硬膜外麻酔

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Epidural.JPG

硬膜外麻酔(こうまくがいますい、: epidural anesthesiaepidural)とは、局所麻酔の一つ。 硬膜外腔に局所麻酔薬やオピオイドを投与することにより、鎮痛を得るものである。単独あるいは脊髄くも膜下麻酔全身麻酔と併用される。手術中の鎮痛の他、カテーテルを留置して術後鎮痛に使用される。[1]

適応[編集]

全身と顔面を除くすべての手術および疼痛を取り除くために使われる。特に手術後や分娩中の疼痛に対してよく使われる。[2]

禁忌[1][編集]

絶対的禁忌[編集]

  • 患者の協力が得られない場合
  • 穿刺部位の皮膚に感染がある場合
  • 頭蓋内圧が亢進している場合

相対的禁忌[編集]

  • 感染症、敗血症がある場合
  • 出血や脱水で循環血液量が減少している場合
  • 出血傾向がある場合、あるいは抗凝固薬・抗血小板薬が投与されている場合: 血小板数が8万/mm3以上あれば穿刺可能であるが、5万~8万/mm3の時は十分な検討が必要である。5万/mm3以下では硬膜外麻酔を行わない。プロトロンビン時間はINRが1.5以下、活性化部分トロンボプラスチン時間は正常範囲内が穿刺可能の目安である。

部位[編集]

主に胸椎、腰椎でよく使われる。穿刺部はヤコビー線や第7頸椎を基準に決定する[2]

薬剤[編集]

方法[編集]

側臥位または座位で膝を抱きかかえて背中を丸めさせ、棘突起間を拡大させた状態にして穿刺を行う[2]。 硬膜外に局所麻酔薬を注入して薬の持続時間のみで終わる場合とカテーテルを入れて針を抜き持続的に局所麻酔薬を入れることが多い。

穿刺法[編集]

棘間の中心部から刺入する正中法と、正中より側方から刺入する傍正中法がある。

棘突起間のスペースの広い腰部などでは正中法が、スペースの狭い上胸部などでは傍正中法が用いられることが多い。[3]

正中法[編集]

穿刺部位を決定したら、左手の示指中指(もしくは示指母指)で棘上靭帯を固定する。その後、棘上靭帯上の中央で、棘間の中心に局所浸潤麻酔を行う。麻酔が効いてきたら右手で硬膜外針を把持し、硬膜外針のベーベルを患者の頭側に向け、皮膚にほぼ垂直に硬膜外針を刺入する。

傍正中法[編集]

高齢者、脊椎変形のある患者、胸椎中部での硬膜外麻酔を行う場合など、棘突起が重なり合い、正中からの硬膜外針の進行が困難な場合には良い適応である。目的の棘間の下部棘突起を確認し、棘突起の上部側方で、正中線の1~1.5cm側方を刺入点とする。脊柱管の中心に向け、やや頭側に針を進める。

硬膜外腔の確認法[編集]

いくつかあるが、代表的なのは抵抗消失法、懸滴法、触感法である。

  • 抵抗消失法:内筒を抜き生理食塩水を入れたシリンジに接続し、シリンジを押しながら針を進めると硬膜外腔に達した時に急に抵抗がなくなる。
  • 懸滴法:内筒を抜き針の接続部に水滴(生理食塩水または局所麻酔薬)をつけ、針を進めると、硬膜外腔に達した時に陰圧により水滴が引き込まれる。
  • 触感法: 針先が黄色靭帯を抜けて硬膜外腔に入った時の、貫通感を手に感じることで確認する方法。通常、抵抗消失法と併用される。[1]

テストドース[編集]

硬麻針から局所麻酔薬を注入する時、あるいはカテーテルを留置した後は、まず少量の局所麻酔薬を試験的に注入する。これにより、カテーテルがくも膜下腔、あるいは血管内に迷入していないか確認できる。注入前には吸引して脳脊髄液や血液の逆流がないことを確認する。テストドースには20万倍希釈アドレナリン入りの1.5~2%リドカイン、あるいはメピバカインを用いる。2分以内に心拍数が20bpm以上増加し、血圧が上昇すれば血管内留置を疑う。速やかに感覚および運動麻痺が出現したら、くも膜下腔への注入を疑う。[1]

合併症[編集]

血圧低下、頭痛、硬膜外出血、高位麻酔、腰痛、血管内注入、局所麻酔薬中毒、麻酔薬アレルギー

硬膜外術後鎮痛法[編集]

硬膜外術後鎮痛法は、硬膜外腔に挿入されたカテーテルから薬物を投与することによって、疼痛管理を行う方法である。

局所麻酔薬オピオイドを単独で用いることもできるが、併用することが一般的である。両者の混合投与は相乗的な鎮痛効果を発揮し、また副作用の発現を少なくすることも期待できる。

薬物の投与方法には持続注入法と間欠投与法があるが、これら2つを組み合わせて用いられることが多い。特に、患者自身が痛みに応じて自ら注入ポンプのボタンを押し、鎮痛薬を投与できる患者自己調節鎮痛法(PCA: patient-controlled analgesia)は、患者自身が積極的に疼痛対策に参加でき、鎮痛に対する満足度も高い。PCAポンプを硬膜外カテーテルに接続して、局所麻酔薬麻薬の投与を行うPCEA(patient-controlled epidural analgesia)も広く用いられ、術後疼痛管理やがん性疼痛管理に有用である。[3]

PCAの設定[編集]

  1. バックグラウンド投与:ベースとなる一定量の持続投与。
  2. ボーラス投与:患者が痛みを感じた時に、患者自身の判断でボタンを押して投与する。副作用発現の危険性を考慮して、投与量は少なめに設定されている。[3]

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d e 周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行
  2. ^ a b c d イヤーノート2015 メディックメディア発行 ISBN 978-4896325102
  3. ^ a b c 標準麻酔科学 第7版, 稲田 英一・森崎 浩・西脇 公俊(編集), 株式会社 医学書院(発行), 2018年3月1日発行

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]