近鉄8810系電車

共通事項
基本情報
製造所	近畿車輛
主要諸元
軌間	1,435
電気方式	直流1,500V
最高運転速度	奈良線所属車：105km/h 大阪・名古屋線所属車：110
設計最高速度	120
起動加速度	2両編成：2.5km/h/s 3両編成：3.2km/h/s 4両編成：2.5
減速度（常用）	4.0
減速度（非常）	4.5
車体長	20,720
車体幅	2,800
全高	4,150
車体高	4,055
台車	Mc車・M車：KD-88 Tc車：KD-88A
主電動機	三菱電機複巻電動機
主電動機出力	160kW
駆動方式	WNドライブ
歯車比	4.72
制御装置	日立製作所製界磁チョッパ制御MMC-HTR-20H
制動装置	電磁直通ブレーキ
保安装置	近鉄型ATS

近鉄8810系電車（きんてつ8810けいでんしゃ）とは、近畿日本鉄道の保有する通勤形電車の1系列。

本稿では、同じ奈良・京都線用として製造された界磁チョッパ制御車、9000系電車と9200系電車についても記述する。

8810系

近鉄8810系電車
主要諸元
編成	4両編成
主電動機	三菱電機複巻電動機 型式：MB-3270-A
編成出力	1280kW

1981年（昭和56年）に奈良線・京都線用に製造された界磁チョッパ制御を採用した4両編成の電車。2015年現在、8911Fは大阪線に転出。大阪難波・京都・伊勢中川（大阪線編成）寄りからク8910（偶数） (Tc) +モ8810（偶数） (M) +モ8810（奇数） (M) +ク8910（奇数） (Tc) と編成を組む。大阪線1400系の奈良線仕様と言え、車体幅が2,800mmで裾を絞っているという点、制御装置が日立製作所製という点以外はほぼ同一である。

車体

運転台のある妻面は従来車とは異なり切妻に近くし、正面行先表示器は貫通路上部と屋根の間に収め、正面の前照灯の周りをステンレスの板で囲んだデザインが斬新である。界磁チョッパ制御からVVVFインバータ制御に制御方式が変わってもこの正面のデザインは、2000年（平成12年）のシリーズ21登場まで長らく使われていた。側面には8800系同様の行灯式種別表示が装着されていた。

1984年に製造された最終編成の8826Fは仕様変更が行われ、冷房装置の変更により車体高さが変更され、落成当初より側面行先表示器を装備した。内装デザインは化粧板がベージュを基調とした「サンドウェーブ柄」に、天井化粧板は白を基調とした「こもれび柄」に、床材はマルーン調に仕様が変更された。この内装デザインは前述の車体デザインと共にシリーズ21登場まで約15年以上にわたって継承された。

主要機器

主電動機は近鉄初の複巻電動機の三菱電機MB-3270-Aを採用し、1両あたり4基搭載。歯車比は4.72で、これも標準軌線の界磁チョッパ通勤車に共通する。台車は積空比の大きな通勤車用であることを考慮し、空気バネ径を大きくしたダイレクトマウント式空気ばねシュリーレン式台車の近畿車輛KD-88・88Aを採用。パンタグラフは下枠交差形のPT-48で奇数M車に2基装備。8812F - 8818Fでは電動発電機・コンプレッサはTc1に設置されていたが、8820F以降はコンピューター計測による軽量化が推進された関係でコンプレッサがTc2に移設されるといったマイナーチェンジが実施されている。

起動加速度は2.5km/h/sで最高速度110km/h、33‰上り勾配区間・架線電圧10%減・定員乗車条件でも均衡速度90km/hを確保している。

改造・更新

2000年から2007年（平成19年）までに全編成とも車体更新を完了した。更新内容は以下の通り。

• 車体外装の交換、雨樋の取り付けと乗降口床面の水切り設置、乗降扉の複層ガラス化 (8814F - 8824F)
• 車内内装材の交換
  • シリーズ21と同等の化粧板と床材に交換 (8820F以降)
  • 7020系に準じた内装デザインに変更、車椅子スペースの設置 (8826Fのみ)

車体更新と並行して以下の改造も全編成施工されている。

• 側面行先表示器を行灯式から方向幕式に交換
• 転落防止幌の設置
• 全編成に増粘着剤噴射装置の取り付け
• 新型ATS（ATS-SP）設置・デッドマン装置更新、戸締灯の増設工事
• 2013年以降座席モケットを5200系更新車と同一のデザイン・材質に交換 (一部の編成のみ)

転属

8826Fは1986年から1989年の間は方向転換・改造のうえ、大阪線に転属して使用されていたが、再度奈良線に復帰し仕様を戻して使用されている。

2004年（平成16年）2月には8812Fが方向転換のうえ大阪線用に改造されて大阪線高安検車区に転配された。電算記号は奈良線系統の4連車を意味する「L」を用いて、8800系に続き「FL」が採用され、同系同様に大阪難波・京都寄りのM車を基準としてFL12 - 26（偶数）であった。8826Fは大阪線在籍時代にはFC25と呼ばれていたが、これは兄弟車に相当する同線の1400系が、大阪上本町寄りのM車を基準としてFC01、FC03…となっていたことにならったものである。この例は8812Fにも引き継がれ、転属に際しFL12からFC11へと変更された。

配置

2015年4月現在は8811Fの1編成のみ大阪線高安検車区に、8814F - 8826Fが奈良線東花園検車区に配置されている。

大阪線へ転属した8812F

9000系

近鉄9000系電車
主要諸元
編成	2両編成
主電動機	三菱電機複巻電動機 型式：MB-3277-AC
編成出力	640kW

1983年（昭和58年）に登場。8810系の2両編成仕様および名古屋線の1200系の奈良線仕様であり、車体幅が2,800mmで裾を絞っているという点、制御装置が日立製作所製という点以外はほぼ同一である。名古屋寄りからク9100 (Tc) +モ9000 (Mc) と編成を組む（奈良線時代は大阪難波・京都寄りからモ9000 (Mc) +ク9100 (Tc) と編成を組んでいた）。

車体

8810系と異なり全車当初より側面に行先表示器が取り付けられている。9005F以降は8810系8926Fと同様に冷房装置の仕様変更で車体高さが変更となった。なおモ9001のみは、運転席後方の仕切ガラスを、竣工後に遮光性を持たせた黄土色のものへ試験目的で交換され、これが現在もそのまま装着され続けている。このガラスは後に22000系で乗務員室仕切ガラスに本格採用されている。

主要機器

主電動機は1200系と同形のMB-3277-AC、制御装置は8810系と同形のMMC-HTR-20Hで、電動発電機はHG-77463、コンプレッサはC-2000MをTc車に搭載。パンタは下枠交差形のPT-48をMc車に2基搭載。また9003F以降のコンプレッサはHS-10に変更されている。

改造・更新

2001年から2003年にかけて全編成に車体更新が施工されている。更新内容は以下の通り。

• 内装の壁紙を5800系と同一仕様に交換
• 転落防止幌（9003F以降、9001F・9002Fはワンマン対応改造時に設置）、車椅子スペースの設置

更新に前後して、以下の改造も施工されている。

• 新型ATS（ATS-SP）設置・デッドマン装置更新工事
• 増粘着剤噴射装置の取り付け

ワンマン対応改造

2006年に9007Fへワンマン運転対応改造が施工され、2007年5月から同年12月までには9008F・9005F・9001F・9002Fの順にワンマン改造された。改造内容は2003年以降のワンマン改造車と同じく、クーラーキセへの車外スピーカーの取付と、先頭車への運賃表設置および運転士側の座席1列を撤去して跡地に運賃箱を設置したが、ワンマン表示については行先方向幕の交換は行われず、運転室車掌側に電光表示器を取り付けて対応している。残りの3編成（9003F・9004F・9006F）については2015年現在でもワンマン対応改造が施工されていない。なお、本形式では1200系などとは異なり、ワンマン対応改造車に対しての形式名変更は実施していない。

転属・転属後の運用

2003年（平成15年）10月から2006年（平成18年）12月にかけて全編成が方向転換・改造のうえ、名古屋線に転配され、1810系の一部を置き換えている。これにより奈良線系統から9000系は消滅した。

電算記号は、奈良線系統在籍時代には同線系統の2連車を意味する「E」を用いたFE01 - FE08であったが、名古屋線転属時には大阪・名古屋線系統の33パーミル勾配区間の走行が可能な2連車を意味するWを用いてFW01 - FW08に変更されている。

転属後は2両単独編成での名古屋線準急・普通列車運用の他に、他系列と併結した4両 - 6両編成で準急、急行にも運用されており、ワンマン対応編成は上記の他に名古屋線白塚駅 - 志摩線賢島駅間でも運用され、早朝・深夜は間合いで大阪線東青山駅 - 伊勢中川駅間の普通電車でも運用される。ワンマン改造施工されていない9003F・9004F・9006Fに関しては基本的に名古屋線所属のワンマン非対応車両である1810系や1233系などと共通で運用されているが、本系列はワンマン対応車がある程度出揃った2008年のダイヤ変更以降は、大阪線東青山駅以西の運用や同線急行系列車の増結運用には原則として充当されない（非対応車については転属当初に快速急行の増結運用に充当され、大阪上本町駅まで入線したこともあったが、現在は大阪線の運用を終了している）。

配置

2015年4月現在、9001F・9002F・9005F・9007F・9008Fは明星検車区に、9003F・9004F・9006Fは富吉検車区に配置されている。転属以前は全車両が東花園検車区に配置されていた。

アートライナー

• 9003Fク9103：緑博みえ2014（2013年10月1日 - 運転終了）

名古屋線へ転属した近鉄9000系電車 (9005F)

名古屋線へ転属後の近鉄9000系電車の車内。運賃箱が運転室の後ろに設置された。 (9002F)

9200系

近鉄9200系電車
主要諸元
編成	4両編成
起動加速度	製造時：3.2 km/h/s 4連化後：2.5
車体高	モ9200形・ク9300形：4,055mm サ9310形：4,030
台車	Mc車・M車：KD-88 Tc車：KD-88A T車：KD-96C
主電動機	三菱電機複巻電動機 型式：MB-3270-A
編成出力	1280kW

1983年（昭和58年）登場。当時、京都線の組成上において奇数編成が必要であったことから8810系の3両編成仕様として登場し、途中で中間車が増備され4両編成となっている。大阪・名古屋線の2050系の奈良線仕様と言え、車体幅が2,800mmで裾を絞っているという点、制御装置が日立製作所製という点以外はほぼ同一である。大阪難波・京都・伊勢中川 (大阪線所属編成) 寄りからモ9200（偶数） (Mc) +モ9200（奇数） (M) +サ9310（旧サ9350） (T) +ク9300 (Tc) と編成を組み、全車当初より側面行先表示器を装備して落成している。

増備車

1991年（平成3年）に京都線の長編成化で3両編成の需要が減少したため、サ9350形（現在のサ9310形）を4両新造して各編成に組み込まれ4連化された。増備された中間車は1020系 (現・1021系)のサ1170形と同じデザインのアルミ車体となり、車体断面形状が変化したため、編成の中でアクセントとなっている。ひじ掛けは二段式で、乗降扉の仕様や台車も他のアルミ車両に準じ、台車はKD-96Cを装備する。ただし、サ9310形では上記2形式などとは異なり車内の蛍光灯カバーに在来車の廃車発生品を採用していたり、転落防止幌の形状が連結相手のものと同一形状のものが採用されていたりと、特徴的な差異が見受けられる。

主要機器

9000系と異なりMcとMがユニットの1C8Mで、主電動機はMB-3270-Aを1両あたり4基搭載。M車に制御器とパンタPT-48を2基、Mc車に界磁機器とコンプレッサー (HB-2000) 、Tc車に電動発電機 (HG-634) を搭載。制動装置も8810系と同じく回生制動に連動するHSC-R電磁直通ブレーキである。台車はKD-88を装着する。

改造・更新

全編成が2001年から2007年9月までに、製造年の異なるサ9310形を除き更新が完了している。更新内容は以下の通り。

• 転落防止幌、車椅子スペースの設置、
• 内装の壁紙を5800系と同一仕様に交換
• 乗降扉窓ガラスの複層ガラス化 (9202F・9204Fのみ)
• 座席モケット交換 (9208Fのみ)

車体更新と並行して以下の改造が施工されている。

• サ9310形の簡易内装更新
  • サ9314形のみ、車椅子スペースの設置 (9208Fの車体更新と同時施工)
• 全編成に増粘着剤噴射装置の取り付け
• 新型ATS（ATS-SP）設置・デッドマン装置更新工事

転属

2006年6月から2007年1月にかけて9208F（電算記号FL54）を除く3編成が方向転換され、大阪線高安検車区に転配された。その際、5820系、9020系の大阪線所属車が末尾50番台となっているので、改番当時に大阪線への新製投入が計画されていた9820系のク9320形との番号重複を避ける目的で、サ9350形はサ9310形に改番された。また、9208Fも車体更新時に同様の改番を行い、サ9350形はすべてサ9310形となった。電算記号は、3連時代には京都寄り先頭車に由来してFB02 - FB08（偶数）となり、4両化時から大阪線転属前までは増備車サ9350形に由来してFL51 - FL54となった。これはFL02 - FL08（偶数）とした場合、FL02とFL04が8800系と重複するため、これを避ける意味合いがあった。大阪線転属後はFC11 - FC13とはせずそれぞれFC51 - FC53となっている。これは8810系の大阪線転属が進行した場合に、電算記号がFC11、FC13…となってしまうためである。

配置

2015年4月現在、9301F - 9303Fが高安検車区に、9304Fが東花園検車区に配置されている。転属以前は全編成が東花園検車区に配置されていた。

ク9300（左）とサ9310（右）の連結部分。車体断面の違いがわかる。

近鉄9200系の客室内

4両編成車の運用

奈良線所属編成

• 8810系8814F - 8826F
• 9200系9208F

阪神なんば線との相互直通以前は奈良・京都線系統の全種別で4 - 10両編成まで幅広く運用されていたが、相互直通開始以降は京都・橿原・天理線における4両・6両編成での運用が多くなり、奈良線運用は大阪難波駅折り返し列車が中心となった。

大阪線所属編成

• 8810系8812F
• 9200系9201F - 9205F

大阪線転属後は主に大阪上本町駅 - 青山町駅間の快速急行以下の各種別で4両 - 10両編成まで幅広く運用されている。しかし、製造当初は走行距離が比較的短い奈良線系統に投入された関係上、トイレが設置されていないため青山町駅以東の長距離快速急行・急行には基本的に充当されず、名古屋線にも入線しない。

関連項目

• 近畿日本鉄道の車両形式
• 近鉄1400系電車 - 本形式の大阪線・名古屋線仕様

外部リンク

• 鉄路の名優（近鉄公式サイト）

近鉄9000系電車に関するカテゴリ:

• 1983年製の鉄道車両

近鉄9200系電車に関するカテゴリ:

• 1983年製の鉄道車両