江衛型フリゲート

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江衛型フリゲート
053H2G型 (江衛-I型)
基本情報
建造所 中華人民共和国の旗 中国
運用者  中国人民解放軍海軍
建造期間 1990年 - 1993年 (053H2G型)
1996年 - 2004年 (053H3型)
就役期間 1991年 - 現在 (053H2G型)
1998年 - 現在 (053H3型)
同型艦 053H2G型 (江衛-I型)
053H3型 (江衛-II型)
建造数 4隻 (053H2G型)
10隻 (053H3型)
前級 江滬III / IV型フリゲート(053H2型)
次級 江凱-I型フリゲート(054型)
要目
本文中#要目を参照
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江衛型フリゲート(ジャンウェイがた-、Jiang-wei class frigate)は、053型フリゲートの中で中国人民解放軍海軍初の汎用フリゲートである053H2G型及び053H3型に与えられたNATOコードネームである。従って、中国海軍にとって、公式にはこれら2艦級はそれぞれ独立したものである。ただし、これらはいずれも共通したコンセプトを有し、また建造の経緯から見ても、これらをひとくくりにしてとらえることには大きな意義がある。

江衛型として分類される艦は、中国海軍のフリゲートとしてはじめて、NATO諸国の汎用フリゲートに比肩しうる、バランスのとれた装備を施している。個艦防空ミサイル艦対艦ミサイル哨戒ヘリコプターを備え、これらはいずれも戦術情報処理装置を中核として連結されて、システム艦として構築しているとされる。ただし、このように充実した兵装を備える一方で、排水量は2000トン台と船体は小型であり、航洋性能に問題があるとの指摘もなされている。

江衛型として分類されるフリゲートは、1990年代初頭から2000年代中盤にかけて、計14隻が就役し、現代中国海軍の洋上兵力において基幹戦力となっている。なお、中国海軍のフリゲート級艦艇の整備は、054型を経て054A型に移行しているが、これは中距離艦対空ミサイルによって艦隊防空能力を獲得し、排水量も50%増に大型化するなど、どちらかといえば、従来の駆逐艦を代替する艦となっている。

歴史

中国海軍は、1970年代中ごろより、旧ソ連のリガ型フリゲートの設計をもとにして053K型(江東型)053H型(江滬型)およびその改良型を開発・配備してきた。とくに対艦ミサイルを主兵装とする053H型は小改正を受けつつ多数が建造され、派生型である053H1型、053HE型、053H1Q型、053H1G型を含めると30隻にも上り、中国海軍洋上兵力の中核をなしてきた。しかし、駆逐艦戦力の主力であった051型駆逐艦(旅大型)を含め、これらの艦の大部分には艦対空ミサイルが装備されておらず、また、艦の戦闘装備のシステム統合も極めて不十分であったため、とくに防空能力について重大な問題があった。

中国は1980年代、南沙諸島をめぐってベトナムなど周辺諸国と緊張関係にあり、この際の経験から、その洋上兵力の問題を痛感することになった。中国海軍航空隊は、南沙諸島に派遣される艦隊に航空援護を提供することができず、一方、洋上兵力の側には艦隊防空能力がまったく欠如しており、唯一の艦対空ミサイル搭載艦である053K型が搭載するのは個艦防空用HQ-61Bで、しかもその性能ははなはだ不満足なものであった。また、南沙諸島での示威行動のため、フリゲート部隊はたびたび長期の作戦行動を強いられたが、これらの艦は基本的に沿岸哨戒を目的として設計されており、長期間の行動にはまったく不向きだった。

これを是正するため、西側の設計理念を導入して改設計し、また戦術情報処理装置を搭載してシステム化をはかった053H2型(江滬-III型)が開発されたが、海軍はその性能になお不満足であった。このことから、053H2型を基本としつつ、より先進的な兵器システムを搭載した艦として、滬東造船(現:滬東中華造船)において開発されたのが、053H2G型である。艦対空ミサイルを搭載し、哨戒ヘリコプターの運用設備を備えるなど、変更点はきわめて多岐にわたり、このことから、西側観測筋はまったく新しい艦級と推測して、江衛-I型(Jiang-wei I class)のコードネームを与えた。

このようにして開発された053H2G型(江衛-I型)であったが、性能的にはなお制約があったことから、同型の運用実績を踏まえて改良を施した艦として開発されたのが053H3型(江衛-II型)である。同型は、兵装面では052型駆逐艦(旅滬型)にほぼ匹敵する一方、建造コストはその半分で、しかも装備の大部分は国内生産でまかなうことができた。中国海軍は、その性能に満足し、10隻という多数を建造した。

船体・機関

「嘉興」(521)。江衛II型(053H3型)の1隻である。

053H2G型の船体は、053Hシリーズよりもやや幅広となり、艦における全長÷全幅の値は9.56から9.23になっている。これは、直接に外洋における安定性を改善するとともに、艦内容積を拡張して居住性を改善するための施策であった。また、全長も延長され、追加装備を収容する余裕を確保した。

艦型としては、053H2型で採用された中央船楼型が踏襲された。053H3型では、船楼前端に艦対空ミサイル発射機が配置されており、その分艦橋構造物が後退している。なお、053H2G型は、中国海軍の艦艇としては初めてステルス性を考慮した設計が導入されている。前方からのレーダー波が元の方向に反射されるのを防ぐため艦橋構造物正面は緩やかなカーブを描いており、また、船体側面も内側に1~2度傾斜している。

また、本型においては、加圧式の中央空調設備による強制換気方式が採用された。これは、NBC防護としての意味とともに、南シナ海の熱帯気候下での運用に対応した装備でもあった。

機関構成としては、先行するフリゲート諸艦級を踏襲して、CODAD方式を採用している。その構成は、18E-390VAディーゼル 2基(14,000馬力; 17.6 kW)とMTUディーゼル 2基(8,840馬力; 6.5 MW)で、最大速力は27ノット、巡航速力は15ノットで、巡航時には5000海里の航続距離を有する。ただし、ディーゼルエンジンは、欧米の戦闘艦の主機として主流になっているガスタービンエンジンと比べて、即応性やシグネチャー低減において劣る傾向がある上に、本型が搭載する機種はどちらかというと旧式に属するため、対潜作戦において死活的に重要な要素である静粛性が犠牲となっている。推進軸数は2軸、従来の3枚羽根スクリューにかわって5枚羽根のスクリューが採用されている。

武器システム

江衛-II型 / 053H3型の上部構造物

江衛-I型 / 053H2G型

江衛-I型(053H2G型)にはプロトタイプとしての性格があり、その武器システムは基本的に、前任者である江滬-III型フリゲート(053H2型)を改良して組み合わせたものとなっている。

戦術情報処理装置ZKJ-3)、ソナー(SJD-5、SJC-1B、SJX-4の組み合わせ)、主砲システム(79A式56口径100mm連装砲PJ-33Aおよび343G型(ワスプ・ヘッド)FCS)、艦対艦ミサイルYJ-8)については、いずれも053H2型のものを踏襲した。ただし艦対艦ミサイルについては、のちに江衛-II型と同じくYJ-83に換装された。

一方でレーダーは強化されており、対空捜索レーダーは、053H2型が517型を搭載したのに対して強化型の517-H型を、低空警戒・対水上レーダーは、053H2型が354型を搭載したのに対して後継機種の360型を搭載している。また37mm機関砲を全自動の076A式に変更することで、近接防空力も強化された。

大きな改良点としては、個艦防空ミサイル・システムと艦載機運用能力の導入がある。前者は江東型(053K型)で搭載されたHQ-61Bを元に、新型のH/EFB02発射機を採用するなどの改良を施したHQ-61Mが搭載された。また後者は、江滬-II型(053H1Q型)で装備された航空艤装をもとに、同型での運用実績を加味して実装されており、甲板上にはハープーン・グリッド・システムの着艦拘束装置が設置されている[1]

江衛-II型 / 053H3型

江衛-II型(053H3型)においては、江衛-I型(053H2G型)のものを基本として、サブシステムのいくつかを旅滬型駆逐艦(052型)および江滬-II型フリゲート(053H1Q型)より導入して強化している。

砲熕兵器(艦砲対潜迫撃砲)およびC4ISRシステムは、おおむね江衛-I型(053H2G型)のものが踏襲されている。ただし主砲射撃指揮装置は改良型の343GA型に変更されたほか、後期建造艦においては、戦術情報処理装置、主砲/SSMと機関砲用の射撃指揮装置がそれぞれ新型化された。

一方、個艦防空ミサイルと艦対艦ミサイルについては、より大型の旅滬型駆逐艦(052型)と同様の構成が採用された。個艦防空ミサイルとしてはHQ-7が搭載されたが、就役初期には一時的にHQ-61B SAMを装備していた。また艦対艦ミサイルは、長射程化されたYJ-83が搭載されたのち、さらに超音速化された改良型のYJ-83に更新された[2]

ソナーについては、江滬-II型フリゲート(053H1Q型)と同様のSJD-7が搭載された。これは、中国海軍のフリゲートが搭載したソナーとしては、はじめて西側諸国の水準に至ったものであった。

要目

江衛-I型 / 053H2G型 江衛-II型 / 053H3型
建造期間 1990年 - 1993年 1996年 - 2004年
就役期間 1991年 - 現在 1998年 - 現在
隻数 4隻 10隻
排水量 基準: 2,180 t 基準: 2,250 t
満載: 2,250 t 満載: 2,393 t
全長 112 m
全幅 12.1m
吃水 4.3 m
機関 CODAD方式, 2軸推進
18E390VA ディーゼル (14,000hp) ×2基
MTU ディーゼル (8,840hp) ×2基
速力 最大: 27 kt
巡航: 18 kt
航続距離 4,000 nmi / 18kt
乗員 168人(うち士官30名)
兵装 79A式56口径100mm連装砲(PJ-33A) ×2基
76A式37mm連装機関砲ダルドCIWS)×4基
YJ-83 SSM 3連装発射筒 ×2基 YJ-83 SSM 4連装発射筒 ×2基
HQ-61M 短SAM 6連装発射機 ×1基 HQ-7 短SAM 8連装発射機 ×1基
87式 6連装対潜ロケット砲×2基(ロケット36発)
艦載機 Z-9C 哨戒ヘリコプター ×1機
C4I ZKJ-3戦術情報処理装置
※江衛-II型の後期建造艦ではZKJ-4B/6
HN-900戦術データ・リンク
レーダー 517H-1型 長距離対空捜索用×1基
360型 対空・対水上捜索用×1基
RM-1290 航海用×2基
ソナー SJD-5B 捜索用 SJD-7
SJC-1F 偵察用
SJX-4C 通信用
FCS 342型 短SAM用×1基 345型 短SAM用× 1基
343G型 SSM/主砲用× 1基 343GA型 SSM/主砲用× 1基
※後期建造艦では344型に換装
341型 CIWS用× 1基
※江衛-II型の後期建造艦では347型に換装
電子戦 HZ-100 電波探知妨害装置
SR-210 レーダー警報受信機
6連装デコイ発射機×2基 945型15連装デコイ発射機×2基

同型艦

同型艦
艦級 # 艦名 起工 進水 就役 退役 配備先 備考
053H2G型
(江衛I型)
539 安慶
(Anqing)
1990年
11月
1991年
7月
1991年
12月
2015年 東海艦隊 海警部隊に移籍され、大改装を受けて「海警31239」として再就役
540 淮南
(Huainan)
1991年
1月
1991年
10月
1992年
7月
海警部隊に移籍され、大改装を受けて「海警31240」として再就役
541 淮北
(Huaibei)
1992年
7月
1993年
4月
1993年
8月
海警部隊に移籍され、大改装を受けて「海警31241」として再就役
542 銅陵
(Tongling)
1992年
12月
1993年
9月
1994年
4月
053H3型
(江衛II型)
521 嘉興
(Jiaxing)
1996年
10月
1997年
8月10日
1998年
11月
522 連雲港
(Lianyungang)
1996年
12月
1997年
8月8日
1999年
2月
523 莆田
(Putian)
1997年
6月
1998年
8月10日
1999年
10月
524 三明
(Sanming)
1997年
12月
1998年
12月
1999年
11月
564 宜昌
(Yichang)
1997年
12月
1998年
10月
1999年
12月
南海艦隊
565 葫芦島
(Huludao)
1998年
5月
1999年
4月
2000年
3月
566 懐化
(Huaihua)
2000年
5月
2001年
1月
2002年
3月
567 襄樊
(Xiangfan)
2001年
3月
2001年
8月
2002年
9月
528 綿陽
(Mianyang)
2003年 2004年
5月30日
2005年 東海艦隊
527 洛陽
(Luoyang)
2004年
10月1日
2005年

活動状況

2012年10月16日には、中国海軍艦隊7隻が太平洋から東シナ海へ向かって、沖縄県与那国島の南南東約49kmの海上を航行しているのを海上自衛隊P-3Cが確認したと防衛省が発表している。中国中央電視台は、山東省青島市に帰港したのは北海艦隊所属の7隻で、旅滬型駆逐艦の「哈爾浜」(112)が艦隊の指揮を執り、江衛型の「綿陽」(528)の他、瀋陽級駆逐艦の「石家荘」(116)・江凱型フリゲートの「塩城」(546)などで構成されていたと報じている[3]

2013年1月30日10時頃に、東シナ海の公海上で江衛II型の「連雲港」(522)が海上自衛隊の護衛艦ゆうだち」に向け射撃指揮レーダーを照射したことを、防衛省が発表した[4][5]

2016年1月7日付JBPressの記事によると53H2G型(江衛1型)フリゲート「安慶」と「准北」)が、中国海警局の「海警31239」と「海警31241」に転用された。記事によるとそれぞれ100ミリ連装砲や対艦ミサイル発射装置などは除去されたものの、37ミリ連装機関砲4基の砲塔はそのまま維持されている(ただし、対空砲としての役割を担っていた37ミリ連装機関砲のままかどうかは不明)。また「海警31239」は尖閣諸島の接続水域を2015年12月22日から25日まで他の中国海警局3船との航行後、26日に尖閣諸島の領海に侵入したとされる。 [6]

脚注

  1. ^ 「写真特集 航空機搭載水上戦闘艦の発達」『世界の艦船』第758号、海人社、2012年4月、21-41頁、NAID 40019207336 
  2. ^ 多田 智彦「ウェポン・システム (特集・中国海軍)」『世界の艦船』第774号、海人社、2013年3月、90-95頁、NAID 40019207336 
  3. ^ 中国海軍艦隊が釣魚島海域に初進入 - チャイナネット(2012年10月21日)
  4. ^ 中国海軍艦艇の動向について - 防衛省(2013年2月5日)
  5. ^ レーダー照射は尖閣沖100キロの公海上 - NHKニュースWEB(2013年2月6日)
  6. ^ [http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160107-00045700-jbpressz-int ついに機関砲を搭載、中国は尖閣・琉球を奪いにくる

外部リンク

関連項目