フランスの医療

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OECD各国の人口一人あたり保健支出(米ドル、PPP調整)[1]

フランスの医療(Health care in France)では、社会保険方式によるユニバーサルヘルスケアが達成されており、フランス厚生省が所管している。

2000年のWHO調査において、フランスは世界の医療制度の中でも総合的に最善な医療("close to best overall health care")を提供していると評された[2]

2005年度ではフランスGDPの11.2%を医療に投じており(一人あたり$3,926米ドル)、これはヨーロッパ各国平均よりも高めである(医療制度#各国の比較を参照)。医療費のおおよそ77%は国庫負担である[3]

概要[編集]

OECD各国の平均寿命[4]

フランスの医療制度は社会保険方式であるが、ドイツの医療制度と異なり保険財政・運営統治の責任を保険基金ではなく政府が負っており、政府によって収入レベルに応じた自己負担額、医薬品およびサービスの自己負担額などが決定されている[2] 。公的医療受給では、平均で医療費の70%が保険負担となり(償還払い)[5]、高額および長期医療には100%保険負担となる。補助的医療については民間保険から調達するが、その多くは非営利組織によるものである。

医療機関には、公立病院・非営利団体による病院(公的医療と提携している)・私的営利病院の3つが存在する。

2000年までは、保険カバー範囲は加入している社会保険によりけりであり(勤労者か退職者かなど)人口の貧困層が排除されていたが、リオネル・ジョスパン政権によってユニバーサルヘルスケア(Couverture maladie universelle, CMU法)が施行され[6]、全市民に広がった。現在では民間保険から支給を受けている割合は、病院治療費については3.7%に減少したが、その他の分野では義手義足(21.9%)、医薬品(18.6%)、歯科医療(35.9%)と未だに比率が高い[7]

2008年のデータでは、フランスの平均寿命は81歳であった[8][9]

歴史[編集]

現在の医療制度は1945年に創設の制度をもとにしており、それに様々な変更が加えられて運営されている[10]

医療経済学者Jean de Kervasdouéによれば、フランスの医療は非常に高品質であり、「世界の医療においてアメリカ型システムの代替となる唯一の制度である」とされる。彼によればフランスの外科医・内科医・精神科医・救急医療制度(SAMU)は世界各国の参考になるという。しかし彼は、病院は43ものの規制機関を満たす必要があり、それらの官僚があら捜しに走っているという事実もあると批判している。彼によれば政府はフランスの病院機能を連日のように取り締まりすぎているという。

さらに加えて、日本・スウェーデン・オランダの医療制度では、フランスとほぼ同等の効率性を GDPの8%以下の費用で達成している(フランスではGDPの10%以上)。

医療制度[編集]

医療保険受給のためのヴィタルカード(Carte Vitale 2)

フランスの医療制度は法的な強制保険制度であり、市民はすべて医療保険料を納めなければならない[11]。保険者は職域保険であり国保のような地域保険は存在せず、退職後も職域保険に留まりつづけることになる[5]。保険者は非営利団体であり、年に一度、州政府とヘルスケア歳出について交渉を持つ。保険基金は3団体が存在し、最大のものである全国被用者疾病保険金庫フランス語版(CNAMTS)には人口の84%が加入しており[5][6]、残りの2基金には人口の12%が加入している。

雇用者は、基金に対しての保険料が賃金から自動天引きされる。2001年の社会保険基金法により、公定医療保険プランの保険料は、給与所得・キャピタル所得・ギャンブル所得の5.25%、福利厚生(年金)については所得の3.95%と定められた[12]

受診制度[編集]

外来医療は総合診療医(GP)が担っており、そのほとんどは独立開業医であるが、一部はチームで就業している。フランスの医療制度において、GPは強いゲートキーパー役ではなく、市民は専門医を含めどのような医療提供者へも受診することができ、外来医療は様々なものが存在する。

医療保険の支給は償還払い制を採用しており、医療者に対し患者が直接医療費を支払ったのち、75~85%ほどが保険で払い戻される[5][11][6]。制度が全額を負担することはなく(参加の原則、le principe de participation)、残額については自己負担となるが、もし患者が非営利の民間保険に加入していれば民間保険からも一部が支払われる。国全体ではおおよそ自己負担の半額が民間保険からの支払いを受けており、実際の自己負担は9.4%ほどである[6]

2004年から「かかりつけ医」制度が導入されており、紹介状なしに他の医師を受診した場合、協定価格から外れる部分の医療については公的保険からも民間保険からも償還を受けることはできない(フリーアクセス制限)[6]

医療保険[編集]

OECD各国の種類別保健支出財源。
水色は政府一般歳出、紫は社会保険、赤は自己負担、橙は民間保険、緑はその他

フランスの医療制度社会保険モデルを採用しており、市民は収入に応じて拠出を行う。 1998年の制度改正では、雇用主が収入の12.8%、雇用者が収入の6.8%を拠出する。改正によって高収入者にはさらに追加で拠出を行わなければならず(それは給与所得に限定されない)、そのため、これまで収入の6.8%であった割合が0.75%まで下落した。総収入に幅広く課税されるようになり、ギャンブル税は医療目的用途となり、社会福祉受給者も供出を行わなければならなくなった[13]。 強制保険モデルであるため、医療制度は従来の保険モデル(自動車や火災保険のようなリスクベース保険料)ではなく、一般税収モデルで効率的に調達されている。

フランスの社会保障制度の設立黎明期では、英国のベヴァリッジ報告書(1942年)が参考にされ、万人に等しく保障を行う単一型モデルが目標とされた。しかしながらそれは、公的社会保障よりも高品質な従来の保険を受給していた職能団体らから強い反発を受け、そのため彼らは従来の制度に残存することも可能となった。これにより全ての労働者は、収入に応じて医療基金に拠出を行わなければならず、その額は傷病リスクによって変化し、払戻割合はさまざまでであった。その子供・配偶者・両親も同じように保障を受けられた。基金機構は自由に予算を編成することができ、予算に応じて払戻割合を自主的に決定していた。

今日においても、この制度は基本的な部分は同様である。全ての市民および法定のフランス居住者は、いずれかの法定プログラムに加入しており収入から拠出を行っている。今日では、人口の95%が主要3制度に加入しており、商工労働者とその家族向け、農業労働者向け(MSA)[5]、農業以外の自営業者向け(国営保険、RSI[5])となっている[13]

しかし1945年からは数多くの変革が加えられた。まず複数の医療基金(一般・独立・農業・学生・公務員)において払戻割合は同一となった。2000年より、政府はこれまで法定制度に加入していなかった人(未就業かつ未就学、すなわち富裕層もしくは貧困層)にも医療を提供するようになった(CMU法)[6]。これら未就業層向けの制度は一般税収を原資としてCNAMTが引き受け[6]、就業者向けの制度よりも払戻割合は多くしている。

また医療費の高額化に対処するため、政府は2004年と2006年に改革を行い、専門医療において全額払戻を受けるには総合診療医(GP)の紹介状を必要とすること、また法定自己負担額として、医師受診あたり1ユーロ、処方薬あたり0.5ユーロ、入院一日あたり16~18ユーロ、また高額制度などが定められた。 これらの規定は16歳未満の子供(既に他の福祉プログラムを受給しているため)、フランス非居住の外国人(母国の国民保健プログラムとフランス社会保険庁で国際協定を結んでいるため)、フランス海外領土の医療制度に加入している人、最小の医療補助受給者(minimum medical assistance)には適用されない。

フランスの医療保険制度の理念は連帯(Solidarity)であり、傷病の大きい人ほど支払は少なくなる。特定の深刻な傷病(AIDS、深刻な精神疾患、医療補助が必須な人々)な人々には、基金は100%の払戻を行っており、自己負担は免除される。

民間の補助的医療保険は、公的医療保険の対象とならない費用を対象としており多くの種類が存在する[6]。民間保険の市場競争は非常に激しい。これらの保険は雇用主から提供されることもあり保険料は割安となる。しかし通院時負担金(1ユーロ)や、GPからの紹介状なし専門医療受診に対して支給することは禁止されている[6]。フランス市民の85%は、補助的な民間医療保険に加入している[14][15]

費用と払戻額[編集]

医療費のおよそ9.4%が公的・民間保険より償還されない自己負担となっている[6]

処置 費用 払戻割合(%) 患者自己負担
一般診療(Generalist consultation) 23 € 70% 6,60 €
専門科診療(Specialist consultation) 25 € 70% 7,50 €
精神科診療(Psychiatrist consultation) 37 € 70% 11,10 €
心臓外科診療(Cardiologist consultation) 49 € 70% 14,17 €
虫歯修復(Filling a cavity) 19,28 € – 48,20 € 70% 5,78 € – 14,46 €
歯科根管充填(Root canal) 93,99 € 70% 28,20 €
口腔清掃(Teeth cleaning) 28,92 € 70% 8,68 €
医薬処方(Prescription Medicine) 様々 35 – 100% 様々
イブプロフェン30錠(200 mg) 2,51 € 60% 1,00 €

医療従事者[編集]

フランスの医師数は2007年には28万人ほどで、その約半数が総合診療医(GP)して就業している[6]。GPはたいてい自由診療も行っているが、医師の収入の大部分は公的保険基金によるものである。

医療機関[編集]

フランスの病院資源の62%は公設公営の病院である。それ以外は、非営利団体の病院(公的機関と連携しており、財団・宗教団体・保険組合などが所有)と、営利団体の病院が半々(18%)である[13]

救急医療[編集]

SAMU Logo
ポンタルリエの民間救急搬送

フランスの救急医療は様々な公的医療機関が関係するが、それらの指揮役を果たすのはService d'Aide Médicale Urgente(救急医療支援サービス、SAMU)である。SAMUの業務は以下となる。

  • 救急通報を受けつけ、患者のニーズを聞き出す
  • 患者ケアに最適なソリューションを決定する
  • 最も適切な移動型医療を手配する(MICU、救急車パラメディック
    • もしくは患者に対し適切な代替手法を支持する(プライマリケア外科、病院医療)
    • もしくは電話にて医療アドバイスを提供する

SAMUは積極的なトリアージを行っており、通報において実際に救急車が出動するケースは65%に過ぎない[16]。救急通報からの現地到着時間は、10分以内が80%、15分以内では95%であった[17]

医療の質[編集]

政府機関であるANAES(Agence Nationale d'Accréditation et d'Evaluation en Santé 、The National Agency for Accreditation and Health Care Evaluation)が診療ガイドライン勧告発行の責務を負っている。

脚注[編集]

  1. ^ OECD.StatExtracts, Health, Health Expenditure and Financing, Main Indicators, Health Expenditure since 2000 (Online Statistics)”. OECD's iLibrary (2013年). 2013年11月27日閲覧。
  2. ^ a b World Health Organization Assesses the World's Health Systems”. Who.int (2010年12月8日). 2012年1月6日閲覧。
  3. ^ The World Health Report 2000: WHO
  4. ^ OECD.StatExtracts, Health, Health Status, Life expectancy, Total population at birth, 2011 (Online Statistics)”. OECD's iLibrary (2013年). 2013年11月22日閲覧。
  5. ^ a b c d e f 2011~2012年 海外情勢報告 (Report). 厚生労働省. (2013-03). Chapt.3.2. http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/13/. 
  6. ^ a b c d e f g h i j k 医療制度の国際比較 (Report). 財務総合政策研究所. (2010-06-30). Chapt.2. http://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk087.htm. 
  7. ^ Figures from the year 2000)'
  8. ^ OECD. “OECD Health Data 2008: How Does Canada Compare (PDF)”. 2009年1月9日閲覧。
  9. ^ Updated statistics from a 2009 report (Report). OECD. http://www.oecd.org/document/46/0,3343,en_2649_34631_34971438_1_1_1_1,00.html 2012年1月6日閲覧。. 
  10. ^ Medical News Today”. Medical News Today. 2012年1月6日閲覧。
  11. ^ a b 主要諸外国における国と地方の財政役割の状況 (Report). 財務総合政策研究所. (2005-12). Chapt.7. http://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk079.htm. 
  12. ^ (PDF) France-prel.indd (Report). WHO. http://www.euro.who.int/document/e83126.pdf. 
  13. ^ a b c http://www.euro.who.int/document/e83126.pdf Health Care Systems in Transition – France: WHO
  14. ^ L'assurance maladie”. Ameli.fr. 2012年1月6日閲覧。
  15. ^ John S. Ambler, "The French Welfare State: surviving social and ideological change," New York University Press, 30 Sept 1993, ISBN 978-0-8147-0626-8
  16. ^ NIKKANEN H. E.; POUGES C.; JACOBS L. M. (1998). “Emergency medicine in France”. Annals of Emergency Medicine 31 (1): 116–120. doi:10.1016/S0196-0644(98)70293-8. PMID 9437354. http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=2115418. 
  17. ^ Dick WF (2003). “Anglo-American vs. Franco-German emergency medical services system”. Prehosp Disaster Med 18 (1): 29–35; discussion 35–7. PMID 14694898. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]