クロムウェル巡航戦車

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巡航戦車 Mk.VIII クロムウェル(A27M)
性能諸元
全長 6.35m
全幅 2.91m
全高 2.49m
重量 27.5t
懸架方式 クリスティー方式
速度 64km/h
行動距離 278km
主砲 Mk.I~III QF 6ポンド砲
Mk.IV~V、VII~VIII QF 75mm砲
Mk.VI QF 95mm榴弾砲
副武装 7.92mmベサ機関銃×2
装甲
砲塔
  • 前面 64+12.7mm
  • 側面 51+12.7mm
  • 後面 44+12.7mm
  • 上面 20mm
車体
  • 前面上部 63.8mm(+38mmMk.VII~VIII)
  • 前面傾斜部 25mm
  • 前面下部 57mm
  • 側面上部前半 32+14mm
  • 側面下部前半 29+14mm
  • 側面上部後半 32-25mm
  • 側面下部後半 25+14mm
  • 後部 32-14mm
  • 上面 14mm
  • 底面前半 8+6.35mm(スペースドアーマー
  • 底面後半 6.35mm
エンジン ロールス・ロイス ミーティア
600PS
乗員 5名(車長・砲手・装填手・無線手兼機銃手・操縦手
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巡航戦車 Mk.VIII クロムウェル(A27M)Tank, Cruiser, Mk VIII, Cromwell(A27M))は、1943年に開発されたイギリス巡航戦車(30トン級)である。

“クロムウェル”の名称は、イングランド内戦に際し鉄騎隊を率いた、オリバー・クロムウェルに由来する。

概要[編集]

クルセーダー巡航戦車の後継車として、ボクスホール自動車製のA23[1]ナッフィールド・オーガニゼーションA24[2]、そして、レイランド・モーターズA27の、3つの新型戦車が提案された。

最も有力視されたのはA27で、これは、スピットファイア戦闘機などに搭載されていたロールス・ロイス社製のマーリンエンジンを陸上用に改造した、ミーティアエンジンを搭載する予定の物だった。しかし、戦闘機用エンジンが優先されていた時期でもあり、また、ナッフィールド社が自社製のリバティーエンジンの搭載に固執したせいもあって、A27の車体構造に手直しされたA24が暫定型として生産されることとなった。しかし、以前の巡航戦車より重量の増えたクルセーダーの段階でトラブルを多発するようになったこのエンジンでは、より重量の増えたA24の機動性や機械的信頼性を落とす結果となり、大半が訓練に用いられただけで終わってしまった。

一方、本命であるA27でも、当時の戦車用エンジンとしては構造が複雑なミーティアの搭載に苦労しており、同様にリバティーエンジンを搭載したA27Lを1942年11月から生産することとなった。これもA24がベースとなっており、ウィルソン遊星歯車式からメリット・ブラウン方式に変速・操向機が変更されており、エンジン室周りも改造され、後からミーティアエンジンへの換装も可能であった[3]。そして、本来予定していたミーティアエンジンを搭載したA27Mの生産は遅れ、1943年1月から開始された。

当初、A24は「クロムウェル Mk.I」、A27Lは「クロムウェル Mk.II」、A27Mは「クロムウェル Mk.III」と呼ばれていたが、後にA24は巡航戦車Mk.VIII キャバリエ、A27Lは巡航戦車Mk.VIII セントー、A27Mは巡航戦車Mk.VIII クロムウェルと呼ばれることになった。セントーは主に訓練用として使われ、ノルマンディー上陸作戦イギリス海兵隊装甲支援群英語版が装備していた95mm榴弾砲搭載のCS型(近接支援型)[4]と、同じ車体を用いた砲兵観測車や対空戦車が実戦参加したに止まった。

クロムウェルが量産された頃には、アメリカから供与されたM4中戦車機甲師団の主力となっていたため、本車は主に機甲偵察連隊などに配備され、実戦投入された。主砲は75mm砲が予定されていたが、当初は供給不足で、Mk.I-IIIまではクルセーダーから継承した6ポンド砲だったが、Mk.IV・Mk.V・Mk.VIIは、6ポンド砲用の砲架に搭載する、アメリカから供給される砲弾を用いる国産のQF 75mm砲に換装し、Mk.VI・Mk.VIIIはCS型(近接支援型)で、QF 95mm榴弾砲を搭載する。

装甲は、Mk.I-VIまでが最大76mm[5]で、増加装甲が施されたMk.VII、Mk.VIIIが最大101mmとなっており、特にMk.VII、Mk.VIIIは、イギリス巡航戦車としてはかなりの重装甲を備えていた。

最高速度は、リバティーエンジン搭載のキャバリエが39km/h、セントーが43km/hとクルセーダーと大差ないレベルであるが、ミーティアエンジン搭載のクロムウェルは51-64km/hにも達し、「第二次世界大戦中最速の戦車」と言われるほどの快速ぶりを誇っている。

ノルマンディー上陸作戦後のヴィレル・ボカージュの戦いで、ティーガーI 1両にクロムウェル1個大隊(15両)が全滅させられたエピソードは有名である。第二次大戦後は朝鮮戦争にも投入され、中国義勇軍鹵獲されたクロムウェルが、初の実戦参加となったセンチュリオンと交戦したというエピソードもある。

第一次中東戦争では、建国当時のイスラエル軍により、パレスチナ駐留のイギリス軍からクロムウェル戦車2両が盗み出され、貴重な装甲戦力として使用された(イギリス軍戦車部隊出身のハリー・マクドナルド軍曹とマイク・フラナガン英語版伍長が、ハイファ空港近郊のイギリス軍保管倉庫から2両のクロムウェルを盗んだ)。現在もイスラエルラトルン戦車博物館には、クロムウェル戦車が展示されている。

クロムウェルは、後のチャレンジャー巡航戦車コメット巡航戦車のベース車両となった。また、余剰化したクロムウェルをベースに、センチュリオン Mk.3にも搭載された20ポンド戦車砲を搭載したチャリオティア駆逐戦車が製造された。

型式・派生型[編集]

主要型式[編集]

クロムウェル Mk.I
6ポンド砲搭載型。
クロムウェル Mk.II
チャーチル Mk.VIIの物と似たボクスホール製の鋳造砲塔を搭載し、履帯幅を394mmに拡大した型。試作のみ。
クロムウェル Mk.III
セントーのエンジンをミーティアエンジンに換装した型で、武装は6ポンド砲。
クロムウェル Mk.IV, Mk.V
主砲QF 75mm砲に換装した型。
クロムウェル Mk.VI
QF 95mm榴弾砲搭載のCS(クローズサポート、近接支援)型。
クロムウェル Mk.VII
7QF 75mm砲搭載車に装甲を増設した型で、前面装甲は合計101mmとなった。
クロムウェル Mk.VIII
Mk.VIIと同様のQF 95mm榴弾砲搭載の近接支援(CS)型。

派生型[編集]

クロムウェル コマンド (Cromwell Command)
No.19(低出力型)およびNo.19(高出力型)無線機を搭載した指揮戦車型。旅団および師団本部車両として使用された。主砲は搭載していないが、砲塔前部右側に装備される2インチ迫撃砲(2inch bomb thrower)[6]は装備されており、指揮車としての特定を避けるため、砲身はダミーのものが装備されている。
クロムウェル コントロール (Cromwell Control)
2基のNo.19(低出力型)無線機を搭載した指揮戦車型。連隊本部車両として使用された。クロムウェル コマンドと異なり主砲は通常の戦車型と同じく装備されている。
クロムウェル OP (Cromwell Observation Post)
No.19無線機(高出力型)およびNo.38携行無線機を各2基、計4基搭載した砲兵観測戦車型。指令戦車型と同じく主砲はそのまま搭載されている。
Mk.IV、Mk.VI、またはMk.VIIIより改造されて製造された。
クロムウェル チューリップ (Cromwell tulip)
クロムウェルの砲塔両側面に、計4連装のチューリップ ロケット弾発射器を装着したもの。
クロムウェル ARV (Cromwell Armoured Recovery Vehicle)
砲塔を撤去し、回収用機材を搭載した装甲回収車型。車体前方にブームクレーンを装着可能。
チャリオティア駆逐戦車(Charioteer tank destroyer)
第二次世界大戦後、余剰化したクロムウェルの車体に新型密閉砲塔を搭載し、主砲としてオードナンス QF 20ポンド砲を搭載した駆逐戦車

登場作品[編集]

ゲーム[編集]

R.U.S.E.
イギリス中戦車として登場。
War Thunder
イギリス陸軍の中戦車としてMk.IとMk.Vが登場。またチャレンジャーアヴェンジャーコメットチャリオティアMk.VIIなども登場する。
World of Tanks
イギリス中戦車CromwellおよびCromwell Bとして登場。Cromwell Bはベルリンで行われた対独戦勝パレードで行進した車両がモデルになっている。
トータル・タンク・シミュレーター
英国とポーランドの改中戦車CRMWELLとしてMk.Vが登場。また派生のコメット、チャレンジャーも登場。
パンツァーフロント
イギリス軍の戦車として登場。
虫けら戦車
小さくなり虫と戦うことになったプレイヤーのドイツ軍戦車兵がフィールド上で見つけると使用できる。

脚注・出典[編集]

  1. ^ チャーチル歩兵戦車を小型化したような巡航戦車
  2. ^ クルセーダー巡航戦車の改良型
  3. ^ しかし、実際にそれが行われた車両はほとんど無かったとする資料もある
  4. ^ 本来はエンジンを撤去して弾薬庫とし、上陸用舟艇に載せて射撃する砲台代わりとなるはずであったが、乗員の反対もあって上陸しての実戦参加となった
  5. ^ 当時のイギリスの工場によっては厚い装甲を溶接できる職人が不足していたため、まず12.7mm厚の薄い装甲を溶接し、それに64mm厚の装甲をボルト留めするという手段で組み立てられている
  6. ^ 砲塔内部から装填・操作できる後装式の迫撃砲で、供与されたM4“シャーマン”戦車を含めイギリス戦車に標準的に搭載された。
    なお、実戦では専ら発煙弾を発射するために用いられ、運用の実際としては発煙弾発射器であった。

参考文献[編集]

  • 著:デイヴィッド・フレッチャー/リチャード・ハーレイ 訳:篠原比佐人『オスプレイ・ミリタリー・シリーズ 世界の戦車イラストレイテッド35 クロムウェル巡航戦車1942‐1950』(ISBN 978-4499228824)刊:大日本絵画 2007年

関連項目[編集]