NK-33

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Aerojet AJ26 in the Stennis E-1 Test Stand.jpg
ジョン・C・ステニス宇宙センターの試験装置での
NK-33改めエアロジェット AJ26
NK-33
用途: 1段 複数エンジン
推進剤: RP-1/液体酸素
開発年: 1970年代
サイクル: 二段燃焼サイクル
大きさ
全高 3.7 m (12 ft)
直径 2 m (6 ft 7 in)
乾燥重量 1,235 kg (2,720 lb)
推力重量比 137
性能
海面高度での比推力 297秒
真空中での比推力 331秒
海面高度での推力 1505kN
真空中での推力 1753.8kN
燃焼室圧力 145bar
設計者
製造会社: クーイブィシェフ・エンジン工場
推進技術者: ニコライ・クズネツォフ
設計チーム: ニコライ・クズネツォフ
NK-33-1(ノズルを伸展した状態のNK-33)の模型
ジョン・C・ステニス宇宙センターへ運ばれるエアロジェット AJ26ロケットエンジン

NK-33NK-43は1960年代末から1970年代初頭にかけてソビエト連邦のクーイブィシェフ・エンジン工場(現在のN・D・クズネツォフ記念サマーラ科学技術複合)によって開発、生産された二段燃焼サイクルロケットエンジンである。米国に次いで、旧ソ連の有人月旅行計画を目的とするN-1Fロケット(まだ米国と月一番乗りの座を争っていた頃の主力想定機N-1ロケットの改良型)に搭載する為に開発された。NK-33エンジンは地上から発射されるロケットエンジンの中で推力重量比と比推力が最高水準に達した。NK-33はこれまでに開発された推進剤がケロシン/液体酸素のロケットエンジンの中で最も高性能である[1]。西側に比べてコンピューターによる設計や解析が遅れていた1960年代のソビエト連邦で既にこの水準の先進的なエンジンが開発されていた事は特筆に価する。

NK-43はNK-33と似ているが1段目用ではなく上段用に設計された。気圧の低い高高度または真空中での使用に適した膨張比の高い長いノズルを備える。これにより高い推力と比推力が得られるが長く重くなった。 2010年にオービタル・サイエンシズ社のトーラスIIロケット(後にアンタレスに改名)に使用されるために保管されていたNK-33の試験が成功[2]し、2013年4月に打ち上げられたアンタレスロケットの1段で、初めて打ち上げに使われた。

技術[編集]

NK-33と-43は初期のNK-15とNK-15Vエンジンの改良型である。エンジンは高圧で再生冷却式の二液推進系二段燃焼サイクルである。予備燃焼器からの酸素が多い燃焼ガスでターボポンプを駆動する。この種の燃焼サイクルは高温、酸素過多の排気によって酸化性の高いガスが循環するのでエンジンを構成する金属部材に損傷を与え焼損に至る為、滅多に使用されない[3]

開発過程では酸素が多く含まれる燃焼ガスにより焼損が多発した。米国では現在でもまだ酸素リッチエンジンの実用機の開発には成功していない。しかしながらソビエト連邦では冶金学によって実用化した。ノズルはひだの付いた金属で構成されており外側と内側の部材をロウ付けによって接合されており、単純で軽量だが強固にできている。(チャンネルウォールノズル)さらにNK-33は一軸で連結されたタービンで密度の近いケロシン液体酸素の両方のターボポンプを駆動する事により、並外れて軽量化されている。真空中での推力重量比は競合するいかなるエンジンよりも高い136.66:1である[4]。より長く重いノズルのNK-43の真空中での推力重量比は約120:1である[5]。 酸素リッチ技術はRD-170/-171と派生系であるRD-180RD-191に引き継がれた。しかし、これらのエンジンはいずれも(ソユーズRD-107と同様に)複数の燃焼室とノズルを持っており、それが原因で推力重量比はNKエンジンに劣るものとなっている。

歴史[編集]

当初N-1ロケットの開発を率いていたセルゲイ・コロリョフはソビエトの液体燃料ロケットエンジンの大半の設計を担当していたヴァレンティン・グルシュコ比推力の優れたケロシン/液体酸素液体燃料ロケットエンジンの開発を打診したがグルシュコはICBMに用いられていたのと同種の有毒で比推力は低いが常温で保存可能な自己着火性推進剤(ハイパーゴリック推進剤)を使用したエンジンの開発を主張した。両者の主張は平行線を辿り、やがて決裂した。その為、やむなくコロリョフはロケットエンジンでの開発実績は乏しいが航空機用ジェットエンジンの開発で実績のあったニコライ・クズネツォフにケロシン/液体酸素を推進剤とする新型のロケットエンジンの開発を打診した。 N-1ロケットの原型ではNK-15を第1段に、第2段には高高度用に改良したNK-15Vを搭載する予定だった。しかし、連続して4回打ち上げに失敗したので計画は中止された。ロケットが改良、再設計されている間にクズネツォフはNK-33、NK-43のそれぞれの向上に貢献した。第二世代のロケットはN-1Fと呼ばれた。この時点で月への競争は大きく出遅れソビエトの宇宙計画はエネルギアを将来の重量物打ち上げ機として採用した。N-1Fが発射台に載る事は無かった。

N-1計画が中止された当時、全て破壊するように命じられた。エンジンはそれぞれ数百万ドルするので倉庫に保管された。エンジンの噂はアメリカに広がった。組み立てられてから30年近く後にロケット技術者が倉庫を訪れた。後にそれらのエンジンはアメリカへ運ばれ試験装置でエンジンの詳細な仕様が調べられた。

残りのNK-33をどうするかしばしば問題になった。それらのエンジンの先進的な設計は現在でも十分競争力を保持していた。1990年代半ばの時点においておよそ150基のエンジンが残存しており、ロシアは36基のエンジンをエアロジェット社にそれぞれ110万ドルで売却した。この会社は新しいエンジンを製造する権利も買収した。エアロジェット社はNK-33とNK-43をそれぞれAJ26-58AJ26-59に改名した。AJ26は、米国での商業打ち上げ用に米国製の電子機器を追加して改良(ジンバル機構の追加、信頼性向上、計測機器の近代化、米国の推進薬への適合性確認などを実施)したタイプであり、アンタレスロケットで使用したエンジンはAJ26-62となった[6][7]

2006年8月にNASAの国際宇宙ステーション (ISS) への商業軌道輸送サービス (COTS) の候補として選定されたロケットプレーン・キスラー社 (RpK) のK-1ロケットでは、1段目と2段目にそれぞれ3基のNK-33と1基のNK-43を搭載する計画が建てられた[8][9][10]。しかし、2007年9月NASAはRpKがいくつかの契約のマイルストーンを満たしていなかった事によりCOTSの合意を白紙撤回するとした[11]。同社は2010年7月にChapter 7の適用を受け倒産、K-1ロケットが実現することはなかった[12]。残されたエンジンはオービタル・サイエンシズ社に買い取られ、アンタレスロケットの一段目に2基が使用されることとなった。

また、日本のGXロケットの初期案でも、保管されているNK-33をロシアから買い付けて使用する案があったが、RpK社に売買契約を先に結ばれてしまったため断念した。

ソユーズロケットでもNK-33を使用する計画が進められ、ソユーズロケットの中央のRD-108を1基のNK-33または5基のNK-33によってRD-108と4基のブースターRD-107を置き換える事により、より軽量で高効率になり積載量が増える。類似の設計と余剰品の使用によってコストを削減できる。このNK-33 1基を使うタイプはソユーズ2-1vと呼ばれており、2013年12月28日に初打ち上げに成功した。

ロケット[編集]

オービタル・サイエンシズが開発したアンタレスロケットでは、2基のNK-33 (AJ26-62) を第一段に使用し2段目に固体ロケットを使用している[13][2]。アンタレスロケットは、2013年4月に初打ち上げに成功した。

RSC エネルギアは'オーロラ-L.SK'ロケットにNK-33を第一段にブロック DM-SLを第二段に検討中である[14]TsSKB-プログレスも同様にNK-33をソユーズ-1と呼ばれる現在開発中の軽量型のソユーズ2ロケットの主エンジンとして計画している[15]

脚注[編集]

  1. ^ NK-33 and NK-43 Rocket Engines”. 2010年3月18日閲覧。
  2. ^ a b Clark, Stephen (2010年3月15日). “Aerojet confirms Russian engine is ready for duty”. Spaceflight Now. http://spaceflightnow.com/news/n1003/15nk33/ 2010年3月18日閲覧。 
  3. ^ 実用化されたのは事実上、旧ソビエトとロシア、ウクライナのみである。
  4. ^ Astronautix NK-33 entry
  5. ^ Astronautix NK-43 entry
  6. ^ “Aerojets AJ26 Engines Ignite Successful Antares(TM) Stage Test Hot Fire”. Aerojet社. (2013年2月22日). http://www.aerojet.com/news2.php?action=fullnews&id=356 2013年5月2日閲覧。 
  7. ^ “Antares rocket engines lean on Russian moon legacy”. Spaceflightnow.com. (2013年4月16日). http://spaceflightnow.com/antares/demo/130416aj26/ 2013年5月2日閲覧。 
  8. ^ NASA selects crew, cargo launch partners”. Spaceflight Now (2006年8月18日). 2010年3月18日閲覧。
  9. ^ NASA Selects Crew and Cargo Transportation to Orbit Partners”. SpaceRef (2006年8月18日). 2010年3月18日閲覧。
  10. ^ Alan Boyle (2006年8月18日). “SpaceX, Rocketplane win spaceship contest”. MSNBC. http://www.msnbc.msn.com/id/14411983/ 2010年3月18日閲覧。 
  11. ^ “RpK's COTS Contract Terminated” (プレスリリース), Aviation Week, (2007年9月10日), http://www.aviationweek.com/aw/generic/story.jsp?id=news/rocketplane091007.xml&headline=RpK's%20COTS%20Contract%20Terminated%20&channel=space 2007年9月10日閲覧。 
  12. ^ Farewell, Rocketplane, NewSpace Journal, 7 July 2010, accessed 2010-07-13
  13. ^ Taurus II”. Orbital. 2010年3月18日閲覧。
  14. ^ S.P.Korolev RSC Energia - LAUNCHERS”. Energia. 2010年3月18日閲覧。
  15. ^ Zak, Anatoly. “The Soyuz-1 rocket”. Russian Space Web. 2010年3月7日閲覧。

外部リンク[編集]