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鉄道記念物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

鉄道記念物(てつどうきねんぶつ)は、日本国有鉄道(国鉄)が1958年(昭和33年)に制定した、日本鉄道に関する歴史的文化的に重要な事物等を指定して保存、継承するための制度、あるいはその制度により指定された事物等をいう。本項においては、1963年(昭和38年)に制定された、地方的に重要な事物等を指定する準鉄道記念物(じゅんてつどうきねんぶつ)についても記述する。

1987年(昭和62年)の国鉄分割民営化後は、既存の記念物がJR各社の管理に移されたものの長らく指定が行われなかったが、2004年(平成16年)に西日本旅客鉄道(JR西日本)が[1]、準鉄道記念物から鉄道記念物への格上げという形で、18年ぶり(鉄道記念物に限れば32年ぶり)に指定を実施した。2010年には、やはり準鉄道記念物からの格上げで北海道旅客鉄道(JR北海道)も指定をおこなった。

鉄道記念物

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鉄道記念物は、1958年10月に制定された「鉄道記念物等保護基準規程(国鉄総裁達第509号)」によって定められた基準に従い、国鉄総裁が指定するものとされていた。その基準は、

  1. 国鉄および国鉄以外の者の地上施設その他の建造物・車両・古文書などで、歴史的文化価値の高いもの。
  2. 国鉄及び国鉄以外の者の制服・作業用具・看板その他の物件で、諸制度の推移を理解するために欠くことのできないもの。
  3. 国鉄における諸施設の発祥となった地点、国鉄のある伝承地、鉄道の発達に貢献した故人の遺跡(墓碑を含む)などで歴史的価値のあるもの。

と定められている。

制度の性格上、指定された記念物は、滅失・毀損しないよう長く保存されるべきものであり、その管理・保守のために管理者、保守責任者、管理責任者が定められる。管理者は、記念物が滅失・毀損しないよう保護するための保存施設を設置し、保守責任者および管理責任者に管理させなければならない。もし記念物が滅失・毀損した場合は、管理者は記念物を原形に復旧するよう措置を講じなければならないし、保存施設が滅失・毀損した場合は、保守責任者、管理責任者はそれを修理・復旧しなければならない。

鉄道記念物は、1958年から原則として10月14日の鉄道記念日(現在の鉄道の日)に数件ずつが指定され、2018年までに44件の鉄道記念物が指定されている。

鉄道記念物一覧

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1号機関車
1853年(嘉永6年)に佐賀藩の田中久重らが製作した蒸気機関車の雛型
旧手宮機関庫
旧逢坂山ずい道東口
キハ6401(ホジ6014)号蒸気動車
伊予鉄道1号機関車
233号蒸気機関車
  • 2008年(平成20年)指定(JR西日本指定)

準鉄道記念物

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準鉄道記念物は、地方的にみて歴史的文化価値の高いもの(将来鉄道記念物になりうるもの)を支社において指定するもので、1963年に制定された。鉄道記念物に比べて、ローカル色が強いのが特徴であるが、管理者、保守責任者、管理責任者が置かれ、長く保存するための体制がしかれているのは、鉄道記念物と同様である。2012年までに59件が指定され、うち8件が後年、鉄道記念物に昇格している。

準鉄道記念物一覧

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しづか号機関車
  • 1963年(昭和38年)指定
    • しづか号機関車 - 所蔵:小樽市総合博物館(鉄道・科学・歴史館) - 2010年、鉄道記念物に昇格
    • い1号客車 - 所蔵:小樽市総合博物館(鉄道・科学・歴史館) - 2010年、鉄道記念物に昇格
    • 四ツ谷トンネル入口飾付兜 - 所蔵:鉄道博物館
    • 噴水小僧 - 所在:大阪駅?
    • 義経号機関車 - 所蔵:京都鉄道博物館 - 2004年、鉄道記念物に昇格[1]
    • 別子1号機関車 - 所蔵:新居浜市別子銅山記念館
  • 1964年(昭和39年)指定
    • 大勝号機関車 - 所蔵:小樽市総合博物館(鉄道・科学・歴史館) - 2010年、鉄道記念物に昇格
    • キ601号回転雪かき車 - 所蔵:小樽市総合博物館(鉄道・科学・歴史館)
北海道鉄道開通起点標
宇佐神宮境内の旧大分交通宇佐参宮線26号機関車
ED4010号機関車
C57139号機関車
D51488号機関車
EF551号機関車
クハ86形電車1号機

課題

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技術史家からは規定に「国鉄以外の者」とあるにもかかわらず、「指定対象が国鉄関係に偏重している」(私鉄によって開発された技術や制度が軽視されている)という批判が古くからあったが、国鉄が存在した時期は「国鉄によって制定された」ということから、やむを得ない面もあった[注釈 4]。その後国鉄の民営化によって記念物の扱いは長らく宙に浮いた状態となり、その動向が注目されていた。2004年にJR西日本が準鉄道記念物からの昇格という形で記念物の指定を行い[1]、制度を引き継ぐことを宣言した形になった。それ以降も、他のJR各社は新たな指定に同調していなかったが、JR北海道が2010年の「北海道の鉄道130周年」を機に、新たな指定を行った。しかし、他社が新規の指定を実施するのかは依然不透明である。

また、有害物質が含まれていることで除去費用を捻出できず、解体に至ったケースも存在する。

JR・私鉄を問わないすべての鉄道を対象とした顕彰制度に改める上では、今のところそれを統括して取り仕切る組織が存在しないという課題がある。

脚注

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注釈

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  1. ^ 1階商業施設「CIAL桜木町 ANNEX」内の「旧横濱鉄道歴史展示(通称・旧横ギャラリー)」
  2. ^ しなの鉄道軽井沢駅旧駅舎口として改札の機能も兼ね備わっている。車両は駅構内の信越本線時代の旧1番線に留置される形で保存。
  3. ^ 同じ橋梁の一部が博物館明治村にも保存されている。
  4. ^ 国鉄以外では東武鉄道に鉄道記念物制度が存在し、一部は東武博物館での一般閲覧・見学が可能。

出典

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  1. ^ a b c d e f g 「JR年表」『JR気動車客車編成表 '05年版』ジェー・アール・アール、2005年7月1日、187頁。ISBN 4-88283-126-0 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 交友社編集部 編『目で見てわかる鉄道常識事典』交友社、1966年、9頁。doi:10.11501/2509702 
  3. ^ 『京都鉄道博物館公式ガイドブック』 18ページ
  4. ^ 『京都鉄道博物館のすべて』 13ページ
  5. ^ 準鉄道記念物の新規指定について』(PDF)(プレスリリース)北海道旅客鉄道、2012年10月11日http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2012/121011-2.pdf2012年10月15日閲覧 
  6. ^ 「準鉄道記念物に「雨宮21号」」 『交通新聞』 2012年10月15日付け、3面。

参考文献

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  • 『京都鉄道博物館公式ガイドブック』(京都鉄道博物館)
  • 『京都鉄道博物館のすべて』(JTBパブリッシング) ISBN 978-4-533-11072-6

関連項目

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