オリオン (宇宙船)

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オリオン
Orion with ATV SM.jpg
オリオン宇宙船(想像図)
詳細
目的: 貨物と乗員を国際宇宙ステーションへ輸送 [1]
乗員: 4人
打ち上げロケット: デルタIV Heavy
スペース・ローンチ・システム
打ち上げ予定: 2014年[2]
大きさ
全高:
直径: 5 m (16.5 ft)
与圧部体積: 19.55 m3[3]
居住部体積: 8.95 m3
カプセル重量: 8,913 kg (19,650 lb)
機械船重量: 12,337 kg (27,198 lb)
総重量: 21,250 kg (46,848 lb)
機械船推進剤重量: 7,907 kg (17,433 lb)
性能
トータルデルタ-v: 1,595 m/s
滞在期間: 210日

オリオン英語: Orionまたオライオンとも)は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) がスペースシャトルの代替として開発中の有人ミッション用の宇宙船である。当初はCrew Exploration Vehicle(クルー・エクスプロレイション・ビークル、略称はCEV)と呼ばれていたが、2006年8月22日に、オリオン座に因み「オリオン」と正式に命名された。この宇宙船は国際宇宙ステーション (ISS) への人員輸送や、次期有人着陸計画(コンステレーション計画)への使用を前提に開発されていたが、2010年にコンステレーション計画が中止されたため、新たなオリオン宇宙船(Orion Multi-Purpose Crew Vehicle、略称はMPCV)として、ISSへの人員と貨物の輸送と回収に用途が変更されて開発が続けられている。その後、この機体は小惑星の有人探査にも使うことが表明された。オリオンの開発は、ロッキード・マーティンが行なっている。

オリオン無人試験機は2014年にデルタIV Heavyで初めて打ち上げられる予定で、このフライトはEFT-1 (Exploration Flight Test-1) と呼ばれており、長楕円軌道を2周回した後、高速で突入させて耐熱シールドの能力確認を行う予定である[4]。また2017年には無人試験機がスペース・ローンチ・システムで打ち上げられ、運用段階においてもスペース・ローンチ・システムで打ち上げられる予定である。

沿革[編集]

コンステレーション計画におけるオリオン[編集]

有人月面探査に向かうオリオンのイメージ
アレスIの打ち上げ(想像図)

コンステレーション計画において計画されていたオリオン宇宙船は、アポロ計画で使われた機体に近いカプセル形状をしている。この円錐形の司令船は、アポロが底面直径3.8mで定員3人であったのに対して、オリオンは底面直径5m(当初の計画では5.5mだった)、寸法は1.5倍、容積は3倍で、最大6人のクルーが生活できるとされた。定員はISSへの往復で6名、コンステレーション計画での月探査では4名を予定していた。アポロが完全使い捨てであったのに対し、オリオンは10回程度繰り返し使用する計画であった。

後部に連結される円筒形の機械船には、アポロ同様に月への往復に使用できるロケットエンジンを備え、燃料は液体酸素メタンが検討されていた。これは将来の有人火星探査において、火星大気中の二酸化炭素からメタンを現地生産するすることを考慮したものだが、採用は見直し中であった。また、ロシアソユーズ宇宙船と同様に、太陽電池パドルを設置することで、長期間の電力供給を可能にする予定であった。この太陽電池パドルは、ATK社のUltraflexが採用されている[5]

コンステレーション計画における有人打ち上げ機 (Crew Launch Vehicle: CLV)、つまりオリオンの打ち上げ機には「アレスI」が使用される予定だった。アレスIは、開発コストを削減するため第1段にはスペースシャトルの固体ロケットブースター (SRB) を延長した物を、第2段にはサターンロケットで使われたJ-2エンジンを改良したJ-2Xエンジン1基を使用する予定となっていた。地球低軌道への打ち上げ能力はスペースシャトル並みの約25トンを計画していた。

一方、貨物(月着陸船)の打ち上げ機 (Cargo Launch Vehicle: CaLV) には、「アレスV」ロケットが用いられる予定だった。月探査時には先にアレスVでアルタイル月着陸船を地球の周回軌道上に投入してから、アレスIでクルーを乗せたオリオンを同じ軌道に投入し、両者が軌道上でドッキングし月に向かうことになっていた。アレスVの第1段のメインエンジンには、ボーイング社のデルタIVに使われているRS-68エンジン5基が、固体ロケットブースターには、5セグメント化されたスペースシャトルの固体ロケットブースター (SRB) 2基が、第2段にはJ-2Xエンジン1基が使用される予定だった。アレスVの地球周回軌道への打ち上げ能力は125トンで、アポロ計画のサターンVロケットに匹敵する規模であった。

開発スケジュール[編集]

NASAは当初、2011年までに試作機を製作、早ければ2014年にも有人飛行を行うとしていた。しかし、2007年4月にスケジュールが見直され、オリオン宇宙船とアレスIの試作機は2013年、有人飛行は2015年以降に延期となった。これに伴い、開発費も39億ドルから43億ドルへ上昇した[6]

この延期によって、シャトルが退役する2010年(実際の退役は2011年になった)からアメリカの有人宇宙飛行に最低5年のブランクが生じる見込みになり、その間のISS滞在要員輸送手段は事実上ロシアのソユーズのみとなった。また、アレスVの初飛行は2018年以降になり、しかもアルタイル月着陸船の打ち上げが優先される予定だったので、ISSへの物資輸送も日本のHTV[7]やロシアのプログレスなどに頼ることになった。

2010年2月1日、オバマ大統領は2011会計年度の予算教書にて、サブプライムショック以降の財政悪化を理由にコンステレーション計画の中止を表明した。これによりシャトル後継機のオリオンとアレスロケット開発計画は白紙に戻った[8]

しかし同年4月13日、米政府が用途を国際宇宙ステーションの緊急脱出装置に変更した上でオリオンの開発を継続する方針を持っていることが明らかになり、同月15日にオバマ大統領がフロリダ州で公式に発表した[9]

2011年5月、NASAはオリオン計画を仕切りなおす形で、月や火星、小惑星への飛行を主眼に置いた多目的有人宇宙船 (Multi-Purpose Crew Vehicle: MPCV) の開発を発表した。NASAは当初、MPCVをオリオンをベースとした宇宙船、としていたが、後にオリオンの名前自体も受け継がれており、事実上オリオン宇宙船が復活した形となった。[10]

2013年1月、NASAと欧州宇宙機関 (ESA) は、ESAがオリオンの開発に参加することを発表した。ESAは欧州補給機 (ATV) の技術を元に、オリオンのサービスモジュールを担当する。[11]

2014年には、無人試験機を打ち上げる試験飛行 (EFT-1) が予定されている。[10]

設計[編集]

オリオン宇宙船の構成。先端から、緊急脱出システム・乗員モジュール・サービスモジュール・アダプター。

オリオン宇宙船は主に人員が搭乗する乗員モジュール (CM) と、推進装置などからなるサービスモジュール (SM) の二つのモジュールから構成される。これらは実質的に1967年から1975年にかけて運用されたアポロ司令・機械船 (Apollo CSM) を元にしたものだが、スペースシャトル計画による成果が取り込まれている。NASAの探査システム計画局のNeil Woodwardはこの設計について「既存の技術と手段でリスクを下げる」(Going with known technology and known solutions lowers the risk) と語っている。[12]

オリオンはアポロ時代の宇宙船と似てはいるが、より発展した技術が用いられている。オリオンは6ヶ月という長期間の深宇宙ミッションに対応するようデザインされており、さらに生命維持、推進装置、耐熱、アビオニクスといったシステムも新たな技術にアップグレードできるように設計されている。

乗員モジュールはアポロ宇宙船のものより大きく、短期・長期どちらのミッションにおいてもより多い人員が搭乗可能になっている。サービスモジュールは推進装置のための燃料と乗員のための酸素と水を搭載する。サービスモジュールはまた、科学機器や貨物が搭載可能なようにもデザインされている。

なぜシャトルタイプではないのか[編集]

オリオンがアメリカで30年近く放棄されてきたアポロソユーズ型の使い捨て型ロケットシステムに回帰する理由は以下の通りである。

  • シャトルに比べてロシアのソユーズ宇宙船の評価が相対的に高い。シャトルは1980年代初期に建造された4機(後に1機追加)がほぼそのまま使われ続け、うち2機が事故によってクルー全員の命と共に失われている。一方ソユーズ宇宙船は40年余りの間に100機以上が打ち上げられており、2度の死亡事故を含めて何度か重大な事故を起こしたが、その都度改良が加えられ、1990年代以降は人命に危険が及ぶ事故は起きていない。カプセル型は突入時に姿勢制御ができなくなっても、最悪、非制御状態での弾道突入でも帰還ができるような設計が可能である。
  • オービタに装備されている主翼垂直尾翼)は打ち上げ時と大気圏再突入〜帰還時にしか使用されないため、大気のない宇宙空間に出れば全く用をなさなくなる。そのため重量的には非常に効率が悪い。打ち上げと帰還時にだけ翼を使用するくらいなら、むしろ翼のない方が効率的である。
  • オービタを繰り返し使用するには多額のメンテナンス費用が必要で、使い捨て(短期利用)の宇宙船を使用したシステムの方が現在の技術では経済的である。
  • 耐熱システムの問題。打ち上げ時に脆い耐熱タイルや耐熱シールドを落下物が衝突する可能性があるエリアにさらしているのは危険で、コロンビア号空中分解事故も主翼の耐熱シールド (RCC) を損傷したことが原因になった。オリオンのシステムであれば耐熱シールドは機械船との間に挟まれて打ち上げることができるため、同様の事故は回避できる。
  • シャトルには緊急脱出装置を搭載しなかったが、カプセル型宇宙船では、緊急脱出用ロケット(通称「LES」)を設置することが可能である。トラブル時にはカプセルのみを切り離して緊急脱出することができる。このシステムはアポロやソユーズでも設置され、ソユーズで一度使われて安全に避難できることが実証されている。
  • 将来型シャトルとして開発・検討されていた完全再使用型シャトルがいまだに実現していない状況。シャトルのコスト高を解決する方法として完全再利用型の宇宙機がいくつか検討されたが、技術的な難易度が極めて高く実現には至っていない。

なお、日本のJAXAにおいてHOPE計画の中止に伴って有志により提案されたふじ計画との相似性を指摘し、21世紀初頭における宇宙からの回収システムの技術的な最適値はカプセル型であるとする意見もある。

打ち上げ予定[編集]

ミッション名 打ち上げ日 打ち上げ機 ミッション期間 備考
EFT-1 Exploration Flight Test-1 2014年 デルタIV Heavy 長楕円軌道からの無人再突入試験
EM-1 Exploration Mission-1[13] 2017年[13] SLSブロックI[13] 7日–10日[14] 月周回軌道への無人飛行[14]
EM-2 Exploration Mission-2[13] 2019年-2021年[13] SLSブロックI[13] 10日–14日[14] 乗員4名による月楕円軌道への有人飛行[14]
EM-3 Exploration Mission-3[13] 2022年[15] SLSブロックIA[13] [15]

脚注[編集]

  1. ^ NASA Authorization Act of 2010”. Thomas.loc.gov. 2010年11月20日閲覧。
  2. ^ http://www.nasaspaceflight.com/2011/08/oft-1-nasa-orions-2013-debut-via-delta-iv-heavy/
  3. ^ Orion Fact Sheet (PDF)”. 2010年11月20日閲覧。
  4. ^ “NASA Proposes Orion Spacecraft Test Flight In 2014”. NASAプレスリリース. http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/nov/HQ_11-376_EFT.html 2011年11月10日閲覧。 
  5. ^ ATK社のUltraflex資料
  6. ^ 米シャトル後継「オリオン」、有人初飛行は15年以降か読売新聞 2007年4月21日
  7. ^ シャトル代替に存在感…HTV初飛行」 読売新聞 2009年9月12日
  8. ^ 有人月探査計画:中止を決定、シャトル後継も白紙…米国」 毎日新聞 2010年2月2日
  9. ^ 米が新たな有人宇宙政策 月探査船の用途変更へ - 47NEWS 2010年4月14日閲覧。
  10. ^ a b オリオン宇宙船の初打ち上げまで、あと1年”. Sorae.jp (2013年9月8日). 2013年11月17日閲覧。
  11. ^ 欧州宇宙機関、オリオン宇宙船の開発に協力”. Sorae.jp (2013年1月21日). 2013年11月17日閲覧。
  12. ^ NASA Names Orion Contractor”. NASA (2006年8月31日). 2006年9月5日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g h Bergin, Chris (2012年2月23日). “Acronyms to Ascent – SLS managers create development milestone roadmap”. NASASpaceFlight (not associated with NASA). 2012年8月5日閲覧。
  14. ^ a b c d Kohrs, Richard (2012年3月8日). “NASA ADVISORY COUNCIL HUMAN EXPLORATION & OPERATIONS COMMITTEE NAC HEOC”. NASA. 2012年8月5日閲覧。
  15. ^ a b Chris Bergin (2011年7月27日). “Preliminary NASA Plan Shows Evolved SLS Vehicle 21 Years Away”. NASASpaceflight.com. 2011年7月28日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]