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== 核変換技術(消滅処理) ==
== 核変換技術(消滅処理) ==
長寿命の放射性核種を核変換によって短寿命核種あるいは安定核種に変えてしまう技術を'''核変換技術'''(transmutation)と呼ぶ<ref>[[#小無(1992)|小無(1992)]] p.1</ref>(かつては'''消滅処理'''と呼ばれていた<ref>[http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=05-01-04-02 ATOMICA:消滅処理] 『(4)消滅処理から核変換処理への用語変更の経緯』 参照</ref>)。
長寿命の放射性核種を核変換によって短寿命核種あるいは安定核種に変えてしまう技術を'''核変換技術'''(nuclear transmutation)と呼ぶ<ref>[[#小無(1992)|小無(1992)]] p.1</ref>(かつては'''消滅処理'''と呼ばれていた<ref>[http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=05-01-04-02 ATOMICA:消滅処理] 『(4)消滅処理から核変換処理への用語変更の経緯』 参照</ref>)。
その具体的方法としては、[[中性子]]による(n, γ)、(n, 2n)反応を利用してより短寿命の核種に変換させるいわゆる中性子燃焼法が代表的であり<ref>[[#道家(1975)|道家(1975)]] p.1</ref>、1964年に[[ブルックヘブン国立研究所]](BNL)のM.Steinbergらのグループによって、中性子源として原子炉を利用する形で提案されたものが核変換技術の最初である<ref>[[#道家(1974)|道家(1974)]] p.557</ref>。
その具体的方法としては、[[中性子]]による(n, γ)、(n, 2n)反応を利用してより短寿命の核種に変換させるいわゆる中性子燃焼法が代表的であり<ref>[[#道家(1975)|道家(1975)]] p.1</ref>、1964年に[[ブルックヘブン国立研究所]](BNL)のM.Steinbergらのグループによって、中性子源として原子炉を利用する形で提案されたものが核変換技術の最初である<ref>[[#道家(1974)|道家(1974)]] p.557</ref>。


この軽水炉を用いる方法では、放射性廃棄物は主に熱中性子の捕獲反応((n, γ)反応)によって核変換される<ref>[[#道家(1974)|道家(1974)]] p.4</ref>。しかしながら、核分裂生成物の熱中性子に対する捕獲断面積は小さいため、核変換を効率良く行わせるためには、熱中性子の照射対象をできるだけ核変換処理の対象の核種(<sup>85</sup>Kr , <sup>90</sup>Sr , <sup>137</sup>Csなど)に絞る、すなわち[[群分離]]<ref>問題となる核種を半減期や化学的(chemical)な性質に応じたグループに分離することを[[群分離]]と呼ぶ。[[#中村(1979)|中村(1979)]] p.1</ref>をする必要がある。
なお、核変換技術での中性子源としては、[[加速器]]または[[高速増殖炉]]といった高速中性子を用いる原子炉がある<ref>熱中性子にまで減速される軽水炉では、その中性子の出力に限度がある。</ref>。


[[原子炉]]の[[使用済み核燃料]]からなる高レベル放射性廃棄物は様々な核種を含んでいる。その一部の核種は寿命が大変永く分離変換技術を行わない場合、天然[[ウラン]]レベルの放射能まで減衰するのには数万年のオーダーの時間がかかる。それに対し、[[プルサーマル]]や核燃料サイクル行なった上で、[[群分離]]を行い[[マイナーアクチノイド]]や長寿命[[核分裂生成物]]を核変換することにより数百年のオーダーにし、処分面積を大幅に抑えることが出来ると考えて開発が進められている。
[[原子炉]]の[[使用済み核燃料]]からなる高レベル放射性廃棄物は様々な核種を含んでいる。その一部の核種は寿命が大変永く分離変換技術を行わない場合、天然[[ウラン]]レベルの放射能まで減衰するのには数万年のオーダーの時間がかかる。それに対し、[[プルサーマル]]や核燃料サイクル行なった上で、[[群分離]]を行い[[マイナーアクチノイド]]や長寿命[[核分裂生成物]]を核変換することにより数百年のオーダーにし、処分面積を大幅に抑えることが出来ると考えて開発が進められている。
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* {{citation | author=道家 忠義 | year=1974 | title= 放射性廃棄物の消滅処理 | url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesj1959/16/11/16_11_557/_article/-char/ja/ | journal=日本原子力学会誌 | ref=道家(1974) }}
* {{citation | author=道家 忠義 | year=1974 | title= 放射性廃棄物の消滅処理 | url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesj1959/16/11/16_11_557/_article/-char/ja/ | journal=日本原子力学会誌 | ref=道家(1974) }}
* {{citation | author=道家 忠義 | year=1975 | title= 加速器による核分裂生成物の消滅処理 | ref=道家(1975) }}(<small>{{cite book | 和書 | editor=原子力安全問題研究会(編) | title=原子力発電の安全性 | publisher=岩波書店 | year=1975 | ref=安全性 }}</small>)
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* {{citation | author=中村 治人 | year=1979 | title=再処理高レベル廃液の群分離 | url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesj1959/21/4/21_4_293/_article/-char/ja/ | journal=日本原子力学会誌 | ref=中村(1979) }}
* {{citation | author=梅澤 弘一 | year=1989 | title=「OMEGA計画」の概要 新たな可能性を目指す群分離・消滅処理の研究開発 | url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesj1959/31/12/31_12_1317/_article/-char/ja/ | journal=日本原子力学会誌 | ref=梅澤(1989) }}
* {{citation | author=梅澤 弘一 | year=1989 | title=「OMEGA計画」の概要 新たな可能性を目指す群分離・消滅処理の研究開発 | url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesj1959/31/12/31_12_1317/_article/-char/ja/ | journal=日本原子力学会誌 | ref=梅澤(1989) }}
== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

2014年12月19日 (金) 15:53時点における版

原子核変換(げんしかくへんかん、: nuclear transmutation)または核変換とは、原子の原子核に他の核子を高速で衝突させたりするなどして、異なる核種に変換させることを言う[1]

核変換技術(消滅処理)

長寿命の放射性核種を核変換によって短寿命核種あるいは安定核種に変えてしまう技術を核変換技術(nuclear transmutation)と呼ぶ[2](かつては消滅処理と呼ばれていた[3])。 その具体的方法としては、中性子による(n, γ)、(n, 2n)反応を利用してより短寿命の核種に変換させるいわゆる中性子燃焼法が代表的であり[4]、1964年にブルックヘブン国立研究所(BNL)のM.Steinbergらのグループによって、中性子源として原子炉を利用する形で提案されたものが核変換技術の最初である[5]

この軽水炉を用いる方法では、放射性廃棄物は主に熱中性子の捕獲反応((n, γ)反応)によって核変換される[6]。しかしながら、核分裂生成物の熱中性子に対する捕獲断面積は小さいため、核変換を効率良く行わせるためには、熱中性子の照射対象をできるだけ核変換処理の対象の核種(85Kr , 90Sr , 137Csなど)に絞る、すなわち群分離[7]をする必要がある。

原子炉使用済み核燃料からなる高レベル放射性廃棄物は様々な核種を含んでいる。その一部の核種は寿命が大変永く分離変換技術を行わない場合、天然ウランレベルの放射能まで減衰するのには数万年のオーダーの時間がかかる。それに対し、プルサーマルや核燃料サイクル行なった上で、群分離を行いマイナーアクチノイドや長寿命核分裂生成物を核変換することにより数百年のオーダーにし、処分面積を大幅に抑えることが出来ると考えて開発が進められている。

マイナーアクチノイドは高速炉では直接核分裂が可能であるが、熱中性子炉の場合中性子を捕獲させ核分裂性物質にする必要があり、発電炉の場合炉の設計、特に安全特性に影響を及ぼすため燃料として使えなかった。これに対し、高速増殖炉核燃料サイクルの中で処理する方法や、加速器駆動未臨界炉や専焼高速炉による階層処理が考えられている。

2014年3月、三菱重工業は、パラジウム酸化カルシウムからなる多層膜に金属元素を付着させ、この膜に重水素を透過させる手法によってマイクログラム単位の元素変換を確認できたと報告した。セシウム原子番号55)はプラセオジム(原子番号59)に、ストロンチウム(原子番号38)はモリブデン(原子番号42)に、カルシウム(原子番号20)はチタン(原子番号22)に、タングステン(原子番号74)は白金(原子番号78)になるなど、原子番号が2または4または6大きい元素に変わったという[8][9]

変換施設

文部科学省は2014年度(平成26年度)からJ-PARCに核変換実験施設[10]を建設し、高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性物質半減期を短縮し、減量化を目指している[11]。本格的実験施設は世界初とされる[12]

脚注

  1. ^ 元素変換英語: transmutation of elements ; transmutation)ともよばれることもある。
  2. ^ 小無(1992) p.1
  3. ^ ATOMICA:消滅処理 『(4)消滅処理から核変換処理への用語変更の経緯』 参照
  4. ^ 道家(1975) p.1
  5. ^ 道家(1974) p.557
  6. ^ 道家(1974) p.4
  7. ^ 問題となる核種を半減期や化学的(chemical)な性質に応じたグループに分離することを群分離と呼ぶ。中村(1979) p.1
  8. ^ 放射性廃棄物の無害化に道? 三菱重、実用研究へ”. 日本経済新聞 (2014年4月8日). 2014年6月2日閲覧。
  9. ^ 岩村康弘・伊藤岳彦・坂野 充・栗林志頭真. “三菱重工技報 重水素透過によるパラジウム多層膜上での元素変換の観測”. 三菱重工業株式会社. 2014年11月30日閲覧。
  10. ^ 核変換実験施設|J-PARC|大強度陽子加速器施設”. 2014年11月30日閲覧。
  11. ^ “【科学】高レベル廃棄物対策の切り札 放射能減らす「核変換」本格研究へ”. 産経新聞. (2014年1月20日). http://sankei.jp.msn.com/science/news/140120/scn14012009000004-n1.htm 2014年11月30日閲覧。 
  12. ^ 読売新聞2013年7月7日13S版2面

参考文献

関連項目

外部リンク