刑事訴訟法
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
刑事訴訟法 | |
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日本の法令 | |
法令番号 | 昭和23年法律第131号 |
種類 | 訴訟法 |
効力 | 現行法 |
成立 | 1948年7月5日 |
公布 | 1948年7月10日 |
施行 | 1949年1月1日 |
所管 |
(法務庁→) (法務府→) 法務省[刑事局] |
主な内容 | 第一審、上訴、再審、非常上告、略式手続、裁判の執行 |
関連法令 | 刑事訴訟規則、犯罪捜査規範、日本国憲法、裁判所法、通信傍受法、裁判員法、警察法、警察官職務執行法、検察庁法 |
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実質的意義の刑事訴訟法としては法典だけでなく刑事手続に関する法全般を指し、日本では刑事訴訟規則その他法令によっても規律される(刑事手続法ともいう)。本項目では主に形式的意義の刑事訴訟法について解説し、条文は条名のみ記載する。
歴史
日本の刑事訴訟法の前身は、1870年(明治3年)の新律綱領、1873年(明治6年)の改定律例、及び1880年(明治13年)の治罪法(ちざいほう、明治13年太政官布告第37号)である。治罪法原案起草者はフランス人法学者のギュスターヴ・ボアソナード。自由民権運動を弾圧した福島事件の公判(1882年)に際して刑事手続が意外にフェアだったことから、福澤諭吉の時事新報から高く評価された[2]。
その後1890年(明治23年)に刑事訴訟法(旧々刑事訴訟法、明治刑事訴訟法、明治23年法律第96号)が制定され[注釈 1]、高校日本史の教科書の中にはドイツ法に立脚した全面改正と記述するもの[3]があるが、明治憲法制定に対応した部分的修正に過ぎない[4]、依然仏法の影響の強い法典だった[5]というのが法学者の多数である。なお制定当初のナポレオン治罪法典(1808年)はフランス革命の反動法の性格極めて濃厚な糾問主義法典だとして英米の法学者から批判されていたが、その後の法改正で徐々に穏健化し近代的性格の強いものになって独法にも大きな影響を与えており、仏・独どちらも模範法にするのに値するものであった[6]。
1922年(大正11年)、ドイツ刑事訴訟法を取り入れた新たな刑訴法(旧刑事訴訟法、大正刑事訴訟法、大正11年法律第75号)が制定された[7]。独法との比較の観点からは保守的性格を強調する説[8]もあるが、前法(旧々刑訴法)との比較の観点からは、官尊民卑の風潮や治安維持法などの制定によって骨抜きにされたものの、法典そのものはより進歩的性格の強いものだったとの評価[9]もある。なおドイツ刑訴法は1877年に起訴便宜主義から起訴法定主義に移行していたが[10]、日本法は犯人の更正という刑事政策的見地から従前の実務慣行を追認し起訴便宜主義を明文化している[11]。
現行法は日本国憲法の下刑事手続の抜本的改革を行ったもので、1948年(昭和23年)制定、1949年(昭和24年)1月1日に施行され、主に公判手続及び前提となる捜査手続を定める。1948年には検察審査会法を設置。その後も被害者保護やサイバー犯罪などの現代犯罪に対応した改正が頻繁である。2000年には審査申立権者の拡大、被害者陳述権等の設置、強姦事件等の告訴期間の制限撤廃等が行われた(2005年施行)。また2004年の裁判員制度の導入に合わせ公判手続の充実・迅速化を図る改正(公判前整理手続の導入等)[12]もされ、2010年に施行。被告人(起訴後)にのみ適用されていた国選弁護制度が、重大事件につき被疑者(起訴前)段階から適用可能になった。同年には犯罪被害者等基本法も設置された。
2007年(平成19年)、犯罪被害者の権利利益保護に関する2010年(平成22年)4月の改正で、殺人罪・強盗殺人罪などの公訴時効が撤廃され、事件から15年経過後も捜査継続可能になった。2016年6月には司法取引の導入などの改正[13]が行われた(2018年6月施行)。
構成
- 第一編 総則
- 第二編 第一審
- 第三編 上訴
- 第四編 再審
- 第五編 非常上告
- 第六編 略式手続
- 第七編 裁判の執行
日本の刑事手続
捜査
犯罪を認知した場合には、警察等の捜査機関が捜査に着手する(法189条2項)。捜査機関によって犯罪の嫌疑をかけられた人を被疑者という。捜査機関は、任意に出頭を求め、または逮捕・勾留された被疑者を取り調べることができる(法198条1項)。警察等が犯罪を捜査した場合、事件を検察官に送致しなければならない(法203条1項、法246条)。ただし、検察官が指定した事件については検察官に送致せず、警察等限りで微罪処分とすることができる(法246条ただし書)。また、交通反則通告制度(道路交通法125条以下)による交通反則金の納付を通告して、これを納付したときは、当該通告の理由となった行為に係る事件について、公訴を提起されず、または家庭裁判所の審判に付されない(道交法128条2項)。
検察官の処分
検察官は、送致された事件を受理し、または、自ら事件を認知する(法191条1項)。日本の刑事訴訟法には法定起訴の規定がないので、検察官が自らの裁量を持って、これらの事件について、被疑者を起訴(法247条)または不起訴(法248条)とする。司法取引により不起訴になった場合であっても裁判所には理由は提出されない。起訴された場合は被疑者は、被告人となる。他方、告訴人・告発人は不起訴処分に不服である場合には検察審査会への申立てが出来、また付審判請求が出来る場合もある。
公判及び判決
裁判所は、受理した事件を公判手続にかけて審理する。公判手続を経て、実体判決をすることができるときは、裁判所は、判決で無罪または有罪を決する。なお、簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、100万円以下の罰金または科料を科することができる(略式手続、法461条以下)。また、2024年3月31日までは売春の勧誘罪等を犯した満20歳以上の女子に対しては、その罪に係る懲役または禁錮につきその執行を猶予するときは、その者を補導処分に付することができた(売春防止法17条以下)。
刑の執行
有罪判決等の裁判は、確定した後これを執行する(法471条)。裁判の執行は、その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官がこれを指揮する(法472条1項本文)。死刑または自由刑(懲役、禁錮または拘留)の言渡しを受けた者が拘禁されていないときは、検察官は、執行のためこれを呼び出さなければならず、呼出しに応じないときは、収容状を発しなければならない(法484条)。死刑または自由刑の言渡しを受けた者は、呼出しまたは収容状に基づき、刑事施設(死刑の言渡しを受けた者については拘置所、懲役、禁錮又は拘留の言渡しを受けた者は刑務所)に入所する(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律)。また、罰金又は科料を完納することができない場合には、刑事施設等の労役場に留置される(労役場留置、刑法18条、刑訴法505条)。刑事施設に入所した者は、刑期の満了によって釈放(満期釈放)される(刑法24条2項)。刑期の満了前に仮釈放、仮出場が許されることもある(刑法28条、30条、更生保護法33条以下)。なお、2024年3月31日までは補導処分に付された者は、婦人補導院に収容し、その更生のために必要な補導を行うことができた(同法17条2項)。
仮釈放を許された者、保護観察付執行猶予の判決を受けた者に対しては、管轄の保護観察所の下、保護観察官、保護司によって保護観察が実施される(更生保護法48条)。保護観察は、その仮釈放期間の満了や仮釈放の取消し等により終了する。
刑事訴訟法における重要な概念
刑事訴訟法の理念に関する原則
- 実体的真実主義
- 刑事訴訟においては、過去の出来事について、訴訟法などの法律に基づいて認定するほかないという点で神の目から見た「絶対的真実」そのものとは違うものの、可能な限り真相に近い事実(実体的真実)を追求するという原則[14]。これに対し、民事訴訟においては、当事者の自白した事実はそのまま真実とみなすなど、形式的真実を前提に裁判がされるといえる。
捜査に関する原則
- 強制処分法定主義
- 個人の利益を侵害するような処分(強制処分)は、法律に定めがない限りできないとする原則(刑訴法197条1項)。古くは捜査手段としての写真撮影の可否が論じられ、その後は、通信傍受法ができるまでは、捜査機関が有線通信の傍受(いわゆる盗聴)をできるかについてこの原則との関係で問題となり、近年ではGPSを利用してする捜査の可否が問題となるなど議論されている。
- 令状主義
- 逮捕、捜索・差押え等の強制捜査は、現行犯の場合を除き、裁判所が発付する令状がなければ行うことができないという原則(憲法33条、35条、刑訴法199条、210条、218条等)。
- 捜査比例の原則
- 任意捜査の原則
- 捜査目的を達成するために必要な手段として、強制捜査と任意捜査が考えられる場合、任意捜査によるべきとする原則(刑訴法197条)。
公訴・公判手続に関する原則
- 当事者主義
- 訴訟進行の主導権は、裁判官ではなく当事者(検察官、被告人・弁護人)にあるとする原則。日本法の刑事訴訟手続はこれを基調とするが、第294条(裁判長の訴訟指揮権)などの例外もある。対義語は職権主義。
事実認定・証拠法に関する原則
- 証拠裁判主義
- 事実の認定は証拠によるという原則(317条)。
- 疑わしきは罰せず(疑わしきは被告人の利益に)
- 被告人が罪を犯したとすることについて合理的な疑いが残る場合には、有罪の判断をしてはならない(有罪の判断をするためには合理的な疑いを超える証明が必要)という原則。
- 伝聞証拠禁止の原則
- 伝聞証拠には原則として証拠能力を認めないとする原則(320条、例外321条以下)。
- 自白法則
- 任意性に疑いのある自白は証拠とすることができないとする原則(憲法38条2項、刑訴319条1項)。
- 自白の補強法則
- 被告人を有罪とするためには、自白のみでは足らず補強証拠が必要として、自白の証明力を制限する原則(319条2項)。
公務員の職務上の告発義務
民間人は、犯罪があることを発見しても、告発するかしないかは本人の自由だが、公務員は職務を遂行する際に犯罪があると思ったときは、告発する義務がある(下記の「官吏」は国家公務員、「公吏」は地方公務員のこと。明治時代の法文がそのまま口語体に全文改正された)。
- 第239条
- 1項 何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
- 2項 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
判決の効力に関する原則
脚注
注釈
- ^ ウィキソースには、刑事訴訟法に関連する文献の原文があります。
出典
- ^ 日本法令外国語訳データベースシステム; 日本法令外国語訳推進会議 (2011年12月1日). “日本法令外国語訳データベースシステム-刑事訴訟法” [Code of Criminal Procedure]. 法務省. p. 1. 2017年6月14日閲覧。
- ^ 高田晴仁「福澤諭吉の法典論 法典論争前夜」『慶應の法律学 商事法 慶應義塾創立一五〇年記念法学部論集』慶應義塾大学法学部、2008年、211-213頁
- ^ 黒田日出男監修『日本史通覧』帝国書院、2014年、225頁
- ^ 平野(1958)14頁
- ^ 斉藤金作『刑事訴訟法 上巻』有斐閣、1961年、14頁、團藤(1970)115頁、小田中聰樹『刑事訴訟法の歴史的分析』日本評論社、1976年、6頁、高田(1978)15頁、伊藤正己編『岩波講座現代法14 外国法と日本法』岩波書店、1966年、226頁(奥田昌道)
- ^ 團藤(1970)9-11頁
- ^ 裁判所職員総合研修所(2011)4頁
- ^ 平野(1958)14-15頁
- ^ 高田(1978)16-17頁
- ^ 内田一郎「ドイツにおける起訴法定主義」『早稲田法学』第40巻第2号、早稲田大学法学会、1965年3月、21-45頁、ISSN 0389-0546、NAID 120000788168、CRID 1050001202480584320、2022年12月29日閲覧。
- ^ 高田(1978)372-373頁
- ^ 刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)。 ウィキソースには、刑事訴訟法等の一部を改正する法律のあらまし(2004年)の原文があります。
- ^ 法務省「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」 (PDF)、2016年6月3日
- ^ 裁判所職員総合研修所(2011)11頁以下
参考文献
- 裁判所職員総合研修所監修『刑事訴訟法講義案(四訂版)』司法協会、2011年
- 高田卓爾『刑事訴訟法』改訂版、青林書院新社、1978年
- 團藤重光『新刑事訴訟法綱要』7訂版、創文社、1970年
- 平野龍一『刑事訴訟法』有斐閣、1958年
- 平沼騏一郎『刑事訴訟法改正案の要旨』、1917年