている。これは古細菌の共通祖先は好熱菌であったことを示唆している。また、アーキオグロバス、高度好塩菌などはメタン菌の系統から発生したということが推定できる。ナノアーキオータやメタノピルス、サーモプラズマの分岐位置は説によってまちまちである。

[編集] 関連項目

[編集] 脚注

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  22. ^ エーテル脂型質はエステル型脂質に比べ高温環境に適しているとされる。常温環境に生息する古細菌がエーテル型脂質を持つ生化学的意味は不明
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  32. ^ ただし多くのクレンアーキオータからはFtsZホモログが見つかっていない
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  37. ^ 細胞小器官で働く機構やタンパク質、tRNA、リボソームなどは除く
  38. ^ 稀に融合体
  39. ^ 一部の好熱細菌はエーテル型脂質を持つが、その場合でもアルコールが結合しているのは1,2位
  40. ^ 例外はチラコイドメソソーム、稀にだがDNAを囲む膜を持つものもいる
  41. ^ 稀に細胞骨格有り
  42. ^ 稀に直線状
  43. ^ 持ってない場合もある
  44. ^ 稀に存在するイントロンは自己スプライシング型であり真核生物特有のスプライソソーム型は存在しない
  45. ^ 渡邊洋一, 横堀伸一, 河原林裕 (2002). “原核生物遺伝子のイントロン”. 蛋白質核酸酵素 47 (7): 833–836.
  46. ^ イントロン自体はコードされていることもあるが、古細菌と異なり自己スプライシング型。3'-末端CCAは最初からコードされている場合が多い。CCAが付加される場合、CCA付加酵素自体は真核生物型
  47. ^ CCA付加酵素は真核生物や真正細菌とは別のファミリー
  48. ^ 細胞小器官にグループI
  49. ^ 放線菌門のみ例外的に持つ
  50. ^ RNAを3'末端から分解する作用を持つ酵素。11-16(コアタンパクは9)のタンパク質より構成される巨大複合体
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  54. ^ 選ぶ遺伝子によっては、明らかに古細菌なのに真正細菌(または真核生物)の枝の中に出たり、あるいはその逆に真正細菌が古細菌の枝の中に出る場合がある。これを解決するために系統樹を描く際には水平伝播を起こさない(と考えられている)遺伝、翻訳系の遺伝子を使うべきだと主張する人もいる
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[編集] 参考文献