口噛み酒

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口噛み酒(くちかみさけ)は、などの穀物木の実などを口に入れて噛み、それを吐き出して溜めたものを放置して造るのこと。真臘では女性が醸すことから「美人酒」と呼ばれていた[1]。また、人為的に造る酒の発祥は口噛み酒であるという説がある[2]

日本列島への渡来時期や製法、文化を考えると、同じく米を原料としている日本酒の原形とはなり得ないと考えられている[1][3]

製法[編集]

デンプンを持つ食物を口に入れて噛むことで、唾液中のアミラーゼがデンプンを糖化させる。それを吐き出して溜めておくと、野生酵母発酵してアルコールを生成する。これが口噛み酒である。

原料は生のまま口に入れて噛む製法の他には、原料を煮炊きしたり、原料を酸敗させた後で口に入れて噛む製法がある[1]。原料を煮炊きすることで糖化しやすくなる[1]。この製法は、台湾高砂族で用いられていた[1]。また、原料を酸敗させることで乳酸による酸性下での発酵となるため、雑菌の繁殖を抑えることができる[1]。これはラテンアメリカチチャなどの製法である[1]

溜めたものに水を加えて発酵を促進させる場合もある[1]。これは中国醸造酒の影響を受けたものである[1]

歴史[編集]

発生地は不明ではあるが、穀物以外のデンプンを含んだ植物を食べていた東南アジアから南太平洋域が有力とされる[1]。これらの文化圏と米が伝播していったアッサム地方雲南からの稲作文化の融合点であるマレーシアなどの東南アジアが、米で造る口噛み酒の発生地として有力[1]

また、『魏書』卷一百 列傳第八十八 勿吉國に「嚼米醞酒 飲能至醉」と沿海州モンゴルなどでも米を原料とした口噛み酒を醸していたという記述がある[1]。(『北史』卷九十四 列傳第八十二 勿吉國「嚼米為酒 飲之亦醉」)

日本列島での米の口噛み酒は、縄文時代後期以降であると考えられている[1]

神事と口噛み酒[編集]

日本(大和)や台湾では、口噛み酒は神事の際にも造られていた[1]。このため、神事で醸す場合には、原料を口で噛む人間として巫女処女が選ばれていた[1]。中国ではこれを「ミキ」と呼び「米寄」の字を当てていた。 琉球でも大和同様、ウンシャク酒と呼ばれる口噛み酒が神事のために作られており、現在の沖縄でも祭事の際に作っている地域がある。

「醸す」の語源[編集]

酒造りを表現する「醸(かも)す」は、口噛み酒の「噛(か)む」が語源であるという説がある[2][4]。しかし、農業博士の住江金之は著書『酒』(西ヶ原刊行会)にて、これらは別系統の言葉であると指摘、「醸す」は「かびす」から転じたものであると分析している[2]

古文書[編集]

『塵袋』第9[5][6]
大隅ノ國ニハ、一家ニ水ト米トヲマウケテ、村ニツゲメグラセバ、男女一所ニアツマリテ、米ヲカミテ、サカブネニハキイレテ、チリヂリニカヘリヌ 酒ノ香ノイデクルトキ、又アツマリテ、カミテハキイレシモノドモ、コレヲノム。名ヅケテクチカミノ酒ト云フト云云、風土記ニ見エタリ」といった記述がある。
万葉集
麹による酒説が一般的だが口噛み酒の可能性もある歌
  • 為君 醸之待酒 安野尓 獨哉将飲 友無二思手[7]
    • 君がため 醸(か)みし待酒(まちさけ) 安(やす)の野に 独りや飲まむ 友無しにして - 大伴旅人 巻4-555 天平元年(729年)頃の歌。
  • 味飯乎 水尓醸成 吾待之 代者曽<无> 直尓之不有者[8]
    • 味飯(うまいひ)を 水(みづ)に醸(か)み成(な)し 我(あ)が待ちし 代(かひ)はかつてなし 直(ただ)にしあらねば - 車持氏娘子(くるまもちのうぢのをとめ) 巻16-3810

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 加藤百一 『日本の酒5000年』 技報堂出版、1987年2月25日、1版1刷、13ページから19ページ。ISBN 4-7655-4212-2
  2. ^ a b c 『世界の酒日本の酒ものしり辞典』 外池良三、東京堂出版、2005年8月15日、初版、69ページ。ISBN 4-490-10671-8
  3. ^ 月桂冠. “口噛み酒 お酒の事典 月桂冠”. 2008年3月30日閲覧。
  4. ^ 月桂冠. “日本酒のいわれ お酒の事典 月桂冠”. 2008年3月30日閲覧。
  5. ^ 塵袋9巻12ページ国立国会図書館デジタル化資料
  6. ^ 国土としての始原史~風土記逸文
  7. ^ 万葉集第四巻 相聞
  8. ^ 万葉集第十六巻 有由縁并雜歌

関連項目[編集]