M8 AGS
超堤試験中の試作車両 | |
性能諸元 | |
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全長 | 9.18m |
車体長 | 6.096m |
全幅 | 2.692m |
全高 | 2.555m |
重量 |
19.25t (レベル1) 22.25t (レベル2) 24.75t (レベル3) |
懸架方式 | トーションバー方式 |
速度 |
45 mph (72 km/h)*(整地) 30 mph (48 km/h)*(不整地) |
行動距離 | 483km |
主砲 | 105mmライフル砲M35 (31発) |
副武装 |
12.7mm重機関銃M2×1 (600発) 7.62mm機関銃M240×1 (4,500発) |
装甲 | 鋼+チタン製アップリケ装甲 |
エンジン |
デトロイトディーゼル6V-92TA 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 550馬力/2,400rpm |
乗員 | 3名 |
M8 AGS(英語: M8 Armored Gun System, 装甲砲システム)は、アメリカ合衆国のFMC社(のちにユナイテッド・ディフェンス、今のBAE システムズ・ランド・アンド・アーマメンツ)が開発していた軽戦車・空挺戦車。M551シェリダンの後継としてアメリカ陸軍に制式採用されたものの、冷戦の終結を受けた国防予算の削減に伴い、最終的に計画はキャンセルされた。
来歴
1977年8月24日、ジミー・カーター大統領は、大統領指示18号により、全世界的規模で即応展開できる部隊の創設を下令した。翌1978年、アメリカ陸軍の第82・第101空挺師団の2個師団とアメリカ海兵隊の1個師団に対して、即応展開任務が指定されたものの、この時点では単なる書類上の規定に過ぎなかった[1][2]。しかし翌1979年のイラン革命と、これに続く第二次石油危機を受けて、この種の部隊の必要性は一気にクローズアップされることとなった。カーター大統領は、1980年1月の一般教書演説で、湾岸地域での紛争に対して積極的に介入していくというカータードクトリンを示し、その尖兵として緊急展開軍(RDF; のちのアメリカ中央軍)の創設が決定された。この緊急展開軍においては、軽装備の2個空挺師団と、重装備の第24歩兵師団とともに、空輸による戦略機動力と従来型歩兵師団の火力を両立した先進軽歩兵師団(HTLD)として、第9歩兵師団が指定されていた[2]。
1980年代初頭より、アメリカ陸軍は、この先進軽歩兵師団やAOE軽歩兵師団のように、優れた戦略機動力を備えつつも一定レベルの火力を備えることを求められる部隊に対して機甲火力を付与する計画を開始した。1980年に開始された際には機動防護砲システム(Mobile Protected Gun System, MPGS)と称されていたが、のちに装甲砲システム(Armored Gun System, AGS)に改称された。これは、空挺師団で用いられていたM551シェリダンと、装甲騎兵連隊で用いられていたTOW搭載型ハンヴィーを同時に代替するためのものであった[3]。
1983年、FMC社は、軽量近接戦闘車両(Close Combat Vehicle - Light, CCV-L)の開発に着手した。これは、当初はプライベート・ベンチャーとして開始されたものの、後に小改正の上でAGS計画に応募された。AGS計画では、キャデラック・ゲージ社のスティングレイ軽戦車やテレダイン社の遠征戦車と採用を競った結果、1992年、XM8として採用された[3][4]。
設計
動力
動力系は、多くが、アメリカ陸軍が既に運用していた装備品との相互運用性を重視して開発されている[3]。
エンジンとしては、デトロイトディーゼル社製の2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼルエンジンである6V-92TAが採用された。これはHEMTTで採用された同社製のV型8気筒エンジンである8V-92TAと65パーセントの共通性を備えていた。ジェット燃料(JP8)を用いた場合は550馬力、ディーゼル燃料(DF2)を用いた場合は580馬力と出力が異なる。変速機は、M2ブラッドレー歩兵戦闘車およびM270 MLRSと同系列のジェネラル・エレクトリック社製のHMPT-500-3EC油圧式変速機が採用されている。これらは、整備性を重視してパワーパック化されており、容易に後方に引き出して整備できる[3]。
走行装置は誘導輪と6個のゴムタイヤ式転輪、後方の起動輪より構成されている。懸架装置としてはトーションバー・スプリングが採用されており、また、第1・2・3・5・6転輪にはショックアブソーバーが備えられている[4]。
火力
主砲としては、国産の105mmライフル砲M35を搭載する。これは、1980年代当時の主力戦車であったM1エイブラムスやM60パットンが搭載していたM68を元に、後座長を増すなどして開発された低反動砲であった[5]。
なお、車体の小型・軽量化のため、本車では装填手を廃して乗員は3名構成となっており、弾薬の再装填は自動装填装置を用いて行なわれる。搭載弾は31発で、うち21発が即応弾となっている。また、射撃統制システムは、M1エイブラムス主力戦車の搭載品から派生して開発されており、デジタル化されたコンピュータとレーザー測距儀を備えている。ユーザーインターフェースは、イギリスのチャレンジャー2のものが採用された[4]。
副武装としては、同軸武装として7.62mm機関銃M240を、車長用武装として12.7mm重機関銃M2を1丁ずつ備えている[4]。
防護力
前任者であるM551シェリダンと同様、空輸性を確保するために、アルミニウム合金製の車体を基本として、鋼鉄製の装甲を備えている。また、さらにチタン製のアップリケ装甲を追加装備することで、防護力を確保している。
防護力としては3段階が設定されている[4]。
- レベル1 - 小口径普通弾および弾片からの防御能力を実現する。装着後の全備重量は19.25tで、C-130による空輸と空中投下(低高度パラシュート抽出システム(LAPES)など)が可能となっている。
- レベル2 - 小口径徹甲弾および機関砲弾からの防御能力を実現する。装着後の全備重量は22.25tで、依然としてC-130による空輸は可能であるが、空中投下は不可能となる。
- レベル3 - 30mm口径弾までの機関砲弾および対戦車兵器(RPG-7など)からの防御能力を実現する。装着後の全備重量は24.75tで、C-130による空輸は不可能であるが、C-141・C-5・C-17により空輸できる。
計画の中止
1995年10月、XM8はM8 AGSとして制式化され、生産準備の完了を宣言された。しかし翌1996年2月5日、陸軍は計画のキャンセルを発表した[4]。
ユナイテッド・ディフェンス社は、トルコや中華民国への売り込みを試みたが、これは成功しなかった。ただし、本車の動力系をもとに小改良の上で開発されたUCVP(Universal Combat Vehicle Platform)は、シンガポール・テクノロジーズ・キネティック社において、バイオニクス歩兵戦闘車やSSPH プリムス自走榴弾砲に採用されている。
参考文献
- ^ J Record Revising US Military Strategy, 1984, 1st Edition, Pergammon-Brasseys, McLean, Virginia, p. 36.
- ^ a b Antill, P. (2001), Rapid Deployment Force, United States
- ^ a b c d www.fas.org (2000年4月14日). “M8 Armored Gun System” (英語). 2011年12月14日閲覧。
- ^ a b c d e f ATEN (2008年). “Army guide - LP M8 AGS, Light tank” (英語). 2011年12月14日閲覧。
- ^ ATEN (2008年). “Army guide - M35, gun” (英語). 2011年12月14日閲覧。