丸刈り
丸刈り(まるがり、丸刈)とは、頭髪を全体に短い長さに刈り取った髪型のこと。坊主刈り(ぼうずがり)、坊主、悪口でハゲとも呼ばれる。
単に流行のファッションとしてのみならず、僧侶のそれのように宗教的な動機によるもの、軍隊や学校、刑務所などにおいて規律の維持や衛生、スパルタ教育の確保を目的に行われることがある。髪結文化圏では刑罰的意味あいで行なわれることがある。
歴史
古来より仏教では、己への戒めとして「頭を丸める」ことは悟りの境地へ達する"解脱"への第一歩とされていた。剃髪の由来は釈迦に倣ったもので、古代インドでは頭髪を剃るのは最大の恥辱とされており、重罪を犯した者に対する一種の刑罰であったが、釈迦は自らの解脱のため進んで剃髪し、それに弟子たちも従ったものである。なお、罪人の髪を剃る刑罰は中国の髠刑や日本の天つ罪に対する禊など広く見られるものであった。
日本
明治維新後の1871年(明治4年)9月23日に散髪脱刀令が布告され髷が禁止された。また、バリカンの輸入によって丸刈りという新しいスタイルが誕生し、認知されるようになった。さらに1873年(明治6年)に徴兵令が公布されると、軍人の髪型である丸刈りが国民に定着していくこととなった。軍人の丸刈りは俗世間からの訣別の気構えや規律の維持などの他に、頻繁な入浴が困難な野戦における虱や頭垢の予防といった衛生上の目的、戦闘で頭部を負傷した場合の手当てのしやすさ、軍帽・略帽や鉄帽着用時の蒸れの緩和といった実際上の利点があり、現代でも自衛隊を含む各国の軍隊で見受けられる。
旧陸軍では軍規によって将校(士官)も兵も丸刈りが基本であったのに対し、旧海軍では准士官以上の階級では原則自由として長髪が許されていた。しかしながら、陸軍でも外国大使館附の駐在武官や留学者、私服捜査を行う一部の憲兵や特務機関・中野学校のスパイ、その他一般軍人でも西竹一など一部の将校は長髪であり、海軍では艦船勤務や陸戦隊の士官・准士官を中心に丸刈りが多く、反面飛行兵には比較的長髪の者が多かった。
なお、これら戦前中の日本や日本軍における長髪の定義は戦後現代と大きく異なっており、襟足は伸ばさず耳や目に髪がかからない七三分け、オールバックなどの短髪までが長髪扱いされていたことに注意を要する。また陸海軍ともに陸士・航士・陸経、海兵・海機・海経などといった補充学校における士官候補生/将校生徒を含む、全ての下士官兵は原則丸刈りであった。
学校教育の場においても、大正期に男子学生・生徒の制服が軍服に倣った学生服が標準となり、その流れの中で軍人と同様に男子の髪型は丸刈りが基本とされた。また初等教育の児童の髪型は丸刈りと坊ちゃん刈りの2種類しか無く、農村や都市の庶民層では丸刈りを選択する男子がほとんどであった。
第二次世界大戦中の戦時体制下においては、一般国民も兵士同様の振る舞いと心構えが要求されるようになり、丸刈りの男子はさらに増加するが、太平洋戦争敗戦による軍隊の解体もあり、成人男性における髪型の規制は基本的に消滅した。1960年代の後半には高校の大半でも長髪が認められるようになり、丸刈りの強制は中学にのみ残存することとなる。
地域によっても事情が大きく異なるが、1990年代初頭までは「服装の乱れの防止」という名目で、男子生徒に対する丸刈りを校則で強制する中学校も多かった。元々髪型の指導がない学校が「非行防止に効果がある」と丸刈り強制に転じた学校もあった。その中学校においても都市部を中心として頭髪の自由化は徐々に進行し、現在では長髪を認めない学校はごく一部となっている。
神戸市は都市部として最後まで中学校での丸刈りを堅持しようとする姿勢で有名だったが、校則での丸刈り強制を人権問題と考える弁護士も介入し、丸刈りを強制する中学校はなくなった。ただ、地方においては現在もなお丸刈りを指定する学校は存在する。鹿児島県では公立中学校の1/3あまりが採用しており、奄美群島に偏在している[1]。
また、長い間学校におけるスポーツ関係の部活動、中でも日本の高校野球では部員全員丸刈りにするのが必須となっており、頭髪が長いと入部が認められない場合もある。かつて1993年のJリーグ発足の頃、長髪を容認する文化をもつサッカーの人気が高まったためか、丸刈りの強制を中止する野球部が見られたこともあった。しかし、一時のサッカー人気が薄れたこともあり、現在においては再び丸刈りにする高校球児の方が多く見受けられるようになり、スポーツ刈り以上に長めの髪型にする高校球児は稀である。
刑務所・少年院の受刑者においては、男子に対してのみ丸刈りが画一的に課せられている。一方で大抵の場合、女子受刑者は髪型が自由で、収監時に染髪されている状態だった場合はそのままでいることが黙認されている。2005年に改正された法律により「受刑者に対する意に反する調髪は衛生上の必要性を除く調髪するなは無い」とされているものの、「衛生上の必要」という名目で、男子に対して丸刈りが強制されている[2]。
自衛隊の新隊員教育・履修前・陸曹候補生教育においては、主に教育隊着隊後において丸刈りが男子に対して事実上強制されている。また、警察学校においても男子に対して丸刈りが強制されている。
なお、一部の企業や職種において丸刈りが禁止または非推奨とされているところもある。これは丸刈りが右翼団体(彼らは旧陸軍の姿勢を是とする)や暴力団構成員の一部に好まれる髪型と広く認識されていることなどによる。 また、いうまでもないことであるが、タレント、スポーツ選手、アーティスト、一般人などで、ファッションや個人の嗜好として丸刈りにする者も、今昔を問わず広く存在する。
丸刈りの意味と実例
自分が誰かに対して大きな過失を負い迷惑をかけてしまった場合や、公約を達成できなかった場合、“頭を丸める”という自粛の意味で丸刈りにすることもある。
- テレビなどのバラエティ番組の企画または罰ゲームとして行われることもあれば、いじめなどで新人の芸人が丸刈りにされることもある(とんねるずの石橋貴明、よゐこの濱口優、インパルスの板倉俊之などのお笑い芸人に多い)。また、視聴者参加の番組の企画でも一般参加の素人が丸刈りにされた例もある。
- プロ野球で応援している球団が優勝できなかったり、またはアンチの球団が優勝してしまい丸刈りになったアナウンサーもいる(前者は1982年の徳光和夫、後者は1989年の久米宏。該当する球団はいずれも巨人)。
- 【宮根誠司】 - 2009年の東京マラソンで4時間30分で走りきらないと頭を丸めると宮根誠司自身が司会を務めている『情報ライブ ミヤネ屋】内で宣言し、4時間30分で走りきらなかったので同番組の生放送中に公約を守り公開丸刈りになった。その後、宮根は同番組で自身が企画したおにぎりが販売目標に達しなかったことにより、再度丸刈りになっている。
- 【高野純一】 - 『おはよう朝日です土曜日です】で2009年3月1日の「篠山ABCマラソン」に出場し完走できなかったら頭を丸めると同番組内で宣言。しかし、ひざを痛めてしまいリタイアしたため潔く公約を守り、頭を丸めた。
- プロレスにおいては「敗者髪切りマッチ(カベジェラ・コントラ・カベジェラ)」と称して敗者を丸刈りにする場合もある。(1983年5月7日に行われたジャガー横田 vs ラ・ギャラクティカの髪切りデスマッチなど)
丸刈りの長さ
一口に丸刈りと言っても、その長さは様々である。丸刈りの長さを表すのに、関東地方では分・厘、近畿地方では枚(バリカンに取り付けるスペーサーの枚数に由来)を用いることが多い。分や厘は尺貫法が基本であるが、必ずしも対応していない。
関東地方
- 1厘刈り:0.5mm
- 5厘刈り:2mm
- 1分刈り:3mm
- 3分刈り:6mm
- 5分刈り:9mm
近畿地方
- 1枚刈り:2mm
- 1枚半刈り:3mm
- 2枚刈り:5mm
- 3枚刈り:7mm
剃髪
- バリカンではなく剃刀で剃り上げたスタイル。特異な髪型で非常に目立つこと、また国際的にはスキンヘッドと呼ばれ、これを「反社会的思想のシンボル」と見る傾向があるため、丸刈りを強制あるいは容認する学校や組織においても、頭髪を全て剃り落とすことは禁止している場合が多い(僧侶を除く)。
● シェイブヘッド
『スキンヘッド』という呼称は剃り上げた髪型のみならず、反社会的集団やネオナチなどの暴力的集団を指すものでもあるが、 薄毛対策や個人的趣向によるお洒落の演出としての剃り上げた髪型は『シェイブヘッド』と呼ぶのが英語圏では一般的である。