チーズ牛丼 (ネットスラング)

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チー牛と呼ばれる画像

チーズ牛丼(チーズぎゅうどん)とは、いわゆる「オタク」「陰キャ」「ネクラ」と呼ばれる層に対して用いられるインターネットスラングである[1][2][3]。略称はチー牛(チーぎゅう)[2][4]

概要[編集]

自虐で使われることもあれば、侮辱的な意味合いで使われることもある[2]。自虐で使われた有名な例としては黄之鋒によるものがあり、彼の名を冠したチーズ牛丼が発売されたこともある(後述)。侮辱的な意味合いとして用いる場合は主に陰キャっぽい男性に対する揶揄として用いられるほか、同じような女性に対する揶揄として用いられる[5]

特徴[編集]

専門的なプロファイリングではないものの、次のような特徴を持つと言われている[3][6]

  • メガネ
  • 子供のような髪型
  • 覇気のない顔
  • 童顔
  • 精神的に幼稚
  • ネットでは元気
  • 現実では根暗

批判[編集]

拡散の発端となった掲示板の初期の書き込み(下記)で、就労移行支援を利用する人や発達障害者の顔の比喩としてイラストが掲載され[3]、チー牛という用語およびイラストが「よくいる少し気持ち悪いオタク、存在感のない陰キャのテンプレート」として用いられるようになった[7]。投稿者は「ザ・陰キャって顔」としており、チー牛の用法や意味もネガティブな意味が強いため、オタクに対するレッテル張りとしてルッキズムの観点からの批判がある[8]。また、発達障害者やアデノイド顔貌(下顎が後退し、歯や唇が突出した顔立ち)を侮蔑する文脈でも用いられており、差別用語であるという指摘もある[3][5][9]

経緯[編集]

発端[編集]

すき家のチーズ牛丼と温玉

チー牛と呼ばれるイラストは、もともと2008年に当時高校生であった「いびりょ」[10]が自分をモデルに描き、それを自身のブログに掲載したものであるとされる[11][12][3][13]

このイラストが作成されてからおよそ10年後の2018年7月19日、ネット掲示板「5ちゃんねる」の「なんでも実況J板」に立てられたスレッド「なんJ 昼のニート無職部 part3」にて「就労移行支援で面白かったのは利用者の若い男が皆同じ顔をしてた事」という本文と共に、「眼鏡をかけた表情の暗い青年が『三色チーズ牛丼[注 1]』を特盛かつ、温玉のトッピングを追加注文する」というイラストが添付された[9]

301 風吹けば名無し 2018/07/19(木) 17:11:15.64 ID:0V7RAyaFa

就労移行支援で面白かったのは利用者の若い男が皆同じ顔をしてた事

ザ・陰キャって顔

眼鏡

黒髪

子供のような髪型

覇気のない抜けた顔

(悪い意味で)童顔

大人なのに中学生のようで気味悪い

10人いたら8人がそんな顔

https://i.imgur.com/akAJmjk.jpg

人間顔で分かるんやなって — 拡散の発端となった書き込み

このコメントを書き込んだ人物は、同スレッド内において自身が就労移行支援を利用していたことを明かした上で、

346 風吹けば名無し 2018/07/19(木) 17:15:12.13 ID:0V7RAyaFa

就労移行支援は発達ガイジ[注 2]しか使えない場所だけど利用者は本当に皆こんな顔してた

若い男の8割はこれや

発達ガイジは見ただけじゃ分からないっていうけど

ぶっちゃけ差別だのなんだのうるさいから言う奴がいないだけで

分かるでこれ...

と言う発言も行っており、該当イラストは発達障害者の顔としても扱われるようになった[3]

拡散[編集]

上記の書き込みは同スレッド内で「こういう顔のやつおるよな」などと反響を呼び、他のスレッドや掲示板に派生していき、2019年4月には「とろ~り3種のチーズ牛丼とかいう陰キャ専用牛丼」というスレッドがまとめサイトに掲載され、広く拡散されていくとと共に煽りとして「チーズ牛丼」が用いられていった[1]。また、2019年6月にはチー牛のイラストが武士風、ヤンキー風、イケメン風にコラージュされてネタとして拡散されていることが確認され、コミックマーケット97においてはチー牛イラストのコスプレをした男性が確認された[16]

Twitter上で「チー牛」という単語は2019年に1日0~4件ほどツイートされる程度であったが、2020年にはTwitterにおいても「チーズ牛丼」が拡散されていき、同年の4月の中頃から「チーズ牛丼」に関して1日500~1000件ほどのツイートが見られ、「チー牛」に関しても100件以上のツイートが見られるようになった[16]。5月10日に「これで合計点が100点超えるとチー牛確定らしい」という診断テストの画像ツイートが4000件ほどリツイートされ、「チー牛」は急激に1600件ほどのツイートがなされた[16]。その翌日から「チー牛」は500~2000件ほどのツイート数で推移をし、6月4日には「友人が『おれがネットで一番チー牛だ』と言っていたので比較画像貼っておきます」というツイートが2万件以上リツイートされ、「チー牛」ツイートは1万件にまで到達した[16]

反応[編集]

牛丼チェーン店[編集]

  • 2020年6月にJ-CASTニュースが、すき家を運営するゼンショーHDに「ネット上で『これを食べている人は、こういう人だ』といった表現として、『チー牛』という言葉を多く見かけるが、認知しているか」と取材したところ、同社広報室から「『チー牛』という言葉については、認知しております。人気ナンバーワンのトッピング商品である『とろ~り3種のチーズ牛丼』ですが、幅広いお客様に今後とも継続してお召し上がりいただければと存じます。新メニューの『チーズ牛カルビ丼』が登場するので、ぜひお召し上がりください」との回答があった[1][注 3]
  • 吉野家が実施した社内アンケート「まかない調査」では、「生姜や七味以外で好きなトッピング」としてチーズが総合2位を獲得した。特に10代男女・20代女性からの支持が高かった[17]
  • 吉野家では2020年9月にアボガドチーズ牛丼、松屋では2022年5月にたっぷりチーズ牛めし、すき家も2020年から2022年にかけてチーズ牛カルビ丼以外にアラビアータチーズ牛丼、チーズ尽くしのガーリックトマト牛鍋、チーズ豆乳牛鍋、スパイシートマチ牛丼を発売した。

流行語[編集]

  • ガジェット通信の「ネット流行語 ・アニメ流行語大賞2020上半期」にノミネートされたが[18]、上位選出はならなかった[19]。Petrelが発表した2020年のインスタ流行語大賞では、チー牛は3位に選ばれた[20]。ITジャーナリストの井上トシユキは「好感度が上がって普通の会話に定着してきている」と分析した[21]。しかし、Twitterではそれなりにバズったものの(先述)、2020年12月から2021年1月のインスタグラムでのチー牛関連のハッシュタグの投稿はほとんどなく、インスタでは定着しなかったとの見方もある[22]

その他[編集]

  • 香港の民主化運動団体のリーダーだった黄之鋒は、「周庭の隣にいるチー牛」などと外見をネット上であげつらわれることが多かったが、黄はこれに積極的に反応。香港にオープンしたすき家を訪れ、チーズ牛丼を注文しようとしたものの、行列が長かったため断念したことをツイッターで報告した。すると、この反応を知った香港国内のとある飲食店が、彼の名を冠したチーズ牛丼「黄芝丼」(引用元ママ。「芝」と「之」は漢字が異なる)を販売。周によると「彼は楽しんでいるというか、あまり気にしていない」とのこと[4]
  • ゲームクリエイターの名越稔洋は、2020年7月28日に配信されたウェブ番組『セガなま~セガゲームクリエイター名越稔洋の生でカンパイ~』の中で、パズルゲーム「ぷよぷよ」のプレイヤーを指して「チーズ牛丼食ってそうな感じ」とコメントし、笑いを誘ったが、ゲーム実況者のもこうをはじめとしたぷよぷよプレイヤーから多数の批判が寄せられた[23] 。その後、SEGAのYouTube公式チャンネルは「不快に感じる部分があった」として当該回のアーカイブを削除し、29日に該当部分を削除したアーカイブを再度投稿した[24][25]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ すき家が提供している実際の商品名は「とろ~り3種のチーズ牛丼」[14]
  2. ^ 「ガイジ」とは障害児という意味[15]。なお、就労移行支援は、発達障害のない障害者でも利用できる。
  3. ^ 障害者情報検索サイトの障害者ドットコムは、J-CASTニュースの取材について「チー牛」が就労移行支援利用者や発達障害者の顔を揶揄したワードである情報を意図的に抜いていると指摘した。ここからは「執筆者の私見」と断ったうえで、「『就労移行支援の利用者を揶揄したものである』と書くと障害者差別に当たるとの批判を招きかねず、ややこしくなることを避けたかったのではないか」「厄介な事実は抜いて『冴えない男子を揶揄するミーム』に留めておきたかったのではないか」との見解を示している[3]。一方のゼンショーについても、「チー牛」がどのようなニュアンスで用いられているかまで把握していた可能性が高いと推測。下手に感想を述べると炎上するのは目に見えていたため、新商品に話題を逸らすしかなかったのではないかとの見解を示している[3]

出典[編集]

  1. ^ a b c あの「チー牛」について、すき家に聞いてみた ネットでなぜか流行語化”. J-CASTニュース (2020年6月18日). 2020年9月14日閲覧。
  2. ^ a b c “チー牛(ちーぎゅう)”. エキサイトニュース. (2020年7月18日). https://www.excite.co.jp/news/article/Numan_sYsn4/ 2020年10月28日閲覧。 
  3. ^ a b c d e f g h 「チー牛(チーズ牛丼顔)」と就労移行支援のいびつな関係 - 成年者向けコラム”. 障害者ドットコム. 株式会社エースタイル. 2020年11月24日閲覧。
  4. ^ a b 「周庭の隣にいるチー牛」と煽られた民主活動家・黄之鋒さん、公式チーズ牛丼が発売される”. ハフポスト (2020年9月2日). 2020年9月7日閲覧。
  5. ^ a b チー牛の意味とは?チー牛顔の特徴!元ネタは?陰キャ・イケメン?”. スピコミ. 株式会社UOCC (2020年8月8日). 2020年11月25日閲覧。
  6. ^ 日本から「チー牛」認定された香港民主化リーダー、器のデカさを見せつける”. まぐまぐニュース. まぐまぐ (2020年8月14日). 2020年9月14日閲覧。
  7. ^ セガ取締役「チーズ牛丼食ってそう」発言に見る、ゲーム業界に根強く残る「自虐性」”. 現代ビジネス. 講談社 (2020年8月20日). 2020年9月14日閲覧。
  8. ^ ネットスラングとルッキズム モバプリの知っ得![116]”. 琉球新報Style. 琉球新報 (2020年8月9日). 2020年9月14日閲覧。
  9. ^ a b 一般社会では使用厳禁!? ネットスラング「チー牛」流布の意外な弊害とは?”. Asagei Biz-アサ芸ビズ. 2020年11月24日閲覧。
  10. ^ いびりょ (@ibiryo_sun) - Twitter
  11. ^ @ibiryo_sun (2019年10月23日). "こういう事なんスわ…" (ツイート). Twitterより2020年9月27日閲覧
  12. ^ @ibiryo_sun (2019年8月2日). "描いたは描いたけど、当時20アクセスも満たないモテない高校生のブログの絵だぞ。理由など下らないし、そこから拾われる事など知った事じゃないよ。" (ツイート). Twitterより2020年9月27日閲覧
  13. ^ セガ取締役「チーズ牛丼食ってそう」発言に見る、ゲーム業界に根強く残る「自虐性」”. 現代ビジネス (2020年8月20日). 2020年9月14日閲覧。
  14. ^ とろ〜り3種のチーズ牛丼(店内)”. すき家. 2021年4月6日閲覧。
  15. ^ 菅井保宏 (2016年7月1日). “隠語化される差別 カタカナの特性”. 朝日新聞. 2021年4月6日閲覧。
  16. ^ a b c d あの「チー牛」について、すき家に聞いてみた ネットでなぜか流行語化(J-CASTニュース) - Yahoo!ニュース”. archive.vn (2020年6月18日). 2020年11月28日閲覧。
  17. ^ 「チーズ牛丼」支持層は若い女性!? 吉野家の調査でネットの常識が覆る”. 食品産業新聞社 (2020年9月12日). 2020年9月14日閲覧。
  18. ^ 『ガジェット通信 ネット流行語・アニメ流行語大賞2020上半期』ノミネートワードを大募集!”. ガジェット通信 GetNews (2020年6月4日). 2020年11月24日閲覧。
  19. ^ コロナ関連じゃない!?『ガジェット通信 ネット流行語大賞2020上半期』金賞は「たべるんごのうた」に”. ガジェット通信 GetNews (2020年7月6日). 2022年11月11日閲覧。
  20. ^ 【2020年インスタ流行語大賞】をPetrelが発表!「やりらふぃー」「ぎゃきゅん」など流行先取りメディアが捉える2020年のトレンドとは”. FNNプライムオンライン. 2020年11月24日閲覧。
  21. ^ 「チー牛」の意味が変わりつつある? インスタで流行、「定着」の可能性は...”. J-CASTニュース (2020年12月5日). 2020年12月6日閲覧。
  22. ^ チー牛の意味とは?チー牛顔の特徴!元ネタは?
  23. ^ 昨日の動画についての謝罪-とある漢のチャンネルもこう”. 2020年9月14日閲覧。
  24. ^ #セガなま 7月28日放送 - YouTube
  25. ^ “セガ取締役「チーズ牛丼食ってそう」 ぷよぷよゲーマーの外見揶揄かと物議→謝罪”. J-CASTニュース. (2020年7月30日). https://www.j-cast.com/2020/07/30391160.html?p=all 2020年7月30日閲覧。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]