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無人航空機

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無人航空機(むじんこうくうき)は人が搭乗していない航空機のこと。単に無人機とも呼ばれる。

概要

「無人航空機」には全幅30メートルを越える本格的な機体から手の上に乗る小さなラジコンまでの様々な大きさのものが存在し、固定翼機と回転翼機の両方で軍用・民間用いずれも実用化されている。操縦は基本的に無線操縦で行われ、機影を目視で見ながら操縦するものから衛星回線を利用して地球の裏側からでも制御可能なものまで多様である。飛行ルートを座標データとしてあらかじめプログラムすることでGPSなどの援用で完全自律飛行を行う機体も存在する。

大きな機体ではガスタービンエンジンを搭載するものから、小さなものではガソリンエンジンを搭載し、極小の機体ではバッテリー駆動される。

固定翼機では、離着陸時に地上を滑走するものが多いが、小型の機体ではトラックの荷台に載せたカタパルトから打ち出すものや、さらに小さな機体では手で投げるものもあり、回収方法も小型のものではネットで受けるものがある[注 1][1]

名称

無人航空機を意味する英語 "Unmanned Aerial Vehicle" や "Unmanned Air Vehicle" からUAVと呼ばれることが多い。 "Unmanned" が男女差別を想起させるため、遠隔操縦するパイロットが地上から操縦しているが機体には乗っていないという点を強調して、「人が居ない」という意味の "uninhabited" で表し、"Uninhabited Aerial(Air) Vehicle" の表記も見かけるがそれほど普及していない。ロボットを意味する「ドローン」(drone)とも呼ばれる。

軍用機

QF-9J標的機を直撃するサイドワインダーAIM-9L
QH-50 DASH

軍用での無人機として、一番古くから運用されているものは「ターゲット・ドローン」と呼ばれる標的機で、例えばアメリカ空軍では1950年代にBQM-34 ファイヤービーのような高速飛行するジェット推進式の標的機を配備して、標的機の他にも試験的ながら攻撃用途での開発の先鞭が付けられた。ファイヤービーはパラシュートによる回収方法が採用されたが、アメリカ海軍では無線操縦式のヘリコプターであるQH-50 DASHにより、海上を飛行して魚雷を投下する用途で1960年代に開発配備した。

当初は攻撃用途での軍用無人機の開発が多かったが、標的機を除けば、無人作戦機として使えるものが実用化されることはなかった。1970年頃から無線機の小型化や電子誘導装置の発達で写真偵察などの目的で無人偵察機がアメリカやイスラエルでの開発が本格化した。

20世紀末からは画像電子機器や通信機器、コンピュータの発達で、リアルタイムでの操縦と偵察映像の入手、完全自動操縦などが可能となり、21世紀からは偵察型から攻撃機型への展開が行われた[注 2][2]。また、高高度を飛行することで通信中継点となる軍用無人航空機の研究も進められている。

高性能な機体で衛星通信での双方向の通信によってリアルタイムの操縦が行えるものでは、パイロット席に相当する移動式の操縦ステーションが組み合わされ、全体が1つのシステムとして機能するものも現れている。

無人ステルス機の研究も進められておりRQ-3 ダークスターX-47のような実験機を経て、RQ-170センチネルが実戦に参加しているという。ただし、機密が多く詳細は明らかではない。また、無人制空戦闘機といった計画も知られていない。

アメリカ軍では無人機の操縦者のうち7人に1人は民間人(民間軍事会社)だが、アメリカ軍の交戦規定により攻撃は軍人が担当している[3]

無人機による攻撃

MQ-1の操縦席

MQ-1 プレデターなど武装した無人航空機が世界で数多く登場しており、アフガニスタン紛争イラク戦争などで実戦投入されている。主な任務は対地攻撃だがイラク戦争では有人機との空中戦に用いられたケースもある。

近年、攻撃能力を持つ無人機がアフガニスタンとパキスタンでのターリバーンアルカイーダ攻撃に参加しており、2009年8月にベイトゥラ・メスード司令官、2010年1月にはハキムラ・メスード司令官(生存説もある)の殺害に成功しているが、誤爆や巻き添えによる民間人の犠牲者が多いことが問題となっている[4]。これは無人機操縦員の誤認や地上部隊の誤報、ヘルファイアミサイルの威力が大きすぎることなどが原因となっている[5][6]。ヘルファイアミサイルの問題に関してはより小型で精密なスコーピオンミサイルを採用して対処することになっている[6]

無人機によるテロリスト組織への攻撃は、しばしば倫理法律上の議論を惹起するが、アメリカ政府によれば無人機による攻撃は、テロリストの攻撃に対して均衡が取れている規模であること、結果的に多くのアメリカ兵の生命を救っていることをあげ、合法的でかつ倫理的にも反していないとの見解を示している[7]

操縦者の精神的問題

MQ-1Cの操縦者

機体そのものに人間が搭乗しないため撃墜されたり事故を起こしたりしても操縦員に危険はなく、また衛星経由でアメリカから遠隔操作が可能であるため、操縦員は長い期間戦地に派遣されることもなく、任務を終えればそのまま自宅に帰ることも可能である。このような無人機の運用は操縦者が人間を殺傷したという実感を持ちにくいという意見がある[8][3]が、「いつミサイルを発射してもおかしくない状況から、次には子どものサッカーの試合に行く」という平和な日常と戦場を行き来する、従来の軍事作戦では有り得ない生活を送ることや、敵を殺傷する瞬間をカラーテレビカメラや赤外線カメラで鮮明に見ることが無人機の操縦員に大きな精神的ストレスを与えているという意見もある[9]

国際政治学者P・W・シンガーによると、無人機のパイロットは実際にイラクに展開している兵士よりも高い割合で心的外傷後ストレス障害を発症している[10]

分類

軍用の無人機には任務、性能、サイズによる分類が存在する。

任務による分類

RQ-16 T-ホーク
RQ-11 レイヴン
MQ-8 ファイアスカウト

UAVはその機体の任務により以下のカテゴリーに分類され、マルチロール(多用途)の機体も多い。

  • 標的(Target) - 対空戦闘訓練において、味方の地上部隊や航空部隊から敵航空機役として標的になる
  • 偵察(Reconnaissance) - 戦場で情報を収集し味方に提供する
  • 戦闘(Combat) - 攻撃能力を持ち、高い危険を伴う任務に投入される(UCAV
  • 兵站(Logistics) - 輸送や兵站任務用に設計されている
  • 研究開発(Research and development) - UAV技術の開発や実証など実験目的で使われる

性能による分類

UAVは機体の性能で以下のカテゴリーに分類される[注 3]

  • Handheld - 最高高度2,000ft(600m)、航続距離2km程度
  • Close - 最高高度5,000ft(1,500m)、航続距離10km程度
  • NATO type - 最高高度10,000ft(3,000m)、航続距離50km程度
  • Tactical - 最高高度18,000ft (5,500m)、航続距離160km程度
  • MALE - (Medium Altitude Long Endurance)最高高度30,000ft (9,000 m) 航続距離200km以上
  • HALE - (High Altitude Long Endurance)最高高度30,000ft以上、航続距離は規定なし
  • HYPERSONIC - 高速、超音速(マッハ1~5) もしくは極超音速(マッハ5+) 、最高高度50,000ft(15,200m) もしくは弾道飛行可能、航続距離200km以上
  • ORBITAL - 低軌道を飛行可能(マッハ25+)
  • CIS Lunar - 月遷移軌道を飛行可能
  • Train Cable UAV (Tcuav) - UAV、UGV列車の3つの技術を複合したシステム

サイズによる分類

明確ではないものの、以下のような分類を使用することがある。

  • Strategic UAV - 戦略無人機、長時間長距離を飛行するもの
  • Tactical UAV - 戦術無人機
  • Vertical Takeoff/Landing UAV - 垂直離着陸無人機
  • Small UAV - MAVよりは大きいが、比較的小型のもの
  • MAV - Micro Air Vehicle の略で、狭義にはDARPAの定義したサイズ(最大の長さが150 mm以下)のUAVを指す
  • NAV - Nano Air Vehicle の略で、MAVよりさらに小型のUAV。DARPAによると最大の長さが75 mm以下で、最大離陸重量は10グラム以下

軍用無人機の種別

標的機

軍用無人機の中で標的機は、攻撃射撃訓練の際に標的となることを前提とした機体である。標的機の多くが、巡航ミサイルのように片道で運用して帰還を前提としていないため、降着装置をまったく持たないものがある。

無人偵察機

RQ-4 グローバルホーク

無人偵察機は、アメリカのRQ-4グローバルホークや日本の遠隔操縦観測システム (FFOS) 等がある。イスラエルに対立するイスラム武装組織ヒズボラ2006年に無人偵察機「ミルサード」の所有を公表している。

偵察任務には長時間の滞空が求められるために固定翼機が多いが、回転翼機も存在する。[注 4][注 5]

無人攻撃機

MQ-9 リーパー

英語ではUCAV(Unmanned Combat Aerial Vehicle)と呼ばれ、20世紀末に実用化され無人偵察機が、21世紀に入って搭載能力に余裕のある機種に攻撃任務を付加することで偵察・攻撃の両方が行えるマルチロールの無人偵察・攻撃機が実用化された[注 6][11]

2001年のアメリカ同時多発テロ事件後、アメリカ軍がアフガニスタンへの侵攻を開始した2001年10月14日に先立つ10月7日、MQ-1 プレデターヘルファイアミサイルを搭載して武装偵察飛行を行ったのが無人攻撃機実戦の嚆矢である[12]。その後アフガニスタン戦線の外、イラク戦争イエメンなど中東地域での攻撃に多用されるようになった。

地上部隊進軍のための情報提供と同時に援護攻撃を行ったり、イラク戦争ではイラク軍の防空網に対するおとりとして使われたほか、イラク戦争に先立つ2002年12月23日には、イラク飛行禁止空域を警戒飛行していたMQ-1は搭載していたスティンガー空対空ミサイルイラク軍MiG-25を攻撃している [13][14]。広く知られた利用方法はアルカイダタリバンへの攻撃で、宣戦布告しての戦闘でない(=不正規戦争パキスタンやイエメン、ソマリアなど、撃墜されパイロットが捕虜となって国際的な問題とされそうな国で多用されている[15][16][17][18]

無人攻撃機にはアメリカ軍が運用しているMQ-1 プレデターMQ-9 リーパーなどがあり、イスラエルも早くから導入している。多様な無人攻撃機の実証実験機などのテストが進行中である[注 7]

民間機

民間無人機の主な用途

民間用無人航空機での主な用途を示す。

農薬散布
民間用無人航空機の代表的な用途であり、回転翼機が多い。中には軍用機のように、GPSを使って自動的に設定されたルートを飛行するものもあるが、ヤマハ機が日本から中国など海外へ不正に輸出されて社会問題となったケースもある。
架線工事
1980年代より架空電線路用の呼び線を張るのに利用されている。基本的にラジコンヘリコプターの産業利用であるが、尾根伝いの長い距離を空中架線するのに利用される。
写真撮影
空中写真の撮影に利用される。1990年代よりはデジタルカメラなどを使って撮影に挑戦するアマチュアも見られる。
災害調査
被災地域の空中からの調査や、噴火など予断を許さない状況下での調査などに利用される。有人ヘリコプターでは騒音による振動や巻き上げる風で被害拡大させる懸念を軽減させることも期待される(→レスキューロボット)。自動化され、コンピュータと連動させ、地図の作成にも威力を発揮する。

日本の産官学プロジェクトの中に、紛争地域に遺棄されている対人地雷の探知を、センサーを積んだロボットヘリコプターで行おうという構想がある。

無人航空機一覧

脚注

注釈

  1. ^ RQ-2 パイオニアはネットで回収する。
  2. ^ 2010年度の米国防予算案では、4軍合計で無人機への予算を38億ドル要求し、1,297機の購入を見込んでいる。2009年度は1,071機の購入であった。
  3. ^ アメリカ軍の各軍種では、ティアなどの独自の分類法を用いている。
  4. ^ FFOSはヘリコプター型で運動性が高い代わりに速度や高度、巡航距離の性能が固定翼機に比べて低いほか、高度な制御技術を要している。ほかに回転翼の無人機としてはボーイング社がA160 ハミングバードを開発中(2006年9月現在)である。
  5. ^ 無人偵察機に似たコンセプトのものに、陸上ではUGV(Unmanned ground vehicle:無人陸上車両)、海中ではUUV(Autonomous Underwater Vehicle:無人潜航艇)が構想されており試験段階にあるが、広範には用いられない。
  6. ^ 無人偵察機がマルチロール化した例では、RQ-1 プレデターがMQ-1 プレデターとなり、MQ-9 リーパーが作られた経緯がある。
  7. ^ 無人攻撃機の実証実験機にはX-45X-47がある。
  8. ^ 米国の無人航空機の制式名称としては "R" で始まる偵察機型と "M" で始まる偵察・攻撃マルチロール型の2つに大別できる。"R" は偵察を意味する "Reconnaissance" であり "M" は多目的機である "Multi-mission" である。2文字目の "Q" は無人機を表す。米国の無人航空機に含まれる「A-160 ハミングバード」も制式名称は "YMQ-18A" である。

出典

  1. ^ 石川潤一著 『米4軍無人機部隊の全貌』、軍事研究2005年3月号、(株)ジャパン・ミリタリー・レビュー
  2. ^ 石川潤一著 『2010年度 米国防予算案を読む』、軍事研究2009年7月号、(株)ジャパン・ミリタリー・レビュー
  3. ^ a b テロとの戦いと米国:第4部 オバマの無人機戦争/3 コソボ、イラクで操作した… - 毎日新聞 2010年5月2日
  4. ^ 無人機プレデター&リーパー【2】死者1000人、巻き添え多数 - 時事ドットコム
  5. ^ テロとの戦いと米国:第4部 オバマの無人機戦争/2 「情報」が招く誤爆 - 毎日新聞 2010年5月1日
  6. ^ a b 巻き添え減らせ、CIAが対テロ新型ミサイル - 読売新聞 2010年4月27日
  7. ^ 「無人機攻撃は合法かつ倫理的」米大統領補佐官が講演AFP.BB.NEWS(2012年05月01日)同日閲覧
  8. ^ テロとの戦いと米国:第4部 オバマの無人機戦争/1 ピーター・シンガー氏の話 - 毎日新聞 2010年4月30日
  9. ^ 「地球の裏側から無人航空機でミサイルを発射する」兵士たちのストレス - WIRED.jp 2008年8月22日
  10. ^ P.W. Singer が語る軍用ロボットと戦争の未来
  11. ^ 無人攻撃機運用の図解:AFPBB News「【図解】映像を傍受された米無人偵察機」2009年12月24日
  12. ^ テネットCIA長官職務報告。なお、同報告では非武装運用を開始していた基地があるウズベキスタンパキスタンのいずれから発進したかの記述がない。
  13. ^ MiG vs Predator, CBS video. 1999年5月13日にセルビア軍に撃墜された場面を含む。
  14. ^ Pilotless Warriors Soar To Success, CBS News, April 25, 2003
  15. ^ Drones: The weapon of choice in fighting Al Qaeda, The New York Times, 2009-03-17
  16. ^ The CIA's Silent War in Pakistan, TIME, 2009-06-01
  17. ^ CIA Aircraft Kills Terrorist, ABC News, May 13, 2005
  18. ^ CNN「アルカイダの海外作戦担当幹部が死亡か、無人機攻撃で」2009年12月12日
  19. ^ 防衛省 技術研究本部 ニュース 平成16年 11月 携帯型飛行体

関連項目

外部リンク