椅子

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一般的な木製椅子
肘掛(ひじかけ)とはを置くところ
A.C.470 - 460年頃の皿に描かれた椅子
カウチは様々な素材、色、サイズのものがある(写真は二人掛けサイズ)。
ロッキングチェアで農業新聞を読む農夫(George W. Ackerman写真。1931年、テキサス州)
イタリア、ローマのサン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂にある教皇の椅子
イギリスのリンカン大聖堂の椅子
スウェーデンで100年ほど前に量産されたウィンザー・チェア
フランスのサンドニ市庁舎、壮麗の間の椅子
現代の樹脂製の椅子
キャンピングチェア
赤ちゃん用の椅子(食事用のテーブル付き)。

椅子(いす)とは、が座る際に使う道具あるいは家具の一種である。腰掛けとも言う。典型的な椅子は4本の脚と背もたれを持ち、しばしば肘掛けが付く。直に床に座るよりも立位へ移行しやすく活動しやすい。芸術や人間工学の対象ともされ、さまざまなデザインが考案されている(→#種類#デザイン)。

椅子の構造部材には、天然木、合板パーティクルボード(とう)、ステンレス鋼アルミニウム天然石陶磁器などがある[1]。また、構造的には全ての椅子は座面を持つ。座面にはクッション材や張り材が用いられることもあり、クッション材の種類としてはスポンジゴムウレタンフォーム鋼製ばねなどがあり[1]、張り材の種類としては皮革合成皮革などがある[1]

椅子はある特定の人物の座席として用いられることから、地位象徴でもある[2]

椅子などに腰掛けた姿勢椅座(いざ)と呼ぶが、自転車サドルなど、物にまたがった姿勢を特に跨座(こざ)と呼ぶ。

なお、日本では「いす、腰掛け及び座いす」として家庭用品品質表示法の適用対象となっており雑貨工業品品質表示規程に定めがある[1]

目次

種類 [編集]

椅子の用途は作業するためと休息するための2つに分けられる。椅子は目的に応じて座る姿勢が異なることから、一般的には複数の用途にまたがって利用することができない家具として位置付けられており、用途に応じて複数の種類が存在する。

一般的な椅子 [編集]

安楽椅子
ロッキング機能に加えて、背当て部分が倒れるなどのリクライニング[3]機能が加わった椅子の総称。ときにロッキングチェアと同義で扱われる場合がある。
事務用椅子
執務作業で用いる椅子の総称。座面の支柱が一本で、複数に分かれた脚部の先に車輪がついていることが多い。背もたれは金属ばねガス圧、油圧を用いた自動復元式が一般的で、少数ながらねじによる固定式がある。パソコン作業向けの製品は、両側に肘掛けを持ち、座面、背もたれ、肘掛けの高さや角度の調節が細かくできるものが多い。
パイプ椅子
鉄製のパイプとクッション材を組み合わせた、安価で大量生産を可能とした椅子。一般的に「パイプ椅子」という場合、収納時に折りたたんで平坦に出来るタイプのものを指すことが多い。
アームチェア、肘掛椅子
肘掛けのある椅子。
スツール(ストール、ストゥール)
背もたれやひじ掛けのない椅子。英語では「chairチェアー」と区別される[4]。座面が円形のものも多く、それらを丸椅子と呼ぶこともある。以前の郵便物の棚への仕分けなど、席の離着や座ったままの移動が多い仕事向けに、事務用椅子と同様の車輪付きの脚を持つものもある。バーなど、飲食店カウンター席用の背の高いものもスツールに分類される[5]
ソファ
ソファーと表記されることも多いが、英語の発音は「ソウファ」に近い[6]。接客目的で用いる背もたれの付いた長椅子。肘掛けを持たないものもある。表装は製(ファブリック)や皮革(レザー)製品があり、表皮の張りとクッションの反発力は強いものから弱いもの(ルーズクッション)まで様々である。また、背もたれが水平まで倒れ、簡易ベッドとなるソファベッド(ソファーベッド)もある。
カウチ
長椅子のうち、ソファが正式な接客目的で使われるのに対し、より小型でプライベートな目的で用いられる位置付けのものを指す。簡易的なベッドとして休息するために寝そべることができる。寝そべってポテトチップスを食べる怠惰な生活を指すカウチポテト族で知られるようになった。
ベンチ
形状は横長だけでなく、樹木の周りに沿わせた円形のものもあり、複数の人が腰掛けることができるようにした長椅子全般を指し、乗り物用のベンチシートもこれに由来する。部材は長いものの他、樹脂成形の一人用の椅子を複数並べたものもある。野外に置かれることが多く、木材熱可塑性樹脂FRP金属など、一般に耐候性に優れた材質を用い、熱可塑性樹脂以外は表面加工を施したものが多い。公共の場に置かれることが多いため、近年は寝そべりや就寝による独り占めを防止する袖仕切りや凹凸を設けたものも増えている。
肘掛がない、事務用椅子

特別な機能を持った椅子 [編集]

揺り椅子、ロッキングチェア
一般には椅子の脚の接地面側に橇状の湾曲した部材が取り付いており、重心を動かすことで前後に揺れる機能を有した椅子。
座椅子
日本の和室だけで用いられる脚のない特殊な椅子。背もたれは角度が調節できるものと、座椅子を構成する合板などの素材による弾力性を生かしたものがある。肘掛けとして脇息(きょうそく)と共に用いられることが多い。
車椅子
歩行が困難な人が用い、移動のための車輪が付いた椅子。大抵の場合は折りたたむことができ、軽量化を図るためアルミ合金パイプの骨を持つものが多い。
寝椅子
身体を横にすることができる椅子の総称。病院の診察室などで用いられることが多く、座った時の高さが通常の椅子と同じ高さになっていることから就寝用家具のベッドと区別する。シェーズ・ロング(長椅子)など。
マッサージチェア
マッサージ機能がついた椅子の総称。電動モーターにより指圧球が上下し、筋肉のこった部分を揉みほぐす機能がある。近年では背筋を揉み解すだけでなく、立ち作業による足のむくみをほぐすための機能なども加わり、プログラム化されたマッサージメニューが選択できる。家電メーカーによっては心臓の心拍数に合わせて制御する機能を備えたものもある。
ミルクスツール
3本脚の小さな椅子で、ヒモを付けて壁に掛けられる。の乳絞りの際に用いるため、搾乳用腰掛とも言う。日本人向けの他の椅子の座面の高さが約40cm程度であるのに対し、こちらは約25cmと低い。

その他 [編集]

空気椅子
実際の椅子ではなく、大腿筋を強化する目的で背中を壁につけ、仮想の椅子に座る姿勢を維持させる等尺性筋収縮運動のひとつ。大腿筋の強化よりも膝関節に負担が掛かることが知られてからは用いられなくなった。無理な姿勢を強要することからシゴキに用いられることがあった。
電気椅子
死刑執行時に用いられる椅子で、拘束具と各種電極が備わっている。日本では用いられていない。
玉座
王や貴族などの君主が公的な場所で用いる椅子。椅子であること以上に権威の象徴として用いられる。そのために豪奢な装飾が施されている場合がほとんどであるが、機能的には一般的に通常の四つ脚の椅子で、しばしば肘掛けが付く。また逆に「玉座」と言った場合に、それに座るであろう者の権威を暗喩している事もある。
助兵衛椅子
ソープランドなどの風俗店で使われる特殊な椅子。

デザイン [編集]

中世では王侯貴族などが権威を誇示するための椅子のデザインが発達した。中世キリスト教装飾に影響を受けた様式となっている。ゴシックルネサンスバロックロココディレクトワールなど、近世に入るまで続く[要出典]

近代では実用性と芸術性を追求した機能的なデザインが発達する。伝統的には北欧やイタリアが有名であり、戦後ではイームズなどのアメリカ・モダンも有名である。

有名なデザイン [編集]

人間工学からの視点 [編集]

椅子は長時間使うことが多く、人間工学的な視点から構造設計されている(→インダストリアルデザイン)。

座面の高さは姿勢と作業性に最も大きな影響を及ぼす。例えば浴室の椅子などは座面が低いほど体全体が安定し、手先に力を入れやすくなる。ただし立位への移行が難しく、背中が丸まってしまうため長時間の使用は体に負担がかかる。一方座面が高い場合、上体の姿勢は良くなる。しかし下肢への負担は多くなる。作業性は高く、ほぼ立位なので、歩行への移行もスムーズである。また、座面の角度や柔らかさ、奥行きも重要な要因である。

事務作業などで長時間使う椅子には背もたれが必須である。背もたれの角度や高さ、背もたれと座面の間の角度が考慮される。

バランスチェアは、立位と正座の中間姿勢を取る椅子である。座面が前傾し、前にずり落ちようとする動きを膝で支える、奇妙な外観を持つ椅子である。体重が尻と膝に分散されるとともに、座れば自然に背筋が理想的なS字カーブを描いてまっすぐ立つため、腰肩首への負担が劇的に改善される。太ももの圧迫も少なくなるため、血行が妨げられて足が痺れたりむくみやすくなる問題も劇的に軽減される。事務作業向きの椅子といえる。人間の骨格は背骨と大腿骨を90度に曲げて長時間保持できる構造になっておらず、座面が水平の椅子に座ると、腰への負担を軽減するために必ず背骨を丸めた猫背の姿勢を取ろうとする点に着目して作られた、人間工学的にきわめて優れた設計になっている。発明者が子ども時代に、学校の椅子の座面を前傾させて座る遊びをしていたことから生まれた。

サドルチェアは乗馬の姿勢で座る、鞍型をした、疲労を軽減できる椅子である。北欧の歯科医の90%が採用しており、長時間座ったまま動き回る職人仕事に適している。バランスチェア同様、無理なく自然に背筋を立てる座り方が可能であり、通常の座面の椅子と比較して、体重によって血行を妨げられる要素や、腰などへの負担が劇的に改善される。

アジアのイス文化 [編集]

西欧同様に中国は「イス文化」の歴史を持つ。中国では北方騎馬民族の北魏の風俗から椅子の普及が始まり、の時代に一般階層まで行き渡った。一方、日本や朝鮮では椅子をあまり用いない生活様式をしてきた歴史がある[7]

日本 [編集]

日本では平安時代に身分によって、椅子、床子などが用いられることがあったが、広く継続・普及しなかった。屋外では、戦場などで折りたたみ椅子(「床几(しょうぎ)」)や、露天の茶店などでベンチに相当する椅子(「縁台(えんだい)」)は用いられた。ただしこれらは一時的に腰を掛けるものであり、普段はに直接座る生活習慣を持っていた。また、仏教寺院では曲彔が用いられる事もあった。邦楽の世界では合曳(あいびき)と呼ばれる現代の正座椅子に酷似した形状の指物の椅子が長く使われてきた。江戸時代以前でも西洋と交流・交易のあった場所や、教会や洋館などでは用いられていた。

ロシアの使節プチャーチンの秘書ゴンチャロフは、1853年(嘉永6年)12月8日長崎を訪れた際に見た日本人がいかに椅子に不慣れであるかを彼の著書『日本渡航記』(1857年)に書き記している。これによると、ロシアの使節団と幕府の要人との間でまず両代表による会見時の座り方をどのようにするかが話し合われたが、ロシア人が畳の上に5分も座っていられなかったのと同様、日本人も椅子の上に座ることができなかったという。日本人は椅子に座ることに「慣れないために足が痺れるのである」と書かれている[8]。このように、江戸時代までは椅子は一般には普及しておらず、そのため椅子に座るという生活習慣もなかった。

明治時代に入って文明開化を経ると、学校役場などでは椅子が用いられるようになったが、一般家庭に普及するにはまだ時間がかかった。和室・畳文化の生活習慣の中では座布団などが椅子の役目を担っており、椅子を用いる必然性が低かったためである。その後、西洋文化の影響で洋間が取り入れられるようになると、一般家庭でも椅子が用いられるようになった。現代では学校や一般家庭を始め、多くの場所で用いられている。

椅子に関連した小説など [編集]

脚注 [編集]

  1. ^ a b c d 雑貨工業品品質表示規程”. 消費者庁. 2013年5月23日閲覧。
  2. ^ 慣用的な表現として、社長のポスト(地位)を「社長のイス」と例えたりする。
  3. ^ : reclining
  4. ^ 英語版の Stool (seat) を参照。
  5. ^ 英語版の Bar stool を参照。
  6. ^ http://ejje.weblio.jp/content/sofa (研究社 新英和中辞典)
  7. ^ 加藤周一も[要出典]椅子がなぜ普及しなかったかを日本の不思議に数えていた。
  8. ^ 鍵和田務『椅子のフォークロア』柴田書店、1977年。28-29頁。

関連項目 [編集]