ハッカー文化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ハッカー文化(ハッカーぶんか)は、抽象的な文化である。かつてはアメリカで多く見られていたが、現在では世界中に広く見られる。技工系の文化であることが多いが、そうでないものも多い。よくコメディジョークなどからの引用が見られると言われることがあるが、それは一般の人についても同じである。その基本的な考えは、ちょっとした工夫をして、大きな発明をする、といったことである。よって、変更でき自由であること、を基本的な方針とするのである。データの破壊を行うクラッカーとは何の関係もない。

概略[編集]

ハッカーは、最小の努力で最大の効果を生み出そうとする人々のことである。たとえばコンピュータに没頭して熱心にプログラムを組む者などはハッカーと呼ばれる。技術力の高さは、ハッカーであることと無縁ではないが、そうでないことも多い。ちょっとした思い付きで課題や問題を解決することこそ、ハックと呼ばれることが多いからである。かつては技術的課題だけが対象だったが、差別や不公平の是正、平和の希求、環境問題への取り組みなどに対して、そのような表現を使うことも多い。それらの人々は、アメリカ国内のサブカルチャーへの興味が見られる一方、ある種独特の矜持・嗜好・ライフスタイルを伝統的に引き継いでいる。この文化形態の発生にはコンピュータが欠かせないこともあり、その遷移はしばしばコンピュータ史と不可分である。

電子・情報処理技術に傾倒するHackerのほかに、工学技術でも電子・電気工作に傾倒する向きをGeekギーク)と呼ぶが、これらもいわゆるHackerの一員と見なされる。

現在、世界的に多く自由ソフトウェアが流通しており、ライセンスを守る限り、それに対してハックを加えることは合法である。かつては流通の多くがハックを加えることが許されない不自由なソフトウェアであったが、例えそれがハックできる自由ソフトウェアであったとしても、非難される傾向はあった。不自由なソフトウエアの製造元とは、利害が相反したからである。また、いわゆるクラッカーと誤認させて犯罪者呼ばわりするケースもあった。未だにハッカーをクラッカーであるかのように表明するものがあるが、これは大昔の習慣から抜け出せないという問題であり、ハッカーとは何の関係もない。

特徴と傾向[編集]

ハッカー文化の最も特徴的な一端は、非常に直感的であることをよしとする部分である。例えば同じ動作をするプログラムを作るにしても、直感的に・感性でプログラムを興し、それを元に発展させていく。今日の大規模なプログラム開発では、このような手法は共同作業する同僚や、後々メンテナンスする他人に、余計な労力を強いることにも繋がるため、一般には非能率的であると推奨されない方法論ではあるが、個人的な興味で一人、または同好の士が少人数にてプログラムを製作する際に驚異的な能率を発揮する。

この過程を経て、直感(程度によっては霊感と形容してもよい)的で優秀なハッカーは神格化され、そのライフスタイルは触発された他のハッカーに伝染する。詰まる所強烈な個性に起因する優秀なハッカーのライフスタイルは、1960年代ヒッピー文化の影響や1970年代のテレビのシリーズドラマによって顕著な方向付けが成されていることも多く、時に非常にマイナーな文化が異常に盛り上がりを見せることもある。

その一方で、ハッカー文化の根底には、親切で大らかな博愛精神が脈々と息づいており、時に宗教的ですらある。その原因は、他人に影響を与え得るハッカーの多くが、その実において人間的にも親しみやすく、技術を独占するよりも広く共有して、皆で大いに楽しみたいとする奔放さを持っていることにあると思われる。

往々にして意固地で他人の知識を吸収しても他人には与えたがらない種類な人間のライフスタイルは、他人の嗜好の問題から単純に広まり難いだけではなく、そのような人間の周りには人も金も知恵も集まらずに素通りしてしまうために能力的上限が発生して、あまり注目されない結果に陥る可能性も考えられ、結果として選択的に博愛精神が培われたと思われる。

おおらかな奔放さが、逆に問題を起こす傾向を含むのも否定しきれず、実際問題としては、社会的道義を逸脱して自己の知識欲を追求した結果、公共のコンピュータシステムにダメージを与えてしまったり、セキュリティ上の欠陥を証明して見せるために、企業サーバ内の非公開情報を公開してしまい、企業と係争関係に陥るハッカーも居る。2001年には米国内でも著名な放浪ハッカーであるエイドリアン・ラモが、複数企業のWebサーバに侵入、その問題点と改善方法を企業側に提供するという事件を起こした。同事件に関して、一部のネット関連企業は感謝の意思すら表明したほどだが、ニューヨーク・タイムス・デジタル社が、自社社員やコラムニストの個人情報にアクセス可能な部分にまで侵入していたことで訴え出て、FBIから逮捕状が出される事態となった。後にラモは保釈金を支払って保釈されている。

日本では、サイバー・ノーガード戦法と揶揄されるに至ったコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の個人情報漏洩事件において漏洩状況をカンファレンス上で実データを公開してしまった研究者や、ファイル交換ソフトウェアWinnyを制作・配付した作者が著作権侵害幇助に問われたことから技術手法の開拓と司法上の責任に関して議論となり、通信・情報処理技術者などを巻き込んで検察側と全面対立、また同ソフトウェアのネットワークに依存するマルウェアワームプログラムの一種・Antinny参照)の蔓延に伴う個人情報漏洩事件の多発で社会問題化したケースが知られている。

類型[編集]

一般にハッカーと広く目される人には、一定の顕著な共通点が見出される。

趣味[編集]

気分転換に思い切った活動をする優れたハッカーも多く、そのライフスタイルは多くのハッカーに感銘を与えている。旅行買い物スキー水泳ジョギング料理サイクリング・家の修理(ペンキ塗りなど)・庭弄りといった素朴な気分転換を好むハッカーは多い。

社会性[編集]

世界的に様々な趣味嗜好に関するコンベンションが開催されているが、これらコンベンションへの参加は、ハッカーに重要視されるイベントである。中にはこのコンベンションに参加するためだけに、大陸横断ヒッチハイクを行うものもある程で、このコンベンション好き気質は、アメリカ以外のハッカー文化にも顕著に見られる(日本国内も同様である)。これらコンベンションでは、非常に多岐に渡る交流が行われ、この際に取り交わされた口約束から、ハイテク関連企業が勃興することも珍しくはない。

関連文化[編集]

  • ヒッピー - 1970年代から1980年代に掛けて活躍し、現在では指導的立場に居るグルウィザードの敬称をもって語られるハッカーには、当時大学において盛んに持て囃されたヒッピー文化の影響を色濃く受けた者も少なくない。
  • モンティパイソン - モンティパイソンのコメディを引用した技術用語としてspamが広く使われるなど、ハッカー文化や情報処理技術の発展に、少なからぬ影響を与えている。またプログラム言語のPythonは、このコメディグループ名から来ている。

関連文書[編集]

1970年代初期に生まれたジャーゴンファイルは、変遷するハッカー文化の中で特別な役割を果たしてきた。また、多くの教本・文学作品が学術的ハッカー文化を形作ってきた。その中でも影響の大きかったものを以下に挙げる。

脚注[編集]


関連項目[編集]