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レーティアン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
レーティアン階から転送)
地質時代中生代[* 1][* 2]
累代 基底年代
Mya[* 3]
顕生代 新生代 66
中生代 白亜紀 後期白亜紀 マーストリヒチアン 72.1
カンパニアン 83.6
サントニアン 86.3
コニアシアン 89.8
チューロニアン 93.9
セノマニアン 100.5
前期白亜紀 アルビアン 113
アプチアン 125
バレミアン 129.4
オーテリビアン 132.9
バランギニアン 139.8
ベリアシアン 145
ジュラ紀 後期ジュラ紀 チトニアン 152.1
キンメリッジアン 157.3
オックスフォーディアン 163.5
中期ジュラ紀 カロビアン 166.1
バトニアン 168.3
バッジョシアン 170.3
アーレニアン 174.1
前期ジュラ紀 トアルシアン 182.7
プリンスバッキアン 190.8
シネムーリアン 199.3
ヘッタンギアン 201.3
三畳紀 後期三畳紀 レーティアン 208.5
ノーリアン 227
カーニアン 237
中期三畳紀 ラディニアン 242
アニシアン 247.2
前期三畳紀 オレネキアン 251.2
インドゥアン 251.902
古生代 541
原生代 2500
太古代[* 4] 4000
冥王代 4600
  1. ^ 基底年代の数値では、この表と本文中の記述では、異なる出典によるため違う場合もある。
  2. ^ 基底年代の更新履歴
  3. ^ 百万年前
  4. ^ 「始生代」の新名称、日本地質学会が2018年7月に改訂

レーティアン英語: Rhaetian、レート期[1])は、2億850万年前から2億130万年前(誤差20万年)にあたる後期三畳紀地質時代名の一つ[2]。 模式地はオーストリア[3]。末には顕生代で四度目となる大量絶滅が起き、コノドントなど数多くの生物が絶滅した。詳細は後述。

なお、「レート階」という名称があるが、時代を示すものではない。「階」は地層に対して当てられる単位(層序名)であり、層序名「レート」と時代名「レート」は対を成す関係である。詳しくは「累代」を参照のこと。

出来事

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隕石衝突

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フランス中央高地の西縁に位置するロシュショール・クレーター英語版がレーティアンの間に形成されており、2010年以降に行われた4つの年代測定結果では2億700万年前 - 2億100万年前の範囲とされている[4][5][6]。この衝突クレーターは衝突堆積物の領域が直径15キロメートル、クレーター自体の直径が20 - 25キロメートルであるが、現在の姿は侵食を受けた後の状態であるため、元々の直径は最大で50キロメートル程度であった[4]マニクアガン湖など三畳紀に形成された他のクレーターはその位置関係からロシュショール・クレーターを形成したものと同じ地球外天体(の破片)が衝突して形成されたとする意見も浮上した[7]が、磁気年代[8]や放射年代[9]の研究により否定されている。

火成活動

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日本の岐阜県犬山地域には三畳系 - ジュラ系チャートが分布しており、このチャートから得られたオスミウム同位体比(187Os/188OS)は187Osに富む大陸地殻由来のオスミウムと187Osに乏しい地球外起源のオスミウムの流出入バランスを示す。レーティアンを通して同位体比は0.6から低下する傾向を示すが、これは中央大西洋マグマ分布域英語版(CAMP)の火成活動がレーティアンの初期から始まっていたことを意味する。また、同位体比の低下速度がオントンジャワ海台など他の洪水玄武岩の十分の一以下であることから、CAMPの形成が緩やかに進行したことも示唆されている。同位体比は最低値0.2に達した後にT-J境界直前で0.4まで急激に増大しており、これはT-J境界とほぼ同時期に大陸の風化が加速したことを意味する[10]

生物

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カーニアンからヘッタンギアンにかけては二枚貝の科数が急激に増大した時期にあたる[11]

タイ王国コラート層群英語版のナム・ポン累層はノーリアン - レーティアン階に相当し、プー・クラドゥエン英語版地域に分布する同層の石灰質泥岩からは1個体の恐竜による6個の足跡化石が発見されている。足跡の長さは41.5センチメートル、歩長260センチメートルで、腰高240センチメートルの大型獣脚類が時速約5キロメートルで歩行していたと考えられている。同層から獣脚類の体化石は産出していないものの、この足跡化石の発見により、後期三畳紀のタイ王国北東部に大型獣脚類が生息していたことが示された[12][13]

大量絶滅

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ただし三畳紀とジュラ紀の境界でもあるレーティアン/ヘッタンギアン境界で顕生代四度目となる大量絶滅が発生しており、事実上テチス海から消滅したサンゴはヘッタンギアンの間に以前の水準まで回復することはなかった。コノドントも三畳紀末の大量絶滅で絶滅を迎えたほか、三畳紀で最も繁栄していたアンモナイトであるセラタイト目英語版もレーティアンの末に絶滅した[9]

両生類分椎目は大部分がT-J境界までに絶滅した。現在知られている中で最後のメトポサウルス科英語版であるコスキノノドン英語版は後期ノーリアンあるいは前期レーティアンに相当すると考えられるレオドンタ累層英語版から産出しており、最後のプラギオサウルス科英語版であるゲロトラックスもおそらくレーティアン階から産出している。2018年にはカピトサウルス類英語版上腕骨もレーティアンの堆積層から報告されている。プラギオサウルス科とカピトサウルス類はT-J境界にごく近い時代で絶滅した可能性が高く、他の分椎目の大半は既に絶滅していたと考えられている[14]

レーティアンとそれに続くヘッタンギアンでは陸上動物の化石は限られている。陸上爬虫類ではワニに近いフィトサウルス目英語版プロコロフォン科英語版偽鰐類パラクロコダイリモーファ英語版がT-J境界の直前に相当する地層から化石が産出しており、これらはT-J境界に近い時代で絶滅したとされる[15]。海生爬虫類では板歯目の最後の科であるプラコケリス科英語版が絶滅した。また、魚竜のうちシャスタサウルス科英語版ショニサウルス科英語版といった大型のグループが絶滅し、その形態的な多様性が取り戻されることはなかった[16]

日本において

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山口県の秋吉帯を構成する陸棚堆積物は大嶺地域・厚保地域・厚狭地域に分布し、このうち山陽小野田市の特徴的な6種の植物化石が産出するユニット、および美祢市周辺の大嶺地域の一部がレーティアン階とされた。1939年に大嶺地域の三畳系は平原層・桃ノ木層・麻生層に区分けされ、うち麻生層はカーニアン - ノーリアンあるいはレーティアン階とされた[17]新潟県加茂地域に分布する足尾帯の珪質泥岩からは Fontinella primitiva(後期ノーリアン - レーティアン)などレーティアンを示す放散虫化石が得られており、シネムーリアン - 前期トアルシアンの放散虫化石も産出しているため議論の余地があるものの、レーティアン階に相当する可能性が高い[18]

前述の岐阜県犬山地域の他に愛媛県秩父累帯[13]栃木県足尾帯葛生地域[13]熊本県五木村北部の黒瀬川帯ではT-J境界が確認できる[19]。特に黒瀬川帯のものは地層の不整合を示している[19]

出典

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  1. ^ 鈴木寿志「地質年代区分2012」『日本地質学会第120年学術大会講演要旨(2013仙台)』、日本地質学会、2013年、doi:10.14863/geosocabst.2013.0_629 
  2. ^ INTERNATIONAL CHRONOSTRATIGRAPHIC CHART(国際年代層序表)”. 日本地質学会. 2020年3月17日閲覧。
  3. ^ 地質調査総合センター研究資料集 No.486 地質図─地質用語(TS図案:2008)”. 地質調査総合センター. p. 13. 2020年3月17日閲覧。
  4. ^ a b Schmieder, M.; Buchner, E.; Schwarz, W. H.; Trieloff, M.; Lambert, P. (2010-10-05). “A Rhaetian 40Ar/39Ar age for the Rochechouart impact structure (France) and implications for the latest Triassic sedimentary record”. Meteoritics & Planetary Science 45 (8): 1225–1242. Bibcode2010M&PS...45.1225S. doi:10.1111/j.1945-5100.2010.01070.x. 
  5. ^ Horne A (2016). (U-Th)/He, U/Pb, and Radiation Damage Dating of the Rochechouart-Chassenon Impact Structure, France-Master thesis. Arizona State University. pp. 63 pp 
  6. ^ Cohen, Benjamin E.; Mark, Darren F.; Lee, Martin R.; Simpson, Sarah L. (2017-08-01). “A new high-precision 40Ar/39Ar age for the Rochechouart impact structure: At least 5 Ma older than the Triassic–Jurassic boundary” (英語). Meteoritics & Planetary Science 52 (8): 1600–1611. Bibcode2017M&PS...52.1600C. doi:10.1111/maps.12880. ISSN 1945-5100. https://doi.org/10.1111/maps.12880. 
  7. ^ Spray, John G.; Kelley, Simon P.; Rowley, David B. (12 March 1998). “Evidence for a late Triassic multiple impact event on Earth” (英語). Nature 392 (6672): 171–173. doi:10.1038/32397. ISSN 1476-4687. https://geosci.uchicago.edu/~rowley/Rowley/Publications_files/Nature%201998%20Spray.pdf. 
  8. ^ Kent, Dennis V. (10 September 1998). “Impacts on Earth in the Late Triassic”. Nature 395 (6698): 126. doi:10.1038/25874. http://www.rci.rutgers.edu/~dvk/dvk_REPRINTS/Kent1998.pdf. 
  9. ^ a b “Assessing the record and causes of Late Triassic extinctions”. Earth-Science Reviews 65 (1–2): 103–139. (2004). Bibcode2004ESRv...65..103T. doi:10.1016/S0012-8252(03)00082-5. https://doi.org/10.1016/S0012-8252(03)00082-5. 
  10. ^ 黒田潤一郎、堀利栄、鈴木勝彦、大河内直彦「層状チャートのオスミウム同位体記録からみた三畳紀‐ジュラ紀境界の海洋環境変動」『日本地質学会第118年学術大会・日本鉱物科学会2011年年会合同学術大会(水戸大会)講演要旨』、日本地質学会、2011年、doi:10.14863/geosocabst.2011.0.52.0 
  11. ^ 近藤康生; 佐野晋一 (2008). 日本地質学会第115年学術大会講演要旨(2008秋田). 日本地質学会. doi:10.14863/geosocabst.2008.0.60.0. https://doi.org/10.14863/geosocabst.2008.0.60.0. 
  12. ^ 髙津翔平、Apsorn Sardsud、Doungrutai Saesaengseerung、Cherdchan Pothichaiya、上松佐知子、指田勝男「タイ国東北部のコラート層群より産する恐竜足跡化石について―足跡相の概要とその特徴―」『化石』第100巻、日本古生物学会、2016年9月3日、109-123頁、doi:10.14825/kaseki.100.0_109 
  13. ^ a b c 堀利栄、吉田夏子、黒田潤一郎、小川奈々子「愛媛県秩父累帯層状チャート中の三畳系-ジュラ系境界」『日本地質学会第124年学術大会(2017愛媛)』、日本地質学会、2017年、doi:10.14863/geosocabst.2017.0_238 
  14. ^ Konietzko-Meier, Dorota; Werner, Jennifer D.; Wintrich, Tanja; Martin Sander, P. (2018-10-31). “A large temnospondyl humerus from the Rhaetian (Late Triassic) of Bonenburg (Westphalia, Germany) and its implications for temnospondyl extinction”. Journal of Iberian Geology 45 (2): 287–300. doi:10.1007/s41513-018-0092-0. ISSN 1886-7995. https://link.springer.com/article/10.1007/s41513-018-0092-0. 
  15. ^ Tolchard, Frederick; Nesbitt, Sterling J.; Desojo, Julia B.; Viglietti, Pia; Butler, Richard J.; Choiniere, Jonah N. (2019-12-01). “'Rauisuchian' material from the lower Elliot Formation of South Africa and Lesotho: Implications for Late Triassic biogeography and biostratigraphy”. Journal of African Earth Sciences 160: 103610. doi:10.1016/j.jafrearsci.2019.103610. ISSN 1464-343X. 
  16. ^ Thorne, Philippa M.; Ruta, Marcello; Benton, Michael J. (2011-05-17). “Resetting the evolution of marine reptiles at the Triassic–Jurassic boundary” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 108 (20): 8339–8344. doi:10.1073/pnas.1018959108. ISSN 0027-8424. PMC 3100925. PMID 21536898. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3100925/. 
  17. ^ 前田晴良、大山望「山口県西部に分布する三畳系美祢層群とジュラ系豊浦層群の層序と化石群」『地質学雑誌』第125巻第8号、日本地質学会、2019年8月15日、doi:10.5575/geosoc.2019.0020 
  18. ^ 内野隆之、堀利栄「5万分の1地質図幅「加茂」地域の足尾帯珪質泥岩から見出された後期三畳紀放散虫化石」『地質調査研究報告』第62巻第3-4号、地質調査総合センター、2011年10月31日、191-196頁、doi:10.9795/bullgsj.62.191 
  19. ^ a b 石田直人「九州西部,五木北部地域の黒瀬川帯三畳系-ジュラ系不整合境界」第113巻第3号、日本地質学会、2007年、doi:10.5575/geosoc.113.83