フォールディング

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タンパク質のフォールディング

フォールディング (folding) は、タンパク質が特定の立体構造に折りたたまれる現象をいう。

概要[編集]

細胞内で翻訳されたタンパク質は、すぐにそのアミノ酸配列に応じて固有の立体構造に折りたたまれ、機能を有するようになる。この状態を天然状態(native state)という。この天然状態の構造を熱や変性剤で崩して機能を失わせたものを、変性状態(denatured state)という。フォールディングとは、翻訳時から天然状態への変化、または変性状態から天然状態への変化のことをいう。

タンパク質はアミノ酸の複数結合した直鎖状の分子で、可能な立体構造は無数に存在するが、細胞内ではそれぞれ特定の立体構造をとる。このため、かつては細胞内にタンパク質を天然構造に折り畳む「鋳型」があると考えられていた。しかし1950年代から60年代にかけてクリスチャン・アンフィンセンが、リボヌクレアーゼが試験管内において変性状態から天然状態に変化することを示し、「タンパク質は自発的に、熱力学的に最も安定な立体構造をとる」とした。これをアンフィンセンのドグマと言い、この折りたたみ過程がフォールディングである。

なお、一部には自発的にフォールディングせずシャペロンの補助を必要とするタンパク質や、天然状態では構造が確定していない天然変性タンパク質なども存在する。

フォールディングの経路[編集]

n残基のタンパク質はおよそ10n通りの構造が可能であり、タンパク質が最安定構造を網羅的に探すことは現実的に不可能である(レヴィンタールのパラドクス)。このため、フォールディングには特定の経路が存在する。

かつては、タンパク質のフォールディングはまず核(足場)となる構造が形成され、その後その周辺の構造が段階的に完成していくというモデルが考えられていた。しかし近年の実験技術の向上により、現在では100残基以下の小型タンパク質に関しては、変性状態と天然状態の二状態いずれかしか観測されず、中間的な構造はほとんど存在しないことが分かっている。このため、小型タンパク質のフォールディングは協同的(cooperative)であるとされる。これは、進化の過程でタンパク質が高速にフォールディングできるアミノ酸配列を獲得したことによると考えられる。実際、ランダムにアミノ酸を並べたポリペプチドでは多くの準安定な中間状態が存在し、フォールディングは遅い。

100残基以上の大型タンパク質においては、フォールディングの過程はジスルフィド結合の形成などを含むため複雑で、中間体が見られるものも多い。

なお生体内ではタンパク質の翻訳とフォールディングが並行して起こるため、フォールディングの過程は試験管内と必ずしも同じではない。通常はフォールディングは翻訳よりも速いため、先に翻訳されたN末端側から順次フォールディングが行われる[1]

実験的研究[編集]

タンパク質のフォールディングは通常1秒以内に起きるため、反応途中の溶液を一部取得して構造を解析するといったことは出来ず、分光学などの手法による研究が進められている。

円二色性スペクトル

タンパク質内でαヘリックスが形成されることで、溶液の旋光性が変化する。これを円二色性スペクトル測定により定量する。

トリプトファン蛍光

トリプトファン残基は芳香環を持つため紫外光を吸収して蛍光を発する。このときの蛍光は、タンパク質内部などの疎水性な環境では長波長にシフトする。そこでトリプトファンの蛍光波長を測定すれば、トリプトファン残基周辺の疎水性を測定でき、フォールディング進行の指標となる。なおトリプトファン残基は通常タンパク質に1〜2個しか無いので、複数の蛍光が重なってしまうといった問題は起こりにくい。

重水素パルスラベル法

フォールディング途中のタンパク質を重水(D2O)中にごく短時間晒し、水素を重水素に置換する。このときタンパク質中の多くの水素はごく弱い酸性を持っているため、タンパク質の表面にある水素は重水素置換されるが、水素結合を形成している水素やタンパク質の内側にある水素は置換されない。この操作の後、重水素の位置をNMRで特定することで、その時点でのタンパク質の構造を推定できる。

理論的研究[編集]

タンパク質の構造はX線結晶構造解析やNMRを用いれば実験的に決定できるが、フォールディング過程を実験的に決めるのは困難である。このため理論的計算の研究も多くなされている。

10〜80残基の小型タンパク質は既に計算機上でのフォールディングの再現に成功している[2]。しかし、大型のタンパク質で全原子の全相互作用を計算を実行することは困難である。このため、各アミノ酸残基のα炭素だけに着目したり、天然構造に存在する相互作用だけに基づいたポテンシャル(郷ポテンシャル)を用いるなどの近似計算が行われている。

脚注[編集]

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  1. ^ Fedorov AN (1997). “Cotranslational Protein Folding”. J. Biol. Chem. 272 (52): 32715-32718. doi:10.1074/jbc.272.52.32715. 
  2. ^ Kresten LL (2011). “How Fast-Folding Proteins Fold”. SCIENCE 334: 517-520. doi:10.1126/science.1208351. 

参考文献[編集]

  • 藤博幸 編「タンパク質の立体構造入門」 講談社 (2010)
  • Voet & Voet "Biochemistry" 3rd edition, Wiley (2004)

関連項目[編集]