バロネス・オルツィ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

バロネス・オルツィBaroness Orczy1865年9月23日 - 1947年11月12日)、本名エマースカ・マグダレナ・ロザリア・マリア・ホセファ・バルバラ・オルツィ・バーストウ[1](Emmuska Magdalena Rosalia Maria Josefa Barbara Orczy Barstow)は、ハンガリー出身のイギリスで活躍した作家推理作家

バロネスは男爵(バロン)の女性形。Orczyの英語読みであるオークシイと表記されることもある。従来、日本語で「オルツィ男爵夫人」と訳されることもあったが、正確にいえば、これは誤り。男爵家の出であるため、あえて訳すなら「オルツィ女男爵」のほうが正しい。

歴史ロマンス作品『紅はこべ』シリーズや安楽椅子探偵の先駆けである『隅の老人』シリーズで人気を博した。

経歴[編集]

1865年、ハンガリーの由緒ある男爵家に生まれる。父フェリクス・オルツィはアマチュア作曲家・指揮者であり、フランツ・リストら当時の高名な音楽家たちと親交が深かった。2歳のとき、小作人の反乱が起こり、一家はブダペストに移った。後にブリュッセルパリで教育を受けたあと、1881年にロンドンの美術学校に入学した。そして1894年に学友だったモンタギュー・バーストウと結婚した。

1899年には二人の間に息子も生まれたが、経済的には厳しい状況で自身も翻訳の内職などをして過ごしていた。最初の創作である『皇帝の金燭台(The Emperor's Candlesticks)』を執筆したのもこの頃である。この歴史ロマン作品の売れ行きはさっぱりで、続いて雑誌に短編を書き始める。当時のシャーロック・ホームズの爆発的な人気に触発され、1901年に『ロイヤル・マガジン』誌に奇妙な老探偵「隅の老人」(The Old Man In the Corner)が登場するミステリ短編を書き始めた。

歴史ロマン作品も諦めたわけではなく、雑誌に短編を連載していたころ、フランス革命を題材に取った『紅はこべ』を完成させていた。当初は出版されず、夫との共作で舞台化したところ大ヒットし、1905年になって小説の形で発行された。この後も続編を書き続け、10作以上にものぼる『紅はこべ』シリーズは自身の名を不朽のものとした。

『紅はこべ』がヒットした後もミステリ短編は書き続け、隅の老人シリーズの他、ロンドン警視庁の女性警官レディ・モリーが活躍するシリーズ(『レディ・モリーの事件簿』)や、弁護士パトリック・マリガンの登場するシリーズなどを発表した。推理作家の親睦組織であるディテクションクラブにも何度か顔を見せていたという。

第二次世界大戦中はモンテカルロに移住したが、1943年に夫を病気で亡くし、イギリスに戻って1947年に死去した。

評価[編集]

『紅はこべ』に代表される歴史ロマン小説を数多く執筆し、現在まで盛んに読み継がれている。過去に何度も映画化されている。

ミステリの分野では安楽椅子探偵のはしりとされる隅の老人を登場させ安楽椅子探偵の形が決定づけられたことが評価されている。また女性探偵を登場させた最初期の一人としても知られる。

作品[編集]

長編[編集]

  • The Emperor's Candlesticks 1899(邦訳:『皇帝の金燭台』松本泰訳(改造社『世界大衆文学全集』)抄訳、絶版)
  • The Scarlet Pimpernel 1905 (邦訳:『紅はこべ』西村浩次訳(創元推理文庫)、『紅はこべ』(東都書房『世界推理小説大系』絶版)
  • I Will Repay 1906 (邦訳:『復讐』松本恵子訳(東都書房『世界推理小説大系』絶版)
  • The Elusive Pimpernel 1908
  • Eldorado 1913
  • Lord Tony's Wife 1917 (邦訳:『恐怖の巷』及び『紅ハコベ』植松正訳(金剛社『万国怪奇探偵叢書)絶版)
  • The First Sir Percy 1920
  • The Triumph of the Scarlet Pimperner 1922
  • Pimpernel and Rosemary 1924
  • Sir Percy Hits Back 1927
  • The Way of the Scarlet Pimpernel 1933
  • Sir Percy Leads the Band 1936
  • Mam'zelle Guillotine 1940

短編集[編集]

  • The Case of Miss Elliot 1905
    • 「隅の老人」の第一探偵譚集。内容的には次の短編集の後のものだが、先に出版されている。(英国版のみ)
  • The Old Man in thr Corner 1909
    • 「隅の老人」の第二探偵譚集。出版は後だが内容及び雑誌掲載はこちらの方が先である。
  • Unravelled Knots 1925
    • 「隅の老人」の第三探偵譚集。
  • Lady Molly of Scotland Yard 1910
  • レディ・モリーの事件簿(論創社 論創海外ミステリ45)上掲書の全訳書
    • ナインスコアの謎
    • フルーウィンの細密画
    • アイリッシュ・ツイードのコート
    • フォードウィッチ館の秘密
    • とある日の過ち
    • ブルターニュの城
    • クリスマスの惨劇
    • 砂嚢
    • インバネスの男
    • 大きな帽子の女
    • サー・ジェレマイアの遺言書
    • 終幕
  • The Man in Gray 1918
  • 『灰色の男』浅野玄府訳(博文館『探偵傑作叢書』絶版)、『闇を縫う男』浅野玄府訳(改造社『世界大衆文学全集』絶版)上掲書の訳。一部節略がある。
  • (以下は日本独自の編纂によるもの)
  • 隅の老人の事件簿』深町真理子訳(東京創元社「創元推理文庫」)
    • 「隅の老人」譚を択んで訳したもの。
  • 『隅の老人』山田辰夫・山本俊子訳(早川書房「ハヤカワ・ミステリ文庫)
    • 「隅の老人」譚を択んで訳したもの。上記創元推理文庫版と一部異なる作品が訳されている。
  • 『隅の老人』完全版 平山雄一訳 作品社(限定出版)
    • 「隅の老人」譚全作品を訳したもの。第一、第二短編集に収録されている作品は短編集に拠らずに、初出の雑誌により訳出(両者の差異があるため)。また上記英語版短編集に未収録の短編も収録訳出。

脚注[編集]

  1. ^ 本名のカタカナ表記は、権田萬治監修『海外ミステリー事典』(2000年、新潮社)のオルツィの項目(執筆者:仁賀克雄)より。