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「決定性公理」の版間の差分

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'''決定性公理'''(けっていせいこうり、'''{{lang-en-short|axiom of determinacy}}''')とは、1962年に{{仮リンク|ミシェルスキー|en|Jan Mycielski}}、{{仮リンク|ユゴー・スタインハウス|en|Hugo Steinhaus}}によって提された集合論の公理である。もとの決定性公理は[[ゲーム理論]]に言及し、[[可算無限]]の長さをもったある特定の二人[[完全情報ゲーム]]について(後述)、どちらかのプレイヤーは必ず必勝法を持つことを主張する。
'''決定性公理'''(けっていせいこうり、'''{{lang-en-short|axiom of determinacy}}'''、'''AD''' と略される)とは、1962年に{{仮リンク|ミシェルスキー|en|Jan Mycielski}}、{{仮リンク|ユゴー・スタインハウス|en|Hugo Steinhaus}}によって提された集合論の公理である。もとの決定性公理は[[ゲーム理論]]に言及し、[[可算無限]]の長さをもったある特定の二人{{仮リンク|位相的な完全情報ゲーム|en|Topological game}}について(後述)、どちらかのプレイヤーは必ず必勝法を持つことを主張する。


決定性公理は公理的集合論の[[選択公理]]と矛盾する。決定性公理を仮定すると、実数の任意の部分集合について「ルベーグ可測である」「[[ベールの性質]]を持つ」「{{仮リンク|完全集合性|en|Perfect set property}}を持つ」ことが従う。とくに実数の任意の部分集合が完全集合性を持つことは「実数の部分集合で非可算なものは実数と同じ濃度を持つ」という弱い形の[[連続体仮説]]が成り立つことに換言される。
決定性公理は公理的集合論の[[選択公理]]と矛盾する。決定性公理を仮定すると、実数の任意の部分集合について「ルベーグ可測である」「[[ベールの性質]]を持つ」「{{仮リンク|完全集合性|en|Perfect set property}}を持つ」ことが従う。とくに実数の任意の部分集合が完全集合性を持つことは「実数の部分集合で非可算なものは実数と同じ濃度を持つ」という弱い形の[[連続体仮説]]が成り立つことに換言される。
選択公理からは「実数の部分集合でルベーグ可測でないものが存在する」ことが導かれるが、この事実からも決定性公理と選択公理が相容れないことが分かる。
選択公理からは「実数の部分集合でルベーグ可測でないものが存在する」ことが導かれるが、この事実からも決定性公理と選択公理が相容れないことが分かる。


スタインハウスとミシェルスキーが AD を考えた動機はその帰結の興味深さ、そして集合論の最小の自然なモデル [[L(R)]] において成り立ちうることにあった。これは[[選択公理]] (AC) の弱い形のみを許容し、全ての[[実数]]と全ての[[順序数]]を含むものである。AD からのいくつかの帰結は[[ステファン・バナフ]]と[[スタニスワフ・マズール]]と[[モートン・デイビス]]によってそれまでに得られていた定理から従う。 [[ミシェルスキー]]と[[Stanisław Świerczkowski]]は次の事実の研究に貢献した: AD は[[実数]]からなる集合が全て[[ルベーグ可測]]であることを導く。 続いて、[[ドナルド・A・マーティン]] などによって特に[[記述集合論]]において、さらなる重要な結論が得られている。1988年には、[[ジョン・R・スティール]] and [[ヒュー・ウッディン]] が長期研究の結果を報告している。彼らは <math>\alef_0</math> と類似な性質をもつ[[不可算]][[基数]]の存在を仮定して、ミシェルスキーとスタインハウスがもともと予想していた L(R) において AD が真になるということを示した。
<!--==定義==

-->
==決定的なゲームの種類==
{{Settheory-stub}}

決定性公理は次に示す特定の形のゲームについての公理である:
[[ベール空間 (集合論)|ベール空間]] ''ω<sup>ω</sup>'' ([[自然数]]の[[無限列]]全体) の部分集合 ''A'' を考える。二人のプレイヤー '''I''' と '''II''' は自然数を交互に選ぶ:''n''<sub>0</sub>, ''n''<sub>1</sub>, ''n''<sub>2</sub>, ''n''<sub>3</sub>, ...
無限回の手番が終わったとき、列 <math>(n_i)_{i \in \omega}</math> が生成される。プレイヤー '''I''' がこのゲームに勝つのは、その列が ''A'' の元であるときかつそのときに限る。決定性公理はそのようなゲームが全て決定的 (''A'' の選び方毎にどちらかのプレイヤーに必勝戦略があるということ) であるという主張である。

全てのゲームの決定性を示すために決定性公理が要るわけではない。''A'' が[[開かつ閉集合|閉かつ開]]な集合であるとき、このゲームは本質的に有限的なゲームになるので、決定的である。同様に、''A'' が[[閉集合]]であるときも決定的である。1975年にはマーティンによって、winning set (勝利条件である集合 ''A'' のこと) が[[ボレル集合]]であるゲームは決定的であることが示されている。また、十分大きな[[巨大基数]]があるとき、winning set が[[射影集合]]であるゲームは全て決定的であり ([[Projective determinacy]] を参照)、しかも [[L(R)]] において AD が成り立つことが示されている。
決定性公理は[[実数直線]]の任意の部分空間 ''X'' についての[[バナッハ・マズール・ゲーム]] ''BM''(''X'') が決定的である (つまり、実数からなる任意の集合が[[ベールの性質]]をもつ) ことを導く。

== 決定性公理と選択公理の相反 ==

選択公理の仮定のもとで、決定性公理の反例を構成することができる。集合 S1 をプレイヤー I が ω-game (長さ ω のゲーム) ''G'' において採用する戦略全ての集合とするとこれは[[連続体濃度]]をもつ。集合 S2 をプレイヤー II について同様に定義すると同じことが言える。''SG'' を ''G'' において発生しうる列全体の集合とする。A は ''SG'' の部分集合でプレイヤー I の勝ちになる列全体として構成する。ここでいう戦略とは、勝つための動きではなくただの「構成されている有限列に対して次に何を続けるか」という動きのルールであり、winning set が定まっていなくても定義できていることに注意せよ。選択公理によって連続体に[[整列順序]]を定めて、整列順序のいかなる真の始切片も連続体濃度未満であるようにできる。この S1 と S2 を整列する添字集合 J を用いて反例となる A を構成する。また、S1 = {s1(α) : α ∈ J }, S2 = {s2(α) : α ∈ J } と記すことにする。
空集合 A と B から始める。全ての戦略に対して、相手の戦略でそれに勝つものが存在するように A と B を拡大していく。B は A の補集合であって、プレイヤー II の winning set にする予定である。t を各ゲームにおける手番を表すものとして。反例 A と B を次のように α ∈ J 上の[[超限再帰]]によって構成する :
#まず、超限再帰の途中ステップの中ではいつでも A と B の濃度はそれぞれ連続体濃度未満であることに注意しておく。
#プレイヤー I の戦略 s1(α) を考える。
#この戦略を用いて列 {a(1), b(2), a(3), b(4),...,a(t), b(t+1),...} をその時点で構成されている A に属さないものとして取る。これは可能である。というのも、プレイヤー II の動き {b(2), b(4), b(6), ...} の選び方の濃度は連続体濃度であって、この時点での A の濃度と J の始切片 { β <math>\in</math> J | β <math><</math> α } より濃度が大きいからである。
#今できた列が B に入ってなければ B に追加する。これは戦略 s1(α) を負けさせる列になる (プレイヤー I が s1(α) に従うとき、プレイヤー II が {b(2), b(4), b(6), ...} の動きをするとこの列になる)。
#プレイヤー II の戦略 s2(α) を考える。
#この戦略を用いて列 {a(1), b(2), a(3), b(4),...,a(t), b(t+1),...} をその時点で構成されている B に属さないものとして取る。これは可能である。というのもプレイヤー I の動き {a(1), a(3), a(5),...} の選び方の濃度は連続体濃度であって、この時点での B の濃度と J の始切片 { β <math>\in</math> J | β <math>\le</math> α } より濃度が大きいからである。
#今できた列が A に入っていなければ A に追加する。これは戦略 s2(α) を負けさせる列になる (プレイヤー II が s2(α) に従うとき、プレイヤー I が {a(1), a(3), a(5),...} の動きをするとこの列になる)。
#以上のプロセスを S1 と S2 の全ての戦略に対して順に実行し終わったとする。このとき、 A と B のどちらにも入っていない列が存在するなら、適当に A と B のどちらか一方に属するものと定義する。これにより、B は A の補集合となる。

A および B の構成が終わったところで、ω-game ''G'' を改めて考える。プレイヤー I の戦略 s1 を任意に取ると、ある α <math>\in</math> J に対して s1 = s1(α) となり、A の構成によりプレイヤー I が s1(α) に従う限りプレイヤー II の選択により構成できる列で A から逃れるものが存在している。よって s1 は戦略として必勝戦略ではない。同様に、プレイヤー II のいかなる戦略も必勝戦略ではなく、このゲームは A を winning set と定めたときに両プレイヤーに必勝戦略が存在せず、決定的でない。よって、決定性公理と選択公理は共存できない。

== 無限論理と決定性公理 ==

[[無限論理]]のいくつものバージョンが20世紀の終わりに提案されている。決定性公理を信じる理由の一つは、それが無限論理によって次のように書けることである:
<math>\forall G \subseteq Seq(S):</math>

<math>\forall a \in S: \exists a' \in S: \forall b \in S: \exists b' \in S: \forall c \in S: \exists c' \in S ... : (a,a',b,b',c,c'...) \in G </math> OR

<math>\exists a \in S: \forall a' \in S: \exists b \in S: \forall b' \in S: \exists c \in S: \forall c' \in S ... :(a,a',b,b',c,c'...) \notin G </math>

注意: Seq(''S'') は ''S'' の元の <math>\omega</math>-列全体である。S を ω で置き換えて、G が winning set と解釈すればよい。ここでの文は無限の長さを持っていて、可算無限個の[[量化子]]が "..." で省略されている部分に入っている。
== 巨大基数との関連 ==

決定性公理の無矛盾性は[[巨大基数]]公理の無矛盾性についての問題と密接に関係している。[[W. Hugh Woodin|Woodin]] の定理によって、ZF に AD を加えた公理系の無矛盾性は ZFC に無限個の[[ウッディン基数]]の存在性を加えた公理の無矛盾性と等価である。[[ウッディン基数]]は[[強到達不能基数]]でもあるので、AD が無矛盾なら無限個の強到達不能基数の存在も無矛盾であることになる。

その上、無限個のウッディン基数とその全てより大きい[[可測基数]]が存在するとき、[[L(R)]] において決定性公理が証明できる。このとき L(R) における実数からなる集合は全て決定的になり、[[ルベーグ測度]]の非常に強い理論が発生する。

== 射影的順序数 ==

モシュコヴァキスは順序数 <math>\delta_n^1</math> を導入した。これは<math>\boldsymbol\Delta_n^1</math>-ノルムの長さの上限である。ここで、<math>\boldsymbol\Delta_n^1</math> は[[射影階層]]のレベルである。AD を仮定すると、全ての <math>\delta_n^1</math> は [[始順序数]] となり、<math>\delta_{2n+2}^1=(\delta_{2n+1}^1)^+</math> となる。そして、<math>n<\omega</math> について <math>2n</math> 番目の[[ススリン基数]]は <math>\delta_{2n-1}^1</math> に等しくなる。<ref>V. G. Kanovei, [http://lab6.iitp.ru/en/pub/en_jms_1988_k.pdf The axiom of determinacy and the modern development of descriptive set theory], UDC 510.225; 510.223, Plenum Publishing Corporation (1988) p.270,282. Accessed 20 January 2023.</ref>

== 関連項目 ==

* [[Axiom of real determinacy]] (AD<sub>R</sub>)
* [[Borel determinacy theorem]]
* [[Martin measure]]
* [[Topological game]]

==参考文献==
* {{Cite journal | last1=Mycielski | first1=Jan | author1-link = Jan Mycielski | last2=Steinhaus | first2=Hugo | author2-link = Hugo Steinhaus | title=A mathematical axiom contradicting the axiom of choice | mr=0140430 | year=1962 | journal=Bulletin de l'Académie Polonaise des Sciences, Série des Sciences Mathématiques, Astronomiques et Physiques | issn=0001-4117 | volume=10 | pages=1–3 }}
* {{cite journal|last1=Mycielski | first1=Jan | author1-link = Jan Mycielski | last2=Świerczkowski | first2=Stanisław | author2-link = Stanisław Świerczkowski|title=On the Lebesgue measurability and the axiom of determinateness|journal=Fund. Math.|volume=54|
year=1964|pages=67–71| doi=10.4064/fm-54-1-67-71 |doi-access=free}}
* {{cite journal|author=Woodin, W. Hugh | author-link = W. Hugh Woodin |journal=[[Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America]]|year=1988|title=Supercompact cardinals, sets of reals, and weakly homogeneous trees|volume=85|issue=18|pages=6587–6591|doi=10.1073/pnas.85.18.6587|pmid=16593979|pmc=282022| bibcode = 1988PNAS...85.6587W | doi-access = free }}
* {{cite journal|last1=Martin |first1=Donald A. |author1-link=Donald A. Martin |first2=John R. |last2=Steel |author2-link=John R. Steel |date=Jan 1989|title=A Proof of Projective Determinacy |journal=[[Journal of the American Mathematical Society]] |volume=2 |issue=1 |pages=71–125 |doi=10.2307/1990913 |jstor=1990913 |doi-access=free }}
* {{cite book|last=Jech | first = Thomas | author-link = Thomas Jech | title=Set theory, third millennium edition (revised and expanded)|publisher=Springer|year=2002|isbn=978-3-540-44085-7}}
* {{cite book|last=Kanamori | first = Akihiro|author-link=Akihiro Kanamori|title=The Higher Infinite|title-link=The Higher Infinite|edition=2nd|year=2008|publisher=Springer Science & Business Media|isbn=978-3-540-88866-6}}
* {{cite book|last1=Moschovakis |first1=Yiannis N. |author-link1=Yiannis N. Moschovakis |title=Descriptive set theory |date=2009 |publisher=American Mathematical Society |location=Providence, R.I. |isbn=978-0-8218-4813-5 |edition=2nd |url=http://www.math.ucla.edu/~ynm/lectures/dst2009/dst2009.pdf |url-status=bot: unknown |archive-url=https://web.archive.org/web/20141112111558/http://www.math.ucla.edu/~ynm/lectures/dst2009/dst2009.pdf |archive-date=2014-11-12 }}
===文中の引用===
{{Reflist}}

== 関連文献 ==

* Philipp Rohde, ''On Extensions of the Axiom of Determinacy'', Thesis, Department of Mathematics, University of Bonn, Germany, 2001
* [[Rastislav J. Telgársky|Telgársky, R.J.]] [http://telgarska.com/1987-RMJM-Telgarsky-Topological-Games.pdf ''Topological Games: On the 50th Anniversary of the Banach-Mazur Game''], Rocky Mountain J. Math. '''17''' (1987), pp.&nbsp;227–276. (3.19 MB)
* [http://plato.stanford.edu/entries/large-cardinals-determinacy/ "Large Cardinals and Determinacy"] at the [[Stanford Encyclopedia of Philosophy]]

{{Set theory}}


{{DEFAULTSORT:けつていせいこうり}}
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[[Category:集合論の公理]]
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[[Category:Determinacy]]
[[Category:巨大基数]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:数学に関する記事]]

2023年2月20日 (月) 16:42時点における版

決定性公理(けっていせいこうり、: axiom of determinacyAD と略される)とは、1962年にミシェルスキー英語版ユゴー・スタインハウス英語版によって提案された集合論の公理である。もとの決定性公理はゲーム理論に言及し、可算無限の長さをもったある特定の二人位相的な完全情報ゲーム英語版について(後述)、どちらかのプレイヤーは必ず必勝法を持つことを主張する。

決定性公理は公理的集合論の選択公理と矛盾する。決定性公理を仮定すると、実数の任意の部分集合について「ルベーグ可測である」「ベールの性質を持つ」「完全集合性を持つ」ことが従う。とくに実数の任意の部分集合が完全集合性を持つことは「実数の部分集合で非可算なものは実数と同じ濃度を持つ」という弱い形の連続体仮説が成り立つことに換言される。 選択公理からは「実数の部分集合でルベーグ可測でないものが存在する」ことが導かれるが、この事実からも決定性公理と選択公理が相容れないことが分かる。

スタインハウスとミシェルスキーが AD を考えた動機はその帰結の興味深さ、そして集合論の最小の自然なモデル L(R) において成り立ちうることにあった。これは選択公理 (AC) の弱い形のみを許容し、全ての実数と全ての順序数を含むものである。AD からのいくつかの帰結はステファン・バナフスタニスワフ・マズールモートン・デイビスによってそれまでに得られていた定理から従う。 ミシェルスキーStanisław Świerczkowskiは次の事実の研究に貢献した: AD は実数からなる集合が全てルベーグ可測であることを導く。 続いて、ドナルド・A・マーティン などによって特に記述集合論において、さらなる重要な結論が得られている。1988年には、ジョン・R・スティール and ヒュー・ウッディン が長期研究の結果を報告している。彼らは と類似な性質をもつ不可算基数の存在を仮定して、ミシェルスキーとスタインハウスがもともと予想していた L(R) において AD が真になるということを示した。

決定的なゲームの種類

決定性公理は次に示す特定の形のゲームについての公理である: ベール空間 ωω (自然数無限列全体) の部分集合 A を考える。二人のプレイヤー III は自然数を交互に選ぶ:n0, n1, n2, n3, ... 無限回の手番が終わったとき、列 が生成される。プレイヤー I がこのゲームに勝つのは、その列が A の元であるときかつそのときに限る。決定性公理はそのようなゲームが全て決定的 (A の選び方毎にどちらかのプレイヤーに必勝戦略があるということ) であるという主張である。

全てのゲームの決定性を示すために決定性公理が要るわけではない。A閉かつ開な集合であるとき、このゲームは本質的に有限的なゲームになるので、決定的である。同様に、A閉集合であるときも決定的である。1975年にはマーティンによって、winning set (勝利条件である集合 A のこと) がボレル集合であるゲームは決定的であることが示されている。また、十分大きな巨大基数があるとき、winning set が射影集合であるゲームは全て決定的であり (Projective determinacy を参照)、しかも L(R) において AD が成り立つことが示されている。 決定性公理は実数直線の任意の部分空間 X についてのバナッハ・マズール・ゲーム BM(X) が決定的である (つまり、実数からなる任意の集合がベールの性質をもつ) ことを導く。

決定性公理と選択公理の相反

選択公理の仮定のもとで、決定性公理の反例を構成することができる。集合 S1 をプレイヤー I が ω-game (長さ ω のゲーム) G において採用する戦略全ての集合とするとこれは連続体濃度をもつ。集合 S2 をプレイヤー II について同様に定義すると同じことが言える。SGG において発生しうる列全体の集合とする。A は SG の部分集合でプレイヤー I の勝ちになる列全体として構成する。ここでいう戦略とは、勝つための動きではなくただの「構成されている有限列に対して次に何を続けるか」という動きのルールであり、winning set が定まっていなくても定義できていることに注意せよ。選択公理によって連続体に整列順序を定めて、整列順序のいかなる真の始切片も連続体濃度未満であるようにできる。この S1 と S2 を整列する添字集合 J を用いて反例となる A を構成する。また、S1 = {s1(α) : α ∈ J }, S2 = {s2(α) : α ∈ J } と記すことにする。 空集合 A と B から始める。全ての戦略に対して、相手の戦略でそれに勝つものが存在するように A と B を拡大していく。B は A の補集合であって、プレイヤー II の winning set にする予定である。t を各ゲームにおける手番を表すものとして。反例 A と B を次のように α ∈ J 上の超限再帰によって構成する :

  1. まず、超限再帰の途中ステップの中ではいつでも A と B の濃度はそれぞれ連続体濃度未満であることに注意しておく。
  2. プレイヤー I の戦略 s1(α) を考える。
  3. この戦略を用いて列 {a(1), b(2), a(3), b(4),...,a(t), b(t+1),...} をその時点で構成されている A に属さないものとして取る。これは可能である。というのも、プレイヤー II の動き {b(2), b(4), b(6), ...} の選び方の濃度は連続体濃度であって、この時点での A の濃度と J の始切片 { β J | β α } より濃度が大きいからである。
  4. 今できた列が B に入ってなければ B に追加する。これは戦略 s1(α) を負けさせる列になる (プレイヤー I が s1(α) に従うとき、プレイヤー II が {b(2), b(4), b(6), ...} の動きをするとこの列になる)。
  5. プレイヤー II の戦略 s2(α) を考える。
  6. この戦略を用いて列 {a(1), b(2), a(3), b(4),...,a(t), b(t+1),...} をその時点で構成されている B に属さないものとして取る。これは可能である。というのもプレイヤー I の動き {a(1), a(3), a(5),...} の選び方の濃度は連続体濃度であって、この時点での B の濃度と J の始切片 { β J | β α } より濃度が大きいからである。
  7. 今できた列が A に入っていなければ A に追加する。これは戦略 s2(α) を負けさせる列になる (プレイヤー II が s2(α) に従うとき、プレイヤー I が {a(1), a(3), a(5),...} の動きをするとこの列になる)。
  8. 以上のプロセスを S1 と S2 の全ての戦略に対して順に実行し終わったとする。このとき、 A と B のどちらにも入っていない列が存在するなら、適当に A と B のどちらか一方に属するものと定義する。これにより、B は A の補集合となる。

A および B の構成が終わったところで、ω-game G を改めて考える。プレイヤー I の戦略 s1 を任意に取ると、ある α J に対して s1 = s1(α) となり、A の構成によりプレイヤー I が s1(α) に従う限りプレイヤー II の選択により構成できる列で A から逃れるものが存在している。よって s1 は戦略として必勝戦略ではない。同様に、プレイヤー II のいかなる戦略も必勝戦略ではなく、このゲームは A を winning set と定めたときに両プレイヤーに必勝戦略が存在せず、決定的でない。よって、決定性公理と選択公理は共存できない。

無限論理と決定性公理

無限論理のいくつものバージョンが20世紀の終わりに提案されている。決定性公理を信じる理由の一つは、それが無限論理によって次のように書けることである:

OR

注意: Seq(S) は S の元の -列全体である。S を ω で置き換えて、G が winning set と解釈すればよい。ここでの文は無限の長さを持っていて、可算無限個の量化子が "..." で省略されている部分に入っている。

巨大基数との関連

決定性公理の無矛盾性は巨大基数公理の無矛盾性についての問題と密接に関係している。Woodin の定理によって、ZF に AD を加えた公理系の無矛盾性は ZFC に無限個のウッディン基数の存在性を加えた公理の無矛盾性と等価である。ウッディン基数強到達不能基数でもあるので、AD が無矛盾なら無限個の強到達不能基数の存在も無矛盾であることになる。

その上、無限個のウッディン基数とその全てより大きい可測基数が存在するとき、L(R) において決定性公理が証明できる。このとき L(R) における実数からなる集合は全て決定的になり、ルベーグ測度の非常に強い理論が発生する。

射影的順序数

モシュコヴァキスは順序数 を導入した。これは-ノルムの長さの上限である。ここで、射影階層のレベルである。AD を仮定すると、全ての 始順序数 となり、 となる。そして、 について 番目のススリン基数 に等しくなる。[1]

関連項目

参考文献

文中の引用

  1. ^ V. G. Kanovei, The axiom of determinacy and the modern development of descriptive set theory, UDC 510.225; 510.223, Plenum Publishing Corporation (1988) p.270,282. Accessed 20 January 2023.

関連文献