宇宙ステーション補給機

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宇宙ステーション補給機
H-II Transfer Vehicle
HTV-1 approaches ISS.jpg
国際宇宙ステーションに接近するHTV初号機
詳細
目的: 国際宇宙ステーションへ食糧や衣類、与圧及び非与圧問わず各種実験装置などの補給物資を送り届ける
乗員: 無人
諸元
高さ: 9.6 m
直径: 4.4 m
ペイロード:(HTV-2以降) 合計:最大約6.0 t
(与圧部:約5.2 t)
(非与圧部:約1.5 t)
能力
持続性: ISSと30~最大60日間滞在可能
遠地点: 460 km
近地点: 350 km
軌道傾斜角: 51.6 度

宇宙ステーション補給機(うちゅうステーションほきゅうき、H-II Transfer Vehicle、略称: HTV)は、宇宙開発事業団(NASDA)と後継法人の宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が開発し三菱重工業三菱電機IHIエアロスペースなどの大小100社程度の企業が製造する、国際宇宙ステーション (ISS) で使う各種実験装置や宇宙飛行士の食糧や衣類の輸送業務を担う無人宇宙補給機である。愛称はこうのとり (KOUNOTORI) 。

概要[編集]

H-IIBロケットに搭載されて打ち上げられ、高度約400キロメートル上空の軌道上にある国際宇宙ステーション (ISS) へ食糧や衣類、各種実験装置などの最大6トンの補給物資を送り届ける。その後、使わなくなった実験機器や使用後の衣類などを積み込み、大気圏に再突入させて断熱圧縮によって焼却する。ISSにはハーモニー付近に設置されたロボットアームで掴んでハーモニーの下部の共通結合機構 (CBM) に結合させる方法が採られる。

開発の経緯[編集]

宇宙ステーションとドッキングするHTVの当時の予想図

1988年日本カナダアメリカ合衆国、および欧州宇宙機関 (ESA) 加盟国の政府間で宇宙基地協力協定 (IGA) が署名された[1]1993年ロシアも加わり、1994年に現在の国際宇宙ステーション計画が誕生した[1]。こうした中で、1994年7月の宇宙ステーション計画の了解覚書協議において、アメリカ航空宇宙局 (NASA) は宇宙ステーションへの輸送を、国際パートナーがスペースシャトルでの輸送経費を実費負担する方式から、各パートナーごとが輸送能力を提供することを原則とする方式への変更を提案した[1]

これを受け、日本の宇宙開発事業団(NASDA)は1995年に宇宙ステーション補給機の概念設計を開始し、1997年にHTV開発に着手した[1]1998年2月24日に署名された宇宙基地了解覚書 (MOU) においては、日本が国際宇宙ステーションへの補給義務を負うことが国際約束された[1]

その後、2003年コロンビア号空中分解事故によってスペースシャトルの退役への流れが加速したことにより、HTVを含めた無人宇宙補給機の重要性が高まっていった。当初、人工衛星基準の設計製作経験しかない日本がHTVをISSへ全自動ランデブーさせる構想を提案したことに対し、NASA側は難色を示し拒絶したという[2]

ちなみに、当初HTVはH-IIAロケットに液体ロケットブースター (LRB) 1基を追加した212型で打ち上げる前提で開発が進められていた。しかし再検討の結果、LRBを追加するより、1段目を大型化する方が経済性、確実性、輸送能力などの点でより優れていると判断され、H-IIBロケットの開発が決定した。

なお、日本ではHTVの前に再使用型宇宙往還機であるHOPE(ホープ、H-II Orbiting Plane)の開発が進められていた。HOPEはISSの輸送用途にも考えられていたが、再利用型より使い捨て型のHTVのほうが輸送コストのパフォーマンスが優れているということで、結局HOPEが採用されることはなかった[3]。なお後にHOPE開発自体凍結されている。

開発費[編集]

技術実証機の建造費約200億円を含んだ総開発費は677億円、2号機以降の1機あたり建造費は約140億円である。

愛称[編集]

1号機の打上げ時には、「おおすみ」や「はやぶさ」のような他の国産宇宙機に付けられる愛称はHTVにはつけられていなかった。この理由は使い捨てという用途のためであったが[4]、より親しみを持ってもらうために2010年8月27日から9月30日までの期間に愛称が一般公募され、同年11月11日に「こうのとり」という愛称が発表された[5]。選定理由は赤ん坊や幸せといった大切なものを運ぶコウノトリのイメージが、HTVのミッション内容を的確に表しているから、というものであった[5]。なお、有効応募総数は17,026件、「こうのとり」の提案者数は217名で[5]、提案者には特典として認定書・記念品が届けられ、抽選で選ばれた6組が、2号機から7号機まで毎回1組ずつ、名付け親の代表として種子島宇宙センターでの打上げを見守る。

構成[編集]

HTVの構成

HTVは当初から補給キャリアの組み替えにより様々な輸送需要に対応したり、将来は有人宇宙船や軌道間輸送機に発展させることを容易にするため、モジュール設計が行われている。まずは与圧物資と非与圧物資を搭載する「混載型」のみ開発したため、組み替え形態の開発は将来構想となったが、モジュール単位で開発して後で組み合わせることが可能になり、開発の効率化にも役立った。

大きく分けると、前側2/3程度が補給キャリア、後側1/3程度が電気・推進モジュールである。

補給キャリア[編集]

国際宇宙ステーション (ISS) に補給する物資を搭載する区画。与圧部と非与圧部からなる。ISSに補給品を送り届けた後、不要品を搭載して大気圏に突入し、焼却処分する役割も持つ。なお、開発初期段階では非与圧部がなく与圧部を大きくした構成も発表されていた。最近の構想図でも、与圧部のみの構成や非与圧部のみの構成が掲載されているが、将来このような様々な構成を使用する予定があるのかは未公表である。以下、混載型の補給キャリアについて解説する。

補給キャリア与圧部[編集]

与圧部内部

国際宇宙ステーション (ISS) の船内用補給品を搭載する区画。国際標準実験ラック (ISPR) またはHTV補給ラック (HRR) を合計8個搭載することができる。HRRは飲料水、食料、衣類等を輸送する際に用いるラックで、物資は物資輸送用バッグ(Cargo Transfer Bag:CTB)と呼ばれるISS標準のバッグでHRRに収められる。補給品は、ISS乗員が乗り込んで搬出するため、内部はISSと同じ1気圧の環境に保たれる。ISSを離れる際には、ISSの不要品(使用済みラック等の廃棄物)を積み込み、HTVごと大気圏に突入して廃棄される。補給キャリア与圧部は、HTVとISSの結合部でもある。先端部分には共通結合機構 (CBM) を装備しており、ISSのモジュールに結合することができる。通常、HTVはハーモニー(ノード2)の地球側結合部に接続される。

補給キャリア非与圧部[編集]

国際宇宙ステーション(ISS)の船外の宇宙空間に設置される曝露実験装置や予備部品を搭載する区画。過去の宇宙機では実績のない2.7m × 2.5mという大開口部を有しており、その中に曝露パレットを収納することができる。曝露パレット(Exposed Pallet: EP)は、「きぼう」船外実験プラットフォーム係留専用型と、多目的曝露パレット型の2タイプが用意されている。

  • 「きぼう」船外実験プラットフォーム係留専用型(I型)は、きぼうの船外実験プラットフォーム (EF) に取り付ける曝露実験装置を2 - 3個搭載する。HTVがISSに接続されると、パレットはカナダアーム2で把持されて補給キャリア非与圧部から引き出され、きぼうのロボットアーム (JEMRMS) に受渡した後、EFの先端に仮置きされる。HTV技術実証機ではこのタイプが使用され、日米の曝露実験装置2個を搭載した。HTV2号機では米国の曝露機器2台を運搬したが、このI型が使われた。
  • 多目的曝露パレット型(EP-MP型)は、カナダアーム2により引き出された後、ISSのトラス上のモービル・ベース・システム (Mobile Base System: MBS) に仮置きするタイプと、I型と同様にEFに仮置きするタイプの2つがある。ORUには様々なものがあるが、ISSのバッテリORU(軌道上交換ユニット)の場合は6個搭載することができる。EP-MP型は、HTV3号機から使われる。

電気モジュール[編集]

誘導制御系・電力供給系・通信データ処理系・通信系の電子機器を搭載する。なお、太陽電池はプログレスATVと異なり、パドル形ではなく、電気モジュールや補給キャリアの外面に取り付けられる。これはHTVがプログレスやATVのような自動ドッキングではなく、共通結合機構(CBM)を用いての接続のため、カナダアーム2による把持(キャプチャ)させるためにはパドルがあると邪魔になるからである。しかし、HTVと同じ結合方式となる米国の商業補給機ドラゴンシグナスは太陽電池パドルを使う方式を採用しており、設計次第ではどちらでも可能である。

推進モジュール[編集]

軌道変更や姿勢制御のための推進装置を装備する区画。燃料(MMH: モノメチルヒドラジン)タンク2基、酸化剤(MON3: 窒素添加四酸化二窒素)タンク2基、軌道変換用メインエンジン4基、姿勢制御用RCSスラスタ28基を装備する。実証機と2号機と4号機のメインエンジン (R-4D) とRCSスラスタ (R-1E) は、米エアロジェット社製であるが[6]、3号機と5号機以降はIHIエアロスペース社製の国産品(メインエンジンはHBT-5、RCSスラスタはHBT-1)に置き換えられる[7][8]

フェアリング[編集]

フェアリングは本来、H-IIBロケットに含まれる部分であるが、HTV打ち上げ時には専用の5S-H型を使用する。通常の5S型フェアリングより全長が長く、上部に1.4m四方のハッチがあり、HTVをフェアリングに収めた後も補給キャリアに入室でき、搭載試料を打ち上げ直前にも搬入することができる。

運用[編集]

HTVのドッキング位置
近接運用図

打ち上げ〜ランデブ[編集]

H-IIBロケットで高度200km/300kmの楕円軌道に打ち上げられたHTVは、NASAの追跡・データ中継衛星TDRSとの通信を開始し、筑波宇宙センターにあるHTV管制センター (HTV-CC) の管制を受ける。HTVが正常であることが確認されると、約3日間掛けて国際宇宙ステーション (ISS) から23kmの位置まで接近する。

この距離では、きぼうに設置された近傍域通信システム (PROX) との通信が可能になる。きぼうに搭載されているGPS受信機を利用したGPS相対航法 (RGPS) により、ISSと同じ高度で、ISSの5km後方の接近開始点 (AI点 (Approach Initiation Point)) に投入される。AI点まで正常な状態が確認できれば、AIマニューバ(AI Maneuver)により接近を継続する。何らかの理由で接近を中断したい場合は、AI点にて相対的に停止(ISSと一定の位置関係を保持)する。

接近〜ISSへの結合[編集]

まず、RGPSによりISSの下方500mのRバー [9]開始点(R-bar Initiation:RI)に接近する。きぼう (JEM) の下部には反射板(コーナーキューブリフレクタ)が取り付けられており、これにレーザーを当てて正確な位置を測定しながら、ゆっくりと接近する(ランデブセンサ航法)。接近速度は毎分1 - 10mで、ISSもしくは地上から接近の一時停止や一旦後退、中止などの操作ができる。途中300mの位置で一旦停止し、ヨーマニューバを実施してヨー姿勢を0°に戻し、接近を再開する。最終的に、きぼう (JEM) の下方約10mの把持点 (BP (Berthing Point)) で、HTVは停止する。

プログレス補給船欧州補給機 (ATV) と異なり、HTVは自動ドッキングは行わない。他のCBMを使用するモジュールと同様、HTVはカナダアーム2で握持されて手動操作で結合する。まず、HTVは安全確保のため全てのスラスタを停止して待機する。次に、カナダアーム2がHTVを握持し、ハーモニーの地球側結合部に取り付ける。

手動での結合[編集]

プログレスやATV(ロシア側のアンドロジナスドッキング機構を採用)と異なり、手動での結合方式を採用したが、それは結合に利用するISSの共通結合機構 (CBM) が、自動ドッキングを行う設計ではない(ターゲットマーカーが無い・ドッキング時の衝撃負荷に耐えられない・その他)からである。

この接続方式の採用により、ハッチが1.2×1.2mの正方形(プログレスやATVのハッチは内径80cmの円形)となり[10]、プログレスやATVと比べてより大きな物資の搬出が可能となった[11]

係留中[編集]

こうのとり2号機

HTVがドッキングするハーモニーはISSの最前部であり、HTVを使用してISSのリブーストを行うことはない。前述の通り、補給キャリアから補給品の取り出しと不要品の積み込みが行われると、HTVはISSから離脱する。

HTVの係留中にスペースシャトルがドッキングする場合は、HTVのすぐ隣にシャトルのペイロードベイが位置してしまい、物資搬出に支障を来す。特にMPLMを輸送するミッションの場合、MPLMが結合に使用するハーモニーの地球側結合部をHTVが塞ぐことになる。このような場合は、あらかじめHTVをハーモニーの天頂側結合部に移しておく必要がある[12]。実際に、HTV2号機では、STS-133の到着に備えて、HTV2をハーモニーの天頂側結合部に移動させた。ハーモニー天頂側はセントリフュージが使用する予定だったが、セントリフュージの計画中止で空いており、過去にはきぼう船内保管室の仮設置に使われた。

分離、廃棄[編集]

CBMから分離すると、HTVはカナダアーム2でISSから離れた場所まで移動した後、把持を開放して放出され、ISSから遠ざかる。軌道離脱の噴射を行い、通常は南太平洋、場合によってはインド洋に再突入する。再突入時に発生する1000度以上の高温に耐えられる耐熱金属等でできた一部の部品(噴射ノズルやタンク等)を除き、確実に燃え尽きるように設計されており、アルミ合金・特殊樹脂などでできた本体、廃棄された不要品ともども大部分が燃え尽きその任を終える[11]。燃え尽きなかったごくわずかの部品は南太平洋、またはインド洋の海中に消えることになる。

諸元[編集]

  • 全長 9.6m
  • 直径 4.4m
  • 質量 約10.5トン(補給品除く)
  • 補給能力[13]
宇宙ステーション
への補給能力
技術実証機実績
HTV1
運用機HTV2〜
合計 5.3 t 最大 6.0 t
船内物資 4.0 t 最大 5.2 t
船外物資 1.3 t 最大 1.5 t
総質量(参考) 16.0 t 最大16.5 t
  • 廃棄品搭載能力 約6トン
  • 目標軌道(ISS軌道)
    • 高度:350km - 460km
    • 軌道傾斜角:約51.6度
  • ミッション時間
    • 単独飛行能力:約100時間
    • 軌道上待機能力:1週間以上
    • ISS滞在可能期間:30~最大60日間

実績[編集]

打ち上げ実績[編集]

機体名 画像 打ち上げ日時
JST
結合日時
(JST)
与圧部積荷 非与圧部積荷 分離日時 再突入日時
HTV技術実証機 HTV after grapple.jpg 2009年9月11日
2時1分46秒[14]
2009年9月18日
4時51分[11]
PSRR (Pressurized Stowage Resupply Rack):「きぼう」保管ラック 1台
各種補給品を搭載するHRR (HTV Resupply Rack):HTV補給ラック 7台
超伝導サブミリ波リム放射サウンダ (SMILES)
NASAのHREP(HICO&RAID Experimental Payload)
2009年10月31日
2時32分
2009年11月2日
6時26分
こうのとり2号機 ISS-27 HTV-2 unberth for release.jpg 2011年1月22日
14時37分57秒[15]
2011年1月28日
3時38分
勾配炉ラック 1台[16]
多目的実験ラック 1台[17]
食料・飲料水[18]・衣服・保守部品など補給物資[17]
カーゴ輸送コンテナ (CTC) [19]
フレックス・ホース・ロータリ・カプラ (FHRC) [19]
2011年3月28日
22時29分
2011年3月30日
12時9分
こうのとり3号機 HTV-3 berthed to Harmony nadir.jpg 2012年7月21日
11時6分18秒[20]
2012年7月28日
2時31分
搭乗員用食料・衣服・保全品等の補給物資
水棲生物実験装置 (AQH)
NASAの水再生システム
日本の冷却水循環ポンプ
再突入データ収集装置(i-Ball)
小型衛星放出機構とCubeSat 5機を運搬
ポート共有実験装置 (MCE) [21]
SCAN Testbed (NASAの実験装置)[21]
2012年9月13日
0時50分
2012年9月14日
14時27分
こうのとり4号機 ISS-36 HTV-4 berthing 1.jpg 2013年8月4日
4時48分46秒[22]
2013年8月9日
20時22分
「きぼう」日本実験棟で実施される実験サンプル
「きぼう」搭載用ポータブル冷凍・冷蔵庫(FROST)
「きぼう」輸送用ポータブル保冷ボックス(ICE Box)
再突入データ収集装置(i-Ball)
搭乗員用食料・衣服・保全品等の補給物資
CubeSat 4機を運搬
電力系統切替装置(MBSU)
電力・通信インターフェース機器(UTA)
複数の実験装置を混載した米国の実験ペイロードSTP-H4 (Space Test Program - Houston 4)
2013年9月7日
15時37分

打ち上げ予定[編集]

HTV5以降の打ち上げ予定は未公表だが、年1機のペースで計7機の打ち上げを見込んでいる[11]。なお、ISSは2020年まで運用が延長されることになったため、2015年以降も打ち上げは継続されると想定される。JAXAは2010年代半ばには、回収機能付加型HTV(HTV-R)を導入することを目指して検討が進められている。

他の輸送手段との比較[編集]

スペースシャトルが退役した2010年時点で、ISSへ物資を輸送する手段はHTVのほか、ロシアのプログレス補給船と、欧州の欧州補給機 (ATV) があった。しかしプログレスとATVは、共通結合機構(CBM、ハッチ形状は1.27m(=50インチ) × 1.27mの正方形の物資を通す事ができる角丸正方形)より小さなドッキング装置のハッチ(直径80cm)を用いるため、国際標準実験ラック (ISPR) はこのドッキング装置のハッチを通過することができず、輸送できなかった。また、定期的に交換するバッテリーなどの軌道上交換ユニット (ORU) も輸送することができなかった。これらの補給品は従来、スペースシャトルの多目的補給モジュール (MPLM) や曝露機器輸送用キャリア (ICC-VLD) で輸送していたが、シャトルが退役したことで、ドラゴン宇宙船商業軌道輸送サービスによる物資輸送が始まった2012年までは、HTVが唯一の輸送手段であった。なお、国際標準実験ラック (ISPR) に関しては、計画中のものも含めてもHTV以外に輸送できる宇宙機はない。

なおプログレスとATVは、ハッチを通過できる小型の補給品のほか、ISSの推進剤を補給するためのタンクとパイプを搭載しているが、HTVでは推進剤を輸送する能力はない。プログレスとATVはISSの進行方向最後尾にドッキングすることもあり、自らの推進機能を利用してISSをリブースト(微小な空気抵抗により自然に高度が下がっていくISSを、運用要求に応じた高度まで押し上げること)することができるが、HTVはISSの最前部に進行方向に対して垂直に結合することもあり、リブースト能力は持たない。

小型の実験機材や食料、衣料などは、HTVやプログレス、ATVのいずれでも輸送することができる。これらは与圧室内に搭載され、ISS搭乗員が運搬する。廃棄時も同様である。

ランデブー・結合システム[編集]

HTVの場合、ISSとのランデブー・結合システムは従来のものと異なっている。他の宇宙船はロシア製の自動ドッキングシステム(アンドロジナスドッキング機構)を使用するが、HTVは世界で初めて「ランデブー飛行により接近した後、相対的に停止させ、ロボットアームで把持して結合させる」という、キャプチャー・バーシング方式が採用されている。この方式は、米国の民間会社2社が開発するCOTS宇宙機でも採用された[23]

なお、無人ランデブー技術には技術試験衛星きく7号の実証経験が活用されている[24]

NASAによる利用の可能性[編集]

2008年7月20日の読売新聞朝刊1面トップに、NASAがスペースシャトルの退役後、HTVを購入する計画があるという内容が掲載された[25]。しかし7月21日、NASAは公式サイトにて「そのような事実は公式、非公式問わず検討したことはない」と完全否定した[25]

シャトル退役以降のISSへのアメリカ担当分の補給手段として、NASAは現在民間開発による商業軌道輸送サービス (COTS) を利用する予定である。COTSにおいてロッキード社アトラスロケットを用いてHTVを打ち上げる事を視野に入れたが、すぐに断念した。

なお、HTVはもともと日本だけの物資を輸送するための輸送機ではなく、NASAの実験装置や各種補給品も搭載するため、購入はともかく利用は既に行われている[26]

改良[編集]

HTVの打ち上げは2015年までに7機を予定しており、この間にも改良が行われており、HTV3で国産化のための改良は完了した。以下に公表されている改良内容(採用未定のものを含む)を挙げる。

LED照明の採用[編集]

補給部与圧区内の照明にはISS共通の蛍光灯が使用されている。この蛍光灯はアメリカ製で、割れてもガラス水銀が飛散しないなど宇宙での使用に対応した特別品である。ISS計画の遅れや延長による経年劣化もあり、ISS内で点灯しなくなるものが相次いでいる。そこで、HTV用に発光ダイオード (LED) を使用したLED照明装置が開発され、2010年打ち上げの2号機から搭載された。この照明装置はパナソニック電工がJAXAの事業公募制度「宇宙オープンラボ」 に応募して採用されたもので、LEDは蛍光灯と比べ劣化や故障が起きにくく、万一故障しても20個のLEDと2組の電源回路を使用するため完全に不点灯になる可能性が低いとされている。まずHTVで使用されるが、引き続きISS本体にも採用するため、検討が行われている[27]。蛍光灯、LED照明いずれの場合もISSからの離脱前に取り外され、ISSでの予備品として保管されている。

メインエンジンとスラスタの国産化[編集]

実証機、2号機、4号機の推進モジュールには前述のようにエアロジェット製のメインエンジンとスラスタが使用されている。これはHTVが計画された1990年代にはまだ国産スラスタの軌道上実績が乏しかったためである[28]2000年代以降はBT-4BT-6といった国産スラスタが多くの軌道上実績を挙げており、国産スラスタでも十分な信頼性が確保できるとの判断から国産化されることになり、メインエンジンにはHBT-5、スラスタにはHBT-1が採用された(IHIエアロスペース製)[28]。ISS接近時や再突入時等の熱負荷が大きかったため、国産品開発では熱安定性の向上が求められ、燃焼室根元部温度の安定化、燃焼振動の抑制を実現した[7]。開発したRCS/メインスラスタは共にマルチエレメント型でフィルム冷却のインジェクタ方式である[7]。当初は2号機以降で適用される予定であったが[28]、2008年の変更で3号機以降で適用される予定となった(実際にはHTV3号機と5号機以降で使用されることになった)[29][30]

蓄電池の改良[編集]

HTVは当初、一次電池のみを搭載する予定だったが、開発途中で太陽電池蓄電池を追加した。その後、高性能の宇宙用一次電池が入手できなくなったため、どちらも同じリチウムイオン二次電池を使用することになった。しかし当初の設計を引き継いでいるため、一次電池の代わりに搭載した電池は太陽電池で充電することができず、電池が重複して搭載された設計になってしまっている。そこで、地上で充電した蓄電池に、軌道上で太陽電池から充電できるよう回路の設計を変更し、総重量の1割程度を占めている蓄電池を削減することが検討されている。

太陽電池のパドル化[編集]

HTVは太陽電池を本体表面に貼り付けているため放熱特性を悪化させている。HTVのモジュール設計を生かし汎用軌道間輸送機として使用する場合、太陽電池をパドル化することで、放熱特性改善による軽量化や、発電効率改善による太陽電池軽量化、飛行姿勢の自由度改善を図ることも検討された(検討のみで採用はされず)。

H-IIBロケットとの接続部改善[編集]

H-IIBの第2段はH-IIAと共通のため、衛星搭載部の直径が3.2mであり、直径4mのHTVは裾を絞った形状になっている。H-IIBの衛星搭載部を4mに拡大すれば、HTVの構造を簡素化でき、軽量化につながる。また、H-IIBの2段目自体を1段目と同じ直径5.2m程度に大型化すれば、推進剤を増量してHTVの総重量を増加することも可能になる。これらの改良で補給品搭載量を増加できるほか、後述する発展型の開発にも活用できる。

回収機能付加型宇宙ステーション補給機 (HTV-R)[編集]

スペースシャトルの退役により、ISSから実験試料などを持ち帰る手段が減少する。2010年の時点で確実に使用可能な手段はソユーズ宇宙船のみであり、搭載できる物資は1機あたり60kgに限られることから、日本独自の回収手段の技術検討を開始した[31]。これにより、将来の有人宇宙船開発に向けて、大気圏再突入の経験を積むことにもなる。

当初、HTV-Rの案には以下の3つが挙げられていた。

  1. 与圧部内搭載型小型カプセル案(オプション0)
  2. 非与圧部内搭載型(オプション1)
  3. 与圧部置換型(オプション2)

オプション0は、現行のHTVをほぼそのまま流用できるため、回収できる重量は小さくなるものの、最も早く回収能力を獲得できる事が利点とされた。 オプション1は、経費を抑えるため、現行のHTVに対して与圧部から非与圧部に設置する帰還モジュールへのアクセス経路を追加し、非与圧部に収まる大きさで有人機に近いレベルでの帰還能力と300キログラムの回収能力を獲得する案であり、オプション2は与圧部全体を将来の有人機に近い形状の回収モジュールに置き換え、有人機に近い形状での帰還能力と無人機として1.6トンの回収能力を獲得する案であった。

採用案はオプション2で、2012年8月の宇宙政策委員会第2回会合時点で、2018年度以降の打上げが検討されている[32]。しかし、2013年10月の第57回宇宙科学技術連合講演会では、予算の問題から開発期間の短縮を図った上記の設計は意味がなくなったとして、デザインを全面的に一新したドラゴン宇宙船に近い案が公表されている[33]

発展型の展望[編集]

HTVは人間を乗せての打ち上げこそ行わないものの、ISS係留中に人が立ち入ることができる安全性を有し、無人での単独飛行が可能な宇宙船であることから、HTVを基点とした発展型が構想されている。なお、これらの構想は論文等で公表されているが、正式に開発が決定したものではないことに留意されたい[34][35]

月軌道間輸送機[編集]

HTVの推進系を性能向上することで、ISSと月軌道などを連絡する、月軌道間輸送機を開発することが構想されている。また、開発中のLNG推進系は液体水素より宇宙空間での保存が容易で、ヒドラジンより性能や安全性が高いことから、月軌道間輸送機の推進剤にも適しているとして、HTVと組み合わせることで月軌道間輸送機を実現する構想となっている。

有人宇宙船[編集]

JAXAは2015年に有人宇宙船開発の判断を行い、2025年に実用化することを掲げている。HTVはISS係留中に宇宙飛行士が立ち入るため、有人宇宙船に相当する安全性を備えていることから、日本の有人宇宙船開発の基本になるものと位置付けられている。このため、上述の回収機能付加型宇宙ステーション補給機 (HTV-R) を実用化するなど、有人宇宙船の要素技術を開発し、2015年までに有人宇宙船の開発計画をまとめる方針である。構想では2020年までにHTV-Rを発展させた有人回収カプセルと、無人の有翼再使用型回収システムを開発する。これらを統合し、2025年までに再使用型有人宇宙船を開発するとしている。

2008年6月に発表された構想[35]によれば、HTVの推進モジュールに4人乗りの有人カプセルを組み合わせることを基本とする。最小構成の重量は6tで、H-IIA202型ロケットでの打ち上げも可能だが、脱出ロケットを持たないため有人打ち上げはできない。最大構成では、脱出ロケットや居住モジュールも搭載され、H-IIBロケットの2段目を大型化して対応する。なお、この構想は2001年にNASDA先端ミッション研究センターが構想を発表した「ふじ」と共通点が多い[36]

ソユーズ神舟は上から順に脱出ロケット、居住モジュールに相当する部分、有人カプセル、電気・推進部の順なので、脱出ロケットは補給キャリアごとカプセルを脱出させる。HTV有人型は有人カプセル、推進モジュール、居住モジュールの順になるので、脱出時は有人カプセルのみを脱出させる。軌道に到達すると、補給キャリアを後方から前方に入れ替え、ソユーズなどと同じ構成になる。

日本単独宇宙ステーション[編集]

HTVを基に、日本独自の宇宙ステーションを建設する構想も存在している。補給キャリアの代わりに宇宙ステーションのモジュールを搭載して打ち上げたり、HTV自体を宇宙ステーションの推進機能として利用することが考えられている。

これは、ロシアの宇宙ステーションと同じ手法である。ミールやISSのロシア製モジュールの多くはTKS宇宙船を基に開発したため、自力でISSにドッキングすることが可能で、ISSの高度や姿勢を制御するのにも使われている。また中国の神舟宇宙船も、軌道船と組み合わせて宇宙ステーションとして使用することが想定されている。

JAXAの一案では、HTVを基にした推進モジュールや、HTVで輸送される太陽電池アレイ、居住モジュールを打ち上げ、これと既存のきぼうを組み合わせることで日本独自の小型宇宙ステーション (JSS) を実現する。なお、宇宙政策シンクタンク「宙の会」がこれとほぼ同じ趣旨の構想を発表しているが、こちらはきぼう以外にもISSのモジュールを流用しているため、より大型である。

情報漏洩事件[編集]

備考[編集]

  • HTVのアイデアそのものは古く、H-IIロケット開発時のイラストには、先端に共通結合機構 (CBM) を装備した与圧キャリアらしきものを搭載したH-IIロケットもある。また、この構想の延長として、能力を2倍から3倍に向上したH-IIロケット派生型を用いて、宇宙ステーションの日本実験棟(現在のきぼう)を独自に打ち上げることも検討された[37]が、これは実現しなかった。


実物大展示モデル[編集]

HTVの実物大展示モデルは、JAXA筑波宇宙センターの展示館「スペースドーム」内に垂直に立てられた状態で展示されている。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e 虎野吉彦. “宇宙ステーション補給機技術実証機(HTV1)プロジェクトに係る事後評価について”. JAXA. 2010年11月11日閲覧。
  2. ^ “H-II Transfer Vehicle〜日本初 宇宙ステーション補給機HTVプロジェクトの軌跡”. http://www.youtube.com/watch?v=rWOZRXiGyoE 
  3. ^ 白田英雄. “日本宇宙開拓史 第9章 日本製スペースシャトル”. 2010年11月11日閲覧。
  4. ^ “国産衛星:はやぶさ、おおすみ…誰が命名?”. 毎日新聞. (2009年11月21日). http://mainichi.jp/select/science/news/20091121k0000e040048000c.html 2009年11月21日閲覧。 
  5. ^ a b c 宇宙ステーション補給機(HTV)の愛称選定について”. JAXA. 2010年11月11日閲覧。
  6. ^ "Aerojet Engines Power Japanese HTV Mission to International Space Station" 2009年9月17日
  7. ^ a b c 日本航空宇宙学会誌 Vol.58 No.682 2010.11 P343「特集 宇宙ステーション補給機(HTV) 第6回 HTV推進系の開発」 5.今後の開発計画(P346-347)
  8. ^ “HTV3プレスキット”. JAXA. (2012年6月1日). http://iss.jaxa.jp/htv/mission/htv-3/library/presskit/ 2012年6月3日閲覧。 
  9. ^ 参考:JAXAの解説ページ
  10. ^ 虎野吉彦. “宇宙ステーション補給機 (HTV) 報道機関向け説明資料 (PDF)”. JAXA. 2010年11月11日閲覧。
  11. ^ a b c d 補給機HTV、宇宙基地接続成功 物資輸送の第一歩 - 47NEWS 2009年9月18日
  12. ^ 「STS-127(2J/A)プレスキット」 2009年7月8日 宇宙航空研究開発機構
  13. ^ “宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の概要” (日本語). JAXA. (2011年1月6日). http://www.jaxa.jp/countdown/h2bf2/overview/htv_j.html 2011年1月10日閲覧。 
  14. ^ H-IIBロケット試験機による宇宙ステーション補給機(HTV)技術実証機の打上げ結果について” (2009年9月11日). 2009年9月27日閲覧。
  15. ^ H-IIBロケット2号機による宇宙ステーション補給機「こうのとり」2号機(HTV2)の打上げ結果について(速報)” (2011年1月26日). 2011年2月5日閲覧。
  16. ^ きぼう日本実験棟 全体スケジュール - JAXA
  17. ^ a b 宇宙ステーション補給機2号機(HTV2)の準備状況について - JAXA
  18. ^ 当初アメリカから搬送予定だったが、コストがかさむため、NASAの要請により種子島宇宙センター内の貯水池の水(すなわち水道水)に変更。(2010年11月17日付 南日本新聞報道)
  19. ^ a b HTV2号機の打上げに向け、曝露パレットにNASAの物資を搭載 - JAXA 宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター
  20. ^ H-IIBロケット3号機による 宇宙ステーション補給機「こうのとり」3号機(HTV3)の打上げ結果について” (2012年7月21日). 2012年7月21日閲覧。
  21. ^ a b HTV-2ミッションプレスキット (PDF)”. JAXA (2010年12月24日). 2010年12月25日閲覧。
  22. ^ H-IIB ロケット4号機 による宇宙ステーション補給機「こうのとり」4号機(HTV4)の打上げ結果について” (2013年8月4日). 2013年8月4日閲覧。
  23. ^ 宇宙開発に関する重要な研究開発の評価 HTV1プロジェクトの事後評価結果 (案)”. 宇宙開発委員会 推進部会 (2010年10月18日). 2011年2月12日閲覧。
  24. ^ 平成18年版 文部科学白書 第2部 第6章 第3節 5.宇宙・航空分野 第3節”. 文部科学省. 2011年2月12日閲覧。
  25. ^ a b “NASA声明、HTVの購入を否定”. sorae.jp. http://www.sorae.jp/030612/2493.html 2010年11月11日閲覧。 
  26. ^ 例えばHTV-1の非与圧部にはNASAのHREPが積載された。
  27. ^ パナソニック電工プレスリリース
  28. ^ a b c 『IHI航空宇宙50年の歩み』 「IHI航空宇宙50年の歩み」編纂委員会、IHI、東京、2007年6月、226-227頁。
  29. ^ 平成20事業年度事業報告書(平成20年4月1日〜平成21年3月31日) (PDF)”. JAXA (2009年7月2日). 2010年12月25日閲覧。
  30. ^ 平成21事業年度事業報告書(平成21年4月1日〜平成22年3月31日) (PDF)”. JAXA (2010年9月22日). 2010年12月25日閲覧。
  31. ^ 独立行政法人宇宙航空研究開発機構の平成22年度の業務運営に関する計画(年度計画) 4. 国際宇宙ステーション(ISS)(2)宇宙ステーション補給機(HTV)の開発・運用 (PDF)
  32. ^ 宇宙ステーション補給機への回収機能の付加(HTV-R) (PDF)
  33. ^ 第57回宇宙科学技術連合講演会”. Togetter (2013年10月10日). 2013年10月26日閲覧。
  34. ^ 「宇宙輸送系の現状と展望」宇宙航空研究開発機構(JAXA)将来宇宙輸送系研究センター 中安英彦[1]
  35. ^ a b Takane Imada, Michio Ito, Shinichi Takata (2008年6月). “Preliminary Study for Manned Spacecraft with Escape System and H-IIB Rocket (PDF)”. 26th ISTS. 2010年12月25日閲覧。
  36. ^ 「日本独自の有人宇宙船構想」宇宙開発事業団先端ミッション研究センター 野田篤司[2]
  37. ^ 五代富文 『国産ロケットH-II宇宙への挑戦 最先端技術にかけた男たちの夢』 徳間書店、1994年4月30日、228-229頁。ISBN 4-19-860100-3

関連項目[編集]

外部リンク[編集]