ヒストン
ヒストン(histone)とは、真核生物のクロマチン(染色体)を構成するタンパク質の一群のこと。
目次 |
概要 [編集]
ヒストンは非常に長い分子である DNA を核内に収納する役割を担う。ヒストンはDNAに結合するタンパク質の大部分を占め、ヒストンとDNAの分子量比はほぼ1:1である[1]。ヒストンとDNAの相互作用は遺伝子発現の最初の段階である転写に大きな影響を及ぼす。古細菌のヒストン様タンパク質を含める場合もある。
ヒストンは大きく5種類に(H1, H2A, H2B, H3, H4)にわけられる。このうち、H2A、H2B、H3、H4の4種は、コアヒストンと呼ばれ、それぞれ2分子が集まり、ヒストン八量体(ヒストンオクタマー)を形成する(図1)。1つのヒストンオクタマーは、約 146 bp の DNA を左巻きに約1.65回巻き付ける。この構造はヌクレオソームと呼ばれ、クロマチン構造の最小単位である。H1 はリンカーヒストンと呼ばれ、ヌクレオソーム間の DNA に結合する。4種のコアヒストンは細胞内に等量存在するが、H1はこれらの半分以下しか存在しない[2]。これはH1が各ヌクレオソームに1分子しか結合しないからである。
DNA とヒストンの複合体は転写に対して阻害的に働く。転写が活性な遺伝子座の染色体では、ヌクレオソームが緩んだり、ヒストンが解離していることが知られている。それらの部位はヌクレアーゼ(DNA分解酵素)に対する感受性が高くなっている。コアヒストンの分子量は、リンカーヒストンに比べて小さい(表)。有核赤血球には H1 の代わりに H5 が用いられ、脊椎動物の精子ではヒストンが修飾を受けて、よりコンパクトになったプロタミンが用いられる。ヌクレオソームヒストンは進化的に非常に強く保存されており、いずれのアミノ酸に突然変異が起こっても、致死または強い異常の原因となる。特に H3 と H4 は最も保存されている。H1 ヒストンはこれらに比べると多様性が大きい。
| ヒストンの種類 | 分子量(Mr) | リシンとアルギニンの割合 | |
|---|---|---|---|
| コアヒストン | H2A | 14,000 | 20% |
| H2B | 13,900 | 22% | |
| H3 | 15,400 | 23% | |
| H4 | 11,400 | 24% | |
| リンカーヒストン | H1 | 20,800 | 32% |
ヒストンは強い塩基性のタンパク質であり、酸性の DNA との高い親和性を示す。ヒストンが塩基性を持つのは、正の電荷を持つアミノ酸の含量が高いからである。各ヒストンを構成するアミノ酸のうち、20%以上がリシンまたはアルギニンである(表)。ヌクレオソームヒストンの構造は球形のカルボキシル末端と、直鎖状のアミノ末端(ヒストンテール)からなっている。ヒストンテールのリシンやアスパラギン残基はアセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化といった化学修飾を受けることが知られている。例えば、細胞分裂の際には、ヒストンH3の10番目に位置するセリンが特異的にリン酸化される。このセリンは酵母からヒトまで多くの動物種で保存されている。これらの化学修飾は、遺伝子発現等、数々のクロマチン機能の制御に関わっていることが証明されつつある。複数の修飾の組み合わせがそれぞれ特異的な機能を引き出すという仮説は、ヒストンコード仮説と呼ばれている[4]。
ヒストンは基本的に真核生物のみに存在すると考えられるが、古細菌にもDNAを巻きつけてコンパクトにするタンパク質があり、これもヒストンに含める場合がある。これらは構造や配列の類似性からコアヒストン、特にH3、H4に相当するものが多く、コアヒストンの起源に関連していると考えられている。ただし、ヒストンは全体として負のスーパーコイルを生じるが、古細菌型ヒストンは正のスーパーコイルを導入する。また、ヌクレオソーム構造は決して強固なものではなく、裸のDNAが露出している領域がむしろ多い。
一方、リンカーヒストンは、一部の真正細菌(Chlamydia、Bordetellaなど)や一部の古細菌(Cenarchaeum、Nitrosopumilus)からH1に比較的相同な配列が発見されているものの、何れも実態不明で、その起源はまだよく分かっていない。
ヒストンのアセチル化と脱アセチル化 [編集]
ヒストンでは、N末端のリシン残基がアセチル化、脱アセチル化され、これが遺伝子発現の制御に関わっている。ヒストンが多数アセチル化されている染色体領域は、遺伝子の転写が活発に行われており、ヒストンのアセチル化は遺伝子の発現を活性化させ、脱アセチル化は遺伝子の発現を抑制していると考えられている[5][6]。
これらの反応はヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAt)、ヒストン脱アセチル化酵素=ヒストンデアセチラーゼ(HDAc)によって触媒される。
参考文献 [編集]
- ^ 『岩波生物学辞典 第4版』ヒストンの項
- ^ 『ヴォート生化学第2版』p982
- ^ James D. Watson, T. A. Baker, S. P. Bell ほか『ワトソン 遺伝子の分子生物学【第5版】』中村桂子監訳、東京電機大学出版局、2006年
- ^ 斎藤輪太郎監、野崎慎「ヌクレオソームの構造とその情報」 平成23年2月7日
- ^ 株式会社サイクレックス
- ^ ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害物質の分子設計とその抗がん剤への応用(研究概要)