歪んだ複写

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歪んだ複写
作者 松本清張
日本の旗 日本
言語 日本語
ジャンル 長編小説
発表形態 雑誌連載
初出情報
初出小説新潮1959年6月号 - 1960年12月号
出版元 新潮社
刊本情報
刊行 『歪んだ複写』
出版元 新潮社
出版年月日 1961年2月6日
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歪んだ複写』(ゆがんだふくしゃ)は、松本清張の長編推理小説。『小説新潮』に連載され(1959年6月号 - 1960年12月号)、1961年2月に新潮社から単行本が刊行された。サブタイトル「税務署殺人事件」が付されている。

あらすじ[編集]

東京の西郊、武蔵境駅北方面の畑の中で、死後2か月の腐乱死体が発見された。被害者が元税務署勤務の沼田嘉太郎らしいと知ったR新聞記者の田原典太は、P税務署に探りを入れ、1年前に発覚した大型脱税事件の絡みで、沼田がP税務署を辞職していたことを知る。田原は同僚の時枝伍一と調査に乗り出し、事件の前に沼田が目をつけていた繁華街の料理屋「春香」を訪れる。春香には沼田と同時期にP税務署に勤務していた崎山亮久野吉欣平が出入りし、スポンサーの供応を受けており、沼田は2人の動静を監視していたと田原は睨む。崎山と野吉の身辺を洗う中で田原は、税務署の内情に通じた不思議な男・横井貞章に出会う。横井は独自に事件を調べ「犯人は階段だ」「古物屋を捜したほうがいいな」と田原に伝える。

しかし横井は平和島で死体となって発見され、続いて第三の殺人も発生、調査を続けるうちに、田原は真犯人の動機に気付く。

主な登場人物[編集]

田原典太
R新聞社の社会部記者。「典やん」と呼ばれる。
時枝伍一
田原の同僚記者。田原と共に殺人事件を調査する。
赤星
R新聞社の社会部次長デスク。「よっしゃ」が口癖。
堀越みや子
K通りの料理屋「春香」に勤める若い女中。綽名はなつ。
沼田嘉太郎
元P税務署の法人税課員。一年前にP税務署を辞職した。
崎山亮久
R税務署の法人税課長。元P税務署の法人税課長。
野吉欣平
R税務署の間税課長。元P税務署の法人税課係長。
横井貞章
赤星次長の知人で、税務署の内情に詳しい男。
尾山正宏
R税務署の署長。東京大学卒で大蔵省から出向中の若手幹部候補。妻は大蔵次官の娘。

エピソード[編集]

  • 作中で言及される「誇大な宣伝をして、零細な出資を一般の庶民から集め、戦後メキメキと大きくなった」「竹川商事」の事件について、川本三郎保全経済会事件がモデルと推定している[1]
  • 本作の特色として、地図を描くことで事件を解決に導く点が指摘されている[2]
  • 研究者の小嶋洋輔は、本作が不正行為やエリートの弱さといった「歪んだ」ものが、次々と「複写」されていってしまう社会の現状を描いていると述べ、また作中に当時の東京圏の地理的拡大(阿佐ヶ谷・吉祥寺・武蔵境各駅周辺の当時の中央線沿線の格差)を描き込むことで、高度経済成長の「複写」を行う作品であると述べている[3]
    • 「東京の西の繁華街といわれるS地区」「K通り」[4]は新宿歌舞伎町の区役所通り、「地下鉄の工事」[5]は営団地下鉄荻窪線(1961年開業、現在の東京メトロ丸ノ内線)とされている。

作中パロディ[編集]

  • 「誰かリオを知らないかア…」 - 『上海帰りのリル』の歌詞「誰かリルを知らないか」にちなむ[6]
  • 「おなつ狂乱だね」 - 本作と同時期に『小説新潮』に連載されていた舟橋聖一の夏子シリーズにちなむ[7]
  • 「前の車には税吏さま 後ろの車には社用さま 二つ並んではるばると 汚職の車が行きました」 - 『月の沙漠』にちなむ[8]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 川本三郎『東京は遠かった 改めて読む松本清張』(2019年、毎日新聞出版)第2章。
  2. ^ 単行本刊行直後の評として『週刊読書人』1961年4月3日付掲載の多田道太郎による書評。
  3. ^ 松本清張作品と東京の拡大、そして中間小説誌 - 松本清張『歪んだ複写』論” (PDF). 北九州市立松本清張記念館 (2013年1月31日). 2022年8月11日閲覧。
  4. ^ 第1節で言及。
  5. ^ 第17節で言及。
  6. ^ 第2節で言及。
  7. ^ 第7節で言及。
  8. ^ 第9節で言及。
  9. ^ 第12節で言及。
  10. ^ 第18節・第19節で言及。