黒人とスイカのステレオタイプ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
1909年の郵便はがき。「あたしとっても幸せ!」

黒人とスイカのステレオタイプとは、アメリカ合衆国黒人スイカに対して尋常でない食欲を示すという人種差別ステレオタイプである。この偏見は21世紀になっても広くみられた[1]

歴史[編集]

すでに19世紀にはアメリカにおいて肖像や図像によって人種差別的な表現を行う場合、スイカが有力なシンボルの一つとなっていた[2][3]。このステレオタイプは事実において疑問符がつく。1994年から1996年にかけておこなわれたある調査では、当時アメリカの人口の12.5%を占めていた黒人のスイカの消費量は国内の11.1%程度だったことが明らかにされている[4]

この人種的偏見が正確にはどういった出自をもつのかはいまもはっきりしていないが[5]、黒人とスイカの連想自体は奴隷制の時代まで遡ることができる。この制度の擁護者は、黒人がスイカとわずかな休息さえ与えていれば幸せを感じる単純な人間たちであることを示そうとしてこの果物を利用したのである[6]。そういった固定観念は、ミンストレル・ショーにも受け継がれている。この演芸ではよく黒人たちが、無知で怠け者で、歌や踊りにふけるばかりか、法外なほどにスイカを好む人種として描かれている[7]

19世紀から20世紀の半ばにかけての数十年間で、スイカと黒人のステレオタイプは印刷物や映画、彫刻に描かれ、戯画化され、日用品にあしらうデザインとして一般的にさえなっていた[8]。2008年のバラク・オバマの大統領選挙とその後の行政においても、オバマの対立者はスイカのイメージをよく用いた[5]国務長官であったコンドリーザ・ライスもまた政敵から投げつけられるスイカのイメージに耐えねばならなかった政治家の一人である[9]

大衆文化[編集]

1900年代はじめの「黒人のがき」(pickaninny) を描いた漫画。スイカを食べる黒人の少年に、ステレオタイプを交えた文章が添えられている

黒人とスイカのつながりは、黒人の芸人たちがショーで歌ったポピュラーソングによって広く知られるようになったともいえる。「スイカのうた」("The Watermelon Song") などの歌は1870年代に印字され、記録として残されている。1893年のシカゴ万国博覧会は、黒人の芸人たちが出演する「カラード・ピープルズ・デイ」を抱き込むことを計画し、黒人の客にスイカをただで振る舞おうとした。展覧会の主催者たちはそれで黒人を惹きつけようとしたのである。しかしその計画は頓挫し、この街の黒人コミュニティは展覧会をボイコットし、カラード・ピープルズ・デイに出席する多くの演者たちと行動を共にした[8]

スイカ映画[編集]

19世紀の終わりには、「スイカ映画」というちょっとしたジャンルが存在した。黒人の典型的な日常とみなされたスイカの消費やケークウォーク、にわとり泥棒などを描く風刺映画的なジャンルであり、スイカをタイトルに冠した作品がいくつもつくられた[10]。こうした映画に登場する黒人たちは、はじめこそ黒人の俳優によって演じられたが、1903年ごろから顔を黒塗りした白人が演じるようになっていった[10]

多くの映画が黒人たちを制御不能といってよいほどスイカに食欲を示す存在として描いた。例えば「スイカ競争」(1896年)などには、黒人が汁と種を口から次々に吐き出し素早く果物を食べるシーンがある。作家のノヴォトニー・ローレンスは、こうした場面には食欲を黒人男性の性欲になぞらえる文脈があると指摘している。つまり「黒人は、この果物を愛し求めるのと同じくちで、セックスを求めるのだ…。要するに、黒人男性はスイカを「欲する」し、誰がもっとも食べられるのかを常にみわけようとしている。その指標となるのが、とめどなくスイカをむさぼる黒人男性によって描かれる「食欲」の強さなのである[11]

1900年代初めの郵便はがきはよく黒人を「スイカを食べていれば幸せ」という動物じみた存在として描いている[5]。こうしたカードは「黒んぼはがき」("Coon cards") として人気があり、スイカを盗んだり奪い合ったり、スイカそのものになってしまったりする黒人を絵にしていた[12]。1900年代初頭のあるはがきの一節にれば[13]

ジョージ・ワシントン・スイカ・コロンバス・ブラウン
ぼくは街のちいさな黒んぼ
スイカにかけちゃあ豚も真っ青
スイカはぼくのミドルネームさ

1916年3月、ハリー・ブラウンが「ニガーはスイカが好き」を収録しているが[14]、こうした曲はこの時期ポピュラーであり、多くがこのスイカと黒人のステレオタイプを利用していた。風と共に去りぬの台本には、スカーレット・オハラの奴隷であるプリシーがスイカを食べる場面がある(この役に扮するバタフライ・マクイーンはそれを演ずることを拒否している[8])。1970年ごろになるとこうしたステレオタイプも流行らなくなるが、いくつかの映画にみられるような影響力はまだ持っていたし[5]、2000年代にはいっても数多くの人種差別ジョークにスイカは登場するのである[12]

現代においても黒人に対して批判を行うものがしばしば引き合いに出すのがスイカである[2]。バラク・オバマがスイカを食べる人種差別的なイラストは大統領選挙のあいだウィルス・メールとなって各所に広がった。この選挙の後も、スイカとオバマという題材は繰り返され、流布していくことになる[5]

2009年2月、ロス・アラミトス市長(かつ共和党オレンジ郡中央委員会メンバー)のディーン・グロスはホワイトハウスに人種差別的とされたメールを送ったあとで(すぐに撤回したとはいえ)辞任を表明した。メールには、ホワイトハウスの芝生にスイカを植えた絵がついていた[15]。グロスはスイカのステレオタイプに不注意であったと述べている[16]ケンタッキー州にあるオバマがスイカを抱えた像も批判を浴びたことがある。像の所有者は、スイカを持っているのは「(像が)立ちっぱなしなので腹を空かせたのだろう」から、と語った[17]

2014年10月、ボストン・ヘラルド紙はホワイト・ハウスに男が侵入した事件を揶揄し、侵入者がオバマにスイカ味の歯磨き粉を試さないのかと尋ねる風刺画を掲載して物議を醸した[18]

資料[編集]

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ Sheet, Connor Adams (2012年8月3日). “National Watermelon Day Brings Racists Out Despite Lack Of Facts To Back Up Stereotype”. International Business Times. http://www.ibtimes.com/national-watermelon-day-brings-racists-out-despite-lack-facts-back-stereotype-739225 2015年4月19日閲覧。 
  2. ^ a b II.C.6. - Cucumbers, Melons, and Watermelons”. The Cambridge World History of Food. 2013年3月31日閲覧。
  3. ^ “'Colored' comment: Golf CEO compounds insults to Tiger Woods”. クリスチャン・サイエンス・モニター. (2013年5月23日). http://www.csmonitor.com/World/2013/0523/Colored-comment-Golf-CEO-compounds-insults-to-Tiger-Woods 2015年4月19日閲覧。 
  4. ^ Factors Affecting Watermelon Consumption in the United States”. 2013年3月30日閲覧。
  5. ^ a b c d e The Coon Obsession with Chicken & Watermelon”. 2013年3月30日閲覧。
  6. ^ Wade, Lisa. “Watermelon: Symbolizing the Supposed Simplicity of Slaves”. 2013年3月30日閲覧。
  7. ^ Fences: Shmoop Literature Guide. (2010). p. 26. ISBN 9781610624190. http://books.google.com.sg/books?id=R5W7pYEf0eAC&pg=PA26&dq=RACIST&hl=en&sa=X&ei=9IpWUdDFHsPnrAenyoDoBg&ved=0CEIQ6AEwAw#v=onepage&q=watermelon%20stereotype&f=false. 
  8. ^ a b c Smith, Andrew F. (2007). The Oxford Companion to American Food and Drink. Oxford University Press. ISBN 9780195307962. 
  9. ^ http://diaryofahollywoodstreetking.com/uncle-toms-cabin-welcomes-condoleezza-rice/
  10. ^ a b Massood, Paula J. (2008). “Urban Cinema”. In Boyd, Todd. African Americans and Popular Culture. ABC-CLIO. p. 90. ISBN 9780313064081. 
  11. ^ Novotny Lawrence (2008). Blaxploitation Films of the 1970s. Routledge. p. 37. ISBN 0-415-96097-5. 
  12. ^ a b Blacks and Watermelons”. Ferris State University (2008年5月). 2013年3月30日閲覧。
  13. ^ WHO SAID WATERMELON?”. Authentic History. 2013年3月30日閲覧。
  14. ^ Nigger Love a Watermelon Ha! Ha! Ha!”. 2013年3月30日閲覧。
  15. ^ Mitchell, Mary (2009年2月26日). “Monkeys, watermelons and black people”. Chicago Sun Times. http://blogs.suntimes.com/mitchell/2009/02/monkeys_watermelons_and_black.html 2013年4月13日閲覧。 
  16. ^ “Mayor Who Sent Obama Watermelon Email Quits”. Huffington Post. (2009年2月27日). http://www.huffingtonpost.com/2009/02/27/mayor-who-sent-obama-wate_n_170492.html 2013年3月30日閲覧。 
  17. ^ Wing, Nick (2012年12月27日). “Danny Hafley, Kentucky Man, Defends Watermelon-Eating Obama Display: He 'Might Get Hungry'”. Huffington Post. http://www.huffingtonpost.com/2012/12/27/danny-hafley-kentucky-obama_n_2372920.html 2013年3月30日閲覧。 
  18. ^ “Boston Herald apologizes for Obama cartoon after backlash”. (2014年10月2日). http://www.cnn.com/2014/10/01/politics/boston-herald-cartoon/index.html 2014年10月2日閲覧。