失敗国家
危険 注意 不明 / 属領 | 普通 安定 |
失敗国家(しっぱいこっか)、破綻国家(はたんこっか)、崩壊国家(ほうかいこっか)とは、国家機能を喪失し、内戦や政治の腐敗などによって国民に適切な行政サービスを提供できない国家のことである。失敗国家は犯罪者やテロリストなどの温床となるため国際問題となっている。代表的な失敗国家の例として朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、ミャンマー、アフガニスタン、イエメン、イラク、スーダン、ジンバブエ、コンゴ、チャド、コートジボワール、ハイチ、ソマリアなどが挙げられる。
定義
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失敗国家の定義については統一されたものは無いが、ここではザートマンの定義を引用する。ザートマンによれば失敗国家には以下の三点の喪失が現れるとしている。
- 主権に基づく権威(正統性) (sovereign authority)
- 意思決定を行う為の目に見える組織 (tangible organization of decision-making)
- 統合の象徴となるべきもの (intangible symbol of identity)
この三点の喪失により国家の機能が停止し、国家性 (statehood) が喪失している状況にある国家が失敗国家となる。
特徴
失敗国家の国民生活は例外無く悪化する。これは政府の無力、腐敗によって行政が機能しなくなり、警察、医療、電気、水道、交通、通信等の社会インフラが低下する為である。中でも治安は急速に悪化し、給料の遅配等により軍隊や警察では職場放棄やサボタージュが発生する。軍や警察が自ら犯罪行為をすることも起こる。この治安の悪化により、生産力と国民のモラルが低下する。農民が土地を捨てて難民化し飢餓が蔓延したり、略奪などが日常化したりする。
名目的に存在する政府は腐敗しており、統治能力はほぼ無い。例えばソマリアのバーレ政権末期では、大統領官邸を中心にした数百メートルの範囲にしか支配力が及ばなかった。
その他の地域で支配力を行使しているのは軍閥 (warlord) 等地域の有力者であり、彼らの持つ私兵集団である。これらの中には元は正規軍であったが兵士の給料の不払い等が続いた結果、私兵化した者も多い。地方ごとに有力者が勝手に独自の軍事組織を持ち、その他にも大小様々の自警団や盗賊が出没する。失敗国家の政府は一般に、国際的に国家主体と認められ徴税権や ODA等の利権を持っているだけであり、実態は私兵組織と変わらない事が多い。
失敗国家とテロリストとの関係
失敗国家は国際的なテロリストの隠れ場所となる。テロリストを逮捕出来る様な出入国管理や警察力が無いからである。アルカーイダは失敗国家の一つであるアフガニスタンに潜伏していた。また、最近ではソマリアがアルカーイダの拠点となっているともされ、実際にアメリカ軍やエチオピア軍による軍事行動も行われている。
その他
- 日本赤十字九州国際看護大学教授の喜多悦子は失敗国家を見分ける2つの簡単な基準として、「警察官や兵士の給料をきちんと払えていない国」と「教師の給料をきちんと払っていない国」を挙げている。
- 2005年から毎年、アメリカのシンクタンクの一つである平和基金会が失敗国家ランキングを発表している[1](下記外部リンクも参照)。
- 2011年度の失敗国家ランキングワースト20
- ソマリア (0)
- チャド (0)
- スーダン (0)
- コンゴ民主共和国 (+1)
- ハイチ (+6)
- ジンバブエ (-2)
- アフガニスタン (-1)
- 中央アフリカ共和国 (0)
- イラク (-2)
- コートジボワール (+2)
- ギニア (-2)
- パキスタン (-2)
- イエメン (+2)
- ナイジェリア (0)
- ニジェール (+5)
- ケニア (-3)
- ブルンジ (+6)
- ギニアビサウ (+4)
- ミャンマー (-2)
- エチオピア (-3)
- 2010年度の失敗国家ランキングワースト20
- ソマリア (0)
- チャド (+2)
- スーダン (0)
- ジンバブエ (-2)
- コンゴ民主共和国 (0)
- アフガニスタン (+1)
- イラク (-1)
- 中央アフリカ (0)
- ギニア (0)
- パキスタン (0)
- ハイチ (+1)
- コートジボワール (-1)
- ケニア (+1)
- ナイジェリア (+1)
- イエメン (+4)
- ビルマ (-3)
- エチオピア (-1)
- 東ティモール (+2)
- 北朝鮮 (-2)
- ニジェール (+4)
- 2009年度の失敗国家ランキングワースト20
- ソマリア (0)
- ジンバブエ (+1)
- スーダン (-1)
- チャド (0)
- コンゴ民主共和国 (+1)
- イラク (-1)
- アフガニスタン (0)
- 中央アフリカ (+2)
- ギニア (+2)
- パキスタン (-1)
- コートジボワール (-3)
- ハイチ (+2)
- ビルマ (0)
- ケニア (+12)
- ナイジェリア (+3)
- エチオピア (0)
- 北朝鮮 (-2)
- イエメン (+3)
- バングラデシュ (-7)
- 東ティモール (+5)
- 2008年度の失敗国家ランキングワースト20
- ソマリア (+2)
- スーダン (-1)
- ジンバブエ (+1)
- チャド (+1)
- イラク (-3)
- コンゴ民主共和国 (+1)
- アフガニスタン (+1)
- コートジボワール (-2)
- パキスタン (+3)
- 中央アフリカ (0)
- ギニア (-2)
- バングラデシュ (+4)
- ビルマ (+2)
- ハイチ (-3)
- 北朝鮮 (-2)
- エチオピア (+2)
- ウガンダ (-1)
- レバノン (+10)[2]
- ナイジェリア (-1)
- スリランカ (+5)[3]
- 2007年度の失敗国家ランキングワースト20
- スーダン (0)
- イラク (+2)
- ソマリア (+4)
- ジンバブエ (+1)
- チャド (+1)
- コートジボワール (-3)
- コンゴ民主共和国 (-5)
- アフガニスタン (+2)
- ギニア (+2)
- 中央アフリカ (+3)
- ハイチ (-3)
- パキスタン (-3)
- 北朝鮮 (+1)
- ビルマ (+4)
- ウガンダ (+6)[4]
- バングラデシュ (+3)
- ナイジェリア (+5)[5]
- エチオピア (+8)[6]
- ブルンジ (-4)
- 東ティモール (N/A)[7]
- 2006年度の失敗国家ランキングワースト20
- スーダン (+2)
- コンゴ民主共和国 (0)
- コートジボワール (-2)
- イラク (0)
- ジンバブエ (+10)
- チャド (+1)
- ソマリア (-2)
- ハイチ (+2)
- パキスタン (+25)[8]
- アフガニスタン (+1)
- ギニア (+5)
- リベリア (-3)
- 中央アフリカ (+7)
- 北朝鮮 (-1)
- ブルンジ (+3)
- イエメン (-8)
- シエラレオネ (-11)
- ビルマ (+5)[9]
- バングラデシュ (-2)
- ネパール (+15)[10]
- 2005年度の失敗国家ランキングワースト20
- コートジボワール
- コンゴ民主共和国
- スーダン
- イラク
- ソマリア
- シエラレオネ
- チャド
- イエメン
- リベリア
- ハイチ
- アフガニスタン
- ルワンダ
- 北朝鮮
- コロンビア
- ジンバブエ
- ギニア
- バングラデシュ
- ブルンジ
- ドミニカ共和国
- 中央アフリカ
この評価では、不安定の要因となる12の指標を各10点満点合計120点で採点し、高い国ほど失敗と評価している。90点 以上を警報状態(Alert)、90点未満60点以上を要注意(Warning)、60点未満30点以上を普通(Moderate)、30点未満を安定(Sustainable)と区分している。
2011年度のランキングにおける最下位、即ち最も安定した国とされているのはフィンランド(177位)である。イラクは9位、アフガニスタンは7位、パキスタンは12位、ミャンマー(ビルマ)は18位、北朝鮮は22位、中国は72位、2008年度で中国と順位が同じだったエクアドルは62位、ロシアは82位、2008年度でロシアと同じ順位だったスワジランドは61位、タイは78位、韓国は155位、アメリカは158位。イタリア(147位)・イギリス(159位)・フランス(161位)・ドイツ(162位)らヨーロッパの先進諸国は、下位ではあるが、安定ではなく、普通としてランキングされている。日本(164位)はG8先進国では168位のカナダに次いで安定した国とされている。
また、日本は2008年まで30点未満の安定した国に属していたが、2009年からはランキングの総合得点が30点を超えたため、安定した国の1ランク下の普通の国家に属すこととなった。そして、2008年度と2011年度で最も悪化した指標はI-6の経済状況の悪化(Sharp and/or Severe Economic Decline )であり、+1.2ポイント上がっていた。2番目はI-11の利己的エリート層の台頭(Rise of Factionalized Elites )で+0.9ポイント上がっていた。逆に改善した指標はI-1の人口圧力の増大(Mounting Demographic Pressures)の-0.7ポイント、次はI-9の大規模人権侵害の状況が存在していること(Widespread Violation of Human Rights )が共に-0.4ポイントである。
また、個別の指標で2.5点以上は
- I-1の人口圧力の増大(Mounting Demographic Pressures)[3.6点]
- I-3の集団としての不平不満が残っており、復讐への動機が残っていること(Legacy of Vengeance - Seeking Group Grievance )[3.9点]
- I-6の経済状況の悪化(Sharp and/or Severe Economic Decline )[3.5点]
- I-9の大規模人権侵害の状況が存在していること(Widespread Violation of Human Rights )[3.0点]
- I-12の他の国家または外部の主体の介入があるかどうか(Intervention of Other States or External Actors )[3.5点]
である。
脚注
- ^ 失敗国家ランキング(英語)
- ^ Lebanon was ranked 28th in 2007.
- ^ Sri Lanka was ranked 25th in 2007.
- ^ Uganda was ranked 21st in 2006.
- ^ Nigeria was ranked 22nd in 2006.
- ^ Ethiopia was ranked 26th in 2006.
- ^ 2007 was the first year in which Timor-Leste (East Timor) was included.
- ^ Pakistan was ranked 34th in 2005.
- ^ Burma/Myanmar was ranked 23rd in 2005.
- ^ Nepal was ranked 35th in 2005.
関連項目
参考文献
- 松本仁一 『カラシニコフ』 朝日新聞社 2004年 ISBN 4-02-257929-3
- 伊勢崎賢治『武装解除』 講談社現代新書 2004年 ISBN 4-06-149767-7