エキスパンダーサイクル

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エキスパンダーサイクルの模式図。ノズルと燃焼室から熱を受け取った推進剤でターボポンプを駆動する。

エキスパンダーサイクルとは二液推進系ロケットエンジンの動作サイクルの1つである。

特徴[編集]

燃焼前の推進剤を高温の燃焼室やノズルの周囲へ巡らし、熱交換でエネルギーを受け取った後のガス化した推進剤でターボポンプを駆動する。ターボポンプを駆動した後の推進剤は主燃焼室に送られて燃焼される。 この方法を採用することによりプラット&ホイットニーRL-10エンジンは自力で始動する能力を有する。始動時の出力でターボポンプが駆動され、燃料と酸化剤はポンプによって昇圧されエンジンの燃焼室へ送られる。タービン駆動後の燃料は酸化剤と共に燃焼室に噴射され燃焼することによって推力を生み出す。

液体から気体への相変化を必要とするため、エキスパンダーサイクルでの推力は2乗3乗の法則による制限を受ける。推力を増すためのベル型ノズルを大型化すると(燃料を膨張させるためにそこから熱を抽出することが出来る)ノズルの表面積は直径の二乗に比例して増える。しかしながら加熱しなければならない燃料の体積は三乗に比例する。そのためエンジンの最大の推力規模は約300kNでこれ以上ノズルの開口部を増やしても燃料ポンプのタービンを駆動するために十分に燃料を加熱することが出来ない。一部の燃料をタービンや燃焼室の冷却から迂回させて直接主燃焼室に噴射するバイパスエキスパンダーサイクルを使用すればより高推力が得られる。リニアエアロスパイクエンジンでは直線状のエンジンの形状により2乗3乗の法則が適用されず、同様の限界を避ける。エンジンの幅が増えると、加熱するべき燃料の体積と受け取れる熱エネルギーも比例して増えるので任意の規模のエンジンを造ることが出来る。全てのエキスパンダーサイクルのエンジンは液体水素や液化メタンや液化プロパンのように沸点の低い容易に気化する低温燃料英語版の使用が必要とされる。

いくつかのエキスパンダーサイクルのエンジンではタービンの始動と燃焼室やノズルスカートからの熱が上昇するまでにガス発生器英語版を使用する場合がある。

オープンサイクル又はブリードエキスパンダーサイクルでは一部の燃料のみ加熱されタービンの駆動に用いられタービン効率を高めるために大気中に放出される。これによって出力は上昇するが放出される燃料によって推進剤の効率は下がる(エンジンの比推力は低下する)。クローズドサイクルエキスパンダーエンジンはタービンの排気を燃焼室に送る(右の模式図を参照)。

代表的なエキスパンダーサイクルのロケットエンジンとしてはPratt & Whitney RL-10RL-60[1]アリアン5の上段用に開発されているVinci[1]があげられる。

利点[編集]

エキスパンダーサイクルには他の種類と比べていくつかの利点がある。

  • プレバーナーやガス発生器で生じさせた燃焼ガスに比べて燃焼室やノズルの再生冷却に使用した低温のガスでターボポンプを駆動する。低温で動作するのでタービンへの損傷が少ない。そのため、エンジンの再使用が可能である。ガス発生器サイクルや二段燃焼サイクルのエンジンのターボポンプに使用されるタービンは高温で駆動する。二段燃焼サイクルを採用したSSMEの場合、飛行ごとにターボポンプを交換している。
  • 動作に対する許容範囲が広い。RL-10エンジンの開発時に断熱材を燃料タンク内に置き忘れた時があったが問題なかった。他の動作形式であれば重大な損傷を与えていたと予想される。他の種類のエンジンであればガス発生器の一部でも詰まるとホットスポットを誘発しエンジンに悪影響を与える。ノズルスカートをガス発生器として使用する場合でも同様に幅広い燃料流路が使用されているので燃料に含まれる不純物による許容範囲が広い。
  • 安全性が高い。ベルノズルを用いたエキスパンダーサイクルのエンジンでは、高温部の壁面を通じてターボポンプの駆動ガスに与えられるエネルギーには限界があり、それゆえ推力が制限される。他の形式であればより複雑な機構で推力を制御しており、制御が利かなくなる場合がある。他の種類のエンジンでは制御不能な事態を防ぐために複雑な機械的または電気的な制御装置を必要とする。エキスパンダーサイクルは誤作動を予め設計段階で防ぐことが可能である。

エキスパンダーブリードサイクル[編集]

日本の液体酸素/液体水素上段エンジンであるLE-5A/LE-5Bではエキスパンダーサイクルの前半のみを使用するサイクル、すなわち駆動用と燃焼用に燃料を分け、ポンプで加圧された燃料の多くを直接燃焼室に送り、熱交換後ターボポンプを駆動した部分の水素ガスはノズル内に捨て燃焼には用いないという開いたエキスパンダーサイクル、エキスパンダーブリードサイクルを採用している。エキスパンダーブリードサイクルでは、燃焼圧を上げることが難しいエキスパンダーサイクルの欠点がいくらか軽減され、推力の向上が比較的容易となっている。背圧を減らすことによってターボポンプの高出力化が可能となる。通常のエキスパンダーサイクルと比較して高推力を得られる反面、燃焼せずに無駄に放出される燃料のため、本質的に効率は下がるが、日本のLE-5Bのように幾つかの事例においてはタービンポンプ駆動後の燃料を捨てることを考慮しても燃焼圧向上による効率向上の効果は大きく、エキスパンダーブリードサイクルの効率はエキスパンダーサイクルのそれを上回る[2]。ただし、ターボポンプを駆動する水素ガスの温度上昇を熱交換のみに頼っているために他のサイクルと比較して大推力エンジンに適さないのはエキスパンダーサイクルと同様である。

用途[編集]

エキスパンダーサイクルのエンジン
エキスパンダーサイクルエンジンの用途
エキスパンダーブリードサイクルのエンジン
エキスパンダーブリードサイクルエンジンの用途

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Pratt & Whitney Space Propulsion – RL60 fact sheet”. 2008年12月28日閲覧。

リンク[編集]