トーマの心臓
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『トーマの心臓』(トーマのしんぞう)は、萩尾望都による漫画作品。
目次 |
[編集] 概要
漫画雑誌『少女コミック』1974年19号から52号に連載された。ドイツのギムナジウム(高等中学)を舞台に、人間の愛という普遍的なテーマを描いた。[要出典]
番外編に「訪問者」「湖畔にて - エーリク 十四と半分の年の夏」「11月のギムナジウム」がある。舞台・映画化もされており、2009年には萩尾望都のファンであることを公言している小説家・森博嗣によりノベライズされる。
注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。
[編集] あらすじ
ある雪の日、シュロッターベッツ・ギムナジウムのアイドルだったトーマ・ヴェルナーが陸橋から転落死する。
シュロッターベッツがトーマの死で騒然となる中、委員長であるユリスモール・バイハン(ユーリ)のもとにトーマからの遺書が届く。事故死とされていたトーマの死が自殺であること、トーマが死を選んだ理由が自分自身にあることを知り、ユーリはショックを受ける。表向きは平静を装いながらも、トーマの死を利己的な愛の押しつけと感じ、理不尽さと罪責感にさいなまれ苦しむユーリ。そんな彼を同室のオスカー・ライザーは心配そうに見つめる。
数日後、ギムナジウムに転校生のエーリク・フリューリンクがやって来る。彼は亡くなったトーマとそっくりだった。エーリクを見るたびにユーリはトーマと重ねてしまい、怒りや憎しみをあらわにすることすらある。エーリクはそれを迷惑に思うが、同時にユーリの存在が気にかかり、過去にトーマとユーリの間に何があったのか知ろうとする。しかし謎は深まるばかりだった。
そこにエーリクの母の事故死の知らせが入る。悲しみにくれるエーリクをユーリは慰め、これを機会に2人は次第に心を通わせて行く。
後日、エーリクは偶然、図書館でユーリにあてたトーマの詩を見つけ、トーマの死の真相を、そしてトーマのユーリへの深い愛を知る。
エーリクはユーリへの気持ちを深めていくが、ユーリはいよいよ頑なな態度を取るようになる。しかし、ひたすらユーリを愛し信頼を得たいと願うエーリクの言葉から、ユーリは、トーマがユーリの罪を自ら引き受け、贖おうとし、そのために自分の命を代償にしたのだと悟る。トーマはユーリを苦しめる罪が何かは知らなかったが、生きるためには愛が必要であり、ユーリを愛と幸福のもとに生かしたいと思ったのだ。ユーリは、自分を取り巻く多くの愛と幸福、そして自分を見守っていた周囲の人々に気付く。
神はどんな人をも愛し、許していることを知ったユーリは、神父となるために神学校への転校を願い出、ギムナジウムを出る。
[編集] 登場人物
- ユリスモール・バイハン/(ユーリ)
- シュロッターベッツ高等部1年。14歳。品行方正、成績優秀でみんなから信頼される委員長だが、ある事件以来心を閉ざしている。トーマのことを愛していたが、自分には資格がないと思い手ひどくふってしまう。南欧系の特徴を持っているため、自分に向けられる差別に対抗して優等生であろうとしている。
- トーマ・ヴェルナー
- シュロッターベッツ中等科4年。13歳。フロイライン(お嬢さん)と呼ばれ、誰からも愛される子供だった。ユーリを救うために自殺する。
- エーリク・フリューリンク
- シュロッターベッツ高等部1年。14歳。ル・ベベ(フランス語で赤ちゃん)と呼ばれるくらい自由奔放で勘がいい。母親とずっと2人暮らしだったためマザーコンプレックスだったが、母親の死によって自分の依存心に気付く。トーマが死んだ直後にシュロッターベッツに入学したが、トーマと瓜二つであったので校内で大きな話題を呼ぶ。
- オスカー・ライザー
- シュロッターベッツ高等部1年。15歳。シュロッターベッツ・ギムナジウムに預けられる前は1年間父親と旅行をしていたため、1年遅れて入学している。不良っぽいが兄貴肌。ミュラー校長が実の父で、そのことが原因で父親は母親を殺害し、その父親も死亡していることを察している。ユーリのことが好きだが、ある事件のことを知ってしまったため見守ることしかできない。
- サイフリート・ガスト
- シュロッターベッツ高等部を放校。素行が悪いが頭の切れる悪魔的な魅力を持っていた。己の主義の実証のためにユーリの心身に深い傷を負わせる。八角メガネが特徴。
- アンテ・ローエ
- シュロッターベッツ中等科4年。13歳。オスカーのことが好きで、オスカーからユーリを引き離そうと、トーマとどちらがユーリを落とせるか賭けをした。
- レドヴィ
- シュロッターベッツ中等科4年。13歳。盗癖がある。トーマがユーリに宛てた詩を見つけていた。
- ヘルベルト、アロイス
- シュロッターベッツ高等部1年。14歳。ユーリとは常に対立しているが、ユーリを信頼している。
- リーベ、アーダム
- シュロッターベッツ高等部1年。14歳。ユリスモール親衛隊。
- ホセ
- シュロッターベッツ高等部3年。16歳。暴力的な性格。時計を盗まれたことからレドヴィにしつこく付きまとう。
- バッカス、シャール、ヘニング
- シュロッターベッツ高等部の最上級生。毎週土曜日の午後に「ヤコブ館のお茶会」を主催している。トーマはこのお茶会の常連だった。
- マリエ
- エーリクの母。エーリクと2人で暮らしてきた。恋多き女性であったが、エーリクの編入後、ユーリ・シドとの結婚を目前に事故で亡くなる。
- ユーリ・シド・シュヴァルツ
- マリエの婚約者。マリエとともに事故にあい、片足を切断。エーリクの卒業後、彼を引き取る。
- アルフォンヌ・キンブルグ
- エーリクの弁護士。
- マクス・ドッドー
- ユーリ・シドの友人で医師。ユーリ・シドがエーリクに会いに行く際に同行する。
- ロジェ・ブラウン
- エーリクの実父。
- ミュラー
- シュロッターベッツ・ギムナジウムの校長。オスカーの実父。ライザー夫妻とは大学時代の旧友。オスカーを養子にしたいと思っているが言い出せない。
- グスターフ・ライザー
- オスカーの父。妻を殺害したあと、オスカーを連れて逃亡。シュロッターベッツ・ギムナジウムにオスカーを預けて南米に旅立ったが、おそらく死亡しているとオスカーは言う。
- ヘレーネ・ライザー
- オスカーの母。長く夫との間に子供が出来ず、ミュラー校長との間に子供をもうけるが、そのことが原因で夫に殺害される。オスカーを溺愛していた。オスカーはヘレーネそっくりの顔をしている。
- シェリー・バイハン
- ユーリの母。
- ユーリの父
- ギリシア系ドイツ人。事業に失敗し多額の借金を残して亡くなる。
- ユーリの祖母
- 娘の結婚には反対だった。金髪碧眼の者を好む。南欧系の特徴を持つユーリを嫌っている。
- エリザベート・バイハン
- ユーリの妹。8歳。体が弱い。
- ユーリとは違い、金髪であるため、祖母からはかわいがられている。
- ベルンハルト・ヴェルナー
- トーマの父。元シュロッターベッツ・ギムナジウム教諭。
- アデール・ヴェルナー
- トーマの母。エーリクの父の従兄弟。
- トーマの兄
- トーマの兄。トーマとはそれほど年が離れていない。
- ブッシュ先生
- シュロッターベッツ・ギムナジウム教諭。古典(ラテン語)担当。大変厳しい先生。
- ホーマン先生
- シュロッターベッツ・ギムナジウム教諭。化学担当。元ヨハネ館の舎監。
- 保健の先生(アルツト)
- 校医。校長からの信頼も厚い。ユリスモールの傷のことを心配している。なおアルツト(Arzt)はドイツ語で「医師」という意味。
[編集] 番外編
[編集] 湖畔にて - エーリク 十四と半分の年の夏
「トーマの心臓」の後日譚。『ストロベリーフィールズ』(新書館、1976年11月)に書き下ろされた。
[編集] あらすじ
ユリスモール・バイハンが転校してすぐの夏休み、エーリク・フリューリンクは義父のユーリ・シド・シュヴァルツと湖畔で過ごしていた。2人はなかなか亡くなったマリエの話をすることが出来なかったが、ユーリ・シドがエーリクはマリエによく似ていると言ったことからそのような悩みもなくなる。ユーリから手紙が来た。エーリクはうまく返事を書けない。オスカー・ライザーが訪ねてくる。神学校へ行ってユーリに会ってきたと言う。エーリクは考える。失ったものは帰ってくるのだろうか、いつか思いは実を結ぶのだろうか、と。
[編集] 訪問者
「トーマの心臓」のオスカー・ライザーがシュロッターベッツ・ギムナジウムに来るまでの話。漫画雑誌『プチフラワー』1980年春の号に掲載された。母親を殺害した父親と初めて親子らしい日々を過ごす1年間を描いたロード・ムービーのような作品で、独立の作品としても人気が高い。
[編集] あらすじ
オスカー・ライザーは母ヘレーネ・ライザーからは溺愛され、父グスターフ・ライザーからは無視され、家庭内に居場所がないように感じていた。それでも家族がうまくやっていると思い込んでいたが、一方で自分は父親の子供ではないのではないかと疑っていた。それは事実で、子供が欲しかった母は大学時代の旧友ルドルフ・ミュラーの子を産んだのだった。父グスターフはそれを知っていたが、妻に事実を告げられ、衝動で撃ち殺してしまう。そしてオスカーは父が母を殺したこと、自分が父の子供でないことを悟る。オスカーは父を必死に警察からかばうが、父はオスカーと飼い犬のシュミットを連れて逃亡の旅に出る。旅に出てから2人は初めて親子らしい時間を過ごし、絆が深まっていく。しかし殺人のプレッシャーから父は片目が見えなくなり、母にそっくりのオスカーにも当たってしまう。そして、実の父ミュラーが校長を勤めるシュロッターベッツ・ギムナジウムにオスカーを預けると、父は南米へと去ってしまう。オスカーは父が自分を捨てたことを分かっていた。シュロッターベッツ・ギムナジウムに入ったオスカーは、父グスターフの子供になりたかったと泣く。
[編集] 11月のギムナジウム
「トーマの心臓」の原型とされていた作品。漫画雑誌『別冊少女コミック』1971年11月号に掲載された。 ごく短編であるためか、キャラクターの心理描写よりストーリー性がまさった作品になっている。 この作品は「トーマの心臓」の原型であると長い間読者に信じられていた。「11月のギムナジウム」が雑誌に掲載されてから約3年後に「トーマの心臓」の連載が始まった時、そのキャラクターや舞台設定が前者に酷似していたことから、読者の多くが、「トーマの心臓」は「11月のギムナジウム」をもとに生まれたものと解釈し、それが長年にわたって続いていた。しかし、2007年に出版された作品集の中で作者自身が明らかにしたところによると[1]、「11月のギムナジウム」が雑誌に載るよりもっと以前、まだ仕事が少なかったころに発表の当てもなく描き始めたのが「トーマの心臓」で、その後ほぼ同じキャラクターと舞台設定を使って別のストーリーにする着想を得て描いたのが「11月のギムナジウム」だった。制作着手の順番と発表の順番が逆になったのは、本作品が短編であることから雑誌掲載の機会が得やすかったためである。
[編集] あらすじ
11月の第一火曜日の午後、ヒュールリン全寮制ギムナジウムにエーリク・ニーリッツが転入してきた。転入早々、このギムナジウムのアイドル、トーマ・シューベルとうりふたつのため大騒ぎとなる。エーリクを初めて見たトーマはその場で笑い出してしまうが、短気で気の強いエーリクはその態度に怒り、トーマを殴ってしまう。そのことが元でトーマのことが好きなオスカー・ライザーから手荒い歓迎を受けることになった。家庭内の問題で密かに悩んでいたエーリクは、授業中にオスカーを殴り教室を飛び出し、草地で授業をエスケープしていたトーマと偶然遭遇する。トーマは15年前に死んだ兄とエーリクは特徴がそっくりであると告げ、仲直りをしようともちかけるがエーリクはそれを拒否する。トーマはエーリクと自分の関係をクラス委員のフリーデルに打ち明けるが、雨の週末休暇にトーマはエーリクの実家に行き、エーリクの母親に会ってきたことが原因で病に倒れる。それから数日後、トーマは病死する。トーマの葬儀の翌日、フリーデルはエーリクに全てを打ち明ける。
[編集] 舞台化
[編集] 「トーマの心臓」
「トーマの心臓」は、男性だけの劇団Studio Life により舞台化された。耽美的な魅力で大成功をおさめ、劇団の方向性を決定付けたといわれる。
- 初演 - 1996年2月10日~2月25日、ウエストエンドスタジオ
- 演出・脚本 - 倉田淳
- 舞台美術 - 松野潤
- 照明 - 森田三郎
- 音響 - 竹下亮
- 舞台監督 - 田中力也
- 衣裳 - 福岡裕子・大浦あけみ
- 制作 - 稲田佳雄
- 出演 - 笠原浩夫・山﨑康一・山本芳樹・児玉信夫・曽世海児・及川健 他
[編集] 「訪問者」
「訪問者」は、男性だけの劇団Studio Life により舞台化された。
[編集] 連鎖公演「トーマの心臓」「訪問者」
「トーマの心臓」と「訪問者」は、Studio Life により同時期に同一の劇場の空間で連続して公演された。
- 初演 - 2000年12月7日~2001年1月8日、シアターサンモール
- 脚本・演出:倉田淳
- 美術 - 松野潤
- 照明 - 森田三郎
- 音響 - 竹下亮
- 舞台監督 - 倉本徹
- 照明 - 小川景子
- 衣装 - 三大寺志保美・大浦あけみ
- ヘアメイク - 角田和子
- 出演:笠原浩夫・甲斐政彦・及川健・石飛幸浩・姜暢雄 他
[編集] 映画「1999年の夏休み」
| 1999年の夏休み | |
|---|---|
| 監督 | 金子修介 |
| 製作 | ニュー・センチュリー・プロデューサーズ ソニービデオソフトウェアインターナショナル |
| 脚本 | 岸田理生 |
| 出演者 | 宮島依里 大寶智子 中野みゆき 深津絵里 |
| 撮影 | 高間賢治 |
| 編集 | 冨田功 |
| 配給 | 松竹 ニュー・センチュリー・プロデュサーズ |
| 公開 | 1988年3月26日 |
| 上映時間 | 90分 |
| 製作国 | 日本 |
| 言語 | 日本語 |
映画「1999年の夏休み」は、「トーマの心臓」を原案にした金子修介監督の青春映画。公開は1988年3月26日。出演者は4人だけで、少女が少年を演じるという大胆な演出が為されている。スタッフロールには萩尾の名も原作名も全くクレジットされていないが、監督は翻案という形で萩尾望都にきちんと製作許可を取っている。製作当初、押井守が監督に「決定版みたいなのをこんなに早くつくっちゃってよかったのか?」という懸念を抱いたという逸話がある。なお、角川ルビー文庫からノベライズ版が刊行され、脚本を担当した劇作家の岸田理生が執筆を担当した。
- 監督 - 金子修介
- 製作 - 岡田裕・岸栄司
- プロデューサー - 成田尚哉・肥田光久
- 脚本 - 岸田理生
- 撮影 - 高間賢治
- 音楽 - 中村由利子
- 出演(各人物が「トーマの心臓」のどの人物に対応するかをカッコ内に示す)
- 植村悠(トーマ・ヴェルナー)・薫(エーリク・フリューリンク) - 宮島依里(二役)
- 島田和彦(ユリスモール・バイハン) - 大寶智子
- 直人(オスカー・ライザー) - 中野みゆき
- 則夫(アンテ・ローエ) - 水原里絵(深津絵里の旧芸名)
- 声の出演
[編集] 脚注
- ^ 萩尾望都 『トーマの心臓Ⅱ』 小学館〈Flower Comics Specilal 萩尾望都Perfect Selection 2〉、東京都千代田区、2007-07-31。ISBN 978-4-09-131129-0。 296ページ参照


