SB-1 デファイアント

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シコルスキー SB > 1 デファイアント

SB-1 デファイアント (Defiant , 開発企業では"SB>1" と数学記号不等号を用いて表記される。開発企業連合内部の製品名は『シコルスキー S-100 N100FV』) は、シコルスキー・エアクラフトボーイングアメリカ合衆国アメリカ陸軍の軍用ヘリコプターの複数系列を完全に新規開発する計画である統合多用途・将来型垂直離着陸機計画Joint Multi-Role / Future Vertical Lift , 略語:JMR / FVL)の要求に応えて開発中の二重反転式ローター(ABCローター、後述)を特徴とするターボシャフトエンジンであるライカミング T55を動力とする双発の複合ヘリコプターである。

開発

SB>1 デファイアント[2][3](シコルスキー社内製品記号:S-100 N100FV、ハイフンを用いたより一般的な表記 "SB-1" として広く知られる)[4][5]は、中型垂直離着陸・輸送機の機体規模の技術概念実証機(デモンストレーター)を共同開発の上で試作した。

「デファイアント」(Defiant) は英語で「挑戦的な、反抗的な、傲慢 (ごうまん) な」[6]を意味する。

当初は2017年の初飛行が予定され、さらなる開発のために陸軍によって評価されることになっていた[7][8]。シコルスキー社は、回転翼航空機の試験機で同じく複合ヘリコプターである「シコルスキー X2」の設計によって技術的な経験を積んでおり、フェーズ1(第一段階)の開発において対抗する「ベルロッキード・マーティン」企業連合を引き離している。[9] ボーイングは戦闘任務システムの技術概念実証(デモンストレーション)段階である「フェーズ 2」において、シコルスキー社に対する指導的立場で関わる予定である。

ボーイング=シコルスキー陣営は、ヘリコプターの設計がこれまでに、軍において最も使用されてきているという事実と、現在に至るまで同形態機種の設計開発に成功してきたという絶対の自信により、ベル社が陸軍に提出したようなティルトローター技術にはほとんど関心を持たなかった。[10]

2013年までに、シコルスキー社とボーイング社は、試験機「シコルスキー X2」と軽・武装偵察ヘリコプター「シコルスキー S-97レイダー」の2機種に対して約2億5,000万ドルを投入している。[5]

しかし同陣営チームの回転翼航空機は、「統合多用途・将来型垂直離着陸機計画」に関しては想定される任務が異なることから、あくまでも軽・武装偵察ヘリコプターである「S-97 レイダー」の設計とは別の機体になる予定である。[9] 同陣営は「SB>1 デファイアント」(SB-1 Defiant) の性能と信頼性に自信を持っており、総設計費用の半分以上を拠出している(残りは米陸軍から応募企業への助成金で賄われた)。 同陣営でこれまで行われた最後の共同開発計画は、1980年代に始まり2004年に取り消されるまでに、総額70億ドルもの費用を費やした「RAH-66 コマンチ」(Comanche)だった。

彼らは、予算削減、「要求の変化(requirement creep)」[11]、長引いた開発期間が偵察攻撃ヘリコプター「RAH-66 コマンチ」に問題を引き起こしたものの、企業チーム自体の機能不全は生じなかった。「RAH-66 コマンチ」計画各社は機体の構成要素を分担して製造した。統合多用途機(Joint Multi-Role , JMR)段階では、両社の従業員が協力し合った。チームは2015年に自陣営を「ザ・サプライヤー」(「基幹機体・納品企業連合」)と称した。[12] アメリカ東部時間の2019年4月17日、試験飛行成功の報告に基づき、アメリカ陸軍航空技術審査部は当初の予定通り従来型の「古い」ハネウェル・エアロスペースライカミング T55-GA-714A,(ライカミング社内識別名称:「ライカミング LTC-4」)を機体に取り付けることを認めた。

ただし、新規開発のエンジンを搭載しないとはいえ、T55には最新技術の成果が反映される予定である。

「ターボシャフトエンジンの圧縮機区画に採用された新技術により、整備費用を削減し、航空機の即応性を向上させ、燃費を低下させることで有効荷重と飛行距離を延ばすことができる。」(“Our improvements come from new technology infused into the compressor section of the engine that will reduce maintenance costs, increase aircraft readiness and lower the fuel burn — all while increasing the aircraft's useful load and flight range.”)
ハネウェルエアロスペース軍用ターボシャフトエンジン社の上級生産管理者ジョン・ルッソ(John Russo, senior product director, Military Turboshaft Engines, Honeywell Aerospace)

[13]

試験飛行の遅延

2018年末の初飛行を予定していたが、アメリカ陸軍の要求によって複合材料で構成される回転翼のブレードを、より歩留まりを改善した低費用の自動積層形成法(Automated fiber placement (AFP), also known as advanced fiber placement)により製作することになり追加の作業が必要となったため、初の試験飛行は当初の予定より遅れ[14][15]フロリダ州ウエストパームビーチにて2019年3月21日(東部標準時[1]に初飛行となった。

その後、2019年3月の初飛行後から同年4月までの間に初飛行を含め3回の飛行試験を実施した後、地上試験日に動力試験機(テストベッド)のギアボックスで不具合が見つかり機体は飛行停止となった。

ギアボックスの不具合は「ベアリングクリープ現象 (応力歪み)」(bearing creep)となっており、ベアリング摩耗により組立部品(ASSY)内の各々の歯車間に規定値を超える隙間が発生する現象であった。

このギアボックスはトランスミッションの組立部品(ASSY) の内部にあり、この部分の設計変更がなされた。

これにより地上試験の実証基盤架台(テストベッド)、飛行試験機体、風洞モデルの3点全てに設計変更が必要となった。

問題発生後に再開された試験飛行は、当初の第4回目となる予定月日より約5か月ほど遅延し、2019年9月24日にフロリダ州ウェスト・パームビーチにあるシコルスキー社の試験場で約1時間ほど実施された。[16]

特徴

二重反転式ローターは、高速化を実現するため「アドヴァンスト・ブレード・コンセプト・ローター[17](ABCローター)を採用している(ヘリコプター#飛行速度の限界 も参照されたい)。

これはリジッドローター(主回転翼の各々の羽根の迎角を周期的に変化させる蝶番こと「フェザリング・ヒンジ」のみで構成され、他の関節部を持たない)を用いた二重反転式ローターであり、上下に配置された各々の回転翼の前進側の羽根だけで全ての揚力を賄う(後退側は揚力を発生させないように制御され、利用しない)形式であり、後退側の逆流や失速による左右の揚力バランス喪失に対する解決策の1つとされている。

シコルスキー社はシコルスキー X2で収集されたデータを元に武装偵察ヘリコプター計画英語版(Armed Aerial Scout, AAS)として重量が5メトリックトン (11,000 lb)、回転翼直径 32フィート (9.8 m)の規模のシコルスキー S-97レイダーを開発しており、これらの開発経過を踏まえてより大型化・大重量化した本機が開発された。

「SB>1 デファイアント」の巡航速度は250kn(290mph; 460km/h)であるが、費用低減のため[13]に「古い」ハネウェル・エアロスペースライカミング T55-GA-714A,( ライカミング社内識別名称:ライカミング LTC-4)を使用した場合は、戦闘行動半径がより小さくなる。

ゼネラル・エレクトリック T64を搭載する「ベル V-280 ヴェイラー」で試みられている米陸軍の「将来の手頃な価格のタービンエンジン」計画(The Army's Future Affordable Turbine Engine (FATE) program)からの資金提供を受けて新規にエンジンを開発した場合は、229海里(264マイル; 424km)の要求条件を満たす。[18] [4]

従来のヘリコプターと比較して、二重反転式ローターと推進式プロペラにより、速度は185km/h(115mph)高速化されるとともに戦闘半径が60%し、ホバリング性能は高温・高地の悪条件下においても、およそ50%向上する。

攻撃派生型に対するハネウェル HTS7500 と GTCP36-150 の採用

2021年1月、シコルスキー・ボーイング陣営は、将来型長距離強襲機としてのSB-1 デファイアントの攻撃派生型である「デファイアント X」を発表、翌年となる2022年2月、同陣営は、ハネウェル社の新型のHTS7500エンジン(デモンストレーターこと概念実証機である、SB-1デファイアントが搭載した発動機ハネウェルT55エンジンの派生発展型)を動力源として選択したと発表した。

また、同時にAPUと呼ばれる補助動力装置として「GTCP 36-150」が選定された。

主発動機となるHTS7500は、CH-47「チヌーク」や同型の特殊作戦仕様の為の派生型であるMH-47に搭載されているT55エンジン最新型T55-714Aと比べて42%出力が向上、同級エンジンと比べて総重量が最も軽量であると航空評論家らに評価されている。

[19]

対抗機種との比較

アメリカ合衆国航空機メーカーベル・ヘリコプターロッキード・マーティンが開発中で、最高速度300kn(560km/h)を発揮し、2017年12月に初飛行に成功している[20]ティルトローターベル V-280(名称は英語で「武勇、剛勇、勇気」を意味する"Valor"(ヴェイラー、アメリカ英語式の発音では「バロー」)である[21])と比較して、巡航速度(計算値)は約250kn(460km/h)と幾分低速ではあるが、低速域内での機動性は勝っているとされる。 このため、攻撃ヘリコプターに準じた派生型を開発するのに有利であり、開発企業ではSB-1 輸送型に護衛として性能差が僅少となる同機種の攻撃型を随伴させることが可能でヘリボーン作戦の損害率の低減に役立つと説明している。

将来型・長距離攻撃航空機

シコルスキー=ボーイング側は、アメリカ陸軍が2030年に初期作戦能力(Initial Operational Capability, IOC)取得を計画する「将来型・長距離攻撃航空機(FLRAA(“Flora”と発音), the Future Long-Range Assault Aircraft) の任務に関して、ティルトローター形式には翼端に回転翼を設置する必要があるため前方投影面積と横幅が大幅に増え、また機首の素早い回頭に難があり銃塔(ターレット)が必要となるなどの欠点があることを指摘し、SB>1 デファイアントの攻撃型はこれらの点で優位にあり、また揚力に対し荷重を負担する円盤面積が比較的小さい複合ヘリコプターの特性により充分な航続力を確保可能であるとしている。[22]

仕様

名称

  • アメリカ陸軍提案記号:SB>1 デファイアント
  • 企業連合内の製品名:シコルスキー S-100 N100FV

諸元

性能

  • 巡航速度:250kn(290mph; 460km/h)= M 0.37
  • 戦闘行動半径:229nmi(264マイル; 424 km)
  • 地面効果外のホバリング限界高度:8,000フィート (2,400 m)(華氏95度/摂氏35度)

武装

  • 固定武装:不明
  • 最大搭載量:不明

脚注・出典

  1. ^ a b Sikorsky-Boeing SB>1 DEFIANT™ Helicopter Achieves First FlightMarch February 22 2019閲覧。
  2. ^ Sikorsky, Boeing Selected to Build Technology Demonstrator for Future Vertical Lift SB>1 Defiant expected to fly in 2017”. Sikorsky press release (2014年8月12日). 2017年1月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年1月31日閲覧。
  3. ^ Parker, Andrew D (2014年10月16日). “Good things come in threes: Boeing-Sikorsky to develop two larger X2 offshoots for JMR and Future Vertical Lift”. Vertical. 2015年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年1月31日閲覧。
  4. ^ a b Parsons, Dan (2014年10月14日). “Sikorsky, Boeing finalise design of SB-1 Defiant”. Flightglobal. Reed Business Information. 2014年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年10月18日閲覧。
  5. ^ a b Sikorsky Moves X2 Technology Up A Size For JMR”. Aviation Week & Space Technology (2013年11月4日). 2014年6月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月22日閲覧。
  6. ^ Defiant の意味”. 英和辞典 Weblio辞書. 2017年2月5日閲覧。
  7. ^ Boeing and Sikorsky team up on US Army’s JMR”. Flightglobal.com (2013年1月18日). 2017年1月31日閲覧。
  8. ^ Sikorsky, Boeing Partner for Joint Multi-Role Future Vertical Lift Requirements”. PR Newswire (2013年1月18日). 2017年1月31日閲覧。[リンク切れ]
  9. ^ a b Boeing and Sikorsky Name New Rotorcraft”. Aviationweek.com (2013年10月21日). 2017年1月31日閲覧。
  10. ^ Boeing-Sikorsky Team Emerges as Frontrunner After EADS Quits Army Helo Competition”. Nationaldefensemagazine.org (2013年6月14日). 2017年1月31日閲覧。
  11. ^ システムや製品の開発過程において、当初予定したものから要求事項や機能が相違してきてしまい、品質や工程に影響を与えること。requirement creepの意味”. 英和辞典 Weblio辞書. 2017年1月31日閲覧。
  12. ^ Drwiega, Andrew (2015年4月9日). “Sikorsky-Boeing Announces JMR Defiant Team”. MilTechMag. 2017年1月31日閲覧。
  13. ^ a b U.S. Army Future Vertical Lift SB>1 Defiant will be powered by updated Honeywell T55”. Intelligent Aerospace (2019年4月17日). 2019年4月17日閲覧。
  14. ^ a b Changes for SB-1 Defiant Test Flight”. HeliHub.com. 2018年11月16日閲覧。
  15. ^ Garrett Reim (2018年10月9日). “Despite delays, SB-1 Defiant on track for 2018 first flight”. Flightglobal. https://www.flightglobal.com/news/articles/despite-delays-sb-1-defiant-on-track-for-2018-first-452517/ 
  16. ^ Sikorsky-Boeing SB-1 DEFIANT 試験飛行再開(動画)”. Naviation Japan. 2019年11月3日閲覧。
  17. ^ : advanced blade concept rotor
  18. ^ “Joint Multi-Role (JMR): The Technology Demonstrator Phase Contenders”, Defense media network, (8 October 2013), http://www.defensemedianetwork.com/stories/joint-multi-role-jmr-the-technology-demonstrator-phase-contenders/ .2017年1月31日閲覧。
  19. ^ “UH-60後継候補DEFIANT X、HTS7500エンジン選定 米陸軍FLRAA計画”, Aviation Wire — Aviation industries News, Airplanes, Airlines and Airports News, (5 May 2022), https://www.aviationwire.jp/archives/250403 .2022年5月23日閲覧。
  20. ^ “The V-22 Osprey-Inspired Aircraft Takes Off for the First Time” (英語). WIRED. (2017年12月18日). https://www.wired.com/story/bell-v280-valor-tiltrotor-test/ 
  21. ^ valorの意味”. 英和辞典 Weblio辞書. 2017年2月5日閲覧。
  22. ^ Army Can Revolutionize Aviation Without Busting Budget, Leaders Say” (英語). Breaking Defense. 2018年11月16日閲覧。

関連項目

外部リンク・参照資料

2018年11月22日閲覧。 〔ボーイング社の公式ウェブページ『統合多用途・将来型垂直離着陸機計画』への参加状況の紹介。〕