ドラゴン (宇宙船)

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スペースX ドラゴン宇宙船
詳細
役割: 商業用: 低軌道へ貨物と人を運搬する。[1]
政府用: シャトル引退後に国際宇宙ステーションへ補給する。
乗員: ドラゴン カーゴ: 0
ドラゴン クルー: 7
打ち上げロケット: ファルコン9
寸法
全高: 2.9 m 9.51 ft
直径: 3.6 m 11.8 ft
与圧部体積:[2] 10 m3 353 cu ft
非与圧部体積:[2] 14 m3 494 cu ft
非与圧部体積
(拡張されたトランクを追加した場合):[2]
34 m3 1,200 cu ft
重量:[3] 4,200 kg 9,260 lb
打ち上げられるペイロード:[2] 6,000 kg
(ISS輸送能力:3,310 kg)[4][5]
13,228 lb
(7,300 lb)
帰還するペイロード:[2] 3,000 kg 6,614 lb
性能
滞在日数: 1週間から2年間[2]

ドラゴン(英語: Dragon)はアメリカ航空宇宙局 (NASA) の商業軌道輸送サービス (COTS) の契約に則り、スペースX社が開発している国際宇宙ステーション (ISS) への物資補給を目的とした宇宙船であり、ファルコン9ロケットによって打ち上げられる。2010年12月に初の試験飛行を行い、軌道を2周したのち帰還し、商業的に開発され運用された宇宙機として史上初となる回収に成功した。2012年5月には同様に史上初となるISSへのドッキングにも成功している。 ドラゴンの耐熱シールドは火星からの帰還時の大気圏再突入速度にも耐えられるよう設計されている。[6] 開発費はNASAの商業軌道輸送サービス計画の予算の一部から拠出されている。

ドラゴンの名前は、Puff The Magic Dragon(日本では魔法のドラゴンパフで知られる童謡)に由来している。2002年イーロン・マスクがスペースX社を設立した際に、多くの批評家は不可能なアイディアだと考えていたため、このフィクションに出てくるドラゴンを名前に付けたと彼自身が語っている[7]

形状

与圧カプセル(赤)と非与圧トランク(オレンジ)。右は非与圧トランクを拡張した構成

ドラゴンは円錐型の与圧カプセルとその後部に接続される円柱状の非与圧トランクから成る。与圧カプセルの先端部のノーズコーンは打上げ後には大気圏を通過して十分な高度に達した時点で分離し、ISSとのドッキングのための共通結合機構を露出させる。その後ドラゴンはこうのとり(宇宙ステーション補給機HTV)と同様にグローバル・ポジショニング・システム (GPS) やTDRSを用い、ISSに自動でランデブーした後、カナダアーム2によってハーモニー(ノード2)の共通結合機構 (CBM) に結合される。また、ドラゴンは大気圏再突入能力を備え、実験試料の回収や人員の帰還(有人型開発後)にも使用出来る。

開発

ドラゴンのエンジニアリングモデル

2009年、スペースX社の最高経営責任者イーロン・マスク氏は、スペースシャトルの最後の飛行スケジュールの前に2009年にドラゴン宇宙機の最初の飛行を行い、2010年にドラゴンのサービスを始めると述べた。[8] ファルコン9の2段目の試験の完了に続き、2010年1月の終わりには全てのコンポーネンツがケープカナベラルのスペースX社のハンガーに運び込まれた。[9] 2010年3月11日の1段目のマーリンエンジンの発射台での試験は、点火の2秒前に点火システムに問題が発生し試験を中止した。2日後の3月13日に再度試験を行い、1段目の9基のエンジンすべてが3.5秒間燃焼し完璧に成功した。[10]

2009年2月23日、スペースX社はドラゴン宇宙船の大気圏再突入のために選ばれていた耐熱シールド材にPICA-Xフェノール樹脂を含侵させた炭素繊維からなる耐熱材)の試験に成功したと発表した[11]。PICA-Xは、NASAが開発したPICA (phenolic impregnated carbon ablator) を改良したもので、NASAのPICAと比べても10倍安く製造できる。

当初、ドラゴン宇宙機の最初の打上げはファルコン9ロケットの2回目の飛行で行われる計画であった。しかし2009年の9月に、ドラゴン宇宙機の簡易モデルをファルコン9の最初の打上げで飛行させると発表した。このドラゴンの簡易モデルはドラゴン宇宙船の認定モデル英語版と呼び、カプセルの幾つかのシステムを検証するための地上試験用の模型として使用されていたものである。この最初の飛行では上昇中の空気力学データを取得し伝送することを主目的とした。[12] 内部が与圧された宇宙機としてのドラゴン宇宙船の初飛行は、2010年12月8日にファルコン9ロケットの2回目の打上げ時に行われた。

ドラゴンのドッキング目標システムはドラゴンアイ (DragonEye) と呼び、2009年のスペースシャトルエンデバーによるSTS-127ミッションでドッキングポートの近くに設置され、シャトルがISSに接近する際に試験が行われ、ドラゴンアイのLIDARサーモグラフィーの2つの装置の能力の確認に成功した。[13]ドラゴンアイは、2011年2月のSTS-133でも再び試験が行われた。[14]

ドラゴンの有人飛行ミッションの準備のため、スペースX社は2009年夏に、元宇宙飛行士のケネス・バウアーソックスを新しくつくった宇宙飛行士の安全およびミッション保障部門の部長 (vice president) として雇った。[15]

2010年11月22日、NASAは連邦航空局 (FAA) がドラゴンに商業用の宇宙船としては初めてとなる大気圏再突入の免許を交付したと発表した。[16]

2010年12月8日、無人の状態でドラゴンを地球周回軌道に投入する飛行試験が行われ、ドラゴンは地球を2周して無事に帰還した。これは民間の開発した宇宙船としては初の快挙となった。 しかし、2010年にイーロン・マスクCEOは、有人型ドラゴンの計画は現在進行中であり、完了するにはまだ2~3年はかかると何度も発言している。[17][18]

2012年5月22日、2度目の飛行試験が行われ、ランデブー試験の後、飛行4日目の25日についにISSとのドッキングを達成した[19]。こちらも民間の開発した宇宙船としては初の快挙となった。

NASAとの協力関係

商業貨物輸送機の契約

ISSにドッキングするドラゴン(2008年当時の想像図)

ドラゴンは2006年3月3日に、ISSへ貨物と乗員を輸送する目的のNASAの商業軌道輸送サービス (COTS) 計画へ提出されたスペースX社の提案の一部だった。COTSに提案したスペースX社のチームは、ISSのカナダアーム2を製造したカナダMDロボティックス英語版社を含む複数の企業から構成される。

2006年8月18日、NASAはスペースX社がキスラー・エアロスペース社と共にISSへの貨物打ち上げサービスの開発企業として選ばれた事を発表した。当初の計画ではスペースX社のドラゴンカプセルは2008年から2010年の間に3回の実証飛行を行う事になっていた。スペースX社はNASAが設定したマイルストーンを全て完了した場合、総額2億7800万ドルをNASAから受け取る予定だった。キスラー社はNASAに対する義務を果たす事に失敗し、契約は2007年に打ち切られた。[20][21][22] NASAは競争入札の終了後に、キスラー社に割り当てられていた予算を使って別企業と再度契約する事を決めた。[23] 2008年2月19日、NASAは新しい勝者としてオービタル・サイエンシズを選んだと発表した。[24]

NASAは2008年12月23日にスペースX社と貨物輸送契約に調印した。これは最低20,000 kg (44,000 lb) の貨物を12回の打ち上げでISSへ輸送するという総額16億ドルの契約で、オプションとして最大31億ドルにまで増える可能性がある。[25]

商業クルー輸送機の開発 (CCDev) 契約

2010年12月にスペースX社は、シャトルの退役後にISSへの宇宙飛行士の輸送を行うというNASAの商業クルー輸送機の開発 (Commercial Crew Development: CCDev) 計画への提案を提出した。CCDev-2契約の下で同社はドラゴン宇宙船の統合型の緊急脱出システムの開発を提案した。この提案では、従来の有人打ち上げで使われていた頂部に装備したロケットで引っ張り上げる牽引式ではなく、宇宙機の下側に装備したロケットで押し上げるタイプを採用した。 この方式の利点は、機体と一緒に帰還するため再使用が可能であり、上昇時の分離箇所がひとつ減るためミッションコストの低減と、クルーの安全性向上に寄与する。また着陸時にこのロケットを逆噴射させることにも使える可能性がある。この場合は、パラシュートを予備の着陸システムに使うことが出来る。 有人型ドラゴンとファルコン9の開発費用は、8億ドルから10億ドルになると見積もられている。 2011年4月にNASAは、CCDev-2計画の下で、スペースX社がサイドマウントタイプの緊急脱出システムと、クルー搭乗カプセルの開発のために7500万ドルの契約を受注したことを発表した。NASAは2016年までに、ISSへの商業クルー輸送機を飛行させる事を目指している スペースX社の緊急脱出システムは2011年10月にNASAから基本設計の承認を得た。2012年1月、スペースX社は着陸と緊急脱出に使われるスーパードラコロケットの長秒時燃焼試験に成功した。

打ち上げ記録

ファルコン9によるドラゴンの初打ち上げ

初飛行

2010年12月8日、無人のドラゴンを乗せたファルコン9ロケットがケープカナベラル空軍基地からCOTS実証飛行1回目英語版として打ち上げられた。打ち上げは成功し、打ち上げから約10分後にドラゴンカプセルはロケットから分離された。軌道離脱噴射の前に、高度約300kmで3時間の軌道変更試験が実施され、ドラゴンは再突入コースへ入りメキシコから約800km沖の太平洋上に着水した。スペースX社の社長であるGwynne Shotwellは、この飛行がNASAのCOTS契約に基づく3回の飛行試験の1回目であることを明らかにした。NASAはこの飛行の成功を喜んだが、ドラゴンの安全性が証明されるまでISSへのドラゴンの接近を認めない方針を維持した。 [26]

この飛行でドラゴンカプセルは乗員も実用的な貨物も輸送しなかったが、スペースX社のチームは小型の衛星と秘密のペイロードを打ち上げていた。飛行が成功した後、秘密の貨物は円盤のLe Brouèreチーズである事を明らかにした。イギリスのコメディシリーズ空飛ぶモンティ・パイソンのチーズショップスケッチに敬意を表したと言われた。スペースX社のCEOは着水後に行われた記者会見まで、同社の偉業が茶化されるのを恐れてこの貨物の内容を明らかにしなかった。[27]

打ち上げの一覧

打ち上げ日 ミッション名 搭載物 備考
2010年12月8日[28] COTS Demo Flight 1 なし。秘密の貨物として円盤のLe Brouèreチーズが積まれていた。 最初のドラゴンの飛行。ファルコン9の2度目の飛行。
2012年5月22日 COTS Demo Flight 2+ ISS補給物資、実験装置など520kg。 宇宙船として最初の使用。ISSへの最初のドッキング。
2012年8月[29] SpX-1 最初の商業補給サービス (Commercial Resupply Services, CRS)。

生産

2010年12月時点においてスペースX社の生産ラインでは3ヶ月毎に新しいドラゴン宇宙船が生産される。2012年には倍増して6週毎に1機が生産される予定である。[30]

構成・諸元

概念図。貨物型と人員型の比較。

貨物型

主要諸元[31]
  • 完全回収型カプセル部
    • 高さ 2.9 m
    • 底面直径 3.6 m
  • 再突入時に分離されるトランク部
    • 高さ 2.3 m
    • 直径 3.6 m
  • 拡張タイプのトランク部(オプション)
    • 高さ 4.3 m
    • 直径 3.6 m
  • カプセル部、トランク部合わせて 6,000kg の貨物打上能力
  • カプセルで回収できる貨物重量最大 3,000kg
  • ペイロード搭載部の容積
    • カプセル与圧部 10 m3
    • トランク非与圧部 14 m3
    • 拡張タイプのトランク(オプション)非与圧部 34 m3
  • 共通結合機構
  • ドラコ(ハイパーゴリック推進剤)姿勢・軌道制御ロケット 18基
  • フェノール樹脂含侵炭素繊維アブレータ(PICA-X)耐熱シールド
  • ミッション可能期間 1週間から2年

有人型

主要諸元
  • 最大7人搭乗可能

関連項目

参考文献

  1. ^ SpaceX Updates Archive for September 8, 2006, 2006-09-08, accessed 2010-10-19. "Bigelow Aerospace and SpaceX have an ongoing dialogue to ensure that F9/Dragon meets the human transportation needs of their planned space station as efficiently as possible."
  2. ^ a b c d e f Dragonlab datasheet, 2009-09-18. Retrieved 2010-10-19.
  3. ^ SpaceX Brochure – 2008” (PDF). 2010年12月9日閲覧。
  4. ^ 宇宙ステーション補給機「こうのとり」2号機(HTV2)ミッションプレスキット2010年. jaxa.(プレスリリース)
  5. ^ First commercial cargo ship arrives at space station. Spaceflight Now. 2012年5月27日閲覧
  6. ^ Clark, Stephen. “Second Falcon 9 rocket begins arriving at the Cape”. Spaceflight Now. 2010年7月16日閲覧。
  7. ^ “Private Rocket Builder Has High Hopes for 'Year of the Dragon'”. Space.com. http://www.space.com/14323-chinese-year-dragon-spacex-test.html 2012年5月18日閲覧。 
  8. ^ Elon Musk Presentation to Augustine Commission June 2009”. SpaceX. 2009年8月29日閲覧。
  9. ^ Safety approvals pacing Falcon 9 rocket launch date”. Spaceflight Now. 2010年2月24日閲覧。
  10. ^ http://www.spacex.com/updates.php
  11. ^ "SpaceX Manufactured Heat Shield Material Passes High Temperature Tests Simulating Reentry Heating Conditions of Dragon Spacecraft" (Press release). SpaceX. 23 February 2009. 2009年7月16日閲覧
  12. ^ Guy Norris (2009年9月20日). “SpaceX, Orbital Explore Using Their Launch Vehicles To Carry Humans”. Aviation Week. http://www.aviationweek.com/aw/generic/story.jsp?id=news/COTS09209.xml&channel=awst 
  13. ^ Update on September 23, 2009 from SpaceX
  14. ^ STS-133: SpaceX’s DragonEye set for late installation on Discovery”. NASASpaceFlight.com (2010年7月19日). 2009年閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  15. ^ "FORMER ASTRONAUT BOWERSOX JOINS SPACEX AS VICE PRESIDENT OF ASTRONAUT SAFETY AND MISSION ASSURANCE" (Press release). SpaceX. 18 June 2009. 2009年7月27日閲覧
  16. ^ "NASA Statements On FAA Granting Reentry License To SpaceX" (Press release). 22 November 2010.
  17. ^ This Week in Space interview with Elon Musk”. Spaceflight Now. 2010年1月24日閲覧。
  18. ^ Elon Musk's SpaceX presentation to the Augustine panel”. YouTube. June, 2009閲覧。
  19. ^ ドラゴン補給船の試験フライト C2+”. JAXA (2012年5月26日). 2012年5月27日閲覧。
  20. ^ NASA selects crew, cargo launch partners”. Spaceflight Now (2006年8月18日). 2010年閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  21. ^ NASA Selects Crew and Cargo Transportation to Orbit Partners”. SpaceRef (2006年8月18日). 2010年閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  22. ^ Alan Boyle英語版 (2006年8月18日). “SpaceX, Rocketplane win spaceship contest”. MSNBC. http://www.msnbc.msn.com/id/14411983/ 2010年閲覧。accessdateの記入に不備があります。 
  23. ^ Time Runs out for RpK; New COTS Competition Starts Immediately”. Space.com (2007年10月19日). 2010年12月9日閲覧。
  24. ^ NASASpaceflight.com – Orbital beat a dozen competitors to win NASA COTS contract[リンク切れ]
  25. ^ F9/Dragon Will Replace the Cargo Transport Function of the Space Shuttle after 2010”. SpaceX (2008年12月23日). 2009年1月26日閲覧。
  26. ^ Private space capsule's maiden voyage ends with splash”. bbc.co.uk. BBC News. 2010年12月9日閲覧。
  27. ^ SpaceX's 'secret' payload? A wheel of cheese”. latimes.com. LA Times (2010年12月9日). 2010年12月12日閲覧。
  28. ^ SpaceX Launches Success with Falcon 9/Dragon Flight”. NASA (2010年12月9日). 2012年4月11日閲覧。
  29. ^ Press Briefed On the Next Mission to the International Space Station”. NASA (2012年3月20日). 2012年4月11日閲覧。
  30. ^ Q & A with SpaceX CEO Elon Musk: Master of Private Space Dragons, Space.com英語版, 2010-12-08, accessed 2010-12-09. "now have Falcon 9 and Dragon in steady production at approximately one F9/Dragon every three months. The F9 production rate doubles to one every six weeks in 2012."
  31. ^ Dragonlab datasheet

外部リンク