再生医学

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再生医学(さいせいいがく、英語: tissue engineering)とは、胎児期にしか形成されない人体の組織が欠損した場合にその機能を回復させる医学分野である。この分野における医療行為としては再生医療(さいせいいりょう)とも呼ばれる。

概要[編集]

再生医学を行う手法として、クローン作製、臓器培養、多能性幹細胞ES細胞iPS細胞)の利用、自己組織誘導の研究などがある。将来的には遺伝子操作をした豚などの体内で人間の臓器を養殖するという手法も考えられている。自己組織誘導については、細胞と、分化あるいは誘導因子(シグナル分子)と、足場の3つを巧みに組み合わせることによって、組織再生が可能になるとみられており、従来の材料による機能の回復(工学技術にもとづく人工臓器)には困難が多く限界があること、臓器移植医療が移植適合性などの困難を抱えていることから、再生医学には大きな期待が寄せられている。

胚性幹細胞(ES細胞)の作成には受精卵を用いるといった倫理的な問題も伴うことから、京都大学再生医科学研究所山中伸弥教授らによる人工多能性幹細胞(iPS細胞)の研究成果が、世界から注目されている。また、2014年1月には新たな万能細胞の作成手法として、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子研究ユニットリーダーらによる、より短期間かつ細胞を弱酸性溶液に浸し刺激を与えるというシンプルな方法で作成できる刺激惹起性多能性獲得細胞(STAP細胞)の研究成果が、英科学誌『ネイチャー』に掲載された[1]

実例[編集]

熱傷植皮のため、皮膚の表皮細胞を培養したい時、あらかじめ制癌剤を投与し増殖をストップさせたNIH3T3細胞を土台にすると、線維芽細胞による表皮細胞の駆逐を抑え、表皮細胞のみを増殖させることができる[注 1]。この方法を用いてMIT(マサチューセッツ工科大学)のグリーン博士らは切手サイズの組織を3000倍に増殖させることに成功している。しかし、現状の皮膚培養では毛穴汗腺の再生が不十分であり、より完全な皮膚の再生を目指して、研究がすすめられている。実用化が進んでいるのは皮膚培養だが、軟骨関節の培養の研究も推し進められている。

また、犬、豚などを使った実験で、あごの骨の細胞から完全な歯を再生することが確認されている(歯胚再生)。上田実らにより名古屋大学付属病院で実際に再生歯科外来が設けられている。埼玉医科大学総合医療センター心臓血管外科が、虚血性心筋症の男性患者の心臓組織に、本人の骨髄細胞移植する再生医療に成功している。

目の角膜を患った患者への治療としてドナーからの提供による角膜移植が行われているが、ドナー提供者が少ないこと、拒絶反応があることなどから、自己細胞を使った再生角膜による治療が試みられている。片目を患っている場合、もう一方の目の角膜の一部を採取して培養し移植する方法や、両目を患っている場合には口腔粘膜(幹細胞が多く含まれている)より採取した細胞を培養して移植する方法など、研究が進められている。国内では東北大学の西田幸二らと東京女子医科大学岡野光夫大和雅之らのグループや、慶應義塾大学の坪田一男らのグループ、京都府立医科大学木下茂らのグループが有名である。

近年では、骨髄中に間葉系幹細胞と呼ばれる接着性の細胞が存在しており、シャーレ上で特殊な培養を行うと骨芽細胞脂肪細胞軟骨細胞分化誘導できることが報告された。また、骨髄以外にも様々な組織から体性幹細胞を得る研究が行われている。

英訳[編集]

再生医学の英訳としてよく使われるものに「tissue engineering」と「regenerative medicine」がある。前者は直訳すると組織工学であるが、日本語の組織には「organization」の意味もあり混乱を招くことから、生体組織工学や組織再生工学などの日本語訳が使われることが多い。また再生医学や再生医工学と訳されることもあるが、一方でいくつかの関連する学問の総称として再生医学があり「tissue engineering」はそのひとつの分野であるという考え方もある。後者の「regenerative medicine」は直訳すると再生医療である。再生医学と再生医療を混同させた記述はよく見られるが、日本語の意味から考えると、再生医学は学問の分野であり、その成果を生かした現場での医療が再生医療である(たとえばES細胞を用いた再生医学の研究は行われているが、再生医療はまだ実現していない)。このように再生医学にあてはまる確立した英訳はなく、それぞれの研究者、研究機関がそれぞれの解釈で使用しているのが現状である。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 培養皮膚で人命が救われた一例として、1990年広範囲熱傷を負ったコンスタンチン札幌医科大学付属病院で移植治療を施したケースは有名である

出典[編集]

  1. ^ 体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見”. 理化学研究所. 2014年1月30日閲覧。

関連項目[編集]