ガソリン
ガソリン(米:Gasoline)とは、石油製品のひとつである。沸点が摂氏30度から220度の範囲にある石油製品(および中間製品)の総称である。この名称は、gas(ガス)とアルコールやフェノール類の接尾辞であるolと不飽和炭化水素の接尾辞であるineに由来する。米国ではガス (gas) と呼ばれることが多く、燃料切れを意味するガス欠はこれに由来する。日本の法令などでは揮発油(きはつゆ)と呼ばれる場合がある。
概要
ガソリンは常温において無色透明の液体で、揮発性が高く臭気を放つ。主成分は炭素と水素が結びついた、炭素数4 - 10の炭化水素の混合物で、密度は一般に783 kg/m3である。硫黄や窒化物などの不純物が含まれているが、製品にする際は脱硫などの工程により大部分が取り除かれる。引火点は-40℃以下で常温でも火を近づければ燃焼する。揮発したガソリンは空気より重いため、床面または地面など低いところに沿って広がる。
燃料としてガソリンエンジンや一部の携帯用コンロなどに使われ、燃料用のガソリンは灯油などと区別しやすいよう赤褐色または青色に着色されている。完全に燃焼することで二酸化炭素 (CO2) と水 (H2O) になるが、不完全燃焼を起こすと一酸化炭素や炭素が多くなる。理論上、ガソリン1gの燃焼には空気14.7gが必要である。この比率は理論空燃比とも呼ばれ、今日の各種の排ガス規制をクリアするために内燃機関メーカーは様々な対策をエンジンに施し、この理論空燃比に近づけるようにしている。
ガソリンのうち低沸点(摂氏30 - 120度程度)のものは、日本ではベンジンと呼ばれ、溶剤やしみ抜きなどに用いられる。、衣類などの脂溶性の汚れをとるための溶剤としても使われる。
ナフサを直留ガソリン、粗製ガソリンと呼び、ナフサを接触改質し芳香族を高めたものを改質ガソリンと呼ぶ。重質の石油留分を接触分解または熱分解で分解して製造したガソリンを分解ガソリンと呼ぶ。エチレンプラントでのナフサ熱分解によって得られる液体生成物もまた分解ガソリンと呼ばれる。この分解ガソリンは通常は燃料として使用されず[要出典]、分離精製して芳香族炭化水素等の石油化学製品となる。この意味での分解ガソリンの2004年度日本国内生産量は5,599,386t、工業消費量は4,852,603tである。
日本での規格と法規による扱い
消防法第2条第7項に定義される危険物に該当し、第4類危険物の第1石油類に分類される。政令や火災予防に関する市町村の条例によって危険物の取り扱いには規制が設けられている。
ガソリンの組成、品質は日本工業規格 (JIS) で規定されている。
生産
ガソリンは高度な石油化学工業によって作られる製品であるため、ガソリンの生産には大規模で高度な石油化学工場が必要となる。このため、産油国の中でも自国で消費されるガソリンを全て自国で生産できる国はサウジアラビアぐらいで、ほとんどの産油国が原油を輸出してガソリンを輸入している。イランなど消費量の60%を輸入に頼っており、経済制裁を受けると産油国でありながらガソリンが不足するという現象が起きる。国によっては産油国でありながらガソリンを100%輸入に頼るほどである。
自動車用ガソリン
最も多く消費されるタイプのガソリンである。JIS K2202によって規格化されている。冬の低温の中でもエンジンが始動し、夏の暑さでもパーコレーションを起こさず、また、腐食性などがないことが要求される。日本のガソリンの中で最も多く消費されているのはレギュラーガソリンで、単に「ガソリン」または「レギュラー」、「ノーマルガソリン」などと呼ばれる。
古くはノッキング防止と動弁系部品の減摩剤としてテトラエチル鉛を添加した有鉛ガソリンが自動車用ガソリンとして使われていたが、無鉛化の動きにより規制され、現在は公道を走る自動車のガソリンは全て無鉛ガソリンになっている。
近年、含有するベンゼンの有害性から、業界自体が低ベンゼンの製品を強く推進するようになっている。日本国内で、市販自動車用ガソリンとして低ベンゼン製品の販売を最初に開始したのは出光興産で、その後、他社も追随するようになった。
環境特性の強化から、循環利用できる燃料として、バイオマスエタノールとよばれる植物由来のアルコールを従来のガソリンに混合し燃料として利用する法制化が2006年、日本においても行われつつある。エタノールを混合したガソリンのことをガスホール(ガソリン+アルコールの造語)と呼ぶ。
また、二酸化炭素の排出量削減のため、植物由来のエタノールとイソブテンを反応させたエチルターシャリーブチルエーテルを一般のガソリンに対して数%混合させたバイオガソリンも2007年4月27日より東京圏のガソリンスタンドで販売され始めた。植物は大気中の二酸化炭素を吸収しており、その植物原料からの燃料ならば、燃焼させて二酸化炭素に変わっても二酸化炭素の絶対量は増えないと考えられている(カーボンニュートラルも参照)。しかし、エチルターシャリーブチルエーテルは毒性が高いというデータがある。ACGIHから発表されたTLV-TWAは、エチルターシャリーブチルエーテルにおいて5ppmとされている。
ガソリンスタンドで販売される。
一般的にどの国でも軽油・灯油との区別・識別のために着色されており、日本ではオレンジ色に着色するよう定められている。
ガソリン税
ガソリン税(ガソリンぜい)とは、正式には「揮発油税及び地方揮発油税」のこと。これらの税額は、地方揮発油税は当分の間ガソリン1キロリットルあたり5,200円、揮発油税は1キロリットルあたり24,300円であるが、揮発油税については租税特別措置法の規定により倍額され、1キロリットル当たり48,600円となっている。なお、同法(租税特別措置法)は2008年4月1日から同年4月30日の間、一時的に失効された。また、沖縄については沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律(昭和46年法律第129号)、沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令(昭和47年政令第151号)に基づき、揮発油税は42,277円となっている。
2010年2月現在、この二つを合わせた1リットルあたり53.8円がガソリン税となる。なお、ガソリンの小売価格はガソリン本体価格とガソリン税相当額の合計に消費税が課された金額であり、伝票にも「内ガソリン税@53.8」等と記載されることから、ガソリン税に更に消費税を課しているように見えるため二重課税であるとされることがあるが、ガソリン税は販売者が負担するものであり、納税義務者が異なるため二重課税ではない。消費者が支払うガソリン税相当額については、あくまでも仕入れ価格に上乗せされた利益の一部である。一方、軽油の小売価格については軽油本体価格にのみ消費税が課されるが、これは小売価格に含まれる軽油引取税が揮発油税とは異なりその名の通り引取について課される税金であり、納税義務者が消費者であるため、その金額に納税義務者が同じく消費者である消費税を課すると二重課税になってしまうからである。
航空用ガソリン
航空用ガソリン(Avgas)とは、以下の条件が備わったアルキル鉛などで加鉛されている有鉛ガソリンである。ゆえに無鉛ガソリン仕様の自動車やバイクには使用できない。
- 適度の気化性
- 高いアンチノック性
- 高い発熱量
- 腐食性がないこと
- 耐寒性に富むこと
- 安定性が高い事(経時分解の進行が遅い事)
航空ガソリンの規格
- 米民間規格 : ASTM D910-70(旧)、ASTM D910-75(新)
- 米国軍用規格 : MIL-G-5572
- 日本工業規格 : JIS K2206
航空ガソリンの等級と色識別
等級 | 鉛 (cc/gai) | 着色 | 備考 |
---|---|---|---|
80 | 0.50 | 赤 | 世界的に製造縮小 |
100LL | 2.00 | 青 | 米、欧のみ入手可 |
100 | 3.00 | 緑 | 現在の主流 |
航空ガソリンの危険性
航空用ガソリンにはテトラエチル鉛が添加(加鉛)されており、無鉛仕様である現在の車には使用できない。有鉛ガソリンを無鉛ガソリン仕様のエンジンに使用すると健康被害や環境汚染の原因となるが、それには留まらずバルブやバルブシートの損傷、点火プラグの汚損、触媒の破損など故障の原因となる。なおテトラエチル鉛には後述のように毒性と蓄積性があるため、一部の国を除き自動車用ガソリンには添加が禁止されている。
現在では有鉛ガソリンが手に入らなくなり、ガソリンが起因で起こる鉛中毒の危険性を知らない者が多い。このため自動車用ガソリンとの違いが分からず混用しようとするケースがあるが、大変危険である。 添加用のアルキル鉛はテトラエチル鉛 (C2H5)4Pb が最もよく用いられるが、他にも性質の近い四メチル鉛 (CH3)4Pb やメチルエチル鉛など使用される。これらは全て強い毒性を持ち、呼吸だけでなく皮膚からも容易に吸収されてしまう。また体内に蓄積されやすく、多く取り込まれると中毒症状が現れる(詳細は鉛中毒を参照)。このため取り扱うときは素手で航空用ガソリンに触れないように、また蒸気を吸入しないよう注意しなければならない。なお、テトラエチル鉛は毒劇法の特定毒物に指定されている。
- 日本で入手できる航空用ガソリンのオクタン価は最大でも100オクタンであり、自動車用として販売されている無鉛ハイオクと同じである。よって航空用ガソリンを敢えて使用するメリットは無いと言える。
税金
航空ガソリンの税金は、購入時には消費税のみ支払い、航空機燃料税は後日申告のうえ納付する仕組みをとっている。なお、航空機燃料税の税率は揮発油税より高いが、租税特別措置法(2倍掛け)が適用されていないので、実質的には安価なものとなっている。
- 揮発油税と地方道路税(53.8円/L)に対して航空機燃料税(26円/L)
航空機への給油時には必ず4枚1組の免税用紙を用意して、航空機へ給油したことを証明する事になっている。証明できない場合には別途揮発油税と地方揮発油税を請求されてしまうため、免税用紙が無いと給油を拒否されることが多い。そのため、レシプロエンジンを動力とし燃料がガソリンである機体には常備しておくことが推奨されている。
なお、逆に揮発油税と地方道路税を課税された自動車用のガソリンを航空機に給油した場合には、書類等で証明できれば航空機燃料税が免除される。証明出来ないと二重課税されることになるが、常識的に自動車用ガソリンを航空機に給油することは無いので、あくまでも手続上可能なだけである。
工業ガソリン
塗料、洗浄、油脂抽出、ドライクリーニングなど、燃料以外の用途に用いられるガソリンである。JIS K2201によって、次の5種類に分類される。
- 1号 : ベンジン - 洗浄用
- 2号 : ゴム揮発油 - ゴム用溶剤・塗料用
- 3号 : 大豆揮発油 - 抽出用
- 4号 : ミネラルスピリット - 塗料用
- 5号 : クリーニングソルベント - ドライクリーニング用・塗料用
これらは引火点や蒸留性状によって分類されている。例えば、1号は初留温度30℃以上・終点150℃以下ものを、5号は初留温度150℃以上・終点210℃以上で、引火点が38℃以上のものをいう。
問題
ガソリンは長期間の保管や不純物の混入などによって品質に問題が生じることがある。こうした劣化あるいは不純なガソリンを利用すると、さまざまな問題が生じる。
劣化ガソリン
長期間の放置あるいは極端な温度条件下に置かれて品質が劣化したガソリン。変質ガソリンとも呼ばれ、俗に腐ったガソリンとも呼ばれる。具体的にはキャブレター付きオートバイや発動発電機の、密閉性が比較的低い自然流下式燃料タンクの内部で長期間放置したものや、比較的通気性の高いキャブレターのフロート室内に数か月放置されたものなどが該当する。
ガソリンにはアルケンが含まれており、空気中の酸素と徐々に化学反応(酸化)する事で蟻酸や酢酸に変化する[1]。多少酸化しても見た目に大きな変化は無いが、強い独特の刺激臭を放つようになる。
酸は金属と反応しやすいため、劣化ガソリンを放置すると収めている容器やエンジンを腐食して破損につながる場合がある。エンジンに使用される金属の中でも真鍮は特に酸に弱いため、キャブレターのメインジェットやフロート、燃料配管の内部にまで緑青が発生し、ガソリンも溶け出した緑青によって黄色から緑色に変色していく。このため配管の内壁から剥がれ落ちた緑青により、最終的にはエンジン内部を詰まらせてしまう場合もある。またキャブレター付きのオートバイで燃料コックを開いたままにするなど、ガソリンが揮発しやすい状況のまま放置すると、揮発しないワニス質やガム質などがフロート室に溜まりキャブレターを詰まらせる場合もある。燃料タンクが鉄製の場合はタンク内部が腐食する場合がある。
不純ガソリン
不純物の入リ混じったガソリン。水が混入してしまうケースが多く、燃料タンクの蓋が閉まりきっていなかったり、タンク内で結露が発生すると水分が混ざった不純ガソリンとなってしまう。水はガソリンより重くタンク下部に溜まってしまうため、水が入っていることに気付かずに放置することでタンク底部やオートバイの燃料コック付近を腐食させ、最悪の場合にはタンクに穴が開いてしまう場合がある。
混入した水分が少量であればイソプロピルアルコール (IPA) を主成分とした水抜き剤でガソリンと水和させてタンクから除去することが可能であるが、明らかに水の混入が疑われて水抜剤を投入した場合には、そのガソリンは出来るだけ速やかに使いきってしまうことが望ましい。
もしも水の混入が原因でタンクが錆びた場合には、抜いたガソリンは上記の劣化ガソリンに変質が進行していることも考慮し、全て廃棄することが望ましい。
ガソリン価格の動向
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平成11年 | 98 | 98 | 98 | 98 | 97 | 98 | 99 | 99 | 101 | 102 | 102 | 103 |
平成12年 | 103 | 103 | 102 | 103 | 103 | 104 | 104 | 105 | 105 | 108 | 109 | 110 |
平成13年 | 109 | 109 | 109 | 108 | 108 | 107 | 107 | 107 | 107 | 107 | 106 | 105 |
平成14年 | 105 | 104 | 104 | 104 | 106 | 106 | 106 | 105 | 105 | 105 | 105 | 105 |
平成15年 | 105 | 105 | 108 | 109 | 110 | 108 | 106 | 106 | 106 | 106 | 106 | 105 |
平成16年 | 105 | 105 | 106 | 108 | 108 | 114 | 115 | 115 | 119 | 120 | 121 | 119 |
平成17年 | 118 | 116 | 117 | 123 | 125 | 122 | 124 | 128 | 130 | 131 | 130 | 128 |
平成18年 | 128 | 129 | 130 | 130 | 136 | 135 | 137 | 144 | 144 | 141 | 135 | 133 |
平成19年 | 131 | 127 | 127 | 129 | 135 | 139 | 141 | 145 | 143 | 145 | 150 | 156 |
平成20年 | 154 | 152 | 153 | 132 | 160 | 172 | 181 | 182 | 173 | 158 | 132 | 117 |
平成21年 | 106 | 111 | 112 | 116 | 116 | 121 | 126 | 127 | 131 | 128 | 126 | 125 |
平成22年 | 125 | 128 | 130 | 133 | 137 | 136 | 133 | 132 | 132 | 132 | 131 | 131 |
平成23年 | 135 | 136 | 147 | 151 | 151 | 146 | 147 | 150 | 144 | 141 | 141 | 143 |
平成24年 | 141 | 142 | 155 | 156 |
参照資料
- 昭和シェル石油 (PDF) 航空ガソリン製品安全データーシート
- 昭和シェル石油 (PDF) 航空ガソリンの危険性について
- 経済産業省 資源・エネルギー統計 ガソリンを初めとする石油製品の日本国内生産量、販売状況などの統計データ。
- 石油情報センター ガソリンを初めとする石油製品の日本国内小売価格などの統計データ。
- 総務省統計データ 各県の過去のガソリン販売価格などの統計データ。