欧州補給機

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欧州補給機
Automated Tranfer Vehicle
View of ATV-2 - cropped and rotated.jpg
欧州補給機(2号機「ヨハネス・ケプラー」)
詳細
目的: 国際宇宙ステーションへの推進剤、水、空気、ペイロード、実験装置などの供給
乗員: 無人
諸元
高さ: 10.3 m
直径: 4.5 m
ペイロード: 7,667 kg
能力
持続性: ISSと6ヶ月間ドッキング可能
遠地点: 400 km
近地点: 300 km
軌道傾斜角: 51.6 度

欧州補給機(おうしゅうほきゅうき、Automated Transfer Vehicle: ATV)は欧州宇宙機関 (ESA) が開発した無人宇宙補給機である[1]。 ATVは国際宇宙ステーション (ISS) に燃料や水、空気、補給品、実験装置を運搬するために設計された無人補給船である。さらにATVは大気の抵抗によって降下するISSを、リブーストによってより高い軌道へと押し上げ軌道高度を調整する役割も担う。

ATVは、フランス領ギアナクールー宇宙基地からアリアン5で打ち上げられ、約10日間の飛行の後、 ISS へと到着しズヴェズダ後方のドッキングポートへ自動ドッキングする。

ATVの初飛行は数回に渡って延期されていたが、2008年3月9日(フランス領ギアナ時間)に初号機「ジュール・ヴェルヌ」が打ち上げられた。

ATVは5号機までの計画のため、2014年のATV-5が最終号機となる。

概要[編集]

球形の水タンク
水タンク
球形の燃料タンク
燃料タンク

ATVはロシアプログレス補給船を補完する目的で計画され、プログレスの3倍の輸送能力を持つ。 液体や比較的壊れやすい貨物などは、プログレスと同様に気密の保たれた与圧部に格納されており、 ISS とドッキング中、宇宙飛行士宇宙服の着用なしで与圧カーゴ区画へ入ることができる。 与圧カーゴ区画は、スペースシャトルが ISS との間の貨物輸送の際にコンテナとして利用した、イタリア製の多目的補給モジュール (MPLM) の構造を基礎として開発された。またATVはプログレス同様、 分離時にはISS のゴミを搭載して廃棄するコンテナとしても利用される。

ATVは打ち上げ時重量 20.7トンで、最大7.667トンまでの輸送能力を持つ[2]。内訳は以下の通り。

  • 1500 から 5500 kg のドライ・カーゴ(補給品、科学実験用ペイロードなど)
  • 最大 840 kg の水
  • 最大100 kgのガス(窒素、酸素、空気)、各飛行で最大2種類のガスを積載可能
  • ISSへの補給のための推進剤を最大860kg(燃料が306kg、酸化剤が554kg)。
  • リブースト・マニューバや、 ISS への補給のための推進剤を最大4700kg。 ATVがリブーストで使用する推進剤はモノメチルヒドラジン燃料と酸化剤四酸化二窒素 (N2O4) であるが、これはロシアモジュールの補給燃料(UDMH燃料とN2O4酸化剤)とは異なる。

ドッキング解除後、最大6.5トンのゴミを積載したATVは大気圏へと突入し、燃え尽きる。

開発[編集]

ATVはEADSアストリアム・スペーストランスポーテーション社が中心となってコンソーシアムを結成して開発が行なわれた。主要請負業者のオフィスはフランスのレ・ムローに置かれていたが、開発が完了し初号機の製造が始まった時点でドイツのブレーメンへ移された。請負業者とESAの連携を容易にするために、開発期間中はESAの統合チームがレ・ムローに設立された。

初号機には「ジュール・ヴェルヌ」という名前が与えられた[3]。近代初のサイエンス・フィクション作家であるジュール・ヴェルヌからその名が付けられた。

EADSアストリアム・スペーストランスポーテーションは、ATV-2以降は、「ジュール・ヴェルヌ」を組み立てたブレーメンの施設でATVを製造している。ATVを2年に約1機ずつ計5機打ち上げることに関して、2004年に契約と協定が調印されている[4]

これを受けてロシアのRSCエネルギアは、EADSアストリアム・スペーストランスポーテーションの主な下請け会社の1社であるイタリアのアレーニア・スパーツィオ:現在はタレス・アレーニア・スペースへ、ロシアのドッキングシステム、燃料補給システム、ロシア装置の制御システムを提供する契約を4,000万ユーロで結んだ。EADSアストリアム・スペーストランスポーテーションが主導するプロジェクトの範囲内で、タレス・アレーニア・スペースはATVの与圧カーゴ区画を担当しており、この与圧貨物室はイタリアのトリノで製造されている。

2009年2月19日、ESAは欧州補給機2号機を、ドイツの天文学者にちなみ「ヨハネス・ケプラー」と命名した[5]

2010年3月16日、ESAは欧州補給機3号機を、イタリアの物理学者にちなみ「エドアルド・アマルディ」と命名した [6]

2011年5月16日、ESAは欧州補給機4号機を、ドイツ/スイスの物理学者にちなみ「アルベルト・アインシュタイン」と命名した[7]

2012年2月16日、ESAは欧州補給機5号機を、ベルギーの物理学者にちなみ「ジョルジュ・ルメートル」と命名した [8]

ATVは当初は7号機までの計画があったが、その後2機がキャンセルされ、5号機で計画は終了する。ESAはATV計画終了後にNASAのオリオン宇宙船(MPCV)の推進機構の開発に注力することになる[9]

ミッション[編集]

ATV初号機「ジュール・ヴェルヌ」のドッキング機構

欧州補給機は、赤道付近にあるギアナ宇宙センターELA-3発射施設から、アリアン5で300km上空の軌道へと打ち上げられる。ATVがアリアンロケットから分離されると誘導装置が起動し、スラスターを点火して加速して、ISS へ向かう遷移軌道に入る。

約10日間の軌道調整の後、ATVは ISS の30km後方かつ、5km下方の位置へ到達する。そして軌道を二周する間に最終アプローチを行なう。

ISS とのドッキングは日本の宇宙ステーション補給機(HTV)と違い、完全に自動で行なわれる事になっている。もしも最終段階で何らかの問題が発生した場合には、メインの誘導システムから完全に独立したものとして設定されている、一連の衝突回避マニューバが起動するようになっている。また非常時には、ISSの宇宙飛行士がドッキングの中止命令を送信することが出来るようになっている。

ATVがドッキングすると、ISS の乗員は貨物区画へと入りペイロードを運び出す。ATVの液体タンクは ISS の配管へと接続され、ISS側のタンクへ移送れる。また、乗組員はバルブを手動操作で開放することで空気を直接 ISS 船内へ放出する。ATVは最大で6ヶ月間、ハッチを開放したままで ISS に留まる事ができる。空いた貨物区画にはISSで出たゴミが詰め込まれる。ドッキング中は必要に応じて、ATVのスラスターを使って ISS の高度上昇が行われる。

ミッションが完了すると、ごみを満載したATVは ISS から分離し、スラスターを使って軌道速度を減速させることで周回軌道から離脱し、南太平洋上空で再突入する。

各機のミッションは以下のとおりである[10][11][12][13][14]

番号 名前 打ち上げ日 成否 ドッキング 再突入
ATV-001 ジュール・ヴェルヌ 2008年3月9日 成功 2008年4月3日に接続 2008年9月29日
ATV-002 ヨハネス・ケプラー 2011年2月16日 成功 2011年2月24日に接続 2011年6月21日
ATV-003 エドアルド・アマルディ 2012年3月23日 成功 2012年3月28日に接続 2012年10月3日
ATV-004 アルベルト・アインシュタイン 2013年6月6日 成功 2013年6月15日に接続 2013年11月2日
ATV-005 ジョルジュ・ルメートル 2014年予定 計画中 計画中 計画中

ATV発展型の計画[編集]

NASAが2010年までにスペースシャトルを退役させると決定したことから、欧州宇宙機関はATVの発展型や改良型の可能性を研究した。研究の多くは、ATVに物資回収能力を持たせるものだったが、大半は検討段階までで終わった。

小型宇宙ステーションMSS (Mini space station) コンセプトは、将来へ向けて検討中のATV発展型案である。この提案は、2つのドッキング装置を持つATVを複数、前後に連結していくものである。現在使われているATVでも主推進システムは筒型のトンネル状になっており、後方にドッキング装置を追加することを考慮した設計になっている。これにより、ATVがISSにドッキングしている間でも、ソユーズやプログレス補給船などのロシアの宇宙船は、ATVを間に挟むようにして後部へドッキングできるようになる。また生命維持システムを搭載すれば、MSSだけで小型宇宙ステーションとして利用することも考えられる。

PARES (PAyload REtrieval System) と名付けられた最初の研究は、ラデューガ(Raduga)に似た弾道カプセルをATVのドッキング部に組み込み、数十キログラムの貨物を帰還できるものである。PARESは展開型の耐熱システムを特徴としている。ESAはこのシステムを、プログレス補給船宇宙ステーション補給機 (HTV) にも提案していた。

貨物往復機(CARV:Cargo Ascent and Return Vehicle) 計画では、数トンの貨物を帰還できる、より大きなリフティング・カプセルを研究した。これは、ATV の与圧貨物区画の代わりに取り付けられることになっていた。さらに、最終的にはISSのアメリカ側にドッキングすることを目標としており、そうなれば現状では不可能な、国際標準実験ラック(ISPR)を丸ごと通すことができる[15]。この構想は2010年までに実現できる可能性があったが、ESAの財政状況を理由として、CARVよりもPARESが優先された。しかし結局は、PARESの承認を得るための提案がESAの閣僚会議に提出されることもなかった。

ATVの打ち上げをアリアン5以外で行なう可能性も研究された。特にCOTSでは、アトラスデルタによって打ち上げる案が提案されたが、NASAはアメリカだけで行なうことを選択し、ATVは不採用となった。

人員輸送機(CTV:Crew Transport Vehicle)は、検討されたもう一つの案である。CARV案と同じく、現在の貨物キャリアを、与圧再突入カプセルと置き換える。貨物型との大きな違いは、非常事態が起きると有人カプセルをロケットやサービスモジュールから引きはがすため、いくつかのブースターロケットを装備した乗員脱出システムを備えている点である。ATVのCTV派生型は、4〜5人の乗員を乗せることができる[16]

提案された有人型[編集]

2008年5月14日、EADSアストリアムドイツ航空宇宙センター(DLR)は、ATVを基にした人員輸送システムの計画を発表した[17]。この宇宙船は3人乗りで、改良型のアリアン5ロケットで地球低軌道に投入でき、ロシアのソユーズ宇宙船より広々としている。提案中の宇宙船の模型は、2008年にベルリンで行われた国際航空宇宙展示会で発表された[18]。計画がESAの承認を得られれば、2段階の開発が行われる。

第1段階の無人型は、前述のCARVと同様に貨物を宇宙から地上へ安全に輸送できるもので、2013年までに開発される。もしここまでで開発が打ち切られても、ESAは貨物機として利用できる。ISS計画のほか、NASAが提案中の火星サンプルリターンにも役立てることができる。この段階の開発に要する費用は、EADSアストリウムによれば、およそ10億ユーロ(約2000億円)以下だという[19][20]

第2段階では、第1段階のカプセルを安全な人員輸送に使えるよう改良する。EADSアストリウムの上級代表者によれば、開発期間は4〜5年で、20億ユーロを要するという[21][22]

なお、ESAとEADSアストリウムは、ロシア宇宙庁とCSTS計画も検討していた。CSTSはATVの貨物キャリアをロシア製の有人カプセルと置き換えたようなコンセプトであり、ATV有人型との違いはカプセルもEADSが開発するかという点に過ぎない。

脚注[編集]

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  1. ^ Automated Transfer Vehicle, ESA document EUC-ESA-FSH-003 Rev 1.2 (specification)”. ESA. 2007年3月26日閲覧。
  2. ^ Utilisation Relevant Data”. ESA. 2009年9月12日閲覧。
  3. ^ Worldwide Testing And ISS Traffic Push ATV Launch To Autumn 2007”. SpaceDaily. 2007年8月3日閲覧。
  4. ^ ESA signs 1 billion Euro contract with EADS Space Transportation to start operations of European elements of ISS”. ESA. 2004年7月9日閲覧。
  5. ^ [1]
  6. ^ [2]
  7. ^ ATV-4 to carry name Albert Einstein
  8. ^ 欧州の宇宙補給機、5号愛称は「ジョルジュ・ルメートル」(AstroArts)
  9. ^ 海外技術/欧州宇宙機関、米次世代有人宇宙船の推進機構開発へ、日刊工業新聞 2012年12月21日
  10. ^ European Cargo Ship Begins Maiden Space Voyage”. Space.com (2008年3月9日). 2010年2月24日閲覧。
  11. ^ Multi-Program Integrated Milestones (PDF)”. NASA (2008年1月25日). 2011年2月24日閲覧。
  12. ^ Third ATV named after Edoardo Amaldi” (2010年3月17日). 2010年3月17日閲覧。
  13. ^ Spaceflight Now - Europe's second cargo freighter to fly in December” (2010年9月17日). 2010年9月18日閲覧。
  14. ^ Spaceflight Now - One-day delay of final shuttle launch makes room for ATV” (2010年10月1日). 2010年10月2日閲覧。
  15. ^ 2009年末現在、ISPRを丸ごと輸送できるのは多目的補給モジュール(MPLM)と日本のHTVだが、2010年頃にスペースシャトルが退役するとMPLMは使用できなくなり、以後はHTVまたはNASAの将来計画によるCOTS輸送機でしか輸送できない。EXPRESSラックのように、ラック全体ではなく一部のみを交換するのであれば、ATVでも輸送できる。
  16. ^ “ATV Evolution - Executive Summary”. EADS. http://esamultimedia.esa.int/docs/gsp/completed/C18303ExS.pdf 2008年3月15日閲覧。 
  17. ^ “Europe could get manned spaceship”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7398517.stm 
  18. ^ “Berlin unveils 'crewed spaceship'”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7419793.stm 
  19. ^ “Europe Plans to Build Manned Spaceship”. Der Spiegel. http://www.spiegel.de/international/europe/0,1518,553276,00.html 
  20. ^ “European manned spaceship design unveiled in Berlin”. The Register. http://www.theregister.co.uk/2008/05/28/esa_jules_verne_manned_ship_plan/ 
  21. ^ “Berlin unveils 'crewed spaceship'”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7419793.stm 
  22. ^ “Europe Plans Manned Spaceship”. businessweek. http://www.businessweek.com/globalbiz/content/may2008/gb20080514_021347.htm 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]