スーパーヒーロー

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スーパーヒーローとは勇気ある気高い行為で知られ、通常は派手な呼び名とコスチュームを持ち、一般の人類を超越した能力を持っている、キャラクター類型の一種である。

1938年にスーパーヒーローの決定版であるスーパーマンがデビューして以来、短編エピソードから数十年の長きにわたるサーガにまで及ぶスーパーヒーローの物語は、フィクションの全ジャンルで繰り広げられており、アメリカン・コミックスを支配し、他の幾つものメディアへ浸透している。日本などアメリカ以外の国々でも、こうした定義に該当する漫画特撮作品のキャラクターをスーパーヒーロー(あるいは正義の味方)と呼称する場合が多いが、ここでは主としてアメリカン・コミックスにおけるものを取り上げる。

共通する特徴[編集]

決定的なものではないが、スーパーヒーローの基本部分を形成する一連の属性というものが存在する。ほぼすべてのスーパーヒーローは、以下に示す特徴のいずれかを備えている。

  • 超絶的な能力、熟練した技術や高度な装備。スーパーヒーローの能力は非常に多彩であるが、超人的な腕力、飛行能力、増強された感覚、ある種のエネルギーを投射する能力は、誰もが基本的に有している。バットマングリーン・ホーネットなどは超能力を持っているわけではないが、マーシャルアーツや科学捜査法などの特殊技術に習熟している。さらに他のスーパーヒーローは、アイアンマンパワードアーマーグリーンランタンのパワーリングのような特殊な装備品を持っている。
  • 正義のためなら見返りも期待せず、身の危険も厭わない強い倫理観を持つ。
  • 自分自身が危険に晒されたとしても、敵の命を奪う事への拒絶を示す。ただし1970年代後半からは、ウルヴァリンパニッシャーのような多くの例外が存在する。
  • 自分の能力に対する責任感(例:スパイダーマン)、職業的使命(例:キャプテン・マーベル)、犯罪や犯罪者に対する個人的な復讐(例:バットマン)などの、特別な動機を持つ。
  • 友人や家族が敵の標的にされる事を防ぐための、「秘密の正体(シークレット・アイデンティティー)」を持つ。ほとんどのスーパーヒーローは、公の活動には記号的あるいは比喩的なコードネームを用いている。
  • 人目を引く独特のコスチュームの着用。(「コスチュームの特徴」の項目を参照)
  • トレードマークとなる武器。(例:ワンダーウーマンの「真実の投げ縄」、キャプテン・アメリカの持つ合金製の盾)
  • 友達、同僚、恋の相手などのスーパーヒーローを取り巻く脇役たち。彼らはスーパーヒーローの秘密の正体を知っている場合も、知らない場合もある。ヒーローの人間関係は彼らの必然的な二重生活(素顔とヒーロー)によってしばしば複雑になる。
  • スーパーヒーローと繰り返し戦う敵の存在。超能力や超科学などを駆使するスーパーヴィラン(超悪役)。秘密結社やその首領。あるいは多数の敵役など。
  • 一個人としての立場では、働かずに済むだけの個人資産(例:バットマンは大富豪、アイアンマンは企業グループの社長)か、時間的拘束が最小限で済む職業(例:スーパーマンは新聞記者、スパイダーマンは学生、フリーランスカメラマン)を持つ。
  • 任務を遂行するための秘密本部や秘密基地を有することが多い。(例:バットマンのバットケイブ、ファンタスティック・フォーのボクスター・ビル)
  • 「オリジン・ストーリー」あるいは「シークレット・オリジン」と呼ばれる、彼らが超能力を得た状況や、悪と戦う事となったきっかけを説明する背景設定。多くの背景設定には、悲劇的要素やヒーローの能力の獲得につながった突発事故が含まれている。(例:バットマンの両親の死、ハルクのガンマ線被曝)

単独で行動するスーパーヒーロー以外に、多くのスーパーヒーロー・チームもまた存在する。ファンタスティック・フォーX-メンのような幾つかのチームはメンバー同士が共通の起源を持っており(ファンタスティック・フォーは全員が謎の宇宙線に被曝したため、X-メンは全員がミュータント)、またアヴェンジャーズジャスティス・リーグは、別々の起源を持ち個別に行動するヒーロー達から構成されたいわゆる“オールスター・チーム”である。

多くのスーパーヒーローたち(特に1940年代に登場したヒーロー)は、子供やティーンエイジャーの相棒(サイドキックという。例:バットマンとロビン、キャプテン・アメリカとバッキー)と共に行動する。サイドキックたちの存在は、スーパーヒーロー物が洗練されて読者の年齢層が上がるにつれ、年少読者向けのキャラクターの必要性が減った事と、子供を危険に晒す行為が受け入れられなくなった事により、一般的でなくなった。

コスチュームの特徴[編集]

スーパーヒーローのコスチュームは、その作品の内外両方に属する一般大衆に対して、ヒーローの存在を認識させる手助けをする。コスチュームのデザインにはしばしばスーパーヒーローの名前やテーマが組み込まれる。例えばデアデビルの着る真紅のコスチュームはデビル(悪魔)を連想させ、キャプテン・アメリカのコスチュームデザインはアメリカ国旗のデザインをモチーフにしている。スパイダーマンのコスチュームは蜘蛛の巣模様を特徴としている。

多くのスーパーヒーローのコスチュームは、以下の特徴を含んでいる。

  • スーパーヒーローの正体の秘密を維持するために、しばしばマスク(覆面)が着用される。これはグリーンランタンやミズ・マーヴェルの用いる小さなドミノマスク(アイバンド / 目隠し)から、スパイダーマンや『ウォッチメン』のロールシャッハのように頭部を完全に包み込む全頭マスクにまで及ぶ。しかしながら最も一般的なのは、個人を特定しづらい下顎や首の部分は露出させ、顔の上半分のみを覆い隠すマスクである。キャプテン・アメリカやバットマン、ザ・フラッシュのマスクがこれに含まれる。
  • しばしばタイツやユニタード(レオタードとタイツが一体になった類のもの)、あるいはスパンデックスポリウレタン繊維)で作られた体に密着する衣装を着る。これによりキャラクターの男女を問わず、その肉体美が強調される。
  • 様式化された文字や視覚的アイコンのようなシンボルマークが描かれていることも多い。通常は胸の上にあることが多く、例えばスーパーマンの「S」の文字や、グリーンランタンのランタンマーク、インクレディブル・ファミリーの「i」の文字などがこれに含まれる。
  • 最も広く知られた2人のスーパーヒーロー(バットマンとスーパーマン)がマントケープ)を着用しているために、マントはスーパーヒーローの衣装として必須のものと認識されがちであるが、実は大多数のスーパーヒーローはマントを着用していない。『ウォッチメン』や『Mr.インクレディブル』といった作品中では、マントのもつ致命的な欠点が指摘されている。
  • ほとんどのスーパーヒーローのコスチュームはヒーローの正体を隠し、そのイメージを認識させるためだけのものに過ぎない一方で、実用的な機能を持っているパーツも存在する。バットマンの万能ベルトやスポーンのネクロプラズミック・アーマー(生きているコスチューム)は、どちらも持ち主の活動に大きく役立っている。
  • 扱われるテーマによっては、ある種のスーパーヒーロー達は様々な職業やサブカルチャーを象徴する衣装を身にまとう。魔法の力を持つザターナ手品師の衣装(シルクハットタキシードの上着、網タイツと黒のレオタード)を身に着け、地獄のスーパーパワーを持ち炎の車輪のバイクを駆るゴーストライダーバイカー風の金属の鋲を打った革ジャンパーといった格好をしている。
  • ケーブルイメージ・コミックのキャラクターを含む1990年代のヒーローの幾人かは、より実用的かつ軍隊的な外観を採り、伝統的なスーパーヒーローの装備品を拒絶した。肩や肘・膝を守るパッドやケブラー製のベスト、金属製のアーマー、ヘビーデューティー・ベルトが彼らの共通の特徴であった。特にアイアンマンは、着用者の耐久力を増加させ、かつ様々なアドバンテージを提供するパワードアーマースーツを使い分けている。(宇宙用アーマーや深海作業用アーマー、ステルスアーマーから、対ハルク用格闘戦アーマーのようなニッチなものまである。)
  • 『ウォッチメン』のロールシャッハやヘルボーイは普通の人でもよく着用するトレンチコートを着ている。中にはハルクのようにコスチュームを持たず、私服で活動するヒーローも存在する。

ヒーローたちの活動範囲[編集]

スーパーヒーローは漫画で最も頻繁に登場し、アメリカン・コミックの支配的なジャンルである。「スーパーヒーロー」という用語と「アメコミのキャラクター」という用語は、しばしば同義語として扱われる。スーパーヒーローは、ラジオドラマ小説テレビドラマ映画やその他のメディアにも出演している。アメコミ以外のメディアに登場するスーパーヒーローの大半はアメコミからの改作版であるが、例外も存在する。

マーベル・コミック・グループとDCコミック社は、コミックに適用される言葉「Super Heroes」のアメリカ合衆国における商標権を共同で所有しており、この二つの企業は全世界の有名なスーパーヒーローの大部分を所有している。しかしアメリカン・コミックの歴史には、この2社以外に所有されていた数多くのスーパーヒーローが存在した。フォーセット・コミックの所有していたキャプテン・マーベル(ただし、このキャラクターの権利は1951年から開始された法廷闘争によりDCに移行し、1972年にDCユニバースのキャラクターとして復活した。詳細は英語版の記事en:National Comics Publications v. Fawcett Publicationsを参照)、トッド・マクファーレン個人の所有するスポーンなどである。

スーパーヒーローの大部分はアメリカで生まれているが、他の国にも成功したスーパーヒーロー達が存在する(それらの国のほとんどは、アメリカにおけるスーパーヒーロー像と多くの慣習を共有している)。日本はスーパーヒーローの生産において、アメリカと肩を並べる唯一の国である。月光仮面ウルトラシリーズ仮面ライダーシリーズスーパー戦隊シリーズなどは、有名な日本の特撮ライブアクションであり、科学忍者隊ガッチャマン美少女戦士セーラームーンは日本のアニメ漫画の代表である。また他の国では、アルゼンチンサイバーシックスカナダキャプテン・カナックイギリスマーヴェルマン(北米ではミラクルマンとして知られる)が挙げられる。

スーパーヒーロー作品はファンタジーSFのサブジャンルであると見做せるが、他の多くのジャンルにもスーパーヒーローが登場するものがある。正統派のSFヒーロー・フランチャイズ(X-メン、グリーンランタン)が存在する一方で、他の多くのスーパーヒーロー・フランチャイズは、犯罪物(バットマン、デアデビル)やホラー(スポーン、ヘルボーイ)の側面を含んでいる。サンドマンやザ・クロック(en:The Clock)のような最初期のスーパーヒーロー達の多くは、アメコミの前身であるパルプ小説に基づいている。

スーパーヒーローを取り巻く空想的な状況は、ほとんどあらゆる出来事を許容しているにもかかわらず、幾つかのスーパーヒーローシリーズは更に多様な異ジャンルへの進出を行っている。例えば1980年代ニュー・ティーン・タイタンズでは、あるストーリーでカルト集団のリーダーと戦い、続くストーリーでは他の銀河系で宇宙戦争に参加し、地球に帰還してすぐに家出少年達を巻き込む深刻な都会風ドラマに関わるなどの目まぐるしい展開をするようになった。

アメリカン・コミックにおけるスーパーヒーローの歴史[編集]

先行作品[編集]

スーパーヒーローの起源は、幾つかの先行するフィクション形式の中に見つけ出す事が出来る。紅はこべシャーロック・ホームズのようなヴィクトリア朝後期の文学作品の主人公達は、スーパーヒーローと共通する多くの特性を持っている。大衆小説の怪傑ゾロターザンもスーパーヒーローに影響を与えている。ドック・サヴェジ、シャドウ、スパイダーのようなパルプ小説のクライムファイター(=犯罪者退治専門のヒーロー)達や、ディック・トレイシーファントムといった漫画のキャラクター達は、おそらくは直接に影響を及ぼしている。

現代の基準においては、ドック・サヴェジやファントムは紛れもなくスーパーヒーローであると見なせるが、スーパーマンの初登場こそがスーパーヒーロージャンルの真の出発点であると、広く考えられている。スーパーマンの原型となったフィリップ・ワイリーSF小説『闘士』(1930年)は、最近では古典的なスーパーヒーローだけではなく、スーパーヒーローの脱構築についての早期の例としても注目を集めている。[1]

ゴールデン・エイジ[編集]

1938年に、ジェリー・シーゲルジョー・シャスタースーパーマンを登場させた。スーパーマンは、秘密の正体や超人的な能力、シンボルマークとマントを含む色鮮やかなコスチュームといった、スーパーヒーローを定義する特徴の多くを備えていた。また、スーパーマンの名前は用語「スーパーヒーロー」の語源である。

DCコミック(以下DC。当時の社名はナショナル・アンド・オールアメリカン)はスーパーマンの圧倒的な反響を受けて、続く数ヶ月の間に、バットマンと相棒のロビンワンダーウーマングリーンランタンザ・フラッシュアクアマン、ホークマン、グリーンアローなどのスーパーヒーロー達を登場させた。最初のスーパーヒーローチームは、上記のキャラクター達を寄せ集めた、DCによるジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)であった。

当時のスーパーヒーロー市場はDCにより支配されていたが、他の大小の出版社も数百人に及ぶスーパーヒーローを生み出した。マーベル・コミックヒューマントーチ(オリジナル・ヒューマントーチ。ファンタスティック・フォーのキャラクターとは別人。en:Human Torch (Golden Age))やサブマリナークオリティ・コミックプラスチックマンファントムレディ新聞連載されたウィル・アイズナーザ・スピリットは、いずれも人気を博した。しかしながら、この時期の最も有名なスーパーヒーローはフォーセット・コミックキャプテン・マーベルであった。1940年代を通じて、キャプテン・マーベルはスーパーマンより多くの売り上げを収めた。

第二次世界大戦中は、紙不足と徴兵や徴用による大勢の原作者や作画家の損失をものともせずに、スーパーヒーロー人気が上昇した。善が悪に対して勝利を収める単純な物語が求められていたことが、戦時におけるスーパーヒーロー人気の理由かもしれない。出版社はスーパーヒーロー達が枢軸国と戦う物語や、愛国心をテーマにしたスーパーヒーローの導入でそれに応えた。これらの内で最も特筆すべきなのは、マーベル・コミックのキャプテン・アメリカである。

戦後になると、スーパーヒーローは人気を失った。これは他の漫画ジャンル、特にホラーギャングの台頭に繋がった。これらの漫画のいかがわしい内容は、漫画が少年非行の原因であると非難する規制運動家達の活動を引き起こした。この運動の先頭に立ったのが、スーパーヒーロー・コミックの根底には性的倒錯が蔓延していると主張した精神科フレデリック・ワーサムであった。[2]

これに応じて、アメリカン・コミック業界は悪名高い厳しい自主規制(コミックス・コード)を採用した。作品を穏健なものにしようとする出版社の努力にもかかわらず(あるいは、むしろその努力のために)、1950年代の半ばまでにスーパーヒーローたちの荒唐無稽な物語は一掃され、スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンのみが細々とその命脈を保つのみとなった。

こうして、後の研究家たちがアメリカン・コミックの黄金時代(ゴールデン・エイジ)と呼ぶ期間は終わりを告げた。

シルバー・エイジ[編集]

1950年代に、DCは編集者ジュリアス・シュワルツの下で大勢の1940年代の人気ヒーロー達を復活させ、後にアメリカン・コミックの白銀時代(シルバー・エイジ)と呼ばれた時代が始まった。ザ・フラッシュグリーンランタンホークマンなどのスーパーヒーローたちが、新たなオリジンと設定を与えられて甦った。かつてのヒーロー達はその出自や能力を過去の神話の英雄や魔法に拠っていたのに対し、シルバー・エイジの新しいヒーロー達は現代的なサイエンス・フィクションの影響を強く帯びていた。

1960年には、DCがスーパーマンやバットマン、ワンダーウーマンなどの人気ヒーローをひとつのチームとしたジャスティスリーグ・オブ・アメリカ(JLA)を結成させ、記録的売り上げとなった。

DCにおけるスーパーヒーロー復帰の影響を受け、マーベル・コミックの原作者で編集者でもあったスタン・リーと作画家ジャック・カービースティーブ・ディッコらは、1961年ファンタスティック・フォーに始まるスーパーヒーロー・コミックの新路線に着手した。これらのコミックはDCと同様の「SF設定に重点を置く方針」を継承していたが、個人的葛藤やキャラクター造型にも大きな重点を置いていた。この方針はそれまでの明朗快活で類型的なスーパーヒーロー像とはまったく違う、より劇的な可能性を備えた多くのスーパーヒーロー、スーパーヴィラン達を生み出した。いくつかの例を以下に挙げる。

  • ザ・シング:ファンタスティック・フォーの一員で、怪力の持ち主であるが、オレンジ色の岩のような皮膚に包まれた怪物的な容姿に傷つき悩む。
  • スパイダーマン:スーパーヒーローとしての活躍に加えて、就職や生活費の獲得、友人関係の維持に苦労するティーンエイジャーとしての面も見せた。
  • ハルクジキルとハイドのような関係にあるもう一人の自分と肉体を共有し、激情に駆り立てられると怪力の巨人と化して暴れる。
  • X-メン:遺伝子の突然変異によって超パワーを獲得したミュータントたち。彼らが守ろうとする人間の社会から逆に忌み嫌われる。

マーベルのスーパーヒーローの基本的なパワーの源は、放射線による突然変異であることが多かった。アメリカン・コミックでは核兵器や放射線被曝に対しての認識が、実際の被害状況を伝え知っている日本人と大きなズレがある。例えばX-メンに登場する日本出身のヒーローサンファイアは、被爆二世で原爆の放射線によってミュータント能力が開眼したという無配慮な設定が与えられている(なお前述のハルクが変異したきっかけもガンマ線爆弾による被爆である)。

1970年代の初めまでに、

  • スーパーヒーロー物への回帰
  • 一般視聴者層向けメディアとしてのテレビの普及
  • コミックス・コード委員会による規制の強化

などの影響により、西部劇ロマンスホラー漫画、犯罪物(ギャング物)といったグリッター・ジャンルのコミックはほぼ消滅した。それ以降の30年間、スーパーヒーローの登場しないアメリカン・コミックが時おり話題に上ることはあったものの、アメリカの読者にとって、スーパーヒーローとコミックはいつの時代も切っても切れない関係であり続けた。

脱構築されるスーパーヒーロー[編集]

1970年代に、DCバットマンを彼のルーツである非合法の自警団員へ復帰させた。またマーベルは、パニッシャーウルヴァリンフランク・ミラーによるダーク版デアデビルなどの幾人かの有名なアンチヒーロー達を登場させた。これらのキャラクター達は内心から来る苦悩を抱え込んでいた。バットマンやパニッシャー、デアデビルは犯罪に巻き込まれて殺された家族の死に突き動かされ、スラム街で自分の身を危険に晒し続けた。一方、X-メンのウルヴァリンは、心の奥底から湧き上がる残虐な本質との戦いを常に続けているミステリアスなキャラクターだった。

脱構築化ヒーローの流れは、原作アラン・ムーア、作画デイブ・ギボンズにより、1986年にDCから発表されたミニ・シリーズウォッチメン』の成功により頂点を迎えた(ただし、このシリーズはDCユニバースの外側で展開された)。『ウォッチメン』に登場するスーパーヒーロー達は、満たされぬ心に内向的な性格と反社会性を抱え、そしてヒーローを拒絶する社会の中で活躍していた。

一方、『バットマン:ダークナイト・リターンズ』(1985年 - 1986年)により、バットマンの刷新が更に推し進められた。原作と作画をフランク・ミラーが手がけたこのミニシリーズでは、引退生活から舞い戻った未来のバットマンが登場する。『ダークナイト・リターンズ』において、バットマンは己の理想とする社会の実現を残忍な手段により模索する狂人として描写される。

何人かの批評家は脱構築化の傾向を、超越的な能力を持つ人間ならば、その能力を正義を追求する利他的な目的に使うに違いないという信念や、あるいは人間の精神には本質的に犯罪を滅ぼそうとする衝動が備わっている筈だという信念が失われた、1980年代シニシズムと結び付けて考えている。いずれにせよ、上記の2シリーズはその意欲的な表現と深い心理描写により賞賛を浴び、多数の模倣作品を生み出した。

闘争の1990年代[編集]

1990年代の初めまでには、アンチヒーローはスーパーヒーローの例外と言うよりは、むしろ基本となっていた。X-メンの一員であるビショップ、『X-フォース』のリーダーとなったケーブルスパイダーマンの仇敵の一人ヴェノムたちは最も有名なアンチヒーローとなり、1990年代の新しいキャラクター達に模倣された。

1992年、マーベルのイラストレーターであったジム・リートッド・マクファーレンロブ・ライフェルド(彼らは皆、スパイダーマンやX-メンの派生タイトルにおけるアンチヒーロー人気の立役者だった。)らがマーベルを退社してイメージ・コミックを設立した。イメージ・コミックが目指したのは、制作者自身によるキャラクターの所有であり(アメコミ業界では、通常キャラクターの著作権は出版社に帰属する)、マーベルとDCの30年に及ぶ業界支配に対する挑戦であった。リーの『ワイルド・キャッツ』や『GEN13』、ライフェルドの『ヤングブラッド』、マクファーレンの『スポーン』は広く人気を得たが、オーバーな筋肉描写や過激な暴力描写、オリジナリティが不足しているという指摘などから批判を浴びた。イメージ・コミックによるこの過剰なまでの新タイトル供給を受けて、大手から零細に至る多数の出版社が、憂いに満ちたアンチヒーローの流行を追いかけた。

この新しい競合者に対して業界の首位を守るため、マーベルとDCは看板キャラクターの大胆な変革を行った。

  • 大成功したタイトル『スーパーマンの死(The Death of Superman)』で、スーパーマンが死亡する(ただし、後に復活)。
  • バットマンは『ナイト・サーガ』において重傷を負い、身体障害者となった(一時は別人がバットマンになったが、リハビリによって復活した)。
  • スパイダーマンは『クローン・サーガ』において、主役の座を自らのクローンと争うこととなった(今までのスパイダーマンはクローンだったということで新スパイダーマンのシリーズが始まったが、不評のため新スパイダーマンは短期間で死亡して元のスパイダーマンに戻った)。

これらの展開はしばしば主流メディアにおいて衆目を集めたが、本来の読者達の間では、シリーズ作品としての本質が損なわれた事により作品への興味が失われたと、評判が悪かった。

1990年代の幾人かの作家は、暴力的なアンチヒーローやセンセーショナルで大規模なプロットの流行に背を向けた。カート・ビュシークアラン・ムーアのような顕著な才能は、ビュシークによる『アストロシティ』やムーアによる『トム・ストロング』のような喝采で受け入れられた作品によって、スーパーヒーロー・ジャンルの再構築を試みた。これらの作品は、洗練された技法とレトロ・フューチャリズムによるスーパーヒーロー像を組み合わせたものだった。作画家のアレックス・ロスは、文学的な文脈の中で古典的なスーパーヒーローを扱ったマーベルの『マーヴルズ』(ビュシーク原作)やDCの『キングダム・カム』などのミニ・シリーズでのフォトレアリスティックな仕事(写真と見まごうばかりの写実的なイラストレーション)によって、人気作家となった。

2000年代が始まる頃には、大部分の古典的スーパーヒーロー達は各々のルーツに舞い戻っていった。しかしながらアメコミ業界の人気作家達は、グラント・モリソンの『ニュー・X-メン』シリーズやブライアン・マイケル・ベンディスの『アヴェンジャーズ・ディスアセンブルド』篇の場合のように、旧作の徹底的な変更を行いつつも、読者から全体的な支持を受けていた。

2005年の時点において、アメリカン・コミック業界自体の落ち込みによりアンチヒーローの氾濫は収拾した。しかし、スーパーヒーロー映画のリバイバルや、トレード・ペーパーバック(TPB、数冊分の連載を1冊にまとめた単行本)の売り上げ向上により、アメリカにおけるスーパーヒーローというジャンルそのものは今なお健在である。

多様化するスーパーヒーロー[編集]

ジャンル誕生から1960年代初頭までは、大部分のスーパーヒーローは20世紀前半のアメリカ大衆小説の主人公像に準拠していた。すなわち典型的なスーパーヒーローは、男性であり、白人であり、中流から上流階級に属し、異性愛者であり、専業のスーパーヒーローであり、年齢は青年から中年までに限られていた。(重要な例外はDCのワンダーウーマンで、1941年に登場した彼女は最初の女性スーパーヒーローであり、恐らくは現在でも、最も有名な女性スーパーヒーローである。)

1950年代の終わりと1960年代の初めに、DCは同社の最も有名なスーパーヒーロー達の女性版をデビューさせた。スーパーガールバットガール、ホークガールである。少女向けのスピンオフシリーズで主役を演じたスーパーマンの恋人ロイス・レーンと同様に、彼女らは主人公を支える成功した専業ヒロインだった。

同時期に、マーベルは『ファンタスティック・フォー』のインヴィジブルガールと『X-メン』のマーベルガールを登場させた。しかし、彼女らは肉体的には脆弱であり、主にチームメイトのロマンティックな興味の的として描写されていた。1970年代になると、彼女らはより大胆かつ積極的になり、スパイダーウーマンミズ・マーベルを含む幾つかの女性ヒーローを主役としたシリーズが開始された。最初の内、これらの女性ヒーロー達はミズ・マーベルやDCのパワーガールのように、口やかましいフェミニストのステレオタイプであった。社会の変化につれて原作者が成長するまで、この傾向は続いた。その後の数十年間に、エレクトラキャットウーマンウィッチブレイドスパイダーガールが人気シリーズの主役となった。

1960年代後半になると、マーベルに有色人種のスーパーヒーローが姿を現した。1966年に、マーベルは最初の本格的な黒人スーパーヒーローとしてブラックパンサーを登場させた。1972年にはヒーロー・フォー・ハイアー(金銭で雇用される雇われヒーローチーム)を率いるアフリカ系アメリカ人ルーク・ケイジが主役を務めた最初の黒人スーパーヒーローとなり、1974年にはマーシャルアーツ・ヒーローのシャン・チーがアジア系ヒーロー初の主役となった。文化的拡張方針の初期にあって、アメコミ出版社はこれらのキャラクターを特定人種のステレオタイプとして扱った。しばしばケイジは黒人映画のような喋り方をさせられ、アジア人は武術の達人として描かれていた。アメコミ出版社の成熟と多様化によって、『ティーン・タイタンズ』のひとり・サイボーグのような後期のマイノリティ・ヒーローには、これらの特徴は割り振られなくなった。

1975年、マーベルが多国籍間から選抜されたメンバーからなる新チームを導入してX-メンを復活させた。そのメンバーは、ドイツ人のナイトクローラーロシア人のコロッサス、カナダ人のウルヴァリンケニア人のストーム(彼女は最初の黒人女性ヒーローでもある)から構成される。その後の十年間で最も成功したアメコミシリーズとなったX-メンは、先進的で多様なメンバー構成と、寛容と調和のメッセージに基づくストーリーを保ち続けた。人種的多様性は、X-メンの後続作品や、DCのリージョン・オブ・スーパーヒーローズやティーン・タイタンズのようなX-メン模倣作品にとって、重要な要素と言えるであろう。

1992年にマーベルが、カナダのスーパーヒーローチーム・アルファフライトのメンバー、ノーススターが同性愛者であった事を、数年にわたる伏線の後に明らかにし、物議を醸した。『ウォッチメン』の脇役の幾人かはゲイであったが、メインストリームの連載作品におけるゲイのスーパーヒーローは、ノーススターが最初であった。これ以降、『GEN13』のレインメーカー、『ニュー・ミュータンツ』のカルマ、『オーソリティ』のアポロとミッドナイターのカップルなど、準主役格のゲイ・スーパーヒーローが複数出現した。

1993年には、アフリカ系アメリカ人の所有するDC系列の出版社マイルストーン・コミックが、幾人かの黒人の主役を含む、数多くの少数民族キャラクターが登場するシリーズを開始した。このシリーズは4年間しか続かなかったが、カートゥーン ネットワークの人気シリーズ『スタティック・ショック』としてアニメ化された。

実写映画化された主なスーパーヒーロー作品一覧[編集]

関連項目[編集]