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地理的表示

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地理的表示(ちりてきひょうじ、: geographical indications、GI)は、ある商品の品質や評価が、その地理的原産地に由来する場合に、その商品の原産地を特定する表示である。条約や法令により、知的財産権のひとつとして保護される。

定義

世界貿易機関(WTO)の知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定、1995年発効)第22条1では、「地理的表示」を以下のように定義している。

この協定の適用上、「地理的表示」とは、ある商品に関し、その確立した品質、社会的評価その他の特性が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において、当該商品が加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするものであることを特定する表示をいう。

一方、世界知的所有権機関(WIPO)の工業所有権の保護に関するパリ条約は、原産地表示及び原産地名称を保護の対象に含めており、WIPOではこの両者を合わせて地理的表示と呼んでいる[1]。WIPOが管理する原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン協定(リスボン協定)第2条(1)では、原産地名称を以下のように定義している。

この協定において、「原産地名称」とは、ある国、地方又は土地の地理上の名称であって、その国、地方又は土地から生じる生産物を表示するために用いるものをいう。ただし、当該生産物の品質及び特徴が自然的要因及び人的要因を含む当該国、地方又は土地の環境に専ら又は本質的に由来する場合に限る。

すなわち、狭義の地理的表示や原産地名称は、ある地域の地名が商品の名称として用いられるものであって、その商品の品質や特性がその地域の環境に由来するものを指す。これに対して、広義の地理的表示や原産地表示は、ある地域の地名が商品の名称として用いられるもの全般を指す。

例えば、フランスのボルドーワインボルドー産)、イタリアゴルゴンゾーラチーズゴルゴンゾーラ産)、スイスエメンタールチーズエメンタール産)などが狭義の地理的表示にあたる。

保護制度

国際的保護制度

WTOのTRIPS協定では、地理的表示一般について保護の義務を定めるとともに(第22条)、ワイン(ぶどう酒)とスピリッツ(蒸留酒)についてはさらに追加的な保護を定めている(第23条)。

WIPOのリスボン協定は、原産地名称の国際登録制度について定めている。

各地域・国における保護制度

欧州各国は全般に地理的表示の保護に積極的であるが、アメリカ合衆国などのアメリカ大陸諸国は地理的表示の保護に対してあまり積極的ではない。これは、バドワイザーブドヴァルの裁判に代表されるように、アメリカ大陸では欧州の地名に由来する商品が多く製造・販売されているためである[要出典]

ウイスキーに関しては法律が制定されており、国内で消費されるアメリカン・ウイスキーカナディアン・ウイスキーは国内で特定の製法により製造されたものだけが名乗ることが出来る。

欧州

フランスアペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ(AOC)、イタリアデノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・プロテッタ(DOP)は、ワインチーズバターなどの農産品の地理的表示を保護するための国内制度であり、製造法や製造地域、特徴などが厳しく管理される。また、欧州連合(EU)では1992年に原産地名称保護制度を制定して、EU域内での地理的表示の権利保護を図っている。

中華人民共和国

新版中国地理表示(2019年10月16日使用開始)

中華人民共和国では地理的表示の主な認証機関として国家質量監督検査検疫総局が担当している。中国の地理的表示製品の保護は、1999年に国家質量技術監督局が公布した「原産地域製品保護規定」による保護制度から正式に始まった。2000年より紹興酒の事例より試行し、2001年より正式に施行。2005年には国家質量技術監督局は保護規定を新たに「地理表示製品保護条例」に改訂。旧規定での指定品も含め「地理表示製品(地理标志产品)」と明確に表示出来るようになった。

2011年5月の時点で、中国政府は地理的表示製品として1,192の製品を承認している[2]

日本

大きな日輪を背負った富士山と水面をモチーフに、日本国旗の日輪の色である赤や伝統・格式を感じる金色を使用し、日本らしさが表現されている。
特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)

2014年(平成26年)6月25日、地域で育まれた伝統と特性を有する農林水産物食品のうち、品質等の特性が産地と結び付いており、その結び付きを特定できるような名称(地理的表示)が付されているものについて、その地理的表示を知的財産として保護し、もって、生産業者の利益の増進と需要者の信頼の保護を図ることを目的として、「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(地理的表示法)が第186回国会で成立した[3][4]。2015年(平成27年)12月には、この法律に基づき、下記の7件が地理的表示として初めて登録された[5]

2022年3月2日時点で115産品(累計では116産品が登録されたが、1産品が登録削除となった。)が登録されている[5]2017年9月15日には、日本国外の産品で初めてプロシュット・ディ・パルマ(パルマハム)が登録された[6]。また、2021年3月12日に登録されたルックガン ライチは、農林水産省ベトナム知的財産庁との地理的表示に係る協力覚書に基づき、両国のGI産品を相互申請する試行的事業の結果として、ベトナムにおける鹿児島黒牛の登録と同時に登録されたものである[7]

酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(酒類の地理的表示)

酒類の地理的表示については、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の6第1項の規定に基づく、酒類の表示基準の一つとして酒類の地理的表示に関する表示基準が定められている。具体的には、酒類の地理的表示に関する表示基準を定める件(平成27年10月30日国税庁告示第19号)により定められている。

酒の地理的表示は、世界貿易機関(WTO)協定のTRIPS協定第23条によりぶどう酒と蒸留酒の地理的表示の保護が加盟国の義務とされたことから、1994年に国税庁が制度を制定し、2015年の見直しにおいてすべての酒類が制度の対象となって現在にいたっている[8]

保護の対象となる地理的表示は、国税庁長官が指定することになっており、現在「壱岐」、「球磨」等18の名称が指定[9]されている、酒の種類別内訳は、蒸留酒4、清酒11、ぶどう酒5、その他の酒類(梅酒)1となっている。なお「山梨」、「山形」、「長野」は清酒とぶどう酒の両方の名称とされているため内訳の合計が18となる。

また日本が締結している経済連携協定において、地理的表示を相互の保護する規定が設けられているものがある。具体的には、メキシコ、ペルー、チリ、EU、イギリスとの協定にその規定がある、特に日EU・EPAにおいては、日本側11、EU側145が対象となっている[8]

不正競争防止法

不正競争防止法においても、原産地等誤認惹起行為を禁止するなど、地理的表示の保護が図られている。

脚注

参考文献

  • 荒木雅也『地理的表示法制の研究』尚学社、2021年11月15日。ISBN 978-4860311704 

関連項目

外部リンク