みき (飲料水)

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マルマサ(沖縄県宮古島)のミキ

みきは、鹿児島県奄美群島および沖縄県で伝統的に作られる飲料である。奄美群島のものは乳酸菌[1]発酵飲料で、うるち米を主原料に、千切りや摺り下ろした生のサツマイモ砂糖を原料として用いる。沖縄県で販売されているものは、米・・砂糖を原料としたものである[2]

概要[編集]

祭事の際に用いられる神酒(みき)に由来し、原型は口噛み酒である[3]。現在も豊年祭などにおいて振る舞われる。

味は甘酒に似るが、乳酸によるさわやかな酸味[4]を有する飲料。栄養価が高いため、夏バテ防止用として同地方にて広く飲まれている[5]。火入れ(殺菌)をしないのタイプのものは冷蔵庫に入れておいても発酵が進み、数日経つと酸味が増える。消費期限は製造後数日と短い。

発酵[編集]

発酵に関与している乳酸菌は、Lactococcus lactis subsp. lactis , Leuconostoc citreum を主体として 30種類程度の菌が見つかったとする報告がある[1]。また、この乳酸菌は使用するサツマイモと仕込み環境に由来しているため発酵が不安定になりやすいが、仕込み時に乳酸菌スターターを使用する事で解決可能である[1]デンプンはサツマイモ由来のβアミラーゼによりマルトースに変化し[4][6]甘みを与えている。

そのまま飲むほか、バナナパッションフルーツなどの果実果汁を加える人もいる。「米のヨーグルト」「第4の」と呼ばれることもある[7]が、アルコール発酵を伴う酵母は関与していないためアルコールは含まれていない[4][6]

歴史[編集]

南西諸島における口噛み酒の起源は不明であるが、15世紀に編纂された『朝鮮王朝実録』には1461年那覇での見聞として「酒は15歳の処女に口を漱いで飯を咬ませて醸した」旨が、また、1477年与那国での見聞として「米を水に漬けつけた女に噛ませて粥にし、木桶で醸すと3から4日で熟し、さらに置くと酸っぱくなった」旨が記されている[8][2]。さらに、1534年から琉球に赴いた冊封使・陳侃は、「酒を造るには、水で米を漬けて越宿し、婦人に口嚼させて手槎して汁を取りこれを為る。名付けて米奇という。」(酒以水潰米、越宿令婦人口嚼、手槎取汁為之、名曰米奇)旨の記録を残しており、「米奇」がミキにあたるとされる[8]

また、1720年琉球王国に冊封副使として赴き、約8ヶ月を沖縄本島で過ごしたの官僚徐葆光(じょほこう)の滞在記録『中山伝信録』においては、巻第二では天使館で提供された食料について「米肌は白酒の如きなるもやや薄い[9]」と記しており、「米肌」は「みき」の音訳、白酒はどぶろくと見られる。また、巻第四の大島についての記述に「焼酎、米肌、黒糖、蘇鉄等が皆ある[10]」とある。また、19世紀のノロの祭祀の記録等にもみきを用意したことが記載されている[11]

奄美群島では後に口噛み酒の唾液に代わって生サツマイモが糖化剤として用いられるようになり[3]、また、沖縄県では廃藩置県前後に口噛み酒の習慣が廃れた後、種々の製法が模索された結果、それぞれで異なったみきが生まれたと考えられている[2]

製造者[編集]

奄美[編集]

鹿児島県の奄美大島では、家庭で作ったり、豆腐店などが作った自家製のものが販売されたりしている他、小規模な工場でプラスチックボトルや紙パック詰めされた商品が販売されている。発酵の度合いや砂糖の割合などの差で、製造業者毎に風味の違いがある。多くは賞味期限が短いため、奄美大島内でも流通は限られており、地産地消が中心である。

奄美市佐大熊の花田ミキ店の「花田のミキ」、旧笠利町(現奄美市)の「赤木名ミキ」、龍郷町の高野食品の「奄美みき」、瀬戸内町古仁屋の竹山食品の「みき」がよく知られている。他に、森山ミキ店の「みき」、東米蔵商店の「東のみき」、栄食品工業の「ミキ」などもある。2012年2月まで、平食品工業所の「平のみき」もあった。奄美市笠利町の味の郷「かさり」はプラスチックのパック詰めのものを製造しており、酸味のあるパッションフルーツ果汁を加えて飲みやすい風味に仕上げた「パッションミキ」も製造している。

奄美市名瀬の栄食品工業の「ミキ」はガラス瓶入りで、火入れで発酵を停止させている。このため長期保存が可能であるが、酸味はほとんどない。栄食品工業には原料を玄米と黒糖に変えた「黒糖玄米乳」もある。

沖縄[編集]

沖縄県でミキが初めて商品化されたのは糸満市であるとされる。その結果、サツマイモを原料とせず、米に麦を加える糸満式のミキが広まった[2]

沖縄県では宮古島市のマルマサファミリー商事の缶入り製品が広く流通しており、自動販売機などでも販売されている。火入れで発酵が止められている[3]が、もともとライスミルクに似て、発酵の度合いは低い。同社はもとは卸問屋で、沖縄本島から瓶のミキを仕入れていた。しばしば輸送中に瓶が割れたため、缶入りの商品を独自開発した。宮古島にはゲンマイと呼ばれる同種の飲料もある[12]

地元だけで流通しているものには那覇市の黒島商店の「みき」などがある。これにはムギも使われている[2]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 久留ろみ、玉置尚徳、和田浩二 ほか、奄美大島の伝統飲料「ミキ」中の乳酸菌 日本醸造協会誌 Vol.105 (2010) No.11 p.741-748, doi:10.6013/jbrewsocjapan.105.741
  2. ^ a b c d e 「ミキ」を徹底研究してみた。→奥深さの沼にはまった。 「てみた。」16 琉球新報、2017年10月24日
  3. ^ a b c 吉田元、奄美諸島の発酵食品 (2) 日本醸造協会誌 Vol.95 (2000) No.11 P.830-834, doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.95.830
  4. ^ a b c 久留ひろみ、吉崎(尾花)由美子、玉置尚徳 ほか、奄美大島の伝統飲料「ミキ」の分析 日本醸造協会誌 Vol.105 (2010) No.3 P.167-174, doi:10.6013/jbrewsocjapan.105.167
  5. ^ おもいッきりテレビで紹介された健康飲料をお手軽に 噂の健康飲料『ミキ』の缶入り”. All About (2003年7月25日). 2012年7月1日閲覧。
  6. ^ a b 久留ひろみ、吉崎(尾花)由美子、玉置尚徳 ほか、酒類としてのミキの製造 日本醸造協会誌 Vol.106 (2011) No.3 p.157-163, doi:10.6013/jbrewsocjapan.106.157
  7. ^ 【もう一度食べたい】発酵滋養飲料「みき」ヨーグルトのような奄美の味「みき」『毎日新聞』朝刊2018年2月25日(くらしナビ面)
  8. ^ a b 萩尾俊章「沖縄における神酒と泡盛の諸相 (PDF) 」 沖縄県立博物館紀要 第18号、1992年3月、pp.1-18
  9. ^ 米肌如白酒而稍淡 [1]] (Chinese Text Project『中山傳信錄二』)
  10. ^ 燒酒、米肌、黑糖、蘇鐵等物皆有之。[2](Chinese Text Project『中山傳信錄四』)
  11. ^ 高須由美子、「奄美諸島のノロ(女性祭司)関係文書―16世紀から19世紀において (PDF) 」『史資料ハブ/アジアにおける在地固有文書解題』p154、2003年、東京外国語大学大学院地域文化研究科
  12. ^ 宮古島フィールドワークの記録 宮古島のミキという飲み物 関西学院大学社会学部 島村恭則ゼミ

関連項目[編集]

外部リンク[編集]