木炭

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木炭(備長炭
オガ炭
活性炭
真っ赤に燃える木炭

木炭(もくたん)とは木材などの植物組織を半ば密閉した状態で加熱し、炭化させて得られたである。主成分は炭素であり、ごく微量のアルカリ塩を含む。

概要

材料の木材から揮発成分を抜いたものであり、木材と違いが出ないかまたは少ない。炭化させる素材はもちろん、炭化温度焼成時間などの方法によっても生成する木炭の性状はさまざまで価格も異なる。

例えば黒炭だけでも窯の作り、温度、窯閉めまでの時間などで品質が大きく異なる。また炭化不十分の場合、水分が発生し爆跳しやすい炭となる。また木炭の製造時には木酢液木タールが発生し木酢液を蒸留精製するとメタノール酢酸、さらに、テレピン油木クレオソートといった副生物が得られる。

木炭が酸素の少ないの中でも燃えるのは、炭酸カリウムが含まれているからである。この炭酸カリウムは植物中のカリウムに由来するものである。水溶性なので木炭を長く流水に浸したものは炭酸カリウムが溶け出してしまい、着火性が極端に悪くなる。

日本ではナラブナカシクヌギなどの木材を炭化した物が主に使われてきたが近年ではを炭化した竹炭も注目されている。また、輸入炭にはマングローブ炭なども存在する。 オガ炭は比較的安価で扱いやすく備長炭のような特性であるため炭火焼の飲食店で多用されているものの、一般への知名度が低く、形状の印象から練炭と誤解されている場合もあるが、日本ではオガ炭のような形状の練炭は無い。オガ炭を含めた成形木炭は中国語では「機製炭(机制炭)」と呼ばれ日本の提携会社や技術指導により現地の大規模工場で製造されている。

分類

日本の木炭

中空の穴が無いタイプのオガ炭

一般的に高価であるが、製造時に木酢液を抜いているため、煙や臭いはほとんど発生せず、焼き魚バーベキューといった焼きもの料理にも安心して使用出来る。オガ炭の多くは、コストの関係から日本企業の中国現地法人などで製造されている。日本の木炭は400℃あたりの温度で炭化をすすめた後、精錬工程として細かな「ネラシ」が入るのが特徴である。白炭は空気を入れて未炭化成分を焼き飛ばすネラシを行ない、黒炭は密閉した炉内で時間をかけて炭化を上げるネラシを行なう。

  • 白炭カシ系の硬い木材が使われる。叩くと鉄琴のような金属音がするのが特徴。400℃あたりで熟成させた後、炭窯の焚き口を徐々に開いて未炭化成分を焼き飛ばし、炭を1000℃〜1200℃に上昇させたのち、炭を窯の外に速やかに掻き出して「消し粉」(土と灰を混ぜて水を含ませたもの)で一気に冷やす。これにより硬く焼き締められ炭素純度が高く白っぽい外見となる。
    • 備長炭…紀伊国田辺の商人備中屋長左衛門(備長)が販売したことが名前の由来である。ナナカマドから作られるものが最上品とされる。
  • 黒炭ナラ系の木材が多く使われる。400℃あたりで熟成させた後、炭窯の煙道を閉じ、徐々に700℃あたりまで温度上昇させ、次に焚き口と煙の出口も閉じて炭窯全体を密閉し、酸欠状態で時間をかけて鎮火、自然冷却を行ない完成する。
  • 成形木炭
    • オガ炭…オガクズを加熱圧縮して製造された成型薪「オガライト」を炭化させたもの。形状と性質が製品ごとに均質であり、比較的安価で、爆跳の危険性も少なく、飲食業で多用されている。密閉した炭窯を1200℃近くまで上げ熟成させたあと、仕上げの最後に、一気に空気を入れて(または炉外に出して)未炭化成分を焼き飛ばし、急冷させ焼き締める(ネラす)。製法としては白炭に近く、性質も白炭に似る。大規模生産工場では一連の作業をオートメーション化している場合も多い。
  • 竹炭
  • 活性炭

外国産炭

  • (欧米の)バーベキュー炭
  • マングローブ炭…格安のバーベキュー炭に多い。高火力の一方、燻煙が酷く注意を要する。
  • ヤシガラ炭…ヤシ殻を木炭化したものを粉砕し、タピオカ澱粉などで固めてオガ炭のような棒状に成形されて販売されている。

欧米やアジアの外国産炭は、炭焼き時に木酢液を抜く工程がないため(場合によっては質量の4割以上の)多くの木酢成分が残っており、日本式で製造された木炭と比較し、かなりきつい燻煙がでる場合が多いので注意を要する。熾火になるに従って、煙臭は減っていくが、焼きもの料理には基本的に向かない事が多い。ヤシガラ炭は熾火以降は比較的臭いが少ないが、製品によってはそこへ至るまでに独特の臭いがする場合がある。ホームセンターなどで販売されている格安バーベキュー炭の多くはマングローブ炭である。

用途

木炭(デッサン用)
チャコールペンシル

燃料用

主に燃料として使われてきた。日本では太平洋戦争後、石油や都市ガスなどが普及するまでは産業分野や都心の一般家庭でも普通に用いられる燃料であった。一時期木炭バスの燃料としても用いられた。またたたら吹きなど古来の製鉄は木炭によってその純度の高さを保つことができたが、西洋式製鉄法の流入によって伝統業を除き石炭に取って代わられた。

現在、日常の家庭用燃料としての用途よりも、キャンプやバーベキューなどのレジャー用途、また、焼き鳥や鰻、焼き肉店などで、炭火焼きをアピールしている飲食店での業務利用が多い。

美術用

美術の世界において、木炭は古くから世界中でデッサン絵画の道具として使用されている。これに用いる木炭は鉛筆のような細い枝を炭化したものであり、木炭で描かれたデッサンを鉛筆デッサンに対して木炭デッサンと云う。木炭粉末と粘土を混合し芯にした鉛筆型のものをチャコールペンシルといい、これも木炭デッサンに用いる。一般的にチャコールペンシルを縮めてチャコペン[1]といわれることが多くチャコール単体で呼ぶ場合は青みの掛かった黒の意もある。

花炭と呼ばれる花や木の実をそのまま炭化し、形を楽しむインテリアが500年以上前から日本に存在する。また、木炭に苔などを合わせたものが近年「炭アート」として販売されている。

漆器金工などでは古くから研磨に使用される。研炭には朴炭、駿河炭、蝋色炭などの種類がある。

その他

木炭は主に多孔質のものが多く、この細孔に微細な物を吸着することから脱臭材や濾過材として使われる事もある。特に活性炭はそれらの能力に優れている。土壌改良や調湿にも利用される。

「木炭はマイナスイオンを放出し、プラスイオンを吸収するので健康によい」との説に科学的な根拠は全くない。

歴史

炭焼き窯 北海道札幌市厚別区 「北海道開拓の村」に復元されたもの

考古学研究の成果によって、日本列島においては新石器時代の頃から木炭が用いられていたと推定されている。

古代においては木材を積み重ねて火をつけた後に土をかけて蒸し焼きにする伏炭法で作られた柔らかい和炭(にこずみ)、土や石で築いた炭窯で焼いたり硬質の木材(クヌギ・ナラ・カシ)を伏炭法で焼いた荒炭(あらずみ)、和炭・荒炭を二度焼きした炒炭(いりずみ)の3つがあり和炭は製鉄・冶金用、荒炭・炒炭は暖房・炊事用に用いられた。その他に防腐・防湿や飲料水の濾過など広範の用途に用いられていた。

平安時代には山林部を中心に炭焼きが広く行われて商品化された他、荘園などの年貢としても徴収された。炒炭は平安時代に登場した比較的新しい炭で火付が悪いが長く燃焼するのが特徴であった。荒炭は元々炭焼きの最後の段階で釜口を大きく開けて空気を入れ高温にしてから外に出し灰をかけて消す窯外消火法による白炭が主流であったが、長持ちはするものの硬質で火付が悪いものであった。

室町時代後期から江戸時代にかけて窯が冷えてから外に出す窯内消火法による軟質で火付が良い黒炭が生み出された。ただし、白炭・黒炭の区別が確立したのは近代以後であると言われている[2]

火熾し(火おこし)方法

「文化たきつけ」などの名称で販売されている木質系着火材
バーベキューグリルに乗せたチャコールスターター
ピンクの小袋入りのメタノール系着火剤と七輪
練炭コンロにのせた火熾し器

木炭を着火するのは初心者には難しく、燃焼中の着火剤投入などで事故も起きているため注意が必要である。いずれの場合でも木炭で調理が行なえるようになるのは着火後10〜20分、場合によっては1時間ほど必要で、それを見越したスケジュールを組むのが望ましい。

カセットコンロボンベ灯油を燃料とする「カセットバーナー(トーチバーナー)」「草焼きバーナー」を使っての着火が初心者には確実である。イワタニからは木炭着火専用の機種も発売されている。特に着火しにくい備長炭やオガ炭で有効であるが、長時間炙ることでの燃料費もかかるためケースバイケースである。珪藻土製七輪などではバーナーの強い直火があたると劣化が進むため注意する。
  • 着火処理をした木炭を使う方法
「ラウンドストーブ」などの商品名の加工成型木炭は表面に着火剤が塗られて簡単に調理可能な状態の熾き火になる。これらの加工成型木炭を着火剤として利用すれば、備長炭やオガ炭などの着火しにくい木炭も比較的簡単に着火することが出来る。
  • 木質系着火材を使う方法
圧縮成形した木質繊維にワックスを染み込ませたタイプの着火材は、突然爆発する危険性がほとんどなく、メタノール剤のものより安価で火力が強く、木炭への着火性はかなり高い。もともとは薪や石炭の煙突式ストーブで焚き付けするためのものであるので、北海道のメーカーのものが多い。ジェル状のアルコール系着火材よりも強火力で、木炭を着火させる能力が高いが、周りへ広がる炎と煙も強く、それらに充分に注意したほうがよい。
  • チャコールスターターを使う方法
別名チャコスタ/ファイヤースターター/チムニースターターとも呼ばれる。欧米版の火熾し器であるが、日本のものより4〜5倍深い筒状になっている。近年はホームセンターでの取り扱いも多い。金属製の円筒、あるいは折り畳みできるように金属板を組み合わせた三角形や四角形の筒状になっており、日本の火熾し器のように筒ごと下から火で炙るか、この筒の中に木炭や薪、着火剤などを詰めて着火すると、煙突効果により比較的簡単に10分から30分ほどで、炭火で調理可能な状態にまで火熾しできる。火が熾ったら、バーベキューグリルやダッチオーブン、七輪などに炭を移せばよい。バーベキューの機会が多い場合はチャコールスターターがあると便利である。
ホームセンターへ行くと透明な薄いピンク色のビニール状の小袋に小分けされたゲル状の着火剤や、チューブ入りの着火剤、固形の着火材などが市販されている。小袋に小分けされた着火剤は七輪であれば1〜2袋ほど、バーベキュー台では5〜10cm間隔で並べ、袋へそのまま火をつければ、袋が燃え上がりつつ木炭へ着火が行なわれる。チューブ入りの着火剤の場合は、火のついていない木炭の上にゲル状の着火材を塗布しそののち、着火する。火のついている状態では絶対に着火剤を継ぎ足してはならない。着火剤が爆発的な燃焼を起こし、周囲にゲル状着火剤の火が飛び散り燃え盛りながらへばりつく場合がある。このような危険性から、チューブ入りの着火剤は最近はホームセンターでの販売が行なわれていない場合が多く、袋入りにしてもチューブ入りにしても、メタノールをゲル化したこのような着火剤は着火後、火がついた状態で突然飛び散る場合があるため木炭への着火が完全に済むまでは注意が必要である。
火熾し器は小型の深底フライパン鍋のような形状をしており鍋底が金網状になっている(練炭・豆炭の火熾しも出来るようになっている場合が多い)。まず火熾し器に適切な大きさに切った木炭を入れた後、屋外の安全な場所で既に熾っているたき火や、練炭コンロ、固形燃料のゴトクの上で火熾し器を掛け、木炭が赤熱するまで炙る。木炭の継続的な燃焼(熾きた状態)が認められるようになったら、赤熱した木炭を七輪やバーベキュー台などに移し火種とする。なお、カセットガスコンロの場合では、カセットガスボンベが異常加熱により爆発する危険性があるため、カセットガスコンロでの火熾しは絶対に行なってはならないことになっている[3]。火熾し器で炙る際には、木炭が爆跳したり、炎や火の粉が細かく飛び散る場合も多く、また台所のガスレンジで熾す場合は、レンジや換気扇の油汚れなどに引火の危険性もあるため、確実な安全性が保証出来ない場合は最初から屋内での火熾しは避けた方がよい。
  • 紙や木片を使う方法
固く綱紐状にした新聞紙や広告紙、または木片を敷き詰めた上に、木炭を置いて着火させる。木炭は温度低下を避けるため間隔をあけずに密集させる。七輪の場合は綱紐状の固く締めた紙をコンロ内側にバケツ状に敷き詰め、その内側に木炭が包まれている状態にする。この方法はYouTubeなどで複数紹介されているが、実際に行なってみると、着火剤などと比較し、初心者での着火は非常に難しく、また紙の灰が大量に出て食材に付く場合がある。
  • 西岡流着火法
高知市の西岡燃料株式会社の西岡謙一が推奨している着火方法。バーベキューコンロなどで特に有効な方法である。木炭のブロックを円形に配置し組み上げつつ木炭の壁でチャコールスターターのような筒を作る。その中に綱紐状の固く締めた紙を井桁状に組み、その上に木炭片を被せ木炭で蓋をするように敷き詰める。木炭の壁でできた釜戸の中で熱が封じ込められながら、煙突効果によって新鮮な酸素が送り込まれ続ける事から、うちわで扇ぐ必要も無く木炭が着火する[4]。多くのインターネット上で映像や写真を交えて手法が紹介されている。[5]

考慮

原材料

製造所や製造工程が明確でないところから出荷された低価格の木炭には、稀に以下のような問題点が生じる場合がある。

原料となる材木が海水の貯木場に長期保管されていた場合や、海辺で成長したマングローブ材の場合、木質に塩分が含まれ、それらから製造された木炭を燃焼した場合には、器具に錆が生じる場合がある。鉄瓶などの鉄器具の錆や、焼き肉のロースターの故障原因ともなりうる。

さらに、海外炭には廃材や木の電柱など出所のはっきりしない産業廃棄物を原料としているものもあり、ホルムアルデヒドコールタールなど、決して好ましくない成分が含まれている場合もあるので注意が必要である。国内産炭でも解体家屋の材木を原料とした木炭がネットオークションなどで販売されているが白蟻用などの殺虫剤や塗料の化学物質が含まれている可能性があるため避けた方がよい。

爆跳

熱せられた木炭が突然爆ぜることを爆跳という。木炭の繊維質に閉じ込められた水分や揮発分が熱で膨張あるいはガス化した可燃性揮発分の繊維質内での小爆発によって発生する。低質炭ではこれが起こりやすいが、高級な備長炭でも起こる。備長炭の場合、硬質であるためむしろ危険で、金属音を伴って爆跳する。熱く熱せられた木炭片が目などに飛び込むと重傷となるため要注意である。主な原因としては、木炭が吸湿した水分によるものがもっとも多く、木炭に乾燥剤を添え厚いビニール袋で外気が入らないよう密封し保存すると、ある程度は爆跳を防ぐことが出来る。店舗に長期間置かれた段ボールや紙袋入りの木炭は爆跳が起こり易いと言える。なるべくなら窯元からの直販で購入し、出荷後短期間のうちに使い切るのが好ましい。なお、オガ炭やハイカロ炭のような成形木炭の場合は、原料の繊維質が細かく裁断されているため、爆跳はほとんど起こらない。

燃焼ガス

木炭は、練炭とは異なり硫黄や鉱物臭はしないものの、同様に一酸化炭素など有害な燃焼ガスを多量に発生するので、室内での七輪や、囲炉裏など、煙突を伴わない屋内燃焼器具の使用は、とくに換気に気を付けなければならない[6][7]。日常的に厨房で使用する場合は、ガスコンロと同様の位置に設置し換気扇を稼働させた方がよい(炭火焼き鳥店の多くはそのようになっている)。

また「バーベキュー用」などと称して量販店で販売されている非常に安価な南方マングローブ炭などは、燃焼時に木酢液のような煙臭を伴い、食味や口内に違和感や嘔吐感、頭痛を伴わせ、数週間もそれが続く場合もある。せっかくのバーベキューパーティーが台無しになる可能性もあるため、多少高価でも国内産炭を使用した方が無難である。 揮発分の質量%で見てみると、国内で製造された高級な備長炭やオガ炭は2〜3%であるのと比較し、中国産炭は一級から二級にかけて4.8〜20%、格安の南方マングローブバーベキュー炭は44%にも達する場合がある[8]。非常に低価格なマングローブ炭など爆跳や煙臭が激しく、本来は七輪や囲炉裏などの燃料炭として向かない低質木炭を「バーベキュー用」とうたって販売している場合も多く、注意が必要である。

着火剤

燃焼中に着火剤を投入すると、思わぬ火災となる危険性がある。また、バーベキューなど食品を直火で焼いて調理する場合に、安価で簡単に着火可能なワックス系を使用するとその匂いが食品に付着し味と香りを劣化させる可能性があり、紙を使用した場合はその燃えカスの紙片が食品に付着してしまう。特に、燃焼時の安全性を考慮していないインクで印刷された紙を使用すると、当然その影響を受けることになる。

脚注

関連項目

外部リンク